17日目終了 出発準備
俺が食事を済ませた時、ちょうど食堂におっさんが入ってきた。
「あ、統括。
会議は終わったんですか」
『おう、一応な。
あまりいい結果ではなかったが。
なにせ、状況がよく分からんから、あまり手の打ちようもなくてな』
珍しく、おっさんがはっきりしない態度だ。
多分、色々手を尽くしているけど、好ましくない方向に進んでいる、ってとこだろうな。
「実は、俺の方でも色々調べて、統括に頼み事があるんですが」
『ほう、流石だな。
朝のまま引き下がるとは思ってなかったが、もう何か分かったのか?』
「ええ、色々と。
でも、ここではちょっと。
できたら、俺の部屋で話したいんですけど」
『ああ、分かった。
だが、ちょっと待て。
今日は昼飯抜きで会議だったからな。
飯だけ食わせろ』
そう言うおっさんは、みるみるうちに定食5人前を平らげていった。
体に悪そうだけど、おっさんだったら問題なさそうだ。
まあ、俺のために早く食べてくれてるんだろうな。
おっさんは本当にすぐに食事を終えた。
その後、おっさんを連れて家に帰った。
まあ、正確にはサラの家なんだけど、おっさんだったら、連れてきても大丈夫だと思う。
家に戻ると、既にサラも帰っていたようだった。
自分の部屋にいるみたいだから、俺は声だけかけておく。
「サラ、ただいま。
ちょっと俺の部屋で統括と打ち合わせしますけど、構いませんか?」
『ええ、どうぞ』
サラは、めちゃくちゃ元気がなさそうな声で返してきた。
おっさんも、会議がいい結果ではなかったと言っていたから、それでだろうな。
何とかしてあげたい。
すぐに自分の部屋でおっさんと話すことにした。
「で、俺の話の前に、できたら会議の結果を教えてほしいんですけど」
『そうだな。
まずは結論から言おう。
サラは一度、ニグートに戻ることになった』
やっぱり。
まあ、さっきのサラの態度で察しはついていた。
『それに関して、ユラがかなり粘ったんだがな。
ニグートからの通達には逆らえなかった。
だが、いくつか条件を付けた。
サラにはできるだけ危険の及ばないような所での調査をさせること。
調査が終わったら間違いなく、ファスタルに帰すこと。
ファスタルからの護衛をつけること。
そんな所だ』
「その条件は、どの程度効力があるんでしょうか?」
『まあ、気休め程度だろうな。
お前も察しているようだが、権力者ってのは、とかく約束を破りがちだ。
特に、今回のような口約束に関しては、何かと理由をつけてなかったことにされる。
ニグートの場合は、特にそうだろうな。
まあ、ユラもそれなりの権力を持ってはいるから、完全に反故にはされんだろうが。
それも含めて、気休めだろうな』
「ちなみに、その条件は誰に対して提示したんですか?
というか、今日の会議にはニグートの人間も参加したんですか?」
『ああ、そりゃそうだ。
通達を持ってきたのはユラの兄で、ニグートの次期代表者の最有力候補と言われているやつらしい』
思ったよりも偉い人間が来ているようだ。
ニグートにとって、そんなに重要な議題だとは思えないんだけど。
「それだけの権力者に約束させたんなら、それなりに有効ではないんですか?」
『どうだろうな。ニグートってのはその辺り、ほとんど信用できん国だからな。
ユラとサラがファスタルに来たのは、そういう所に嫌気が差したってのもあるんじゃないか?
