あなたの力が必要ですっ!
「申し遅れました、私はゼネルファーテといいますっ!長いのでネルと呼んでくださいっ!」
目の前の女の子はそう名乗った。青色の整ったストレートの長髪に緑色の目。それだけでも不思議だが、身にまとっているドレスのような鎧のような服装はもっと違和感がある。
「私の町が危ないんですっ!あなたの力が必要でっ…!どうしてダメなのか理由を聞かせてくださいっ!えっと、あなたのお名前は…?」
「名前はレオ、理由は面倒だから。以上、帰ってくれ。」
「えええっ!?」
なんだそのオーバーリアクション。いたって普通の意見だと思うが。
「あの、せめてお話だけでもっ!」
段々とうるさい宗教勧誘みたいになってきた。この手の輩は粘り強い。仕方ない、ここは合わせてやり過ごすか…。
「じゃあそっちの危機的状況と、俺を選んだ理由を教えてくれ。」
そう言うと、ネルの表情がパッと明るくなった。手短に話してくれるといいんだが。
「は、はいっ!私の住んでるのはクラーマという小さな国で、とっても平和な場所でした。ですが最近、凶悪な魔物が世界中に出現して襲ってきて、世界が崩壊の危機にあるのです。それで私の国も―――」
「待った。他の国に助けを求めればいいだろ。」
「…そうはしたいのですが、小さなこの国は弱くて見捨てられ、どの国も協力してくれません…。なので、こちらの世界に助けを求めに来ましたっ!」
分かってはいたけど、とばっちりじゃねぇか。まぁ、異世界転移なんて大体こうだろうけど。
「そしてレオさんを選んだ理由は、確固たる信念をお持ちで、大胆不適だからですっ!そして、あそこにあるラノベ…こちらの世界に興味のある方だと!」
「いや怠けて寝てるだけだ!あとラノベは借り物だ!」
そんなポジティブに捉えられていたとは。いや、だとしたら――
「俺よりユウヤを誘えよ。あいつなら二つ返事でついていくぞ?」
俺にラノベを貸してくれた友人がユウヤだ。当然やる気になるだろう。
「あ、あの方は実際に魔物を目の前にしたら恐怖で何も出来ないか、逃げる方だと…」
かわいそうとは言わん。残念だったなユウヤ。
「あと、レオさんは両親がおらず、仕送りで生活している1人暮らしでしたから…」
それも知っていたのか。この際両親がなぜいないかはどうでもいい。そうだった、1人暮らしは異世界転移されやすい要素だった。
「お願いしますっ、力になってくださいっ!!」
ネルが頭を深々と下げてきた。まいったな、どうするか。嫌だと言っても引き下がる様子はないし。あ、そうだ。
「朝昼夜ご飯付きの1人で寝れる寝床完備、生活費その他諸々全てそっち負担でお小遣いくれるなら行ってやらんこともない。あと初回だからお試しで1週間だけ!」
これでどうだ。俺のクズっぷりが痛いほどわかっただろう。1週間分の生活費が浮くのは大きい。今言ったことなんて序の口だ。まあ、こんな無茶でOKなんて――
「…し、出費が多いですが……。わ、かり、ましたっ!!ではこちらへっ!」
「いいのかよ!?…って、なんだ!?」
突然、視界が真っ暗になった。目の前のネルしか見えていない。
「交渉が成立したので、早速行きましょう!よろしくお願いします、勇者様っ!」
ニコっと眩しい笑顔のネル。強制転移とか、こんなこと出来るんだったらいっそ最初からやってくれれば良かったのに…。何にせよ、俺は今から1週間だけ、生活費のために異世界に行くことになるらしい…。