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2.展開速いけど首都に入った


 とりあえず現状確認から行こうか。

 俺のカッコは魔族領にいた時に、人間の王族とかと会ったりするときのための正装だ。黒づくめの貴族ぽい服装と言えばわかるだろうか。

 腰のベルトにはずっと愛用し続けた例の十手が挟まっている。


 ……魔王カーリンが俺を葬る時、この正装と共に棺に入れてくれたのだろう。

 ありがとうカーリン。愛する妻に看取られて俺は幸せだったよ。


 【ステータス】を念じる。


 LV (レベル) 999

 HP (体力)   999

 MP (魔力)   999

 STR(筋力) 999

 INT(知力)  999

 AGI(敏捷)  999

 ATK(攻撃) 999

 DEF(防御) 999

 MGR(抗魔) 999


 うん、まったく変わってないね。

 カウンターストップ、いわゆるカンストだもんね。

 この5年間1ポイントも上下しなかったわ。

 魔法のリスト見ても前と全く同じ。俺が独自に組み合わせて作ったものもそのまんまだ。


 【マップ】を開く。地上の走査を行いマップ状に可視化することができる。目の前に俺にだけ見えるグーグルマップが出るようなものだと思ってくれ。

 もう見慣れた前の大陸とは全然違う。前とは全く違う世界にきちゃったんだと痛感する。

 ここは首都らしき一番大きな都市からは意外と近い。サリーテス親切。

 とりあえず首都を目指すか。


 さてなによりもまずは軍資金だ。ポケットにはなにも入っていない。

 完全に手ぶらだ。一文無しだ。

 そりゃあ俺の最後は埋葬だもんな。お金持たせてくれたりはしないよな。持っていてもたぶん世界が違うから使えないだろうし。


 街道があるらしきところを目指して歩き出す。

 歩きながら、胸ポケットのハンカチーフを【カーボンレインフォース】して空気中の二酸化炭素から炭素を取り込んで炭素繊維に作り替える。次に、その炭素繊維に空間圧縮の【ギガコンプレッション】をかけて超高圧、高温状態に保持し炭素の単結晶を成長させてダイヤモンドを作る。

 そう、この「結晶を成長させる」というのがダイヤモンド生成のコツだったのだ。これに気が付いてからいいダイヤモンドを作れるようになったものである。

 もう手慣れたものでこの程度の作業は歩きながらでもできる。


 前は炭一束から5mm角の物しか作れなかったが、今はハンカチーフ程度の材料からでも同じぐらいの大きさのダイヤモンド原石が造れるようになった。効率がずいぶん上がったものである。

 完成したダイヤモンドの結晶を重力操作の【フライト】で空中に保持し、温度が下がったところでポケットに入れる。これでまあ日本円で100万円ぐらいの財産はできたと。あとはこれをどこに売るかだ。


 俺の魔法は普通のファンタジーに出てくる魔法と全く違う。

 物理法則パラメーターを自由に操れるという物理魔法だ。

 精神力とか超能力とかこの世界に満ちている魔力だとかのファンタジーな謎な力ではなく、その現象は全て科学的に説明できるものを、科学では説明付かない方法でコントロールしている、と考えてもらっていい。

 俺の生前の職業は、機械系エンジニア。工業高校、工業大学を卒業し、中小企業のメーカーで機械の設計、開発を専門にしていた。

 世の中には数学、幾何学、物理学、力学、流体力学、熱力学、電磁気学、材料力学、化学……いろんな学問があるが、それを使えるものは何でも使う。それが工学だ。どんな工業製品にも、これらの学問がすべて使われている。