まあ、今回来たやつはニグートの中ではマシな方だがな。
一応、一方的な通達ではなく、俺たちとの会議に応じたわけだからな』
「ファスタルの護衛っていうのは?」
『サラはファスタルにとっても、貴重な人材だ。
それは、研究所の人間はもちろん、街の人間も認めている所だからな。
ニグートの人間であることは間違いないが、同時にファスタル所属の研究員でもある。
だから、この国からも護衛をつけることを了承させた』
なるほど、辺境の調査の功績が生きたか。
確かに、サラはファスタルの人たちに人気があるし、研究の実績もあげているからな。
それに、サラの所属がファスタルの研究所であることは間違いない。
その辺は、ユラさんとおっさんがうまく話を持っていってくれたんだろう。
「護衛は決まってるんですか?」
『いや、まだ決まっていない。
ユラはおそらく、お前に頼むことを考えているだろうが。
サラのバイクにも乗れるからな。
ただ、危険も想定される状況だから、本当は俺が行くのがいいんだろうが、足がないからな』
そうか。サラは当然バイクで行く。
だから、護衛もバイクで行く必要がある。
でも、護衛にあてがうバイクなんてない。
だからと言って、ニグートの人間に、護衛が馬車だからサラも馬車で行く、は通用しないだろう。
なんせ、サラの機動力を買って調査に駆り出す、って言ってるらしいからな。
馬車での移動を認めるならば、サラを指名した意味がなくなる。
だったら、確かにおっさんの言う通り、ユラさんは俺に護衛を頼みそうだ。
この間の、辺境の遺跡に行った時と同じ理由だな。
これは、うまくやれば、俺の都合とも合わせられるかもしれない。
なんせ、俺には使えるバイクがある。
いや、俺のものじゃないけど。
「ちなみに、統括はバイク自体は運転できるんですか?」
『ああ。
まあ一応、普通に運転するくらいはな。
サラのように保護の制御をしながら、というのは無理だし、操作自体も得意というわけではないがな。
なぜだ?』
おっさんの場合、最悪、保護してない状態で事故っても、怪我とかしなさそうだしな。
運転できるなら問題ないよな。
となると、現状ではトライファークのものも含めて、使えそうなバイクは3台。
トライファークのが使えるかどうかは、トライファークの研究者に相談しなきゃいけないけど。
俺とサラで一台、トライファークの研究者が一台、おっさんが一台、このメンバーでなんとかなりそうだ。
そして、もしもサラがトライファークに行くように言われるならば、俺もそれに合わせてトライファークに行く。
もしもサラが安全な場所の調査だけを任されて、トライファークには行かない場合は、そこでサラとおっさんと分かれて、俺とトライファークの研究者でトライファークに行けばいい。
これなら、一旦は分かれることになるが、少なくともお互いの動向はある程度把握できる。
トライファークの研究者には、ニグートを通るというリスクがあるが、ニグートを突っ切れた方が早くトライファークに行けるから、なんとか説得できると思う。
ニグートの意向やトライファークで何をするかが未定だから、穴だらけの計画だけど、現状これ以上は思いつかない。
トライファークの研究者に頼まれたのは、暴走しそうなトライファークを止める手助けだから、厳密にはサラの護衛とは関係ないんだけど、全くの無関係ではないと思う。
どっちも根本的な問題は、トライファークにいる俺だし。
う、そう考えると、頭痛くなるな。
いや、今考えても仕方がない。
とにかく、この方向でまとめることにするか。
「実は、使えるかもしれないバイクがあります。
俺としては、それを使ってニグートに向かうのがいいんじゃないかと思います。
それが、さっき俺が言っていた統括への頼み事にも繋がるんですが。
とりあえず、今日俺が調べたことから説明しますね」
そして、俺はファスタルの街であの国の人間と会ったこと。
あの国に強力な古代種が現れたこと。
今は、その古代種は制御されているけど、制御している人間が戦力増強を進めて、ニグートを攻める可能性があること。
それを止めたいから力を貸してほしいと頼まれたこと。
それらを説明した。
俺の再現のことは伏せて、ある程度、状況が分かるように説明した。
『あの国の人間に会っただと?』
「ええ。
交易都市であるファスタルは、様々な国からいろんな人が集まるから、情報を集めるのに最適なので、何人かあの国の人間もいるって言ってました」
嘘をついた。
だが、ファスタルが交易都市で、色々な人間が集まるのは事実だ。
だから他国の人間がいる、というのは不自然ではないはずだ。
『そうか。
確かに、他国の人間がファスタルにいることはおかしくない。
俺も何人かは把握しているが、まさかあの国の人間もいたとはな』
おっさんはそういう事情もある程度、把握しているようだ。
流石だな。
まあ、あの国の人間ってのは俺の嘘だから知らないのは当たり前だ。
『まあ、それはおかしくはないが、なぜお前に頼んだ?』
「いえ、正確には俺と統括に、ですが。
俺たちが、ファスタルの地下にいた古代種を倒した話を聞いたみたいです。
あの国にも古代種が現れて問題になっているわけですから、古代種を倒したことのある俺たちに頼るのがいいと考えたみたいですよ。
まあ、倒したのはサラですけどね」
『地下の話は機密事項だが』
おっさんは怪訝そうな顔をした。
まずかったか?
