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32.あれから一年が経った


 一年たったぐらいじゃ、たいしてなにも変わらないと思うよな。

 みんな知ってるか? リンカーンが奴隷開放宣言をしたのは1862年だが、黒人に事実上の参政権が与えられたのはなんと1971年。実に100年以上かかっている。それぐらい差別を無くすというのは時間がかかる。差別を知っていた人が全員死ぬぐらいの時間がな。


 それでも、この世界はずいぶん変わったよ。

 まず、教会の統治が機能しなくなったので、各都市が臨時の自治政府を立ち上げた。都市ごとに方法は異なるが、少なくともここルーネでは君主制ではなく、議会を置いた共和制が取られるようになった。

 参政権のある市民はまだ有力者に限られているが初歩的な民主主義の芽生えとして歓迎したい。

 教会は再建を進めているが、教会が何を言ってきても、もうあいつらに権力が戻ることは無いだろう。教会に権力を渡すとどうなるかこの世界の人間はみんないやというほど知っているからな。


 ゴーレムを倒す獣人たちを国民の多くがその目にした。

 特に活躍した獣人の冒険者ハンターたちは大人気だ。

 教会騎士団が手も足も出なかったゴーレムを倒したのだからな、「獣人の騎士団を作ろう」という声まである。

 本人たちにその気はなく、今でも冒険者稼業をやっている。


 いきなり完全な奴隷解放、とまではまだいかないな。

 今解放されても行き場を無くしてのたれ死んでしまう獣人のほうが多いんだ。

 元々、獣人はみんな働き者で、獣人が嫌い、獣人が怖い、なんて人は案外少ない。今まで通り仕事をしてくれるならおおむね歓迎する市民が多かったのは良かった。

 でも、首輪はもうない。

 首輪がついてるついてないで取り締まるようなやつがもう街にいないんだ。付けてる意味がないよな。

 まだまだ賃金は安いけど、給料をもらって働くように変わったよ。

 奴隷としてじゃなく、普通に雇用主と労働者という関係のほうが今は多い。


 奴隷解放や奴隷の地位向上の運動の中心になってくれているのは、なんとあの御子息。そう、リリイさんが男にしてやったロミオ・ド・アークランドだ。

 ひさびさに見かけたが、背はちょっとだけ伸びてすっきり痩せて、オッサン顔が精悍な若者になっていた。

 脱童貞は男を変えるな。リリイさんはやっぱりすげえよ。


 俺とルシフィスは、相変わらず二人で冒険者というか、ハンターをやっている。

 前みたいに教会がすごい高値でなんでも買ってくれなくなったので獲物の相場は下がったが、それでも俺とルシフィスなら大金持ちになるのは簡単だ。

 二人で教会の連中が手放したちょっといい屋敷を買い、一緒に住んでる。

 今じゃ、俺たち「おっさんハンターズ」を知らぬものなど無いほど有名だぜ。当然二人ともS級冒険者さ。

 獣人ハンターたちともすっかり仲良くなって今ではみんな友人だ。



 らぶちゃんに関しては、俺が解放奴隷にしてやって、普通にどこかのいいウサギ男と結婚して幸せになってもらうってのがお約束のハッピーエンドなのだろう。

 日本だと風俗嬢ってのは100%お金のために働いている。だから、惚れた子ができたなら四の五の言わず通ってやり、儲けさせてやればよい。「ラブちゃんは辞めました」と言われたら、目標額が貯まったか、借金が返せたか、よかったね。と思ってそっと涙を拭く。それが風俗嬢との恋の仕方だ。それが大人だ。風俗嬢と恋に落ちてとか妄想するほど俺は童貞じゃない。風俗嬢はビッチじゃないんだよ。


 が、パリスにこっそり相談してみると、「せっかく金持ちで絶倫の人間の男に見初められたってのに、いまさら淡白なウサギ男なんかとくっつけとか言われても死にたくなるだろうさ」と言われてしまった。世界が変わると価値観もかわるというものです。

 要するにらぶちゃんは身請けされて俺の愛人になる気満々なのだ。パリスに言わせればその気にさせた俺が悪い、というところだ。らぶちゃんもかなり上級者というか変態というか、俺たちで言うケモナー、いや、ヒトナーなのかもしれません。新ジャンルの誕生です。


「ラブランがいいって言ってんならあんたがいいんだよ。奴隷だろうが愛人だろうがそんな形の上のことは気にするようなことじゃないよ」とパリスは言う。

 獣人の世界ってのは面白いことに、圧倒的に女性が男性を選ぶ立場だ。もちろん種族により違うが人間が言う「貞操観念」ってやつがあんまりない。強くてかっこいいオスがいたらそっちに乗り換えてあたりまえって世界なのだ。

