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24.今後の方針を考えた


 すっかり仲良くなった俺たちは、大量の獲物をかかえ意気揚々とルーネに帰った。

 まずは冒険者協会で獲物の換金だ。

 買い取りカウンター担当のローナンに声をかけ、解体場に行く。


「えーと彼もアイテムボックスを使うんだけど、くれぐれも内密に」

「それは承知していますが、ルシフィスさんもですか。三日前登録されたばかりだというのに……」

「さてと、まずシラヤマドリ五羽」

「はい。金貨2.5枚」

「アカエボキジ二羽」

「はい。金貨1枚」

「カモシカ五頭」

「……はい。30枚」

「ブラウンベアー一頭」

「……えええ。……40枚」

「ヘラクロジカ一頭」

「……もうなんといいますか。……32枚」

「シロクマ一頭」

「……シロクマ?」


 白熊がなにか?

「シロクマって、白熊って、シロクマ??」

 ローナンが真っ青になる。

「いや、白い熊がいたからとりあえず獲ってみたんだけど……」

「白熊じゃありませんよこれ!! ゴールデンレトベアーじゃないですか!」

「なにそれ?」

「幻の熊ですよ! 100年ぐらい前に一度獲れたあの幻の熊!!」

 ローナンが飛び出していった。

 結局、もう協会関係者が全部出てきて大騒ぎになった。

 ……なんか嫌な予感しかしないのでルシフィスに確認する。

「(白熊って、これ熊が白ってか金色ってだけだよな……)」(小声)

「(そうだな。年を取って長生きをした熊は白髪になって毛の色が薄くなる者もいる。100歳も超えると魔法も覚えて手ごわくなるが、まあただの爺さん熊なのだが)」(小声)