俺を頼ってきた理由づけをでっちあげるのに、古代種討伐がちょうどいいと思ったが。
『まあ、人の口に戸は立てられんからな。
どこかで漏れてしまったんだろう』
なんとか納得してくれそうだ。
「ええ。
それで、その人が、バイクを2台持っているらしいんです。
俺は二人乗りできますから、それを考えれば、統括の分のバイクも用意できることになります」
『それはありがたいが、そいつは、あの国に来てほしがっているんだろう』
「そうです。
ですから、サラがニグートで安全な調査を行うだけならば、ニグートで分かれて、俺とその人だけであの国に向かいます。
ニグートが会議の条件を破って、サラがあの国の調査もしなければならないなら、俺も一緒に調査しに行って、ついでにその人の頼みも聞くことにします。
元々ニグートを避けてあの国に戻るつもりだったらしいので、ニグートを突っ切ればかなり早く進めますから、それを説明すればバイクを借りられると思うんです」
『うーむ。
それは確かにファスタルとしてもありがたい話だろうな。
護衛を付けるとはいったが、現状すぐに使えるバイクがサラのもの以外にないからな。
一応、研究所の人間とファスタルのエレクター技師を集めて、発掘品のバイクの修理を急がせてはいるが、すぐには直せんだろうからな。
元々は、あと一年くらいかけて、動かせる状態にするのを目指していたものだからな。
ニグートの人間は、すぐにサラに戻るように言っていたが、俺たちはバイクの修理が済むまで待つように言ったんだ。
だが、その意見が平行線のまま、今日の会議は終わった。
こちらのバイクが間に合わなければ、サラだけでもニグートに戻るように強く言われたがな。
まあ、そんな状況だからこそ、ユラはお前に護衛を頼むしかないと考えていそうなんだが』
「なるほど。
じゃあ、ユラさんとサラに説明して、認めてもらえれば、今の案でいけそうですか?」
『ああ、ユラはすぐに認めるだろう。
問題はサラだろうな』
「なんでですか?
サラにとっても、悪い話じゃないでしょう?
統括と俺が護衛で同行できるんですから」
『いや、会議の時も、サラは護衛に対して、積極的ではなかったな。
それは、サラの護衛につくということは、危険な場所に行く可能性が非常に高いと考えたからだろう。
確かに危険な場所には行かせない、という条件は付けたが、サラは守られないと考えたんだろうな。
まあ、その場にいた全員が同じことを思っていただろうが』
サラは自分以外の人間を巻き込みたくないってことか。
サラ、優しいもんな。
「でも、今回通達を持ってきたのだって、サラの身内なわけでしょ。
本当に、その身内がみすみす危険な所にサラを行かせるんですか?」
『ああ、普通ならそんなことはさせんな。
だが、今回の通達はアイツの父親名義で来てるんだぞ。
ニグートの上層部はどこかおかしい。
だから、何をさせられるか分からん。
サラはそれをよく分かっているから、俺はともかく、お前を護衛にしたくはないと思っているだろうな』
その時、部屋の外でガタっと物音がした。
俺はすぐにドアを開けて、外を確認する。
そこには、サラが立っていた。
『あの、私』
「あー、聞いてました?」
『はい。
ごめんなさい、盗み聞きするつもりじゃなかったんです』
「いえ、いいんです。
どちらにしても、サラにも説明しないといけなかったですから」
話に集中して、全然気づかなかった。
どこから、聞かれたんだろう。
トライファークに行くことは説明しないといけないとは思うけど、そこに強力な古代種がいるってのは黙っていたかった。
また、いらない心配をかけそうだし。
今の所、俺も戦うつもりがあるわけじゃないし。
「どうぞ。
どこから聞きました?」
俺は、サラを部屋に招きながら尋ねる。
『統括の説明の最後辺りからです』
ああ、じゃあ俺の話は全部聞いていたのか。
本当に気づかなかったな。
これじゃ、折角おっさんだけに話すつもりで家に連れてきたのに、意味がないな。
自分の迂闊さにあきれる。
まあ、聞かれてしまったものは仕方ない。
「じゃあ、内容は全部分かってますよね。
そういうことです。
まだ、行けるか分かりませんけど、俺もサラについて行きますよ」
『ダメです。
危ないかもしれません』
「でも、もしサラについて行かなくてもあの国には行きますから、同じことですよ」
『それだって、なんでユウトが?
