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28.女神を召喚した


 今日は延びに延ばされた冒険者協会の約束の日、シロクマ(ゴールデンレトベアー)の買い取り価格を聞きに行く日だ。


「オークションで金貨三万枚の落札がありました」

「……」

「……」

 日本円で三億円……。


 ローナンの説明に絶句する。

「なんでそんなに高いの?」

「ゴールデンレトベアーは100年ほど前に一度見つかっただけで、その後まったく現れておりません。教会の近衛師団がこれの討伐に成功し、その毛皮が大教皇アルフォース5世の背を飾るマントとなったのは有名な話です」

「そんなに価値があるんだ……」

「では今回の落札者は教会か」

 俺が驚くと、ルシフィスがちょっと半怒りで口を出す。

「はい、お気の毒です」

「……なんでお気の毒なの?」

「教会は多分落札金額を払わないでしょう。いえ、もうおふた方には支払い済ということになっているかもしれません」

 あんまりです。最悪です。


「……教会やりたい放題過ぎ……」

「教会は金を払う気など最初からありませんので、値段は付け放題。他に所望される落札者がいても、教会が入札に参加した時点で早々に諦めてしまいます。三万枚というのは最初の入札でしたが、事実上、教会が没収すると宣言したにすぎません」

「なぜ教会がそのようなものを欲しがる」

「アルフォース五世が没した時、そのマントは共に霊廟に埋葬されたので現在現物が無いのです。なので、現大教皇のテリアス二世がご所望されました」

「なにその俗物教皇」

「腐ってるな教会は」

「……ハンターの質が下がっている、ハンターが仕事をしなくなっている理由の一つです。申し訳ありません」

「なぜ教皇が軍を出してまで熊の毛皮を獲る。なぜ市民を騙し盗ってまで熊の毛皮を奪う。そもそも神の下僕たる教会がなぜ贅沢を極め身を飾る。教会というものの本質を見誤っているのではないか!」

 ルシフィス激おこです。

「……申し訳ありません」

「ローナンさんが謝ることじゃあないんだけどな……」

「なんと言われましても私どもはお気の毒ですとしか申し上げようがございません……。お詫びといってはなんですが、冒険者協会としては、お二人をランクAに上げてさしあげるぐらいしか」

「わかった」

「余はわからぬ」

「いやここは一旦引こうルシフィス」

「……是非もない」



 二人でチェルシーのサロンに戻る。

「白髪熊のことはもう良い。どうせたまたま見つけたものを余と雅之の電撃十二発で仕留めただけだ。大した手間もかかっておらぬ。余が不満なのは教会の腐り具合だ」

「今までも俺の話聞いてきただろ」

「そうだ、さんざん聞いたしこの目でも見た。中でも特に許せぬのが館の嬢たちへの暴行。強要行為だ。聖職者が女を嬲るなどありえぬわ。あげく館へ剣を振るって押し掛ける、目の見えぬ少女を慰み者にしようなどと……」

「潰すか」

「潰そう。一番上が一番腐っておることがはっきりした。余はもう迷わぬ」

「よし。では女神に一応断っておくか」

「……雅之、今なんと言った」

「女神に一言断っておくのさ。お前の教会を潰すぞってな」

「そんなことできるのか」


  俺は女神紋を左耳に当て、サリーテスを呼び出す。

「サリーテス、聞こえるか?」

(佐藤さん! 十日も連絡なしなんてひどいです――――!)

「だってお前相談したら絶対反対するからな」

(わ、私が反対するようなことって……い、い、いったいなにを……)

「お話があるんですけどちょっと降臨してくんない?」

(こ……こうりん? こうりんって……?)

「いいからとっとと、今俺がいるところに降臨しろ!」

(そんなこと言ってもですね、降臨ってやつはですね、そんなに簡単に……)

「この世界を滅ぼされてもいいんだな……」

(は……はいっ今行きます!!)


