10.セントラル決戦
ソレイユで大気圏に突入する。海上を幾筋もの閃光が走り、爆炎が咲く。
「アイ!!」
『対象の攻撃行為を確認、攻撃対象は無差別と確認、対象を危険度災害級の敵性勢力と断定、銀河連邦管理者へ攻撃許可要請・・・・・要請承認、破壊許可。』
「全砲門展開!! シールド全機展開!!、サテライト全機射出!!、突っ込め!!!」
スクリーンに敵の姿が映る。あれは、コルンの護衛長をしていたディムナガルダだったか。
全身が青白い炎に変わりつつある。だが辛うじて胸から上は実体を残しているように見える。まだ間に合う!!、間に合わせる!!
僕はソレイユで吶喊する。天墜の梢の穂先から、まばゆい白銀が迸る。空間を切り取るような幾筋のも光により、ソレイユのシールドが次々破壊される。
ソレイユからもレーザー砲を乱射するが、奴は上半身には当たらないように躱す、上手いな。
無線式自律飛行砲台サテライト6機が襲い掛かる。ディムナガルダの周囲に回り込み、レーザーを射撃するが、躱され、一つ一つ落とされていく。
自動攻撃関係では当てられないか・・・・・。
奴の粒子砲がソレイユ側面を掠め、激しく振動する。
「正面ハッチひらけ!」
僕は格納庫の中で既にエグゾスーツを装備し、発射体勢を取っていた。肩に搭載されている砲の先端部、重力子が収束する。
重火力搭載型エグゾスーツの最大攻撃兵器グラビトンレイ。高圧縮の重力子を用い、高重力により対象を分子分解させる。
格納庫の中からディムナガルダに向け、グラビトンレイを発射した。
カウンターのように相手からも粒子砲が発射される。
重力弾はディムナガルダの下半身に命中し分解した、だめだ!そこでは効かない!!
奴の粒子砲は僕の肩を掠め、ソレイユ格納庫の奥に突き刺さる。ソレイユから爆発音が響く。サイトウさんの怒声も聞こえた気がする!!
急いで格納庫横のハッチを破壊して飛び出す。
グラビトンレイの砲身は破壊された、が、どのみち溜めが長すぎる、次は撃たせてもらえない。
すでにディムナガルダの下半身は元通りに再生している。やはり生身を残す胸から上への攻撃以外は意味が薄い。
ソレイユは海に激突した。各部から煙を吹いている。
僕はアイに指示し、格納庫に残った全フライングシールド120枚を発射、僕の周囲で20枚旋回、残り100枚を次々ディムナガルダに体当たりさせる。
同時に、相手を中心に旋回しつつ、両方の腰にある50mm砲、両手、両足、両側頭部についているレーザー砲から一斉に攻撃を加える。
ディムナガルダが射撃とシールドの雨を縫って、接近してくる。穂先から光が漏れる。
とっさにSDモードを起動する。鼻先を掠めるような粒子砲を躱す。両手スーツ内部に仕込まれているダガーを展開、刃にプラズマアークが灯る。プラズマダガーだ。
ダガーで首を斬りつける。槍の中ほどで受け止められる。激しく火花が散る!! 槍には電磁防壁の機能があるのか!?
ダガー二刀流と槍とで激しく切り結ぶ、50mm砲が切り落とされる、穂先に光球が灯る。間にとっさにシールドを5枚滑り込ませる。
光球から出る光の束が横薙ぎに払われる。シールドが豆腐のように刻まれる。接近で放たれた粒子の残滓がスーツを削る。
ディムナガルダは粒子砲を海にばら撒いた。爆発的に水蒸気が吹き上がり、一瞬にして視界を埋める。
水蒸気の壁を迂回する。と、奴は距離を取り、腰だめに槍を構えている。
何かを溜めている。あれは・・・・・、射線の先にはセントラルの都市中心部!?
撃たせない! 止める!、残ったレーザーを乱射しつつ、シールドをディムナガルダめがけて飛ばす。奴は左手をまるでムチのように変え、それを振り回して攻撃を打ち払った。
僕は奴の攻撃を受け止めることを決意する。このチャンス活かしてくれよ・・・・。
残りのフライングシールドは65枚。
僕はシールド10枚を花びら状に展開する。
シールドに搭載されたエネルギーコンデンサを直列し、重力場電磁防壁を展開する。シールド10枚使い捨ての贅沢防壁だ。それを2枚、3枚・・・・。
ディムナガルダの極大粒子砲が発射される。これまでで最大の閃光が放たれる。防壁に衝突した粒子砲が拡散され、周囲に粒子が拡散する。
4枚目構築、2枚目が消滅!
5枚目構築、4枚目が砲撃を防ぐ!
6枚目構築、5枚目が崩壊していく・・・、耐えてくれ・・・!!
視界がまばゆい光で埋め尽くされる!!
光が収まる。辛うじて残った6枚目のシールド達が、エネルギー切れで墜落していく。何とか防ぎ切ったぞ!
