14.女神様を泣かせた
今度は仲間を引き連れて襲ってくる可能性があったので、結局一晩中カウンターで店番してた。
らぶちゃんがくっついて離れないんだけど……。寝てるんだけど。
うん、どうやら何事も無いまま朝になったな。
当番のメイドたちが朝食の準備を始める。
「おはよう。昨日は騒がせてすまなかったな」
「いやーぅかっこよかったあーっ! サトウ様最高ー!」
「うんっ、サトウ様強いんだね――! 騎士団長なんて目じゃなかった!」
「俺も何か手伝おうか?」
「ダメーッ、サトウ様はダメーッ。料理ヘタなんだもん。あんなのお客様に出せないよー」
……たった一回の過ちを許してくれないんですかここの子たちは……。
「あ、私も手伝います」
「せっかくの休みごめんねらぶちゃん」
「いいえ、朝ごはんは手の空いてるメイドは全員手伝う決まりです。私、毎日サトウ様に付いてますから最近サボってまして……」
今日はどの部屋も寝坊しやがった。
昨日の捕り物の興奮でどいつもこいつもハッスルしやがって。
せいぜい昨夜の噂、頑張って広めてくれることを期待するぞ。
「おはようサトウ、昨日は世話になったね」
支配人パリスがロビーに来た。
「トラブルの原因は俺だろう。世話になったのは俺だね」
「いやあ、嫌な客でも断れないあたしたちの弱さが悪いのさ……」
「まあこれからは、ここには用心棒の執事がいるってことで、あてにしてもらっていいよ。トラブルあったら呼んでくれ」
「あんた本当にここで働いてほしいよ」
「やだ。客のほうが断然いいし」
結局その日は一日館内でぶらぶらしてたが、さすがにあれからカールタスが来るようなことはなかったな。
(……もっと連絡してほしいんですけど)
「そうかなあ三日に一度は連絡してるじゃない?」
(エルテス様とは毎日交信してたそうじゃないですか!)
今日も野山でハンティングだ。
大変美味なのに探すのも獲るのも極めて難しいとされるシラヤマドリを大量にゲットだぜ。あ、これは普通の鳥なんで戦闘する必要はないよ。
ちょっとサボりがちな女神サリーテス様との交信で早速怒られた。
今の俺ってなかなか一人になる時間が無いから、こんな時ぐらいしか通信できないんだよな。
(進捗がすごい遅いような気がするんですけど……)
「そんなことないよ順調だよ計画通りだよなにも問題ないよ」
(楽しんでません? 今の状況楽しんでません?)
「楽しんでるよ最高だよ女神サリーテス様には感謝してるよ」
(楽しんでるのは下半身だけなんじゃないですかねえ)
ダメなの? それじゃダメかねえ。
「獣人で虐げられている娼館の娼婦たちを助けたりしているよ?」
(私が求めているのはそういうことではなくてですね)
「チートだけでもこの瞳に止まる人々ぐらいならなんとか守れるでござるよ」
(『ござるよ』ってなんですか……。確かに最近でも異世界ダラダラ放浪物は一つの人気ジャンルですけどねえ。あれ終わらないんですよねえ……最後まで読みたいのに)
「なに言ってる。俺この世界来てまだ一週間目だ。このままダラダラになるかどうかなんてもっと話進んでから判断してもらわんと」
(でもエルテス様の世界だと佐藤さん転移してから魔王カーリン様と国王トーラス様に握手させるのにたった一か月しかかかってませんでしたよ?)
