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18.聖都ってどんなところか調べた


(その、新しい情報は断片的で……)

「こっちはけっこう順調なんだけどね」


 日課になった昼間の探索は、新しい事実を次々と教えてくれる。

 ついに壁画のある廃墟を見つけた。遺跡でなくて廃墟なのは比較的新しい時代だと思われるからだ。

 これだけでずいぶんいろんな事実がわかるぞ。

 サリーテスに報告だ。


「まず、勇者アレスは獣人だった」

(えっ?獣人の勇者なんて聞いたこと無いですよ?)

「そして狼の獣人だ」

(そんなの初耳です)


 剣を振り上げ、ゴーレムと闘うオオカミ男のレリーフが刻まれている。

「300年前、君が着任する前のスィフテリスの時代だが、人間と魔族の間で小競り合いが続き、勇者アレスの活躍でこれを鎮めた」

(そのへん、こっちには記録が無いんですよね……)

「勇者アレスは英雄視され、そして人間社会と獣人社会の交流が深まった」

(???)

「しかしその後突然勇者信仰は放棄され、人間が獣人に弾圧を開始、こんな街が放棄されるにいたったと」

(佐藤さんが今いる廃墟、元々は獣人が住んでいた街なのは間違いないですね)

 だろうな。人間の痕跡が見られない。


「勇者アレスが支持を失った理由はなんだろう?」

(さあ……スィフテリス様はその時はもうかなり弱っていて、記録のようなものがありません)

「実は少し予想がついている。これ以上は聖都での調査になるな」

(どんな予想です?)

「『泣いたオオカミ』を読め」

(なんですそれ?)

「獣人たちに伝わるおとぎ話さ……」

(そんなの調べようがないですよ――――!)


 魔王。

 あの童話が史実だとしたら、いや、あれは史実だ。

 だとしたらどこかで魔王は今も眠っているはずだ。

 まだ未調査の遺跡のどこかか。

 寝坊しすぎだ。とっくに百年は過ぎているぞ。



 いつもの通り冒険者協会の買い取りカウンターで今日の獲物を渡す。

 今日はかなりデカい角イノシシを三頭だ。

 かなり旨いらしくこれも一頭金貨30枚になる。

 毛皮とか牙とか角とかも金になるので、血と内臓だけ抜いてそのまま持ってきた。

 ローナンに頼んで直接解体場に行って、背負ったバッグから袋を取り出して【コントラクション】を解除する。

 もういいかげん面倒なので、ローナンにだけはこのことをばらしてしまおう。


「……いや凄いですな。イノシシを三頭も収納できるとは。おそらくこの国最大のアイテムボックス保持者ですよサトウさんは」

 いやアイテムボックスとかじゃないんですけど、いや面倒だからアイテムボックスでもういいや。

 本当は解体したもう一頭分の肉があるんだけど、これは支配人パリスへのお土産です。


「絶対に他言無用にしてもらいたい。でないとハンターの仕事は今後できなくなると思ってもらっていい」

「了解しました。しかし惜しいですな。支部長に話せば問答無用でSランクに昇格してもらえますぞ」

「実は俺には本業があって、ハンターは片手間でやっているのでね」

「……それ、驚愕の事実です。これほどの腕のハンターが片手間だと。いったい何のお仕事を?」

「今は、歴史研究家とでも」

「変わったお方ですな。いや、そういえば最初からなにもかもが変わっておりましたな。いまさらかもしれませんが。いちいち驚いている自分が滑稽です」 

 そう言ってローナンが苦笑いする。


「そうそう、一つ質問」

「どうぞ」

「冒険者協会には、獣人も登録できる?」

「隷属している御主人がいれば御主人の手続きで登録できます。資格、処遇、共に人間と変わりません。単独で行動することも街を出入りすることもカードを示せば認められます。獣人のハンターを多く使って鳥獣の仕入れをしている商人もおります。獣人は優秀なハンターになりますからな。奴隷としては恵まれている職業の一つです。もちろん危険は伴いますが」

「わかった」

「獣人を買われるのでしたら奴隷商で買うか、オークションに参加されるのがよろしいでしょう。ハンターの資格があれば問題なく主人登録可能です。カードに隷属する獣人が併記されます。ランク制限はありません」

「気が進まないが、そういうものなんだろうね」

「サトウさんは、獣人に偏見がまるでないかたとお見受けしますが」

「いや奴隷を買うという行為がね」

「お察しいたします」

「ローナンさんは、獣人に対して偏見はないと」

「良いハンターに人間も獣人もございません」

 俺が右手を出すと、ぎゅっと握って握手してくれた。

 うん、いい人だ。『ケモナー同盟』に勧誘したい。




「いってらっしゃいませー!」

 翌日、メイド隊に見送られて平服を着て外に出る。

 聖都ライノーラは俺が本拠地にしているルーネより実は小さい城塞都市だ。

 中は全て教会施設。サリーテス教会の総本山だ。


 俺のいるルーネはかつては王都だった。

 王の干渉を受けないように聖都ライノーラは王都とは別に存在し、単に教会の総本山としてだけ使われていたのだが、王政が廃止されて首都がライノーラに移転された。今では政治、宗教の中心都市である。


 巨大な聖堂を中心に、円形に街が広がっている。

 これがなんと全て宗教施設である。

 最外周は警備のための衛兵関連の施設。

 ルーネ郊外から【フライト】で飛んできて街を上空からいろいろ観察してみるが、街を歩いているのはほとんど聖職者、宗教関係者、そして兵士、衛兵。一般人がまるでいない。ついでに獣人もいない。