あの国のことなんて、あの国の人に任せておけばいいんです』
まあ、そりゃ当然だよな。
別に俺は人助けが趣味じゃないし、頼まれただけで危険な場所に行くってのはおかしいよな。
「まあ、そうなんですけど、その人の頼みを聞けば、サラの手伝いもできそうですし。
ちょうどいいというか」
『ですから、私のことはいいんです。
私はユウトが安全な所にいてほしいんです』
サラは必死だ。
だけど、俺だって譲れない。
「サラ、それは俺も同じことですよ。
俺はニグートのことには口出しできませんけど、せめてサラの近くでサラの役に立ちたいんです」
『ユウト』
サラがその大きな目で俺を見つめている。
『あー、ごほん』
統括が後ろでわざとらしく咳払いをした。
俺とサラはバッと距離を取る。
気づいたら超接近していた。
『すまんが、それは俺がいない時にやってくれ。
お前ら、ユラがここにいたら、一生からかうネタにされるところだぞ』
「ははは、ご冗談を。
ユラさんには言わないでください」
『ああ。
まあ隠す必要もないと思うがな。
それで、話を戻すが、お前の提案がおそらく、現状のベストだ。
俺はこれから、それをユラに説明してこよう。
お前は、その協力を依頼してきている人間には連絡は取れるのか?
あまり余裕もないから、できたらすぐにでも動いた方がいいんだが』
「ええ、それは大丈夫です。
今日中に連絡することになってますし」
『分かった。
じゃあ、さっきの方針でまとめといてくれ。
もし変更が必要になったら、また俺に連絡しろ。
総務課に言えば、すぐ連絡はつく。
可能なら、明日すぐに出発するかもしれんから、準備も進めとけ』
「分かりました」
『じゃあ、何もなければ明日8時に、前に使った会議室に集合だ。
そこで、方針を決める』
「ええ、俺からは他に誰かに連絡はしなくていいですか?」
『ああ、あとは俺がやっとく。
お前はサラとじっくり話せばいい』
そう、からかいとも本心ともつかないことを言って、おっさんは出て行った。
「えーと、そういうことになりましたから、よろしくお願いします」
俺は、何と言っていいか分からずに、サラにそう話しかけた。
『私は、ユウトが危ないことをするのを、納得したわけじゃありません』
そう言ってサラはむくれているが、可愛いくて、あまり責められている感じがしない。
「サラ、俺はサラに会ってから、たくさん助けてもらってますし、この間は這いずりしものの討伐も手伝ってもらいました。
あの時は冗談で流しましたけど、古代種討伐が危険なことなんて、サラも分かっていたはずです。
それでも、俺はサラに甘えました。
だから、サラが何か危険なことをするかもしれないんだったら、俺が手伝いたいし、サラにも俺に甘えてほしいんですよ」
真っ直ぐ目を見て言う。
少し間が空いたあと、
『そんな風に言われたら、断れないです』
渋々だが、サラも納得してくれた。
「じゃあ、俺もちょっと連絡してきます。
ほとんど俺が勝手に話を進めましたけど、バイクを使わせてもらえないと、話にならないですしね」
そう言って、部屋を出た。
別に部屋からでも連絡はできるんだけど、サラの前ではスマホを使えないし、少々クサいやり取りをしたから、照れくさかったのもある。
研究所を出て、近くの建物の陰に行く。
そこで、今日聞いた番号に電話をかけてみる。
なんか、スマホで電話するのなんて久しぶりだな。
通話ボタンを押して、スマホを耳に持っていく。
呼び出し音は鳴らない。
ちゃんとかかっているのか分からないな。
しばらく待っても、つながらなかったので、やり方が違うのかな、と不安になったところで、
『はい』
と声が聞こえた。
良かった、繋がったみたいだ。
「あの、ユウトですけど」
『はい、分かります。
どうされました?』
「実は、……」
俺は、さっき統括に提案した内容を説明した。
ここで却下されたら、元の木阿弥なわけだけど。
『私は構いません。
ニグートを通れるなら、その方が楽ですし。
でも、私はニグートの国境を通れないと思いますよ』
「ああ、それなら、多分大丈夫です。
こちらで何とかしますから。
もしかしたら、明日出発とかになるかもしれませんけど、それは構いませんか?」
『ええ、こちらは早ければ早い方がいいので、いつでもいいです』
「じゃあ、明日、多分九時くらいには連絡します」
『分かりました』
そう言って、電話を切った。
やっぱり便利だ。
この時代にも多少の通信機器はあるみたいだけど、携帯電話って見たことないんだよな。
未来だし、ある程度発達している部分もあるんだから、携帯くらいあってもおかしくないと思うんだけどな。
まあ、一度文明が滅んでいるから難しいのかもな。
トライファークにはあるみたいだから、やっぱり技術的にはトライファークが一番進んでるんだろうな。
確認を終えた俺は研究所に戻った。
『あれ?早かったですね?