ディムナガルダも大技後のためか、腰だめに槍を構えた状態で止まっている。
その時、ディムナガルダの背後、プラズマナイフを手に、リックが飛び掛る! この瞬間まで、リックはソレイユの影に隠れていたのだ。
同時に僕も残ったシールド5枚と共に飛び掛る。
ディムナガルダの首にリックが刃を振り下ろす・・・・・、が、石突から粒子が放出され、リックが飲まれる。銀色の輝きが広がる。
「やったなぁぁ!!!!」
シールド5枚は事もなげに切り裂かれる。僕の右ダガーと天墜の梢が交錯する。ダガーが砕けた。左で・・・・!!
穂先が僕の胸を捉える、みしりと嫌な音が胸骨から響く。
銀色の幕が破れ、中からリックが姿を現す。
「聖杯は、壊れない。」
リックの一閃がディムナガルダの首を飛ばす。
ディムナガルダの首はゆっくりと落下し、海に落ちた。
首がなくなったディムナガルダの体から、青白い炎が吹き上がる。まだ、動くのか・・・・!?
青白い炎はディムナガルダの体を燃やし尽くしていく。体が燃え落ちていく。天墜の梢が手からすべり落ちる・・・・。
天墜の梢は、海面に浮いていた船の残骸に突き刺さった。
管理者が派遣した救助艇と護衛の警備ロボット数百台が到着した。
天墜の梢は、すぐさま回収され、ロックのかかるボックスへ格納された。このまま隔離施設へ運搬され、厳重に封印されることになる。
着水したソレイユの上。リックはダルクさんと相対していた。ダルクさんは上半身だけだ。下半身は液体化している。
「すまなかった、俺はお前の人生をゆがめてしまった・・・・・。」
ダルクさんが、悔恨のにじむ謝罪をした。
「・・・・、別に親父にゆがめられたとは思ってねぇよ・・・・。俺ぁ、好きなことやって生きてるしな。」
リックは斜め上を見ながら、そう言った。
「そうか・・・・・、ありがとうよ・・・、最後にお前に会えて、よかった。」
そういうと、ダルクさんはこちらを見た。
「ユウ君にも、いろいろと世話をかけた。ありがとう・・・・。」
「いえ、こちらこそ、ダルクさんには助けられましたから・・・・。」
「俺もそろそろ時間らしい・・・・、少しの時間だったが、昔に戻ったみたいで、楽しかった・・・・・。それじゃあな・・・・・。」
ダルクさんが崩れていく・・・・・、
「俺は!!・・・・、親父にあこがれてた・・・。ゆがめたなんて言うなよ! かっこいい背中だったぜ・・・・・。」
ダルクさんは少し驚いて、そしてにやりと笑って崩れ去った。
銀色の液体が収束し、小さな杯になった。これが聖杯の本来の姿なのだろう。
聖杯も天墜の梢と同じく、回収され、封印されることとなった。
「任務達成・・・・・かな。」
なんとか挽回できたかな。
「そういえば、レイヴンってのは、海賊として手配されているらしいな。」
僕は思い出したかのようにリックに言う。
「・・・・・・・、悪い奴もいるもんだな。」
リックはこっちも見ずに言った。
「あー、疲れたなぁー、今は戦後でバタバタしてるし、小型艇が1艇くらい離脱してっても、気がつかないよなぁ。あ、僕船が壊れてた! どうしよう、今度こそサイトウさんに殺されそう・・・・・、管理者に言ったら直してくれるだろうか・・・・。」
一瞬の間、リックは思い出したように言う。
「あ! そーいやぁ、レンタルビデオ返してないんだった!・・じゃ、またな!」
リックはあまりにも白々しい言い訳をしつつ、ソレイユの横に止めてあった小型艇に飛び乗る。
「・・・・お前には借りができた・・・・・。まあ、また会う機会があれば、返すかもな!」
小型艇は浮上すると、飛び去った。
管理者が音も無く横に立っていた。
「行ってしまいましたか。」
あー、完全に見られてたかな・・・・。
「手配犯を見逃すことは、犯罪にあたります。」
「・・・・・。」
「が、彼も今回の功労者。多くの命を救ったのも事実。本来は褒め、称えられるような功績ですが、これまでの罪状で帳消しでしょうか・・・・。」
管理者は空に残る軌跡を見上げる。
「今は戦後処理でバタバタしています。私も万能ではありません。離脱する小型艇を見落としてしまうこともまた、あるかもしれません。」
「ですよね・・・・。」
管理者ににらまれた。
「いえ、なんでもないです。」
管理者が消える。どうやら今回はお目こぼしいただいたみたいだ。今後は気をつけよう。
そういえば、僕も結構手負いだった。なんだか。くらくらしてきた気がする。
『勇介様は無茶をしすぎです。私が居なかったら、何度死んでいたことか。』
ありがとうございます。アイさんのおかげで生きています、僕。
『それと、メカ職人サイトウが、勇介様に話があると言っています。』
気を失っていいですかね?
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「手間が省けたと見るべきか。」
父の訃報を聞き、私はそう呟いた。
「すぐに幹部を招集しろ。父無きあとは私が商会をまとめる。」
私は手の中にある球体を転がす。
「これを残してくれたことが最大の功績だな。」
羅針盤は怪しい光を放っていた・・・・・。




