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30.教会を破壊した


 翌日、上機嫌でサリーテスがサロンに来た。

「お茶もお菓子もおいしいし、食事も最高です! それに、フォクシーちゃんがなでなでさせてくれるんですよ! ふさふさのしっぽも!」

 うん、女性客も取り込めそうだ。娼館チェルシー恐るべし。


「じゃあ俺たちは聖都の様子を見に行く。サリーどうする?」

「私はここにいてみんなをなでなでしています」

「『聖都最後の日』を見逃しちまうのかい?」

「……見たくないです」

「はっはっはっは!」

 ルシフィスと二人で大笑いする。




 どっこーん。

 ゴーレムの渾身の一撃が決まり、城壁がガラガラと崩れ、侵入が始まった。


 教会連中はもうゴーレムの破壊はあきらめたのか、すでに避難が始まっている。

 アリの巣をひっくり返したみたいに各城門から人や物資が運び出されている。


「これなら侵攻は案外早く進みそうだな」

 大聖堂の時計塔から、この様子を二人で眺める。

「ああ、順調だ。余のゴーレムは無敵だ! ふはははははは!」

 そのキャラまだ続くのか……。


 大聖堂の中では聖職者がこぞって、女神様にお祈りして勇者召喚の儀式を大急ぎでやっている。

 無駄だ無駄だ、スィフテリスはもう亡くなったし、サリーテスは宿でキツネちゃんともふもふしてるからな。早く逃げないと危ないぞ?


 外周からぐるぐると渦巻型にゴーレムが建物を破壊してゆく。

 大聖堂は最後だな。ルーネほどでかい都市じゃないし、避難も順調に進んでいるようだから二日もあれば残らず更地にできそうだ。


「諦めがわるいなぁ教会連中」

「それはそうであろう。お? 出てきたようだぞ」

 大聖堂の正面から、大教皇のテリアス二世が現れた。

 なんでわかるかって? ゴールデンレトベアーの毛皮のマントをつけてるからさ。

 仕事早えな。

 大混乱で警備も手薄だ。今がチャンスだ。


 俺は時計塔から飛び降りて、するすると逃げ惑う人込みをかき分けて大教皇テリアス二世に接近する。


「教皇様! 大教皇様!」

「なんだ貴様! 無礼であるぞっ!」

 周囲にいた近衛兵に止められる。

「ゴーレム! ゴーレムを倒す方法が!」

「なんだとっ!」

 視線が俺に集まる。

「こ、これをご覧ください」

「なんだそれは?」

「先ほど崩された書庫から見つけました! (いにしえ)の、ゴーレム襲来の時の記録でございます!」

「……見せよ」


 大教皇の前に道が空く。全員、わらにもすがりたい気持ちなのだ。

 俺を怪しんでる暇なんてないわな。


 俺は大教皇の前に跪き、例の御子息の家から盗み出した一冊の本を差し出す。ガレキにまぶしていかにもさっき見つかりました風にしておくのを忘れない。

「これに、街を襲った魔王軍のゴーレムを、獣人の勇者が迎え撃ち、倒したという逸話が残されておりますっ! これなら、これならゴーレムをあるいは……」

「ふむっ、こ、これは確かに。教会にも密かに伝えられておる伝説と同じだ……。あるいはこれなら……」


「し、しかし、今から獣人の中から勇者を選ぶことなど……」

「獣人はみな戦いなどやったことなどございません。今からなにかしたところでもう……」

 周りのえらそーな聖職者たちも疑問だろうな。

「かまわぬ。獣人全員を当てればよい。本拠地をルーネに移す。急げっ!」


 おうっ、俺が言おうとしてたことを先に言いやがった。

 クズいぞ大教皇。


 ゴーレムの侵攻はとてもとても、ゆっくりで、結局一晩中続いた。

 教会連中の撤退、思ったより早くてね、翌朝には、綺麗に更地になりました。


 ゴーレムが城壁を出て、今度はルーネに向かってズシンズシンと歩いてゆく。


「きれいさっぱり、無くなっちゃいましたね……」

 無人になった城塞壁に、サリーテスがふわりと翼を広げて降りてきた。

「そんなことないって、アレを見ろよ」


 全てがガレキと化した城塞都市の中心に、なぜか中央の巨大な女神サリーテス像だけが無傷で残っている。

「アレがあれば、信仰も途絶えないし、サリーテスへの尊敬も集まるだろ。あんたのせいにはならないさ。いろいろ腐ってたものが全部洗われて、また一から始めればいいさ」

「今度こそ、ちゃんとやるのだぞ」

 ルシフィスがサリーテスの肩をたたく。

「……はいい……。わかりましたよ……」


 泣くな泣くな。こんな教会ないほうがずっといいって。




「号外! 号外!!!」

 ルーネの街のあちこちで告知が行われる。

 明日までにこの街在住の獣人は身分を問わず全員出頭。

 ルーネの兵舎に集合せよとのことだ。

 一人残らず全員。例外は無し。


「乗ってきたな教皇」

「おう、クズらしい発想である。計画通りではあるがな」

 現在ゴーレムはかつての聖都ライノーラを出て、旧首都であるこのルーネに接近しつつある。


 獣人の勇者を、どうやってでっち上げるかさんざん考えたのだが、このアイデアはルシフィスが出した。

「なぜそのような面倒なことを考える。獣人全員が勇者であれば文句あるまい」

 よしっそれ採用。


「わ、わたしたちもでるの――!?」

「やだ――――」

「ひ、ひどい……」

「こわいよー……」

 メイドさんたちがパニックです。


「パリス、俺たちってさ、獣人に変装できる?」

「できるよ」

「道具とかあるの?」

「なんでもそろってるよ」

「……なんであるの」


 パリスが肩をすくめて言う。

「獣人になりきりプレイがしたいお客様もいらっしゃるのでね」

 姫がコスプレしてくれる風俗はたくさんありますが、客がコスプレするのですかこの街は。

 つくづく上級者の匂いがいたしますね。



 メイドさんたちが衣装箱をわんさか持ってきて、みんなで面倒を見てくれます。

「まおうさまはなにになるのー?」

「決まっておる。狼男だ。あるか?」

「はいー! ございます!」

「サトウ様はなにがいいー?」

「キツネ! キツネ!」

「いぬがいいよーっ!」

「牛がおすすめですわ」

「虎とかつよいよ。虎は猫でいちばんつよいんだよーっ!」


 ……らぶちゃんがウサ耳もってスタンバってます。

 ……四十歳のオジサンになにをさせたいのですかね?

 ……わかったよやるよやりゃあいいんでしょ?

「じゃ、俺はウサギで」

 はい、ウサ耳ウサしっぽつけてもらいました。

「……」

「……」

「……」

「きもいしぃー」

「……よわそーだしいー……」

「え――、なんで――!!」

 一名を除き、却下されました。


「じゃあウサギはわたしがやります」

 サリーテスあんたもやんのかい。

「かわいー」

「にあうー」

「サリー様素敵――」

 女子どもはキャッキャウフフでいいですな。

「私はなににしようかな」

 リリイさんあんた猫でしょ。


 はい、俺はさんざん遊ばれたうえで、タヌキになりました。

 なんでやねん。

 俺たちもみんなと一緒に出る。これだけでもうみんなの安心感が違います。

 絶対に守るからな。たとえそれが自演であろうとも。



 ルーネ最後になるかもしれない夜。

 らぶちゃんと燃えに燃える夜となりました。



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