 地球でもハーレムを作る動物とかいるけど、あれってメスが集まってハーレムができるからね。オスが集めてるわけじゃないから。若いオスがボスと闘って、ハーレムを乗っ取っても、メスが認めなかったらハーレム自然解散とかあるからね。ハーレムのある世界ではほとんどのオスが誰ともつがいになれず一生童貞のまま死ぬんです。それがハーレムの現実です。


 結局俺はラブランを身請けした。身請けっていうか、ミもフタも無い言い方すると要するに館から奴隷を譲り受けた形になる。オーナーはタダにしてくれたよ。

 ラブランを解放奴隷にすると、それは「後は好きなように死ね」と言うのと同じなので一応俺の奴隷ってことにしてある。まあ書類上のことだけなんだけどね。

 もちろん首輪なんてもうさせないよ。大人風の言い方をすれば内縁の妻さ。


 いくら実験しても人間と獣人の間に子供はできない。

 今、奴隷商に「赤ん坊の獣人がいたら孤児として引き取りたい」と申し出ている。いろいろ手続きが面倒で必死に裏技を検討しているところだ。俺の養子にはできないので、ラブランの養子ということになるのだが、奴隷の獣人が養子を取るなど前例がないので面倒な話になっている。でもうまくしたら三つ子のウサギの赤ちゃんがやってくる。萌え死にそうになるぐらいかわいかった。めちゃめちゃ楽しみだ。


 ルシフィスはミルクちゃんを身請けした。

 ミルクちゃんはあのダイナマイツバデイながら、「子供ができない」と売られてきた奴隷だった。なので、二人とも養子をとったりとかは考えていないようだ。

 俺たちが養子を取ると言ったら、二人ですげえ楽しみにしてやがる。

 なんか子供のおもり役が既に確保されているのはありがたい、かな?

 魔王は長生きだからな……。子供とか作っても、自分より先に死んじゃうもんな……。

 「ミルクを看取ったら、また城に帰って100年ぐらい眠るかな……?」なんて言ってた。

 俺が先に死んでも後のことはなんにも心配しないでいいと言う。

 心当たりがいっぱいあるので縁起でもないこと言わないでくれ。いやマジで。

 そんなわけで、元メイドの二人のおかげで俺たちの屋敷はいつもピカピカで料理も旨い。


 娼館チェルシーは相変わらずだ。というか営業が以前よりおおっぴらになってきたな。

 娼婦ってのは別にそうひどい仕事ってわけじゃない。

 獣人としては破格にお金は稼げるし、いい暮らしもできるし、チェルシーはなにしろ客層がいいので、もしお金持ちに気に入られれば身請けされたり愛人になったりするチャンスもある。つまりはらぶちゃんやミルクちゃんみたいになれる。だから奴隷でなくなってもみんなこの仕事をやめる気は全然ないらしいや。

 なんてったって客の質がずいぶん変わったからね。以前みたいにメイドさんがお客さんにいじめられたりするようなことは全くなくなった。

 もう教会の顔色うかがう必要無いから、悪い客は出入り禁止だ。なにかしたら俺たち「ケモナー同盟」が黙っていませんよ。

 教会用の地下通路は「なぜか」突然崩落し、その陥没跡から教会関係者が娼館に通っていたという事実が市民全員にバレました。もう来客できませんね。ざまあ。


 女神サリーテスは、これをチャンスにまた降臨したがっていたが、それは俺とルシフィスがたっぷり脅かしてやめさせた。

 そのかわり、教会関係者がなにか悪だくみをするたびに、「災いが降りかかる」ことが多くなったそうだ。神は見ているぞ? みたいな感じか?

 ストレスのたまる仕事のためか、時々、チェルシーに素泊まりし、メイドさんたちを撫でている。フォクシーちゃんの添い寝サービスが好評だ。


 娼館チェルシーのナンバーワン、リリイさんは今でもリリイさんだ。

 お仕事があれば、俺が護衛で出ますからね。娼館チェルシーの守護神、「仮面の執事」は健在だ。


 まだまだ見守らなければならないことは沢山ある。だが、大丈夫だ。

 俺たち「ケモナー同盟」の「おっさんハンターズ」がこの街にいる限り。


       ――――END――――




ここまでご覧くださり、ありがとうございました。

感想など、お待ちしています。


 続編、「理系のおっさんが物理と魔法で異世界チート3」もよろしくお願いいたします。

 また別の女神様に召喚されちゃったマサユキが、女神様と一緒に恋して戦う話です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1に続き、2も最高でした! これから3も読ませていただきます。続きを楽しみにしています。
[一言] 安定した面白さで、「2」も最後まで楽しく読ませていただきました!
[一言] この続編は当初僅かな拒否感が御座いました。 理由としては主人公の再転生後のアッサリさ加減で御座いましたが、読み進めている内に、主人公の風俗への世慣れと、プロ中のプロによる<童貞キラー>に爆笑…
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