「そんなに短かったっけ? 俺五年はいたんだけどなぁ……。でもなんでそんなに詳しいの」
(こっちで薄い本になってますから)
「まてよ――――!」
(エルテス様の個人出版で)
「なにしてくれてんすかエルテス様――――!!」
(女神たちの間で人気ですよ)
「原作料払えよ――――!!」
(エルテス様のチートそのままにして寿命も延長してあげてるじゃないですか)
「薄い本ってどんな。俺誰とカップリングされてんの?」
(あ、主人公は三郎さんです)
「……マジでやりやがったあのクソ女神……。でも主人公俺じゃないならもういいや……」
(ちなみにタイトルは)
「聞きたくない」
(……でも考えてみればたった一週間で娼館ひとつ丸ごと味方につけるとか佐藤さんすごい手腕かもしれません。ネット小説史上ハーレムとしては過去最大規模です)
「ハーレムになんてしてないよ誤解を招くような言い方やめてね。あと手腕とか言わないでね愛だよ愛」
(とにかくこのままじゃ方向性が見えませんね……)
俺からしたら女神様と相談しながらストーリーを作っていくネット小説とか画期的すぎるわ。
「ラノベ好きな女神様のためにまずファンタジー的に整理してこの世界の欠陥を挙げるとな」
(はい……)
「この世界には敵がいない。倒すべき目標が無い。どうなったら最終回にしていいのか明確なプロットが冒頭で示されていない」
(はい……)
「失われている命もない。無駄になっている犠牲も無い。主人公が活躍できる舞台が無い」
(……はい)
「早い話、盛り上がるストーリーが作れないんだよ。世界設定の段階でもうダメなの」
(申し訳ありません……)
「そんな日常ダラダラ続けても更新遅くなって未完のまま放置されるか適当なイベント消化しただけで第一章完で終わりだよ?」
(……ぐすっ……)
「てなわけで」
うん、あんまり女神様をいじめちゃダメだな。
「俺のほうで勝手にストーリーを作らせていただきます」
(……すんごい悪い予感がします)
いい勘してるぜサリーテス。
「さてサリーテス」
(はい)
「君が人間の戦争を自ら降臨して止めるようになって300年。それ以前はどうだったんだろう」
(詳しくは……わかりませんけど)
「君が降臨したのは『就任したてで張り切って』やらかしたことだ。ということはそれ以前、もっと大変な世界があって、それが平定されたのでもう大丈夫だろうと経験の浅い君に引き継がれたと考えるがどうだろうか?」
(……はい)
「前の世界は君より上位の管理者に任されていた、そこは今よりひどい世界だったと俺は見るがどうかね?」
(……ううっ。ぐすん、そうですぅ……)
「そこはもしかして魔王がいて勇者がいて争っていたファンタジーの王道世界だったのではないのかね!」
(……な、なんでそんなことまでわかるんです!)
「ここに書いてあるからだ!!」
俺がただ野山を回って獲物だけ狩ってたと思ったら大間違いだぞ。
俺は今古い遺跡の中にいる。
倒れた石垣、苔むした石畳、崩れ落ちた神殿、そしてその石碑一面に刻まれた古代文字。
異世界言語翻訳能力万歳。俺にはこれが全部読めるのだ!
「今から800年ぐらい前、世界を支配せんと魔族軍を従える魔王ルシフィスの一団を勇者とそれを加護した女神スィフテリスによってこれを倒し、封印したとあるが?」
(……そうだったんですか。スィフテリス様は確かに私の前任者です)
「スィフテリスは今どうしてる」
(お亡くなりになりました)
「女神も亡くなるのか」
(はい)
「君は引き継ぎの時になにか言われた?」
(『この世界を二度と争いのない世界に』と)
「張り切って『降臨』までして『たかが』人間同士の戦争を止めたサリーテス、君はスィフテリス様の意思を守って努力しようとしたのはわかる。だがそのためにこの世界を真に平定したスィフテリス様の偉業が残っていない。スィフテリス様が残した世界が、君の降臨で書き換えられてしまっている。スィフテリス様を称える者も今は亡く、それではスィフテリス様に申し訳が無いとは思わないか」
(ううっ。ごめんなさい。ごめんなさい。ぐすっ、うう、ひっくっ)
……これぐらいにしておくか。
このままだと女神を泣かせた異世界人として俺の名がブラックリストに載ってしまうよ。
「……とりあえず頼みたいことは一つ。君が着任する前のスィフテリス様の世界がどうだったか、どういう経緯で平和になったか。封印された魔王ルシフィスのことも勇者たちのこともできるだけ詳しく調べてみてくれ。なにかそっちに記録があるだろう」
(はい)
「よろしく頼むよ。通信終了」
その日はそのまま遺跡の調査を進め、隠された通路とか地下室とか無いか一日中トゥームレイダーしていた。夜に遺跡で一人キャンプする。
調べているうちに俺には一つの確信めいた発見にワクワクしていた。
もしかしたら、これはどうにかできるかもしれないぞ。
もっと他の遺跡の調査も進めなければ。
遺跡はまだ5か所ぐらいある。
なんてったって【マップ】に載ってるからな。
……悪かったなチートで。




