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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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レオルオーガ~遁走

トライファークで情報収集をしていたら、ライオンのような顔をしたモンスターにいきなり襲われた。


「マイさん、あれって」


『ええ、レオルオーガです』 

 

 やっぱり。

 ライオン顔の鬼って聞いてたからな。

 すぐに分かった。

 分かった所で、どうしたらいいのかは分からない。

 カトーさんは逃げるが勝ちと言っていたが、現状、逃げられそうにはない。

 他に教えてもらった情報は、確か弱いものには攻撃しないだったが。

 うん、却下だ。

 いきなり攻撃された。

 殺る気満々で。

 あとは、純粋に頼む、だったか。

 無理、絶対無理。

 どうやって、何を頼めって言うんだ。

 おっかなすぎて、正直近寄りたくもない。

 全く、戦うつもりもなかったのに。


「とりあえず、今はこっちの様子を見ているみたいですけど、ちょっと逃げてみます?」


『いや、ダメだろうな』


 今レオルオーガとの距離は数mってところだ。

 逃げる前に余裕で殺されそうだ。


「ですよね。

 じゃあ、申し訳ないんですけど、援護するんで、前衛頼んでいいですか?」


 俺はポケットに入れておいたヨーヨーを取り出して、おっさんに頼む。

 ナイフは装備している。

 プロッタもどきは持ってきてはいるが、まだ実践に使える代物じゃない。


『ああ、他にどうしようもないからな。

 隙ができたらすぐに逃げるから、倒すよりも隙を作ることを考えろ』


「そうですね。

 分かりました。

 サラも援護頼みます」


『は、はい』


 サラはかなり緊張しているようだ。

 無理もない。

 俺でもわかるくらいにコイツはやばい。

 なんかオーラっぽいものをまとっている気がする。

 いや、そんなの見えるわけないけど、それくらいの迫力って意味だ。

 這いずりしものより強いというのも、うなずける威圧感だ。


「ルッツ、お前もおっさんの援護だ」


『わん』


 ルッツも戦ってくれる。


「じゃあ、先手必勝、一番攻撃力が高いのはサラのマナウェポンだと思いますから、まずお願いします」


『はい、いきます』


 なぜか、レオルオーガはずっとこちらを凝視している。

 こういう、こっちの攻撃を待ってくれる系のボスはありがたい。

 舐められているとも言えるんだろうが。

 サラは少しの溜めの後、マナウェポンで攻撃を放ってくれた。

 マナウェポンは集中しないと使えないみたいだけど、この状況でも攻撃できるサラは大したものだ。

 ビームの大きさは這いずりしものの時より一回り小さかった。

 あの時と違って、体を削る目的はないから、大きな光線である必要はない。

 小さくても威力があれば、それでいい。

 俺は少しだけ、この一撃で決まってくれたらいいのに、なんて淡い期待をしていた。

 もちろん、そんな楽な展開にはならないとも思っていたが、でも、マナウェポンの威力ならもしかして、とも思っていた。

 

 サラの攻撃が発射されても、レオルオーガはまだ動かなかった。

 当たる、そう思った瞬間、レオルオーガの姿がぶれた。

 避けられた?と思った次の瞬間には、もうおっさんの前まで移動していた。

 そして、おっさんを棍棒で殴ろうとしている。

 おっさんはその攻撃を間一髪で避けた。

 そして、攻撃後の隙を狙って、レオルオーガを殴りつける。

 その攻撃は確かにレオルオーガの横っ腹に当たっているが、レオルオーガは痛がる素振りは全く見せなかった。

 今のサラの攻撃を避けた動きは、這いずりしものと戦った時のおっさんの動きとよく似ていた。

 だから、おっさんもその後の攻撃に反応できたんだろう。

 自分と同じような動きだから予測できた、という感じだ。

 それだけに、その後のおっさんの攻撃も完璧に無防備な所を狙っていたはずだ。

 それでも、効いていない。


『ったく、これだから、古代種ってやつは』


 おっさんがうんざりしたような口調で言う。

 そこにレオルオーガの蹴りが飛んでくる。

 おっさんはそれをまた間一髪で避ける。

 そのままおっさんとレオルオーガは攻撃を繰り出しあう。

 おっさんの攻撃は全部当たっているが、効いていない。

 レオルオーガの攻撃も全部避けてはいるが、どれも間一髪だ。

 少し離れた位置から見ていると、どう見ても、おっさんとレオルオーガは同じタイプだった。

 レオルオーガが上位互換という感じではあったが。

 俺も援護はしている。

 マナを使って、ヨーヨーの光弾を撃っている。

 だが、おっさんに当ててはいけないから、自ずと狙える範囲は限られてくる。

 それでも、なんとかレオルオーガに一発当たった。

 当たったが、ほとんど態勢を崩すこともできない。

 這いずりしものでも態勢を崩すことくらいはできたのに、コイツには全然効いていない。

 カトーさんが言った通り、レオルオーガは這いずりしものより強いらしい。

 今はおっさんが踏ん張ってくれているが、このままじゃジリ貧だ。

 サラもおっさんとレオルオーガの攻防が早すぎて、なかなか攻撃に参加できない。

 どうする?

