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10.できることから始めた


 だいぶ金もたまったし、この世界での知識もついた。

 でももう少し、情報が欲しい。なにかヒントになることでもいいんだ。

 うーん……いったいなにから手を付けたらいいんだか。


 やりたいこと。自分の中の今の優先順位だとこうかな。

 1.獣人にも平等の社会の実現。

 2.政教分離、政教分権。

 3.教会の権威を落とす。


 獣人にも平等な社会か。獣人のことを人間社会に認めさせればいい。

 獣人による反乱とか革命とかはダメだ。それでは人間と共存できない。

 奴隷解放か。これをどうやって社会に説得していくか。

「アンクル・トムの小屋」でも出版するか。

 あれもキリスト教がベースになってたな。奴隷である主人公も熱心な信者だったから社会の共感が得られたはずだ。奴隷制度は聖書の教えに反するというのが根本にあったような気がする。読み返したいけどもう無理だな。


 政教分離、政教分権は難しい、今、教会に代って政治を行える組織が無いからだ。これを教会が代行しているから絶対的な権力が集中しすぎる。

 せめて教会を監視するような組織が欲しい。教会の不正をただすことのできるような組織が。今で言うならマスコミか。

 いや、日本のマスコミも最悪な連中で第四の権力者ヅラしてやがるしなぁ。


 教会の権威を落とす。これは楽勝だ。教会も女神像も全部破壊してやればいいし俺にはできる。

 でも、それには教会が神罰を食らうにふさわしい理由が国民の目に誰にでもわかるようにしなくちゃいけない。問題は大多数の国民が戦争も争いも無い今の世界に満足しちゃってる点だ。なにか仕掛けるにしても理由が必要だ。


 うーん、それじゃあ革命家かテロリストか。俺ってすごい危険分子。

 人間の歴史でこれの成功例って、あれか。宗教改革を成し遂げたマルティン・ルターかな。

 プロテスタントの立ち上げか。……俺理系だから、実は世界史とか宗教とか文系全般苦手なんだよな。できるものならネットで調べたい。


「ううん……」

 横でらぶちゃんが身を寄せてくる。

 ふわっふわの毛とふっくらした柔らかい胸が気持ちよくてムラムラしてくる。

 こんなにいい思いさせてくれる子を不幸にしたらいかんよな。


 日課になった朝のお勤めを済ませて、朝風呂と朝食を取り、ちょっとダラダラしてから昼前に支配人パリスに声をかける。

「パリス、ここに片栗粉ってある?」

「カタクリコ?」

澱粉(でんぷん)とも言うんだけど」

「知らないねぇ」

「うーん……じゃあ、ジャガイモはある?」

「それならいくらでもあるけどねぇ」

「厨房借りていい?」

「いいよ。料理でも作ってくれるのかい?」

「いや、女の子たちのために今すぐに出来ることから始めようと」

「なにを考えているのかねぇ……」


 厨房に行くと、メイド服姿の獣人の娘たちがお昼のまかないの準備をしていた。

「あ、サトウ様いらっしゃい。お腹が空きました?」

「いや、ちょっとやってみたいことがあって少し厨房借りるね」

 メイドたちともだいぶ顔見知りになってきた。みんな親し気に接してくれるのでうれしいぞ。

 ジャガイモを大量に皮をナイフで剥いて、次にジャガイモをおろし金ですりつぶす。

「なにができるのお――?」

「ふっふっふ、いいことさーっ!」

「おいしい? それおいしい?」

「いや、とってもやらしい」

「やだーっ!!!」

 キツネの子も犬の子もかわいいったらありゃしない。

 さてすりおろしたジャガイモを今度は目の粗い布に包んで、水の入ったボウルに入れてぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっと揉みしだく。

 水が真っ白になってジャガイモがぺしゃんこになったところで、しばらく放置するとボウルの水が澄んできて底に白い粉がたまる。これを繰り返してジャガイモ20個分の沈殿物を取る。

 これをまとめてもう一度水で溶き、さらに上澄みを捨てるとデンプンの出来上がり。

 横ではメイドたちのまかない料理ができあがり。

 シチューだね。おいしそうです。


 がらんがらんがらん。

 大きいハンドベルを犬のメイドさんが鳴らして、食堂にみんなが集まってきた。

 獣人のメイドたちが勢ぞろい。17人か。壮観だなぁ!