「す……すまん、これは引き取れない。一週間ほど時間をくれ!」

「いいですけどどういうことですかね」

 協会会長が汗だらだらです。

「うちでは値段が付けられないんだよ! オークションにかけるから! 領主とか大商人にも告知を出すから!」

「そんなに珍しい物なんですかね」

「大教皇アルフォース五世のマントを知らんのか!」

「全く知りませんね」

「……もういい。とにかくこれはうちで扱うから。一週間後にまた来てくれ。絶対に悪いようにはしないから!」


 ……そんなわけでその日は金貨105枚、銀貨50枚を受け取って、二人で山分けした。ルシフィスのランクはFから一気にCだ。

 ルシフィスはチェルシーの宿賃金貨52枚を返そうとしてくれたが、あれは俺の奢りだと言ったんだから奢りである。

 ルシフィスの当面の滞在費として、今日のところはそのまま山分けでいいからということにした。

 宿は当然今夜も、娼館チェルシー。


「おかえりなさいませーっ!!」

 メイド隊は今日も元気だ。

「ただいま」

「ただいま……。いいものだな、こうして迎えてもらうのは……」

 二人で顔を合わせてニヤッと笑う。


「パリス殿、お土産だ」

 そう言って、ルシフィスが岩塩、ハーブを数種類、束でどっさり渡す。

 そういえば猟の間にこういうのをこまごまと採取してたな。

 長い間一人暮らしで全部自分でやっていたらしい。つつましい魔王である。

 俺は和食、中華派だからハーブの種類なんてまったくわからん……。

「これはすごいね!! なかなか手に入らないよ!」

 パリス大喜びだ。

「これは俺。カモシカ」

 カモシカの肉の各部位をどさどさと一頭分。

「……また肉かい。いや、ありがとね」

 ……反応薄いんですけど……いや、いいんですけど……。


「三日間山に籠ってたから風呂入って夜まで暇したいな……。サロンを二人で使いたい。用意できるかい?」

「はい。魔王様今日から部屋は普通でよろしいですか?」

「それではリリイ嬢に失礼だと思うのだが」

「なに自惚れてんだい。今日から普通の客だよ。それでいいんだろサトウ?」

「……パリス支配人、お客様相手にその口の利き方は……」

「……そうだったね。失礼いたしました。アンタの友達だからつい……」

 ……いいけどさ。


「リリイはね、あー……、当館のご利用初めてのお客様に限らせております。当館には他にも自慢のメイドがおりますので、ぜひお勧めをお試しください」

 ルシフィス、ショボーン……。

 ショボーン…………。

 ショボーン………。

 ショボーン……。


 ……どんだけだよ。



「ルシフィス、長居することになるんだからとりあえず全部パリスの言うとおりにしとけ。間違いないから」

「金貨三枚となります」


 ショボーンから立ち直れないルシフィスが金を出す。

「ミルクです、ご案内いたしますわ、まおう様」

「おう、ミルク殿か、先日は世話になった。よろしく頼む……」

 そういえばまおう様洗い隊にミルクちゃんいたな。

 三つ指ついてるミルクちゃん。

 可愛い名前ですけど俺より背高くてぼんっきゅっぼんっなダイナマイツ美人さん。力持ちで面倒見がよくメイド隊みんなのお姉さん的存在です。横に飛び出した耳と耳の上にかわいい角が生えて、白と黒のメッシュの髪、人肌(全身毛じゃないタイプ)の牝牛の獣人さんですね。

 当然、爆乳です。


 みなさんメイドさんのネーミングが適当すぎるとか思っていませんか?

 源氏名はお客様の御贔屓を考えて聞いてすぐ覚えられてイメージしやすいものにするに決まっておりますからね。誤解のないように願いますよ。


「ルシフィス、風呂あがったらサロンで打ち合わせ。忘れんなよ!」

「わ、わかっとるわ!」

 ルシフィス、ミルクちゃんにひっぱられて二階へ行きます。


「……なんかリリイさんとのギャップが凄いんですけど、大丈夫かなあ」

「リリイのお勧めさ。リリイの見立ては間違ったことないね。任しときな」

 ……童貞の性癖から好みまですべて把握して引継ぎをする。プロすぎますリリイさん。


「そういえば、パリスはなんで俺にらぶちゃんを世話してくれたの?」

「アンタ紹介も予約もなしでいきなり正面玄関から乗り込んできて、あたしに全部『任せる』って言ったでしょ? こりゃけっこうな遊び人が来たねと思ってさ」

「ほう」

「だからね、遊び人のアンタには一番気持ちいい娘をと思ったのさ。アンタならラブの良さがわかるだろ。ラブはうちの『気持ちいい』ナンバーワンさね」

 ……確かに、店は初見の客には常連になってほしいから、任せるって言うとちゃんといい嬢を勧めてくれるよ。好みが細かい客は嫌われるな。「その条件だと今はこれしか」って嬢になるからね。


 たたたたたたっ。

「おかえりなさいませ! サトウ様! お風呂ですか? ご案内いたします!」


 俺の天使、可愛い可愛いウサギちゃん。いつも真面目で一生懸命。こういう嬢だよリピート客が付くのは。嬢は顔や体じゃないね。パリス、あんた最高だ。


「ただいま。じゃ、行こうか!」


 らぶちゃんに気持ちよく体を洗ってもらって、着替えてからサロンに行く。

 お茶とサンドイッチを持ってきてもらってルシフィスを待つ。

 待つ。

 待つ。

 待つ……。


 なんか肌をツヤツヤさせて頬もピンクのぽわんぽわんなルシフィスがやってきました。

「お前若返ってねえ?」

「うむ……。なにか若さが戻ってきた感じはするな。今までにない充実感だ。いや、まったく、良いところを紹介してもらった。あのマッサージという奴は特に良いな。感謝する。城を出てよかった」