 すっとサロンが暗くなる。

 サロンの天井から、光が差し込み、きんきらきらきらきらきらきら……。

 なにか光の粒子みたいなものが舞い踊り、あーあー……みたいな合唱のBGMとともに光の玉からきれいな御足が舞うように現れ……。


 その足を掴んで引きずり落とす。

 どてっ。

 女神サリーテス様が無様に尻もち突いて、床に転がった。

「演出過剰だダメ女神」

「……だ、だってこれぐらいやらないと人間には女神ってわからなくて……」

「やっと会えたなサリーテス」

「貴女が女神か、サリーテス」

 だいたい、まあ女神像のまんまか。ナイスバデイでどこのマリリン・モンローかよって感じの危うい衣装の金髪ねーちゃんだがなんか思ってたよりトロそうだ。


 ギロリ。


 殺気丸出しの二人のおっさんに睨まれ、怯える女神様。

「あの……佐藤さん、こちらの方は……」

 震えあがりながら聞くサリーテス。

「お初にお目にかかる。余は魔王、魔王ルシフィスだ」

「女神スィフテリス率いる勇者軍相手に一歩も引かず闘った、魔王ルシフィスその人だ。失礼は許さんぞ」

「ひっひいいいいいいい!!」


 女神、魔王、そして俺。

 もし俺が勇者だったら、「勇者と女神と魔王の三者会談」というファンタジー史上前代未聞の驚愕な絵図となるところだったが、まあ俺は勇者じゃないからな……。


「まあ座れ」

 俺とルシフィスで左右からサリーテスの両腕を掴み、持ち上げて椅子にどかっと座らせる。

「なぜ魔王様がこちらに……」

「寝てたんで俺が起こした」

「そんな! できるわけありません! スィフテリス様の封印を破るなど、なんてことをしてくれたんですか佐藤さん!! 魔王復活させてどうするつもりですか! 悪魔ですかあなたは!!」

「そのようなもの最初から無いわ。余は自らに封印をかけちと寝坊が過ぎただけのことだ」

「まあいい。茶ぐらいは出してやる」

 からんからん……ハンドベルを鳴らすとフォクシーちゃんがサロンに来た。全身毛がふさふさのかわいいキツネちゃんです。特にしっぽがふさふさで見事ですよ。

 キツネっ娘を描く人に言いたいのだが、本物のキツネのしっぽの先は丸いからね。筆みたいに尖ってたりはしないからね。


「あーっサトウ様女連れ込んでる――っ!」

「お客さんだよ。お茶を三人分、あと茶菓子とか適当に」

「かしこまりましたーっ。……っていつ入ったのこの人?」

「そこは突っ込まないで流して」

「はいー」


 …………。

 ………。

 ……。

 ……。

 フォクシーちゃんが戻るまで、無言。

 俺と魔王ルシフィスで女神サリーテスにひたすら威圧を行う。

 サリーテス、ぶるぶる震えとるわ。

「どうぞーっ」

 フォクシーちゃんがポットからお茶をカップに注いでくれて、三人に配る。

 甘そうな目の前のお菓子に目が釘付けのサリーテス。


「あの……ここは?」

「娼館チェルシーへようこそ」

「……女神を娼館なんかに召喚とかぷぷっ……ひっ」


 ギロリ。


「俺の天使たちがどうかしたか?」

「余の女神たちへの侮辱は許さぬ」

「いえ、なんでもありません……。あの、これ食べていい?」

「俺たちの話を聞いたら食ってもいい」


 さあ言ってやる。言ってやるぞ。


「なんだここの教会! 国民相手にやりたい放題じゃないか!」

「この国の教会の体たらくはなんだ! 貴女の信徒ではないか!」

「堕落しきっている。腐りきってるわ! なんのための教会だよ!」

「いったいなにを教えておる! 獣人は差別する、奴隷にする、勝手に裁判で好きなように罪無き者を裁く、財産は奪う、女は買う、娼婦に暴力を振るう、少女は犯す! こんな教会があっていいいか!」

「金を集め、豪勢な宝石や毛皮のマントで着飾って、美食のために獣人を危険な狩場に追い立てて、なんなんだよここの国の聖職者!」

「神の名のもとに道を説き、平安を祈り、迷える子羊あれば教え導き、自ら民草の模範となるのが聖職者の務めであろう! 貴女はいったいなにをしておった!!」

「信徒は教会の奴隷じゃないんだぞ!! 獣人の奴隷はまったく手付かずだし、お前さんざん降臨しといてろくに教えも説かずぜんぜんなんにもやってねえじゃねえか! それでも女神かっ!!」 


「ご……ごめんなさい……。ごめんなさい……」

 ……女神様が泣き出した。


「……貴女が人間どものバカな戦争を止めようと尽力なされたことは知っておる」

 どすん、サリーテスの前にルシフィスが聖書を置く。

「だが、それだけでは足りぬ。戦争さえなければ平和な世になるなどと思わぬことだ。人間には『罰』も必要なのだ」

「……はい……」

「貴女にも協力してもらうぞ」

「……はい……」

「食っていいぞ」

「……はい……」


 サリーテスがぐずぐず泣きながら、クッキーをぽりぽりかじり出した。

「……お茶も、いいですか」



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