この国の危機なのよ!!強力しなさい!!!
数秒後、真っ黒だった視界が一瞬で色付いた。異世界に転移したんだろうか…。しかしところどころ割れたガラス窓、穴の開いた天井に壁に埃だらけの床。せっかく異世界に来たのにこんなボロ部屋とは、流石に華がなさすぎじゃないか?
「なぁネル、ここは何処なんだ?――ネル?」
近くにネルの姿はない。…まさか逃げた訳じゃないよな?とりあえず俺は部屋を
「何でそんな役立たずを召喚したのよっ!!!せっかく集めた魔力が台無しじゃないっ!!!」
「だ、大丈夫ですよフラーレイさんっ!レオさんはきっとやってくれますっ!」
ネルの声ともう1人、物凄い剣幕でネルに怒鳴りつけている女の子がいた。見た目は小さく、手に長い槍のような武器を持っているのがより体の小ささ強調させている。橙色のショートヘアーに、その怒りっぷりを表したかのような赤い目をしている。
「あ、レオさんっ!今ちょっと」
「あんたがレオね!!アタシはフラーレイ、魔法使いよ!!いいからちょっとコッチ来なさい!!!」
めちゃめちゃ怒りが伝わってくる。何故俺はこっちに来て早々叱られないといけないんだ…。
「はあ、何でしょうかフラーレイさん」
「何よそのやる気のない声!!別世界から助けに来たんじゃないわけ!!?」
「俺はこの世界に来るとはネルと約束したが、魔物と戦う約束はしてないぞ?」
俺がそう言うと、フラーレイの体がプルプル震えだした。怒りMAXってところだろう。ネルも青ざめてるし。 溜めに溜まった怒りの火山が大噴火を――
「…はぁ、もう私達は終わりよ…。このままあのデカ蛇野郎に食われて死ぬんだわ…」
と思ったら呆れて失望していた。
「レ、レオさんっ!私達には時間がないんですっ!確かに戦うことについては約束してなかったですけど…お願いしますっ!フラーレイさんと力を合わせて、戦ってください!私もサポートしますから!」
ネルの必死のフォロー。つまり毒を食らわば皿まで、ということだ。
「何と戦うんだよ。フラーレイさんの言ってたデカ蛇野郎ってヤツか?」
「は、はい!そうです、ドラゴンです!今この近くに――」
とそのとき、グオオオオアアアッッッ!!!!!という音が響いた。地面も揺れているが、地震ではない。窓に目をやると、そこには巨大な緑色の伝説の生き物――ドラゴンがいた。木々を薙ぎ倒し力強く足を踏み締めながら、こちらへ近づいている。
「そんな、もうこっちに向かってくるなんてっ…」
「ああもう!!だから言ったのに!!!」
「まさか、あれを倒せってことか…?」
ドラゴンとか、ゲームならもっと冒険の中盤に倒す相手だろ!?こんなの負けイベントに決まってるじゃないか。
「大丈夫ですっ、策はありますからっ…!フラーレイさんっ!」
「…こうなったらやるわよ、アタシとアンタで!!!」
そう言ってフラーレイが俺に渡したのは…さっきまでフラーレイが持っていた、槍のような武器だった。俺が持つと少し短く感じるが、近くで見るとその刃はなにか妖しく輝いている。しかも意外と重い。
「それはドラゴンキラー。あのデカ蛇野郎にぶっ刺せば勝てる。私達の最終兵器よ!!」
カ○キラーみたいな名前だな。…ってか俺がやる必要はなくない?他の人にやらせない?そんなチートアイテムあるなら何でこんなに苦戦してるんだよ。重いから女には無理そうだけど、男なら
「もうこの国の若い力のある男性はもう戦いに敗れて、いないんです…。」
「いや実際はびびって逃げたわ。いるのはうるさいガキとオッサンくらいよ。」
弱小国もいいとこだ。
「要するに俺はびびったりしないでデカ蛇野郎に近づいて、コイツをぶっ刺せばいいってことか。」
「話が早いじゃない。アタシは魔法でサポートする。少しならデカ蛇野郎の動きを止められるわ!!」
なるほど、なら心強い。…あれ、ネルの役割は?そうだ、さっき回復魔法と軽い護身程度の剣術しかないとか言ってたわ。
「時間がないわ。早く行ってちょうだい!!頼んだわよレオ!!」
「お願いしますっ!レオさんっ!」
やれやれ、生活費のために命掛けてるんじゃ本末転倒じゃないか。俺は仕方なく、ドラゴンキラーを携えてデカ蛇野郎のもとへ向かった。