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9.女神様が使えないことがわかった


 俺の魔法は女神エルテスのドーピングによる物理魔法だ。

 物理法則を自由にいじれるという反則級の物で、これはあらゆる世界のいわゆる魔法と呼ばれている精神力、知力、ファンタジー力を使う物とは全く違う。

 俺の魔法についてはすべて科学的に説明が可能な現象、と考えてもらっていい。

 それを実行しているのは科学的に説明がつかないコントロールだけどな。


 その一方で、この世界の人たちは普通に魔法を使う。

 それは精神力だったり知力だったりファンタジー力なわけだ。

 これはぜひできるようになっておきたい。


「サリーテス、この世界の魔法ってどんなやつ? エネルギー源は何?」

(ここではですね、魔法は、この世界に漂っている魔素をエネルギーに発動します)

「そういう説はラヴォアジエ以後の熱力学で否定されました」

(あるんですっ! ファンタジーのお約束の大原則なんですから科学的に否定しないでください!)

 ふむふむ、物質の核力を主なエネルギー源として質量をエネルギー変換する俺の物理魔法とはそもそもエネルギー源からして違うのか……。


「で、俺、どうやったら魔法使えるようになるの?」

(佐藤さんもう魔法使えますよ。この世界でのレベルも上がってるでしょう)

「上がってないんだけど?」

(冒険者カードの裏見てください。使えるようになった魔法が書いてあります)

「えっそんなの全然気づかんかった。見てなかったし……」

 カードを取り出して裏を見る。

「……何も書いてないんだけど」

(えっ、おかしいな……魔法って使っていけば魔法経験値って増えますよ?)

「詰んだよね、魔法使えない人がどうやって魔法経験値積むの?」

(……)


 ダメだ――――! この女神はダメだ――――!


「……他の人はどうやって魔法覚えるの?」

(魔法使える人は生まれつき魔法が使えます)

「赤ちゃんでも使うわけ?」

(まさか、成長して意識して魔法使うようになって、経験積んで少しずつ威力や使える種類が増えていくんです)

「どれぐらい使えるようになるの?」

(魔法が使える人は2~3種類ぐらい同系列の魔法が使えるようになります)

「……つまり俺はこの先がんばっても魔法は取得できそうもないと」

(……)

「……もういいよ」

(申し訳ありません……)


 俺はエルテスがくれた裏パラメーターがすでにカンスト(カウンターストップ)だ。

 つまりこの先何をやっても何を倒しても絶対に経験値もレベルアップも得られない。

 レベルアップができない以上この世界のパラメーターは何一つ上がらない。

 ……終わった。詰んだ。俺はこの先もずーっとこのままだ。

 うんいいよ……、もう諦める。


 逆に考えよう。

 これはいいことなんだ。

 魔法の力の根源も、ファンタジーの話だから世界が変われば変わってしまう。

 別の世界に転移すると、今まで使えた魔法が使えない。そんなファンタジーも多い。

 だが、物理法則だけは、宇宙の果てまですべて同じだ。どこの世界に行っても変わらない。

 世界が変わっても使える魔法。これってある意味とんでもないチートなのでは……。

 最初の女神様がエルテス様でよかった……。

 うん、そう思って納得しよう。


 今日の狩りでは「ブラウンベアー」が二頭獲れた。ヒグマだね。

 物理魔法の【バリスティック】に【アキュラシー】を使う。

 【バリスティック】は弾道計算だ。俺が自分で調整したオリジナルの物理魔法だよ。つまり目標までの距離に応じて弾道曲線のパターンが視覚化され、俺が石を投げる時どこを狙えば目標に当たるかわかるようになる。これで投擲の超長距離の狙撃が可能になった。