「サトウ様もご一緒にどうぞ。まかないで粗末ですが」

「うん、いただくよ。みんな食べながらでいいからちょっと見ててね」

「なにがはじまるんだい?」

 テーブルの上座に座ったパリスも興味津々だ。

「いただきまーす!」

 みんながシチューとパンの食事を始める。


「さてこれは生のジャガイモをおろし金ですりつぶして、水にさらして搾り取ったデンプンです。詳しいやり方はキツネちゃん見てたよね」

「はーい! サトウ様フォクシーって呼んで! 呼んで!」

「あはは。うんわかった。で、ここに沸騰したお湯があります」

 湯気出して沸いているやかんをかまどの上から持ってくる。

「このデンプンを少しの水でよく溶いて、こうしてお湯をかけて混ぜ合わせると……」

 もこもこっ! デンプンが熱で膨らんで透明のジェルができる。デンプンかきだな。蕎麦掻(そばがき)みたいなもんだ。

「うわー不思議!」

「えー!」

「おもしろーい!!」

 メイドさんたちなんか大喜び。科学の実験みたいだな。


「で、これをフライパンに油を敷いて、このどろどろのやつを焼きますと……」

 じゅう――。白く固まって焼き色がついて白いパンケーキができました。

 

「はい食べて食べて」

 切り分けてみんなに配る。


「おいしくないー……」

「味しないよー」

「……意外とつまんない……」

「がっかりだよサトウ様――」

 猛烈にブーイングいただきました。


「サトウ……アンタ料理はダメダメじゃないかい……」

「サトウ様、あの、料理は私たちでやりますから……」

 らぶちゃんもそんな目で見ない見ない。

「砂糖とか醤油でまぶすとそれなりに食えるんだけど……。まあ見てほしいところは実は料理ではありません!」


 ボウルに残ったデンプンかきを持ってくる。さっきまでアツアツだったけど今はあったかいぐらいに温度が下がってるぞ。

「みんな、ちょっとこれに触ってみて」

「べたべたーっ!」

「どろどろーっ」

「ねちょねちょー……」

「なにこれー? とろーってしてる」


 そこで一言。

「ローションです」

「ろーしょん?」

 うんうん、とドヤ顔で言ってみる。


「みんな、お客さんに痛いことされたりするよね」

「うん」

「さいてー」

「教会の人きらーい!」

 うんうん、みんな覚えがあるよね。


「だからね、お客さんに痛いことされそうになったら、その前にお客さんのにこれを塗って、ちょっとぬるぬるさせて気持ちよくさせてから、してもらうようにして。自分のに塗ってもいいよ」

「やだー!!」

「あははは! それいいかもー!」

「うわーほんとべとべとでぬるぬるー! すごいーっ!」

「きゃー! やらしー!!」

「ジャガイモからできるんだよねー、舐めても平気ー?」

「うん平気。元が食べ物だから安全、害とかないから。でも乾くと固まると思うから終わったらちゃんと洗ってね。これノリにもなるから紙を貼り合わせたり障子に障子紙を貼るのにも使うやつだからね」

「了解でーす !!サトウ様!」

「これはいいねぇ! 石鹸は肌が荒れて後で痛くなるし、オリーブ油は洗うのが大変だからねぇ」

 パリスさんも感心です。みんなえっちのことだとノリいいなホントに。


「サトウ、あんたさ……」

 パリスが真顔で言う。

「うちで働かないかい?」

 メイド隊がずらっと俺の顔を見る。いやそんなに期待されても。

「いや、お客でいるほうがずっといいや」

「えっちー!」

「すけべー!」

「へんたーい!」

「きゃははは!」

 ありがとうございます。ここではそれは誉め言葉です。


「じゃ、俺もいただきます!」

 シチューも焼きたてパンも旨い。心に染みる優しい味だよ。こんな料理をつくれるって、みんないい子たちの証拠だよ……。



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