1、テンプレな召喚をまたされた
「理系のおっさんが物理と魔法で異世界チート」シリーズ第二弾。
世界が全く変わりますので別作品としてお送りいたします。
(佐藤雅之さん、お気の毒ですが、あなたは亡くなられました……)
そこは草原だった。見渡す限りの草原。遠くには山も見える。
そして目の前には特に何もなかった。
「やられた……」
俺はなぜか左手を耳に当ててそこに立っていた。
頭抱えたくなるわ……。
「どーゆうことだよエルテス!!!」
(すっすいません! すいません落ち着いてください!)
日本で死んでからファンタジーな世界に放り込まれて、そこで女神に頼まれて人間と魔族の戦争止めて、魔王と国王の仲を取り持って、5年間陰ながらその世界のために働いて……。
「死んだなんてとっくに知っとるわ――――! あれからガンにかかって、家族に看取られて死んだわ! たった5年間だったけど女房とも毎日イチャコラして 、子供も二人出来て、何の未練もなく幸せに死ねたわ! なんでまた召喚されなきゃなんねーんだ! エルテスどーいうことか説明しろ!!」
しばらくして左手の女神紋から声がする。
この左手のひらの女神紋というやつは、いつでも女神と交信できるという女神がくれた魔法だったりする。
(え、エルテス様は、その、あなたに会うとたぶんこめかみをぐりぐりされるから直接会わないほうがいいだろうと……)
「決まってるだろ! やるに決まってるだろ! くっそー……人をなんだと思ってる! ってお前エルテスじゃないのかよ!」
(お、落ち着いてください)
「わかった」
俺はあっというまに冷静になる。
理系だからな俺は。文系のように感情論で語ったり、体育会系のように根性論で語ったりはしないのだ。
「……で、あなたはいったいどこの誰でしょう?」
(わたしはサリーテスと申します。この世界の管理を任されている女神です)
「……で、俺はなんでまた転生させられたのでしょう?」
(……対応早くてかえって不気味です。気持ちの切り替えすごいです)
「はいでは話を聞きますのでどうぞ」
(話が早すぎ……いろいろ言い訳を考えていたんですけど)
「俺にそういうのは必要ない。これでも魔王の代行として5年間領地の統治にかかわっていたんだからな。下々の話を聞くのが俺の仕事だ」
(はい、ありがとうございます。って女神を下々とか……いえなんでもありません)
「……」
(……)
「……」
(……)
「用件を聞こう」
(佐藤さんの活躍、お見事でした! 一人の犠牲者も出さず、戦争を止め、人間と魔族の和平を取り付けてしまうなんてエルテス様も自慢してましたよ)
「なんでエルテスが自慢するんだ……。あれはたまたまうまく行っただけだ。魔王様があり得ないほどいい人だったし、結局張り切ってたのは勇者と教会だけだったってオチだからな」
(それでですね、また佐藤さんが死ぬことになってしまい、それで女神の間で佐藤さんの争奪戦がありまして……)
……女神っていったいなんなんだか……。
俺は生前、密かにネットにファンタジー小説を書くのを趣味にしていた。
ヘタで人気も出ずランキングも下でハッピーエンドばかりの妄想全開な恥ずかしい小説だったが、それがなぜか女神たちに人気だったという。
だったら投票してランキングを上げてくれよと思うのだが、女神たちがやってくれたのは俺を自分の世界に転生させて、その恥ずかしいラノベ風ハッピーエンドを自分の世界でも実現してくれという無茶なお願いだった。
そのかわり、チートな能力はもらったんだけどね……。
「……それについてはもう何の感想もありません。依頼をどうぞ」
(えっと、とりあえず私の世界は今のところ平和で……)
「戦争はないんですね」
(戦争はないんですが……)
「どんな問題があるんでしょうかね」
(特に問題はないんですが……)
「じゃあなんで俺召喚したの?」
(ジャンケンで勝ったので……)
「ふ・ざ・け・ん・な!!」
これでも異世界でいろいろ修羅場を潜り抜けてきたからな。言葉に殺気を込めるぐらいはできるんだぞ。
(あ、あのっ、まず私の世界を見て、知ってください! 佐藤さんなら見ればきっとなにが問題なのかすぐにわかりますから!)
「そんなことで呼び出すな――――――――!!」
まったくなんなんだよ! 異世界を放浪するとかそういうのはもっと若い奴にやらせとけよ! 俺もう四十歳なんだから今から新しい世界で生きるとか面倒でしょうがないよ!
さて聞いとかなきゃいかんことがある。異世界転生するのに必須のアレだ。
「で、サリーテス、君は俺になにか能力をくれるのかな?」
(エルテス様は私よりずっと上位の女神様でしたので、佐藤さんがエルテス様にもらった能力はそのままです。私があげられるのは、……そ、その……女神紋だけしか……)
「はいそうですかー……うん、まあそれでいいや。俺、実は前の世界でみんなが普通に使ってる魔法ってやつがまったく使えなかったからな」
(でもこの世界でなら佐藤さんも、他の人間みたいに一から魔法を覚えていってもらうことができるかもしれません)
「今のステータスと物理魔法でも十分チートだから、それでかまわんよ」
(ありがとうございます。ではこれからのご活躍をお祈りいたします。女神紋の使い方はエルテス様の時と同じです。いつでもご連絡ください)
「はいはい……」
手を耳から離して手のひらを見ると、四つ葉のクローバーみたいなマークがあった。女神紋ってのは、女神ごとに違うのか……。
左手のひらを耳に当てると、女神様と回線が繋がっていつでも話ができる。
便利というか、こんな簡単でいいのかというか……。
死んだら天国に行くわけでもなく、地獄に行くわけでもなく、異世界に転生ですか……。俺、この世界で今度こそ、普通に寿命で死ねるのだろうか……。