 俺はそれを応用して、科学的な現象を物理的にコントロールして実現している。それが俺の魔法だ。

 この力は前の世界の女神だったエルテスが俺に授けてくれた。

 理系のエンジニアの俺にはこっちのほうがわかりやすいし魔法の原理もわかるけど、そこにロマンはないのかと。

 ついでにあっちの世界で無敵になるようにとサービスで身体系のパラもカンストにしてくれたな。それでも死ぬときは死んじゃうけどね……。


 街道を街に向かって歩いていると上空を鳥が飛んでいる。

 石を拾って投げつけると「ぱきゃ!」と声を上げて落ちてくる。

 そうして道を歩きながら、十羽ぐらいの鳥を落とす。

 前世の妻、魔王カーリンの得意技だったな。今では俺のほうがうまいぐらいだ。

 カモみたいな鳥で食ったらうまそうだ。


 で、街に近づくと農村も見えてくるので、畑で作業しているおじさんに声をかける。

「おじさーん、鳥いらんかね」

「おうぅ?」

「ほらこれなんだけど」

「おおう見事なミドリガモだの。兄さん狩人……には見えんけど?」

「まあね。お金落としちゃって困ってるとこでさ、言い値でいいよ」

「ふーん……。そうだの、一羽銀貨1枚でいいなら買ってもいいな」

「じゃ、それで頼むわ」

「いいのかい? ありがとな。今夜はごちそうだな!」


 銀貨10枚ゲットだぜ。

 異世界言語翻訳能力も健在だ。これで安心したぞ。


 そんなこんなで道々の農家に鳥を売り歩いて銀貨を50枚ぐらい稼いだ。

 ダイヤモンドを持っていてもいきなり売れるもんじゃないからな。小銭は必要だよ。

 農家さんで鳥と引き換えに昼飯をおごってもらった。

 普通にサンドイッチだった。ハムとレタスだけだったけどまあまあ旨かったよ。


 この国のいちばん大きい城塞都市、ルーネに着いたときにはすっかり夜だ。

 城塞門はもう閉まっている。

 今のうちにこっそり【フライト】で壁を越え、街に侵入する。この貴族ぽいかっこで普通に門を通るといろいろ聞かれて面倒そうだったのでそれは避ける。

 教会ぽい聖堂の一番高い屋根に着地し、どの角度からも見えない場所に【ウォール】のエアマットを敷いて、ひと眠りすることにした。

 【ウォール】は空気分子固定の結界魔法だ。物理攻撃も魔法も全く通さない超強力な空気の壁を作る俺の一番得意な魔法で、戦争を止められるほどでかい見えない壁も作れるし、パラメーターを調整すればふかふかの寝やすい見えないエアーマットも作れるという便利魔法だ。

 いろいろと一番出番が多い魔法なので覚えといてくれ。

 それにしても腹が減った……。この街食い物が旨ければいいのだが……。



 がらんがらんがらんっ。

 聖堂の鐘が鳴る。

 5mぐらいの距離で聞くからイヤでも目が覚めるというものだ。

 あまりの大音響にたまらず屋根伝いに裏通りに飛び降り、街に向かって歩き出す。


 教会の扉が開かれるので、信者たちと中に入って見よう見まねでお祈りする。

 教会で情報ゲットというのは、前の世界でもさんざんやった作戦だ。

 この世界の神様は、サリーテス様だ。

 つまり、俺を召喚した女神様。


 ご本人様かよ……。


 300年前。かつて人間同士が戦争になったとき、本当に女神サリーテス様がご降臨され、戦争をやめさせたのだそうだ。前の世界の女神、エルテスに聞かせてやりたいエピソードである。

 サリーテスの降臨はその後の戦争でもたびたび現れ、この世界では150年ほど前からほぼ完全に戦争は無くなった。

 戦争するたびに本物の女神が降臨してくるんだから戦争したくてもできなくなっちゃうよな。

 多くの国で女神信仰は強くなり、聖教改革が行われ、教会の権力が強くなり、王政は廃止され、現在国というか大陸の実権を握っているのは大教皇。教会が政府のかわりをしている。

「このように女神サリーテス様の手厚い加護の(もと)、われわれ人間はついに平和で争いのない素晴らしい世界を実現することができました。私たちはそれに感謝をし、女神様を称え、この素晴らしい世界を永遠に守ってゆくことが私たち信者の使命となります」


 やりすぎ。サリーテス様やりすぎです。

 教会を出てゆくとき半ば強引に寄付を払わされた。銀貨10枚。

 俺っていい服着てるから金持ちに見えたかもしれないけど、それにしてもたっかいな!


 ものすげえでかくて立派でキンキラキラキラと豪華な教会の前のでっかいサリーテス様を称える大女神像。

 なかなかのナイスバディに大した美人です。

 ぜひご本人にお会いしたかった。

 さて教会の掲示板を見るにハロワ風にいろいろ職業案内もあるわけだが、冒険者協会の案内もある。ここではハンターじゃなくて冒険者、ギルドじゃなくて協会というわけか。せっかくだから冒険者になっておくか。


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