もう連絡できたんですか?』
「ええ、たまたま近くにいたみたいで」
危ない危ない。
スマホがなかったら、もっと時間がかかるんだから、それも考えないといけなかったな。
あれ?そういえば、俺ってなんでサラに色々隠してたんだっけ?
確か、俺のことを話したら、トライファークの情報を話すことになるから危ないからだったよな。
でも、今日会った研究者を見た限りでは、別に危なそうな感じはしない。
ニグートに逃げた研究者が亡くなったのも、トライファークのせいじゃないらしいし。
じゃあ、あんまり隠す意味はないのか?
でも、情報統制は厳しくて、俺は特別、みたいなことも言われたよな。
やっぱり、軽々しく話すのはやめた方がいいか。
話を変えよう。
「じゃあ、いつでも行けるように準備をしようと思うんですけど、持って行った方がいいものってあるんですか?」
『いえ、特にはないと思いますよ。
ニグートはそれなりに遠いですけど、バイクを使えば一日で行ける距離ですから、途中で野宿をすることはありませんし。
辺境の向こうは一応ニグートになります。
ニグートに入ってからしばらく進めば、街もありますから。
ただ、今回はあの国の調査を言われるでしょうから、そのままあの国まで行くでしょうし、ニグートは通り抜けることになると思いますから、それなりに時間はかかりますけど』
「分かりました。
じゃあ、適当に準備をしておきます」
『私も準備してきます』
サラは自分の部屋に戻って行った。
心なしか少し元気になっていた気がする。
俺と統括が護衛につくことで心強く感じてくれているんだったら嬉しい。
さて、準備をするわけだが、ぶっちゃけ準備って程のことはない。
というか、俺はほとんど私物がない。
何を使うか分からないから、持っているものを全て鞄に入れて終わりだ。
そういえば、俺はこの時代に来てから、ファスタルと辺境以外の場所に行ったことはない。
だから、この時代の街がどんなものか多少興味はある。
ファスタルの裏通りは、国から調査依頼が出るほど、めちゃくちゃな状態なわけだから、他の街はファスタルよりは普通なのだろうと想像はつく。
まあ、今回は通り過ぎるだけで、どこかに寄り道することはないかもしれないけど。
そういえば、心なしか、俺も元気が出ている。
色々話を聞いて、研究所に帰ってきた時はやたら悩んでいたのに、今は大して気にならない気がしている。
なんだろう。
精神的には不安定なんだけど、やたらと図太くなっている気がする。
落ち込むんだけど、立ち直りがやたらと早い。
これもマナをいじった影響なんだろうか。
いや、あんまり考えるとまた気になりそうだから、考えるのはやめよう。
準備は終わったが、まだ寝るには早い時間だった。
マナの練習をしてもいいんだけど、今日はけっこう頭は疲れている。
どちらかと言えば、思い切り動きたい気分だ。
「ルッツ、中庭に行くか?」
ルッツと中庭に来た。
夕方以降に来るのは久しぶりな気がする。
最近はルッツとは棒を追いかけたり、戦いの真似事をしたり、色々している。
ルッツが古代種ということが分かってから、何度か戦ってみたが、やっぱりそれほど圧倒的な強さという感じはしない。
お互い手加減しているせいかもしれないが、今の所は絶対勝てないと思ったことはない。
カトーさんの話ではレオルオーガよりも強いらしいから、普通なら俺なんか手も足も出なさそうなもんだけど。
栄養が足りていないんだろうか。
でも、ルッツは毎日けっこうガツガツ食べている。
最初に読んだ文献だと、古代種は普段はそれほど栄養を必要としないらしいから、かなりよく食べている方だと思う。
なんか理由があるんだろうな。
ルッツが本来の強さを取り戻したら、レオルオーガでも怖くないんだろうから、戻ってほしいけど、あんまりルッツに戦わせたいわけじゃないから、悩ましい所だ。
しばらくルッツと動き回ってから、家に帰った。
今日は色々あった。
俺についての謎は色々判明した。
まだまだ分からないこともあるけど、トライファークに行けば分かることもある気がする。
なんせ、未来の俺がいるわけだからな。
とにかく、万全の態勢で向かう方がいいだろうな。
そんなことを考えながら眠りについた。




