第1話:そもそもダービーとは
ダービー。
地球上でそう呼ばれる催しは沢山ある。
元々は英国で優秀な馬を選定するために行われていた伝統的な競馬のレースのことだが、現代では優秀な者を競わせる最高の栄誉ある場として、様々な競技でダービーというものが存在する。
(「サッカーでのダービーは、また別の意味だった気がするけれど……」)
茂明は目の前の女性から発せられた単語に思考を巡らせるが、
「ちょっと待った」
一旦、彼女の話を遮る様に口を開き、それと同時に自らの思考も打ち切りながら、
「ダービーって、一体何だ?」
彼女の瞳を真正面で見つめつつ、尋ねた。
この世界で、ダービーが何らかの競技であるとは限らない。
ダービーという名前の世界大戦である可能性もあるのだ。
(「と、いうより、そう考えるほうが自然だよな」)
彼女の置かれている立場や状況はうかがい知れないが、異世界から人を呼び出すほどのことだ。
のっぴきならない事情があるのだろう……。
彼女は茂明を混乱させてしまったと一旦謝ってから、
「ダービーと言うのはですね……」
小一時間ほどかけて、ダービーの歴史や意義を混乱させてしまったと語りだした。
結論から言えば、ダービーの意味は地球のそれとほぼ変わらないものだった。
(「というより、初対面の彼女と普通に意思疎通できるんだから、ダービーの意味も地球流に訳されたものと考えたほうが良さそうだ」)
彼女の話によると、この世界は50年ほど前まで人と魔族が争いを続けていたのだという。
だが、色々あった挙句両者はお互い手を取り合うことを宣言し、人の王と魔族の女王が結ばれ、世界を統一する王朝が誕生し、世界に平和が訪れた。
「ただ、当時はいろいろな小競り合いが絶えなかったみたいです。そこで、王はある政策を打ち出したのです」
一つ、国を50の地域に分け、それぞれの地域を『国』と呼ぶこと。
一つ、『国』には広い幅で自治を認める。
一つ、王都を中央政府とし、『国』は定められた税率で税金を納めること。
一つ、その税率は、毎年『国』毎の競走によって決める。
「……なるほど」
つまり、年に1回行われるダービーは、単に名誉を競う戦いではなく、その年の税率に係わってくると。
非常に平和的ではある。少なくとも、人が人を殺し合うような争いに比べれば。
だが……
「ここ10年、私たちは40位以下の成績が続いています……」
50年。それだけの期間、同じルールで争った時、どうしても格差というものが出て来てしまう。
「今はまだ、なんとかやって行けていますが、このままでは……」
女性は視線を落とす。
茂明は何か手助けできる状況ではないと思うが、それでも、人に頼られるのは悪い気はしない。
少なくとも、彼の人生で、妙齢の、美人と言っていい女性に頼られたことは無かったのだからなおさらだ。
(「話だけは聞くのと、元の世界に戻れるかも確認しないとな」)
それに腹が減ったので、彼女にそれを告げると、
「す、すみませんっ。まずは食事にしましょう」
慌てて頭を下げ、茂明を連れて部屋を出るのだった。




