2.四天王
道に迷った振りをして、ラファにいろいろ聞いてみた。ここは大森林と呼ばれる森の北端らしい。
大森林の奥地にはもっと強力なクリーチャーが居るのだそうだ。うっかり南へ行かなくて良かった。
ラファは西に向かう旅の途中らしい。目的は教えてもらえなかった。まあ、いいけど。
少し開けた岩場に出た。サッカー程度ならできそうなほどの広さだ。ラファは羊皮紙を広げ、何かを確認している。あれは地図かな。
「えーと、岩広場がここ、だから・・・・・、コルト村まで、あと少し。」
ラファが言い終わるや否や、岩広場の真ん中に巨大な火柱が上がる。誰だ、森の中でキャンプファイヤーを焚いたのは。
「見つけたぞぉぉぉ!!ブレイヴゥゥゥゥ!!!」
火柱の中から火が飛び出して叫んでいる。火が宙に浮いている。なんだかよくわからないが、顔が生えている。手や足も生えている。でも体は火だ。
火が叫んでいる間に、火柱は消えた。
「試練の旅が終わるのを待ってやるほど、我々はお人よしではないぞぉぉぉぉ!!!!」
火はラファをビシッと指差して続ける。
「今ここで、貴様の旅路も終焉だ!!!!!」
火の体から炎が吹き上がる。こいつ言動も行動も暑苦しいやつだな・・・・・。
「し、四天王のひとり、炎の化身 ファルガイスト・・・・! こんなところに、なぜ・・・・・・っ!」
この火はどうやら大物なようだ。ラファが驚愕している。
というか四天王って、そんなベタな・・・・。残りの3人は水と風と土なのか?
ラファの驚き様から見ると、初めての四天王っぽい。火って強そうなのに、一人目か。
こいつはやっぱり、四天王の中でも最弱だったりするんだろうか。確かに発言とか妙に小物感はあるな・・・・。
僕が無駄な感慨に耽っているうちに、戦闘が開始された。
「いくぞ!!」
ファルガイストは両手を前に翳す。
「ジャンファルガーラ!!!」
ファルガイストの両手からバレーボール大の火の玉が、連続で5つ発射される。火の玉は曲線軌道を描きながらラファに迫る!
僕はあまりの事態に驚愕が隠せない。
「あの火の玉、どうみても燃焼物が無さそうだが、何が燃えているんだ!? それにそれなりの速度で移動しているぞ? どうやって移動させてるんだ?」
僕の中の「燃焼」の定義が崩壊しそうだ。
『僅かですが、重力子を計測しました。炎の発生源は不明ですが、移動については重力操作が関係しています。』
おお、はっきりとしたところはわからないが、何やらタネや仕掛けはあるらしい。
「ガルヘスト!!」
ラファも何か叫んだ。体がうっすらと光に包まれている。先ほどよりも動きがよくなったかな?
動きが速くなる効果のある文言らしい。
とりあえず、あの文言の分析については後にして、目の前の事態に対応しよう、うん、そうしよう。
大物四天王は、連続エネルギー弾みたいに炎弾を連発している。ラファは緩急を付けながら、炎弾を躱しつづける。しかし攻撃の隙はないようだ。
岩場に着弾した炎弾は小さい爆発を起こし、少々の焦げ跡を残して消えている。
「はっはっは!! どうしたどうした、逃げ回ってばかりでは勝てんぞ!!!!」
大物四天王のセリフは、やっぱり小物っぽい。
「ガルファルワル!!」
四天王の発言で、目の前に巨大な火の壁が立ち上る。すごい熱気だ。森が心配になる。
火の壁はすぐに消えたが、その向こうにはミニチュア版ファルガイストが5体居た。
微笑ましいカルガモ親子を彷彿とさせる、いや、燃えてるけどね。
「オレは、自由に眷属を召喚できるのだ!!!」
親ガイストは親切丁寧に能力説明してくれつつも、子ガイストをけしかけてきた。ああ、親切じゃなく、自己顕示欲が強いだけか。
子ガイストがラファに襲い掛かる。接近した1体を即両断し、子ガイストは吹き消された蝋燭のように消えた。
「キキー!!」
それを見た他の子ガイストはラファに距離を取り、先ほどの親ガイストと同様に炎弾を撃ち込んでくる。
「これで終わりだ!!!」
親ガイストが両手を空に掲げ、何かを溜めている。これから溜める攻撃を予告するとは。もし撃てなかったらすごく恥ずかしいぞ。
子ガイストの炎弾が次々とラファに迫る。
僕はバックパックを展開、護身用軽装甲エグゾスーツを装着する。
子ガイストとラファの間に割り込み、両手を交差してガードする。
数発の炎弾が命中し、小さい爆発を起こす。
本当はフライングシールドがほしいところだが、バックパックには入っていない。
このスーツは軽装甲ではあるが、強度はそれなりにある。岩場への着弾を見た限りは、この装甲で受けられるとは予想していたが、数発なら大丈夫そうだ。