 つまり俺がどんな格好をしていようと、この街で市民のふりをして目立たないように動くことは不可能ということだ。


 街の感じはだいたい掴めた。マップと見比べて各施設など確認し、その日はおとなしく帰ることにした。あんまり長時間上空を飛んでいるとそのうち発見されるかもしれない。フライングヒューマノイドとして東スポに載っちゃうぞ。

 なんとかうまく潜入するチャンスはないものか。

 その方法を、あれこれ考える一日になった。




「サトウ、頼みがあるんだけど」

 まだ日が高いうちにチェルシーに戻ると、支配人パリスに声をかけられた。

「四階の部屋に来てくれるかい?」

「いいよ」


 行くと、なんとオーナーと、ナンバーワン美少女リリイさんがいた。


「用件を聞こう」


 俺は壁を背にして立ったまま、葉巻に火を……この世界葉巻なかったわ。

「なにカッコつけてんのさ……」パリスが半目になる。

「冗談です。お気軽にしてください」

 『一生に一度は言ってみたいセリフシリーズ』は早々に切り上げてヘラヘラ笑いながらソファに座りなおす。

「サトウ様を見込んで、一つお願いがあるのですが……」

 オーナーが切り出す。

「サトウ様は冒険者をなさっている」

「はい」

「護衛の仕事の経験はどれぐらいでしょう?」

「冒険者になる前ならば、数えきれないぐらいやりましたね」

「それは……すごいですね」


 前の世界で魔王の代行として、外交の魔族代表として、俺が今までに何回暗殺未遂にあったと思う。そりゃあもう王都に行くたびにあったね。

 俺と国王トーラスは友人と言っていいぐらい仲が良かったが、王国内で魔族と和平を結ぶなどとんでもないという反対派の王族、貴族、教会、兵士の襲撃など日常茶飯事だったわ。

 しまいには国王を倒そうとするクーデターまがいの騒動まであって、その時はトーラスを守って五十人以上の暗殺者やら反乱兵士やらを一人で叩きのめしたこともあるぞ。

 魔族の外交使節団を王国に届ける時なんか俺で全員護衛していたし、自分で言うのはなんだけど、俺は護衛に関しちゃプロ中のプロだね。


「リリイの護衛を引き受けていただきたいのです」

「光栄です。ただし、事情は表も裏も全て話してもらいます」

「当然。そうでなければお願いなどできません」


 話によると、聖都の大領主の御子息が十六歳で、成人のパーティーがささやかに執り行われる。このささやか、が30~50人ぐらいのパーティーなのだが、大人の仲間入りとしてこの箱入り息子の筆おろしをリリイに頼みたい、とご指名なのだと。

「……そういうのは普通十六になる前にメイドとか使用人にお手が付いたり、経験豊かな未亡人の貴婦人とかが誘惑なさったりするのでは?」

「それは御子息が美少年の場合です」

 ミもフタもなさすぎです。夢も希望もありません。


「その年まで色恋事がなにもなく、聖都という建前上そのような機会にも恵まれず、お相手の用意もできない。そこでこちらに依頼が来たわけで」

「娼館チェルシーとしてはこれは名誉である。断れば大変不名誉となる。そもそも断る選択肢など最初から存在しない、断れないというわけですね?」

「おっしゃる通りです」

「しかし御子息の初めてのお相手が獣人の娼婦などとこれまた不名誉。事が終わればリリイさんは口封じに暗殺され、全てなかったことにされ娼館は泣き寝入り、という筋書ですかね」


「……サトウさん、あなた……」

「怖いよあんた……。なんでそこまで……」

 二人とも驚きだが、まあ俺ぐらい経験があるとそれぐらいは読める。


「過去にそういうことは?」

「ありました」

 断腸の思いでオーナーがうめく。

 誰が可愛い娘たちを死地に向かわせられようか。

「あたしたちにとっちゃ、理不尽な話さ。リリイに『死んでこい』なんて誰が言えるさ。でも、あのカールタスを犬でも追い払うようにあしらったあんたならって……もしかしたらなんとかしてくれるんじゃないかって、思うのさ。こんなこと、冒険者協会にだって頼めないよ……」


「依頼が来たのはいつ?」

「今日」

「パーティーが行われるのは?」

「明日」

「場所は」

「聖都大領主アークランド様のお屋敷。アークランド様は王政廃止前の国王の血筋に当たります」

「相手は事実上王子?」

「そうです。ロミオ・ド・アークランド」

「リリイさんの名目上の肩書は?」

「商人ストール・エクシールの養女、私がいくつか持っている偽名の一つです。商人の名代として形式的にパーティーにご招待いただいています」

「私の身分はリリイ様付き執事ということでよろしいですか?」

「ぜひ」

「執事服を」

「すでに用意してあります」

「道中は?」

「二頭立て馬車をご用意します」


「すべて、お任せいただきます」


 すっと立って、俺は執事式に完璧な礼をする。


「……ありがとうございます」

 オーナーがテーブルに手をついて頭を下げる。


「一つ条件といいますか、私にも報酬を」

「なんでもどうぞ!」

「この仕事の間、ラブラン嬢をお休みに」


「ふっ……はははは。あはははは」

 部屋が笑いに包まれる。

「アンタが来てから、もうずっとそうしてるよ。バカだねホントに」

「うふふっ……。残念ですわ。事がうまく行きましたら、三日三晩私がサトウ様のお世話をいたしましたのに……」


 ひとしきり笑った後、聞いてみる。


「一つ不思議なのですが、リリイさんずいぶん余裕がありますね……。なぜでしょう」

「私の仕事は殿方に恋をさせることですわ。恋人を殺す殿方などおりません。王子様の初めてなど光栄なこと。『筆おろしのリリイ』一世一代の大仕事ですわ」


 ……自分で考えたキャッチフレーズだったんですか。

 リリイさん、あなたって……。



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