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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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マナ制御のコツ~レオルオーガ予習

 トライファークの研究者から話を聞いた後、研究所に帰ってきた。

 色々と動いた方がいいとは思ったが、ちょっと落ち着きたかった。

 自分の部屋で、ソファに身を投げ出す。

 ルッツが寄り添って、気遣うように俺の手を舐めてくれる。

 さっき、話しを聞いていた時は割と普通にできていたが、単に実感が湧いていなかったせいで、冷静でいられたのかもしれない。

 落ち着く環境にいると、色々な考えが頭の中を巡る。

 ここが未来の世界であることは、それほどショックではなかった。

 というか、どちらかと言えば、今まで自分が気づかなかったことにショックだった。

 まあ、仕方ないよな。

 別に異世界だろうが、未来だろうが、俺が知らない世界であることに変わりはないんだから。

 これからも、未来だと知って変わることなど、それほどないと思う。

 雑貨屋の店主にも話すべきだろうか。

 いずれは話した方がいいだろうな。

 でも、トリップではなく、3Dプリンターのようなもので再現された存在だと伝えるのは、ちょっと気が引ける。

 まずは、そんな方法でこの世界に来た以上、元の世界に帰る方法など存在しないことは確定だろう。

 ただ、店主は元の世界に帰ることは諦めた、と言っていた。

 だから、元の世界に帰れないと伝えることは多分問題ないと思う。

 そうか、仕方ないな、くらいで済みそうな気がする。

 それよりも問題だと思うのは、俺と店主が、マナをいじられた上で再現された存在だ、ということの方だと思う。

 実は、さっきから俺はそれで凹んでいる。

 研究所の帰り道で、ふと、俺は人間だと言えるのだろうか、と思った。

 そう思った時、強い不安感に襲われたのだ。

 再現技術がどんなものか、詳細は分からないが、この世界に来てから今まで、不自由なく生活しているし、特に体におかしな違和感なんかも感じたことはない。

 精神的な不安定さは感じているが、体調はむしろ前よりかなりいい。

 だから、肉体はちゃんと人間のものだと思う。

 でも、ちょっと思ったんだけど、俺がこの世界に来てから頻繁に感じている精神の不安定さは、マナをいじったことによる影響ではないだろうか。

 百歩譲って、今トライファークにいる俺は人間だと思う。

 肉体は人間だし、精神も自分が残したものそのもののはずだ。

 でも、俺は肉体は人間だけど、精神は人の手によっていじくられたものだ。

 それは、それこそ人工知能みたいな人に作られた知能とどれほどの違いがあるだろう。

 もちろん、ベースは俺自身の記憶や人格に基づいているはずだから、全くの人工物じゃない。

 でも、魂とも言えそうなマナが加工されているというのは、体は作り物で魂は紛い物という気がして、人知れず悩んでいる。

 小説だったら、何かに打ちのめされた時、どうやって主人公は立ち直っていたっけな。

 そんなことをずっと考えていたが、答えは見つからなかった。



 しばらくうじうじ悩んでいたが、無理やり切り替えることにした。

 どう考えても、この悩みはちょっと考えたくらいでは解決しない。

 それに、あまり無駄なことに割いている時間もない。

 今は、サラの安全確保のためにできることをするのが最優先だ。

 トライファークの研究者の頼みも聞くつもりだが、サラの安全とは比べるべくもない。

 さしあたっての予定としては、おっさんに相談するつもりだが、朝聞いたところでは、今日は一日会議の予定だと言っていた。

 何時に終わるのかは知らないが、おっさんのことだから、会議が終わったら食堂に飯を食べに行くと思う。

 食堂で待つか?