 【アキュラシー】は命中精度向上の魔法だ。空気密度を調整して投擲物を目標に弾道移動してくれる。

 で、俺は200m離れたところからヒグマの頭めがけて石を投げつけて一発で仕留めたわけだ。悪かったねチートで。


 ヒグマは体重が300kg超えるから木に吊るすことができないので、後ろ足にだけ【フライト】をかけてさかさまにし、頸動脈を切って血抜きをした。

 あとは子熊サイズまで【コントラクション】で小さくし、そのまま袋に詰める。

 【フライト】はかけたままだから運ぶのも楽なもんだ。


 そんなわけで一度ルーネの街に帰り、荷馬車をレンタルして郊外まで出かけ、そこで【コントラクション】を解除しヒグマ二頭を荷馬車に縛り付けて戻ってきた。

 これを解体して持ってきました、というのはさすがに信じてもらえなさそうなので二頭ともそのまんま持ってきたのだが、冒険者協会の前はちょっとした騒ぎになったな。協会の会長出てきて「本当か?本当にお前が獲ったのか!?」としつこかった。結局誰が獲ったとしてもヒグマはヒグマということで納得してもらった。

 儲けは一頭金貨35枚の合計70枚(70万円相当)。冒険者ランクはもうこれだけでDに上がってしまったよ。一日一ランク上がってるわ。



「おかえりなさいませサトウ様!」

「ただいま」

 もう三日目で慣れてきたよ娼館チェルシー。


「おかえり、今日はなにが獲れたんだい?」

 支配人のパリスが期待した目で俺を見る。

「ブラウンベアーが二頭」

「……」

 ……あの、その沈黙はやめてください。


「……本当かねぇ。さすがにあたしもちょっと信じられないよ。一頭ならともかく二頭って……」

「すごい――! さすがですサトウ様!」

 うん、らぶちゃんは素直でいいねぇ。


「いやあ信じてもらえなくても別に困らないしウソでもいいよ」

「キモは取れたのかい?」

「ん? 冒険者協会に丸ごと売ってきたから」

「ああーぅ惜しかったねぇ。熊のキモは精力剤として有名だからね。うちで夕食の料理に出すとお客が喜んだのに……」

 パリスがっくり。

「パリス、それは迷信だ。熊のキモにそんな効果はないぞ。実際には寄生虫とかの心配もあって食べるにはちょっと危ない食材でおすすめしない。ほらこれ」

「気分ってもんだよ。客が喜んで売りになればそれでいいのさ。ほーミドリガモかい。こりゃあいい。ローストダックが作れるね! 五羽もまあありがとうね」

「楽しみにしておくからな」

 そう言って金貨3枚を払う。


「夕食前にちょっと、診てもらいたい子がいてね」

「いいよ。今日はちょっと疲れたし汚れたからからすぐ風呂に入りたいな」

「はいっ! ご案内します!」

 らぶちゃんが腕に抱きついてくる。もう俺専属でいいよね。


 全身マッサージしてもらって風呂にゆったり浸かって、そのあと石鹸で二人で泡だらけになるまで洗ってもらいました。らぶちゃんの柔らかな全身ブラシが気持ちよかったです。疲れもすっかり取れました。


「失礼します」

 らぶちゃんが体を乾かしている間に、今日の診てもらいたい女の子が来た。


 ……ヒツジだ。

 うんちょっと上級者向けかな……。

「メリーちゃんは羊族なんです。聖職者のお客様に人気なんですよ」

「へ、へえー」

「『迷える子羊を導くのが聖職者のあるべき姿』なんですって」


 聖職者、その解釈はおかしい。どう導くんだよなにで導くんだよ。導くんだったらこんなところで導いちゃいかんだろ。らぶちゃんの説明でも納得いかないぞ。

 でもふわふわの羊毛が気持ちいかもしれないな。

「うーんゴメン、毛がふわふわだからどこが悪いのかちょっとわからない。教えてくれるかな?」

「あの……。私はぶたれたり噛まれたりはしないんですけど、その……」

「ん?」

 ベッドの上にうつぶせて、お尻を上げる。

「お願いします……」


 ああ……ここか。

 なんだか酷いなあどういう趣味してんだよ聖職者。


 ちょっと炎症してるな。【ヒーリング】の前に、【ブレイクセルウォール】をかける。

 【ブレイクセルウォール】はいわゆる抗生物質と同じ効果がある。細菌は植物と同じ、細胞壁があるが、人間や動物には細胞壁が無い。なので、この細胞壁を壊す魔法をかけると細菌だけを殺すことができる。