「ユウさん! 危険、下がって!!!」
ラファが珍しく大声で警告する。
『敵炎弾の組成を一部解析。炎弾内にセルグリッドと同様と思われる組織構成を確認。』
さすがアイさん、仕事が速い。謎だった燃料問題は、どうやら微小な機械的アプローチにより、成立しているらしい。
『ということは?』
『電撃により、機能を麻痺させ、炎弾の相殺が可能と考えられます。スタンナックルの使用を推奨。』
これなら、装甲を犠牲にしなくても防ぐことはできそうだ。
僕は両手ナックル部の端子を帯電させつつ、ラファに伝える。
「事情により、僕は攻撃ができない。だから、君が、この状況を打開してほしい。」
僕は飛来する炎弾に次々と拳打を加え、霧散させていく。
ラファは一瞬逡巡を見せたが、すぐに決意したようで、親ガイストに向け駆け出す。僕はラファを護りつつ追従する。
物は試しだ。僕は護衛しつつ、接近してきた子ガイストに攻撃を試みた。が、攻撃しようとすると体が動かない。やはりセーフティーロックが完璧だなぁ。
仕方なく、ラファを狙う炎弾を次々と弾き、かき消す。
ラファは子ガイストを2体切り捨て、一気に親ガイストに肉薄する。
「なんだ貴様は!!!! 拳で**を防ぐとは非常識な!!!!!」
一部言葉はわからないが、なんだか失礼なことを言われているようだ。火から顔の生えてるお前には言われたくない。
「ガルオル!!」
ラファの体が新たな色の光に包まれる。さっきとはまた違う効果のようだ。ラファが親ガイストに切りかかる!
親ガイストは焦って溜めの姿勢をやめ、体の一部から剣のようなものを作り出し、ラファの剣を受け止める。
1合2合と切り結ぶ。
親ガイストは剣戟の合間に炎弾を混ぜてくる。さらに周囲から残った2体の子ガイストも炎弾をラファめがけて放ってくる。
僕はそれらを片っ端からかき消す。
ラファと親ガイストの戦いは互角に見えた。両人の技量はほぼ互角なのだろう。だが武器はそうはいかないようだ。
親ガイストは自分の体?の一部を使った炎の剣を作り出しているが、ラファは普通の長剣だ。目に見えて刃こぼれが目立ってきている。いつ破壊されてもおかしくない。
親ガイストがちらりとこちらを見る。と、途端に子ガイスト2体が僕の脇をすり抜け、ラファの背後に向かう。僕も後を追う。
ラファは挟撃の寸前、子ガイストの接近に気付き回避、そこに繰り出される親ガイストの突き!
その刃は子ガイスト2体を貫いた。
一瞬目を見張るラファ、炎の剣は子ガイスト2体を吸収し、巨大化し白熱した!
親ガイストはそれをそのまま横薙ぎに、ラファを両断しようとする。壊れかけの剣では止められない!!
「SDモード!!」
白熱した剣戟がラファに届く前に、僕はその剣戟に立ちはだかる。
SDモードで過剰供給される電力により、両拳の端子が激しく放電する。親ガイストの放つ白熱した剣に、両手でスタンナックルをぶつける。
白熱と放電が衝突。途端、白熱は霧散し、放電も止む。親ガイストは驚愕で目を見開いていた。
僕に庇われる形で背後にいたラファが踏み込む。
「ギガスザッパー!!」
ラファの剣が光を放つ。一瞬の溜めののち、ラファは光刃で親ガイストを逆袈裟で切り上げた!!
後退する親ガイスト、深手のようだが、致命傷にはなっていないようだ。
「ぐぁぁぁぁぁ、、、まだ加護は2つのはず!! まさか、これほどの力とは・・・・・。」
逆袈裟に切り裂かれた傷口から真っ赤な炎が噴き出している。
「・・・・・・次こそは・・・・!!」
再び火柱が立ち上り、親ガイストが飲まれる。
火柱が消えたあとには、何者もいなかった。捨て台詞を吐いて逃走したようだ。去り際まで小物感あふれるやつだった。
ラファは、かなりの疲労度なのか、激しく肩を揺らして息をしている。
よく見るとマントは切り裂かれ、燃やされ、短くなっている。体のいろいろな場所に傷も負っている。
剣は中ほどからポッキリと折れていた。そうか、剣が耐えられず、アイツを倒しきれなかったのか・・・・。
「あ・・・・、ありがと・・・・。」
ラファは弱弱しい声でそう言うと、そのまま倒れこむ。僕は慌てて彼女を支えた。
『アイ、状態は?』
『心拍、脳波ともに正常。休息により回復可能です。おそらくは急激な戦闘による疲労と、緊張状態による心労が原因と思われます。』
僕はスーツをバックパックに格納する。もう少しでコルト村だと言っていたし、何とかたどり着けるだろう。ラファにも休息が必要だしね。
僕はラファを背負い、コルト村に向け、移動を始めた。




