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31.街を守った


「よしっ準備完了!」

 ルシフィスは狼男。勇者アレスの再来だな。鋭い耳先、ふさふさと灰色に輝くしっぽ。うん、その格好だとカッコいいぞ。


 俺はタヌキだ。丸い耳を頭に乗せて、シマシマ模様のしっぽを付けてもらった。タヌキのしっぽにシマはねえよ。それはアライグマだ。


「行くぞみんな!」

「おお――――!!」


 メイド隊はいつものメイド隊です。メイド服で出撃します。

 サリーテスなぜメイド服を着る?

 街中から獣人たちが集まってきて、兵舎がごったがえしております。


 ざわざわしてる中、近衛兵長が台に上って、声を張り上げます。

「獣人諸君! 今日ここに集まってもらったのは、この街を守ってもらいたいためである! ここに、(いにしえ)の記録を示す。三百年の昔、この街がゴーレムに襲われたとき、一人の勇者が立ち上がり、このゴーレムを倒した!」


 ざわざわざわ……。


「その勇者は、獣人、狼のアレスである! 諸君ら獣人は、ゴーレムを倒す力があるやもしれぬ。勇者の加護を受けるもの、勇者の血を引くもの、神はあるいは諸君らにゴーレムを倒す栄誉を与えるかもしれぬ! 各自奮闘し、この街を守る盾となり、勇者の力を振るってゴーレムを倒すことを期待する! 以上!」


 しーん……。

 なんだその他力本願。


 侵攻するゴーレムの前に獣人の盾として獣人たちを並ばせる。

 獣人全員でいっせいに襲い掛かれば、その中に一人ぐらいゴーレムを倒せる奴がいるかもしれない。そんな感じか。

 雑だな作戦。なんだその獣海戦術。


「オスは武器を取れ――! どれでも好きなものを選んでよい! メスは後ろで祈りをささげよ――!」

 それだけ? それだけかよ……。


 みんな引っ立てられるように兵士に連れていかれ、城壁の前に並ばされる。

 みんな武器なんて持ったことも無いやつばっかりだぞ。奴隷だからな。

 どっちかっていうとハンマーとか斧とか普段使ってる道具をそのまんま持ってきたやつのほうが多い。うん、相手は岩のゴーレムだからハンマーはいい武器だぞ。

 俺とルシフィスもそれにしよう。


 みんながくがく震えてらあ。そりゃそうだよ。奴隷だぞ? 戦ったことなんてないんだからさ。


「みんな、無理すんなよ。こんなことで死ぬな」

 おっと、ちょっと骨のありそうなやつが出てきたぞ。

 ぞろぞろぞろ。ああ、ローナンが言ってた獣人のハンターたちか。装備見ればわかる。

 リーダーは犬だな。猟犬ぽい精悍な顔をしている。うん、こいつはやりそうだ。

「俺たちは冒険者だ。いつもハンターをやってる。俺たちが先陣切るからお前たちは絶対に無理すんな。任せとけ。危なくなったら逃げろ。わかったな!」

 みんな頷く。


 うん、こいつでいい。こいつにアレスになってもらおう。

 ルシフィスと顔を見合わせて頷きあって、一緒にこっそり前に行く。

「……? あんた人間じゃねーの? 冒険者協会で見たことあるぜ?」

「街の危機に人間も獣人も無いだろう。手伝わせてくれ」

「……それもそうか。ありがとな。なんかウサギくせえから気付かんかった」

「洗ってないからな」

「ちょっとなにいってんのかわかんないけど、とにかく頼むぜ」


 振り返ると、後ろの城門前では婦女子の皆さんが並んで、祈りを捧げる準備をしている。メイド隊目立ってますな。


 ずーんっ……。城壁門が閉じられる。

 ……死んでこいってか? まったく人間ってやつは……。



「……来やがった」

 ずしーん……ずしーん……ずしーん……。

 ゴーレムが視界に入る。

 どんどん迫ってくる。

「まだだ。近くまでひきつけろ」

 リーダーの猟犬がタイミングを計る。

 ゴーレムが200mまで接近。


 城壁では多くの兵士が、市民が、教会関係者が固唾を飲んでこれを見守る。


 その時!


 きらあっ……キラキラキラキラ……。

 光の粒子が降ってきて、あたり一面をまばゆく照らし、獣人たちに降りかかる。

 ぱああああああ! 一瞬、明るくなって、そして元に戻る。


 サリーテス、演出ご苦労。目立ちたがりめ……。


「き、奇跡だ!」

「女神様の加護だ!」

 ざわざわざわ。

「かかれ――――!」


 俺たち獣人ハンターたちが一斉にゴーレムに走り出す。

「(ストップ)」

「(【ブレイクウォール】)」

  ルシフィスと俺がこっそりゴーレムの動きを止め、防御結界を解除する。

「わあああ――――!!」

 止まってしまったゴーレムに獣人部隊が斬りかかる。

 剣、槍、斧、ハンマー、総攻撃だ。

 俺とルシフィスも借り物のハンマーでガンガン殴る。

 岩にはハンマーが一番だよな。

 がっしんがっしん削ってやるぜ。


 どごぉん!

 おうっ、魔法使えるやつもいるのか。

 けっこうな量飛んでくるぞ。どごんっどごんっどごんっ。

 おーっとお後ろの婦女子獣人からも飛んでくる。

 けっこうやるじゃないか獣人たち。

 次々にゴーレムに魔法が当たり、破片が飛んだり焼けこげたりしていく。

 さすが獣人ハンター、ロープをかけてすいすいとゴーレムを登り、頭をハンマーで殴ってるやつもいるぞ。あれは岩でも砕けるわ。

 さんざんやらかしてゴーレムもかなりボロボロになってきた。


「うおおおおお――――!!」

「がんばれ――――!!」

「効いてるぞ――――!!」

「もう少しだ――――!」

 後ろで城壁の上から見ている市民や兵士たちからも応援の声が上がる!


「(そろそろいいかな……【ウェザリング】!)」

 久々に使うぞ、風化魔法。

 ゴーレムの腕が落ちる。

 おっと危ない。

「散れ――――!」

 ゴーレムにとりついていた獣人たちが一斉に飛び降りる。

「引き倒せ――――!!」

 怖気づいていた非戦闘獣人たちからも次々にロープが投げられ、ゴーレムにまとわりつく。

 全員で一斉にひっぱると、たまらずゴーレムが崩れ落ち、倒れた!


 ずど――――ん!!


「うおおおおおおおおおお――――――――!!!!」


 大歓声! 獣人たちも、城壁から見ていた人間たちも!


 見る見るうちに、ボロボロになってゆく巨大ゴーレム。

 やったぜ、ついに倒した!


 ……まったく、ひどい自演を見たぜ……。



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