 結界魔法である【ウォール】を解除する時使う【ブレイクウォール】の応用魔法だ。俺が前の世界で数年かけて独自に開発したオリジナル魔法の一つだ。この魔法のおかげで命を助けられた魔族は多い。

 ウィルスには効かないが、細菌感染についてはペニシリン以上の効果があるはずだ。


 オリーブオイルで柔らかくもみほぐして、炎症を治した後、切れたところを指で押さえながら、今度は【ヒーリング】で治してみる。

「痛くない?」

「あ、いえ、大丈夫です……」じっと我慢してる。けなげだな……。

 【ヒーリング】は細胞再生までやるから傷跡まで完全に治しちゃうぞ。


 【ブレイクセルウォール】はもしかしたら性病とかにも有効かもしれない。梅毒とか確かペニシリンで治ったはず。テレビドラマで見た。そうすればここの女の子たちをだいぶ助けられるかもしれない。

 メリーちゃんのを丁寧にふき取って、終了。


「さ、終わったよ。もう大丈夫」

「あ、ありがとうございましたっ!」

 顔真っ赤にして飛び出すように部屋を出て行った。

 恥ずかしいよな。そりゃ。女の子にあんなポーズ。


 俺のかつての妻、魔王カーリンの言葉を思い出す。


 『こういう仕事こそ魔王の仕事じゃ。大きなこと、皆で力を合わせてやれることは誰でもできる。でもこんなふうに小さなこと、ささいなことこそ民草は自分でできず、人に頼むこともできなくて困るのじゃ。』  


 ……いたよ。困っている人たちが。



 らぶちゃんはまだ体をバスタオルで拭いている。

 うん全身短毛は濡れると後が大変だよね。

 なんか毛がぴったり肌について……色っぽい……。

 うん、これはあれだ、濡れたスク水に通じるものがあるな。短毛でふわふわならぶちゃんが実はスレンダーでほっそりしているのがわかる。胸は巨乳ってわけじゃないけど、バランスがよくて形がすごくきれいだし……。


「ひどいお客さん多いね」

「……聖職者の人って、女性とは本当はダメなんです。だから獣人だったらいいって。それに、獣人でもダメって人でも、後ろだったらいいって思ってる人けっこういて……。断れない子は、かわいそうになっちゃうんです」

「そっか……」

 断れない。断ったら居場所がなくなってしまう子もいる。

 なんて不幸なんだ……。


「ちょっとじっとして」

「はい?」

 らぶちゃんの頭の上に極小の【プラズマボール】を作って固定する。

 物理魔法の【ファイアボール】は爆発するんだけど、【プラズマボール】は火球だ。炎もプラズマの一種だからな。

「【ダウンバースト】(微弱)」


 ひゅごごごおおおおおおおおおっ。

「ふわーっ!」

 上から下向きに温風の即席ドライヤーが完成だ。

 これの強力な奴は風圧で敵を押さえつけて身動きできなくする魔法なんだけどね。


「はいはいブラッシングブラッシング」

 そのままらぶちゃんの全身にブラシを当てて毛をすく。

「あははは! すごーい! 気持ちいいー!」

「石鹸で洗うと毛って硬くならない?」

「あれシャンプーなんです。ふわふわになりますよ!」

「そっか。うん確かにふわっふわだね」


 どれぐらいふわっふわになったか、後でタップリ確かめさせてもらいました。



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