「……どこをマッサージされたんだか……まあそれはなにより。さて、遺跡でも話したことだが」

 そう言って持ってきた本をどさどさとテーブルの上に積み上げる。

「俺がここまで集められた資料だ。王政廃止前の教会の歴史、聖人列伝、戦争の年表、そして、宗教裁判の裁判記録……」

「ずいぶんあるな」

「俺も全部読み切れない。ルシフィスはこっちの文字とか読むの大丈夫か?」

「まあ魔法でたいがいは意味は分かる」

「それも便利だな。で、これをもう少し調べて、アンタの記憶とも合わせて当時、なにがあったか、確定したいところだな」

「わかった。たぶん一番重要なのは……この……」

「……裁判記録だな。アレスの裁判の記録がある」


 二人で本や書類の山を読みふける。

 街を襲ったゴーレムのエピソードがある。


「ルシフィス、ゴーレムって、どんなやつだ?」

「岩や土を集めて人型にし、魔法をかけて動くようにする。人間の二十倍ぐらい大きなものから、見た目人間、魔族の物まで作れるな。使用人として城で働かせていたものから、警備に使う戦闘用までいろいろだ」

「便利だな……。ルシフィスの命令を聞いてその通りにする?」

「そうだ。ある程度自分で考え、行動することもできる。指一本一本の動きまでいちいち命令していられないから、自分で命令内容を理解して実行する」

「自律型のロボットみたいなもんか。それは便利だ。この本にある人間を襲わせた、というのは? なにやったんだ?」

「このルーネに五体のゴーレムを向かわせて、城壁を壊すように命令した」

「それをアレスが単独で迎え撃ち、魔法で破壊したと」

「ゴーレムは岩で作ったからな。まあ剣だの槍だの当時の兵士の装備では、傷をつけるのがせいぜいだっただろうな」


「魔法は?」

「実はゴーレムは魔法に弱い。当時はそんなに強い魔法はなかったはずだ。ファイアボール程度の火魔法にはゴーレムはめっぽう強いが、ゴーレムに効きやすいのは電撃魔法だ。操舵する中枢を焼く。アレスに授けたのはその魔法だな」

「魔法って授けられるの? 俺もルシフィスの魔法教えてもらえる感じ?」

「余の魔力を分け与えた。アレスは魔法使いではないから、余の魔力が切れたら普通のオオカミ男に戻ってしまうな……。使えるのは百発ぐらいであっただろうか」


「魔法食らったら?」

「ゴーレムはバラバラになって崩れ落ちただろうな」

「うん、そこはこの記録と近いな。で、そのゴーレムは勇者との戦争でも使ったのか?」

「勇者は強力な魔法を使う。ゴーレムでは歯が立たん。戦争では勇者軍と魔族軍の戦争だった」

「その勇者は女神スィフテリスの加護で魔法を使ったんだよな」

「ああ、電撃魔法は勇者が好んで使う魔法だ」

「今の教会の魔法使いどもに、電撃魔法は……ないか」

「だろうな」

「なら勇者のいない今ならゴーレムは魔法攻撃にも相当耐えられると」

 うーん、と俺は伸びをする。


「実はな、狼の奴隷を買って、そいつを強く育ててだな、でもってアンタのゴーレムで街を襲わせて、奴隷にゴーレムを倒させて、勇者アレスの再来だーとか、そういう一芝居を打ってだな、それで獣人の人権復帰みたいなことをやろうと思ってたんだよ」


「……反対だ。それでは余の過ちと同じだ」

「そうなんだよなー。俺もそう思った。凝りすぎた芝居は破綻も早い」

「……」

「……」

 手詰まりだね。


「ま、旨い物食って、いい女抱いて寝てればそのうちいい考えも浮かぶだろ。あとこの世界のこともちゃんと知らないとな」

「雅之はこの世界に来てからどれぐらいになる」

「実はまだ三週間ほど」

「なんだ、余と大して変わらないではないか。その程度でこの世界をどうこうしようなどと、ちと虫が良すぎないか」


 まー、あんまりチンタラやってると、エタっちまうぜルシフィス。



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