 と、それまで保たれていたおっさんとレオルオーガの均衡が崩れた。

 おっさんの態勢が崩れ始めたのだ。

 おっさんは必死に立て直そうとしている。

 ルッツも横からレオルオーガに対して、攻撃を加えているが、歯牙にもかけられていない。

 俺とサラも援護するが、当てられない。

 そうしているうちに、レオルオーガの横凪ぎの棍棒がおっさんに当たった。

 おっさんは近くの廃墟の中に思い切り吹っ飛んでいった。


「おっさん!」


 レオルオーガは、なおもおっさんを追撃しようと廃墟に突っ込んでいく。

 俺とサラも急いでそれを追う。

 俺が廃墟の中に入ったとき、起き上がろうとしているおっさんに向けて、レオルオーガがちょうど棍棒を振るおうとしているところだった。

 俺はとっさにレオルオーガに向けて光弾を放つ。

 それが棍棒を握るレオルオーガの指に当たった。

 狙ったわけじゃない。

 偶然だ。

 それが効いたようで、レオルオーガは棍棒を落とした。

 体勢は崩せなくても、指くらいならダメージを与えられるようだ。

 我ながら情けない限りだが、今はそれで十分だ。

 レオルオーガがひるんだ隙におっさんは体勢を立て直した。


『すまん、助かった』


 おっさんはそれだけ言うと、再びレオルオーガとの戦闘に戻る。

 吹っ飛ばされたダメージはそれほど無いみたいだ。

 良かった。

 レオルオーガは落とした棍棒を拾わずに素手での格闘に切り替えた。

 確かに、この廃墟の中は大して広くないから、あの棍棒は振り回しづらいんだろう。

 忌々しいが、いい判断だ。

 知能もかなり高いらしいから、考えて戦えるんだろう。

 その割りに一気に攻めてこないのは、多分こっちを舐めているんだろうな。

 腹が立つが、今はそれで戦闘が長引いて助かっている。

 舐められているうちに、なんとかする方法を考えないと。

 そこでふと閃いた。


「サラ、マナウェポンでできるだけでかい攻撃をおっさんの背より高い位置に撃ち込んでください」


 俺は廃墟の天井を見ながら言う。


『分かりました』


 俺の視線を追ったサラは、すぐに俺の意図に気づいてくれたらしい。

 レオルオーガはかなりでかい。

 多分4、5mくらいあると思う。

 天井まで結構ギリギリだ。

 おっさんよりもはるかにでかい。

 だから、おっさんの背よりも高い位置に広範囲の攻撃ができたら、レオルオーガにだけ当たると思う。

 そして、大概の生物にとって、頭ってのは急所だ。

 それは最初から分かっている。

 だから、俺とサラはずっとレオルオーガの頭を狙って攻撃していた。

 だが、頭ってのはけっこう狙いにくい。

 ここまで、ほとんど当たらなかった。

 今撃っても当たらないかもしれない。

 でも、今はそれでもいい。

 この状況なら、外しても天井を崩すことはできるだろう。

 崩した天井でレオルオーガを怯ませられれば、それでいい。

 この戦闘の目的は、レオルオーガを倒すことではなく、逃げるための隙を作ること。

 最初におっさんに言われた通りだ。


 俺はサラが溜めている間の時間稼ぎを行う。

 頭を狙って光弾を放つ。

 だが、かなり素早く動き回っているので、当たらない。

 俺の攻撃では範囲が狭くてレオルオーガには当てられないし、天井も完全に崩れるところまではいかない。

 だが、かなり亀裂は入ってきている。

 

『行きます』


「おっさん、気をつけて」


 俺はおっさんにサラの攻撃への注意を促す。

 その俺の声の直後にサラは特大の攻撃を発射した。

 サラの攻撃は這いずりしものを攻撃していた時よりも大きいかもしれない。

 レオルオーガも発射直後に気づいて、避けようとする。

 そこで、おっさんの渾身の足払いがレオルオーガに放たれる。

 レオルオーガを倒すまではいかないが、動くことができない程度に硬直させたらしい。

 おっさんはレオルオーガの動き方がよく分かるから、避けさせないための攻撃を行ったようだ。

 そのままサラの攻撃は一直線にレオルオーガに向かっていき、当たる。

 そう思った時、


『ぐおおおおおおおお』


 レオルオーガが大きな雄叫びをあげた。

 それは、ルッツが這いずりしものを吹っ飛ばした時の雄叫びに似ていた。

 同じかどうかは分からないが、何かの衝撃波のようなものが発生したのだろう。

 特大のビームが曲がって、レオルオーガの上を通過した。

 避けられた。

 だが、そのビームはそのままどんどん進んで、廃墟の天井に直撃した。

 天井が崩れて、レオルオーガに瓦礫が降り注ぐ。

 ただ、サラの攻撃は天井を崩すだけにとどまらず、どんどんと廃墟を破壊していった。

 狙い通りだけど、思ったより破壊の規模が大きい。


『おい、逃げるぞ』


 レオルオーガがサラの攻撃を捌いている間に、こちらに走ってきたおっさんが俺とサラに声をかける。

 その声に反応して、俺とサラとルッツはおっさんと一緒に建物を出た。

 俺たちが出たのに気付いて、レオルオーガもついて来ようとしたみたいだが、天井の崩落によって足止めを食らっている。

 そして、俺たちが建物から離れた直後に、サラの攻撃によって建物の大部分が破壊された廃墟が崩れ始めた。


「まずいですね。

 ここを離れましょう」


 俺たちは外で待っていたマイさんと一緒に急いでその場を離れた。


 そのまま走って、バイクの所まで戻った。

 今のところは後ろから追ってきている気配も無かったので、ようやく一息つく。


「なんとか逃げられましたね。

 レオルオーガは倒せたと思いますか?」


『いえ、無理だと思いますよ。

 あれで倒せるなら、トライファークはそれほど苦労しなかったと思います』


 そうだよな。

 ドラゴンを退ける兵器で倒せないんだし。


「じゃあ、追ってくる前に逃げましょう」


 すぐにバイクに乗って、その場所から距離をとった。

 街の近くまで戻ってきてから、再び話をする。


「なんであそこにレオルオーガがいたんでしょう?」


『それは、多分あの奥の施設にトライファークの代表者が来ていたからでしょうね。

 あの施設はトライファークにある古代の文献を収めた図書館なんです。

 理由は分かりませんけど、そこで調べ物でもしてたんじゃないですか?

 レオルオーガは護衛代わりに連れていたんだと思いますが』


 じゃあ、俺が見た人影はトライファークの俺か。

 いきなり攻撃してきやがって。

 みんなは気づいてなかったみたいだけど。


『とにかく、命拾いしたな。

 流石にあれを相手にこの戦力で戦うのは無理があるぞ』


「そうですね。

 カトーさんもレオルオーガに会ったら逃げるが勝ちって言ってましたし」


『そうだろうな。

 そう言われたのも納得できる強さだった』


「今の所、効きそうなのはサラのマナウェポンくらいですしね。

 とりあえず、アイツとは戦わない方向で行きたいんですけどね。

 ちょっと困ったのは、俺たちがトライファークにいることがばれちゃったことですね。

 もう隠れて情報収集するのも難しいでしょう」


『そうですね。

 でも、誰がいたかなんて分かってないかもしれませんよ?』


「まあ、そうかもしれませんけど、いきなり攻撃をしかけてきたってのは、やる気があったってことでしょうし、知らない人間をいきなり襲うってことはないと思いますけど」


 多分、俺かサラに気づいたんだと思うけど。

 マイさんとおっさんにはいきなり襲われるような理由はないと思う。

 気づかれたのがサラだとしたら、ニグートの人間だから襲われたとか。

 うん、ありえる話だ。

 でも、サラの外見って、遠目で見て気づくほど知られてるんだろうか。

 うーん、可能性は低そうだな。

 だったら、やっぱり俺に気づいて襲ってきたかな。

 だとして、あれ?

 そういえば、そもそも俺だと分かったとしても、なんでいきなり殺そうとするんだ?

 確かに自分と同じ人間がいるってのは気持ちが悪い。

 その気持ちは実感としてよく分かる。

 だからって、いきなり殺すか?

 流石に行き過ぎだろう。

 何か理由があるのか?

 それとも、単なる俺の自意識過剰であくまでニグートの人間を見つけたから殺すってことなのか?

 どうにもはっきりしないな。


「でも、確かになんでいきなり襲われたんでしょうね」


『それは、私がニグートの命令でトライファークの代表者の暗殺に来たからじゃないんですか?』


「いや、流石にその命令は俺たちも今日聞いた所ですから、まだトライファークには伝わってないでしょう。

 いずれはどこかから漏れるかもしれませんけど。

 ただ、サラがニグートの人間だから襲ってきた可能性はあると思います。

 でも、サラの顔ってトライファークで知られてるんですか?」


『いえ、ほとんど知ってる人なんていないと思います。

 私は学院を出てすぐ、ファスタルに行きましたから』


「ですよね。

 ってことはやっぱり俺かな」


『え?

 なんでユウトが襲われるんですか?』


「あ、いえ、なんでもないです」


 しまった。

 口がすべった。


『なんでもなくないです。

 ずっと気になってましたけど、隠し事してますよね?

 危険なことじゃないんだったらいいですけど、襲われるような事なら説明してください』


 サラに詰め寄られた。

 サラの後ろでマイさんがため息をついているのが見える。

 それから、どうぞ好きにして、とジェスチャーで示された。


「えーと、聞かなかったことにはしてもらえないですか?」


『できません。

 ちゃんと説明してください』


「分かりました。

 えーと、俺もちゃんと全部分かっているわけではないんですけど、俺は、この時代の人間ではない、らしいです」


 観念して説明することにした。

 どうせ、一緒に行動するんだったら、いつか話さなきゃならないだろうし。


 

 



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