 でも今はまだ昼過ぎだ。

 流石にこの時間には終わらないだろう。

 俺は少し落ち着くためにも、マナを使う練習をすることにした。

 集中して何かに取り組むことが落ち着くのに効果的だと思ったからだ。

 プロッタもどきを取り出した。

 マナを使う。

 そして、遠隔操作を行う。

 昨日も試したが、遠隔操作自体は意外とすんなりとできるようになった。

 のろのろと動くだけだが。

 スピードも出ないし、実用には程遠い。

 それに、俺にはマナウェポンのような弾を出すことはできなかった。

 いや、部屋でそんなもん出したら、とんでもないことになるから、あまり真剣に出そうとはしていないけど。

 そもそも、全く出し方が分からないことが問題だったりする。

 サラに聞いてみたいが、今はサラはそんな余裕はないだろう。

 ただ、今日、トライファークの研究者と話して、前よりもマナというのが何なのか分かった気がしている。

 マナの成り立ちを知ることで少し理解が進んだためだ。

 マナはその人間の記憶や人格など、精神的な情報の集合体だと言っていた。

 だが、装置によって必要となる情報は違う。

 大抵は思考パターンを鍵として使うと言っていた。

 鍵を外すときには、別に俺の人格の情報なんて必要ない、そういうことだと思う。

 要は、使う装置によって必要な情報は決まっていて、その必要な情報を使って制御を行えばいい、ということだろう。

 俺はこれまで、スイッチの発想なんかを使って、できるだけマナの制御を簡略化しようとしていた。

 だが、制御しようとする情報自体に不必要な情報が含まれていたために効率が悪くなっていたっぽい。

 例えば、スイッチをオンするイメージとともに俺自身のイメージを使う、というようなことをしていたが、俺自身のイメージには俺の姿や思考、といった情報を含んでいた。

 だが、例えば、練習装置には俺の姿の情報を送る必要はないと思う。

 だから、そういう不要な情報も含めて扱おうとしていたために、複雑な制御になると思考がオーバーフローしていたんじゃないだろうか。

 だとすれば、もっと制御を楽にすることは可能なはずだ。

 例えば、このプロッタもどきを動かすのに必要な情報とはなんだろう。

 まずは使用者としての俺を認識させる、そして、動かしたい方向、もしくは座標、あとは武器として使いたいなら、攻撃する対象と攻撃の強さの情報だろうか、そういうものを俺の思考パターンとして送る。

 今は武器としての情報はいらないから、俺自身と位置情報をまとめる。

 できるだけ必要な情報のみを思考の塊にする。

 無駄は省く。最適化だ。


 お、動いた。

 しかも前よりも断然楽に動かせる。

 やっぱり俺の推測は正しかったようだ。

 サラは同じ練習装置で制御をしていても、かなり楽にこなしていたから、何かあるんじゃないかと思っていた。

 俺よりもサラの方が思考能力が段違いに高い可能性もあったが、会話をしていて、それほど俺と差があるとは思えなかった。

 もしかすると、サラは無意識のうちに情報の取捨選択ができて、最適化された情報のみを扱うようにできるんじゃないだろうか。

 正確なことは分からないけれど、そんなに外れていない気がする。

 無意識にできるってのは、やっぱり天才ってことだよな。

 とはいえ、俺は今は意識しないと最適化はできないけど、慣れたらサラみたいに無意識的に扱うこともできるようになると思う。

 初見の装置は無理だろうけど、慣れ親しんだようなものならかなり使いこなせるようになりそうだ。

 さっきまでの落ち込んだ気分をちょっと持ち直すことができた俺は、続いてプロッタもどきを二つ操作してみた。

 これは昨日も試してみたことだ。

 頭の中に作った論理回路を、二つのプロッタもどきの制御に割り当てて、独立した動きを作る。

 昨日は全然できなかった。

 俺の頭の処理能力では、到底無理だと思った。

 だから、半分諦めかけたのだが、今日の考えを当てはめると、できるかもしれない。

 しばらく試すことにした。



 一時間くらい練習した後、部屋の中をある程度思い通りに動かせるようになったプロッタもどきが動き回っていた。

 俺の考えは間違っていなかった。

 情報の最適化がコツだったようだ。

 俺のマナを制御する技術は一気に向上したと思う。

 まあ、サラには程遠いけど、いい気分転換になった。

 頭はかなり疲れたが、程よい満足感も得られた。

 俺は、マナの練習を切り上げて、食堂に行くことにした。

 よく考えたら、今日は昼食もとっていなかったし、ちょっと早いが昼と夜を兼用にして、食堂でおっさんが来るのを待とう。



 微妙な時間だから、誰もいないかと思ったが、食堂には何人かの人がいた。

 と思ったら古代種研究会の人たちだ。

 どうやら、ファスタルの地下から帰ってきたところらしい。

 ちょうど良かったので、俺はカトーさんに話しかけることにした。

 そういえば、カトーって変わった名前だと思ったけど、ここが日本なんだったら、本当に元々は加藤だったのかもしれないな。

 考えてみれば、俺の知り合いはレオンハルトさん以外は日本人だとしてもおかしくないような名前の人ばかりだ。

 サラもユラさんもアルクさんも。

 アルクさんはちょっと違うかな、でも歩くとかありそうだ。

 そういえば、おっさんの名前は知らない。

 別に統括で通じるから問題ないけど。


「こんにちは、地下からの帰りですか?」


『あ、ユウトさん。

 ええ、そうです。這いずりしもののサンプル採取をしてきました。

 これから、分析を行う予定です』


「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、お時間いいですか?」


『構いませんよ。なんですか?』


「あの、レオルオーガって知ってますか?」


 古代種のことは古代種研究会に。

 やっぱり専門家に聞くのが一番だ。

 でも、あんまり事情は話せない。

 あくまで、たまたま知ったから、興味本位で聞く、というスタンスで尋ねる。


『レオルオーガですか?古代種の?』


「ええ、ちょっと小耳にはさんだので。

 ご存じなんですか?」


『そりゃ知ってますよ。

 愛好家の中では、かなり有名な古代種です』


 愛好家?


「へえ、どんなふうに有名なんですか?」


『レオルオーガは非常に強力で、知能も高く、文献に残っている外見もかっこいいです。

 古代文明の比較的後期に作られた種類で、非常に高い統率力も持っていたそうです。

 凶悪なモンスターたちがレオルオーガの前では従順になり、地域の安定に貢献したそうです。

 強い反面、慈悲深く、自分よりも弱いものに攻撃をするようなことはなかったといいます』


 それはおかしいな。

 だって、トライファークではレオルオーガによる犠牲者も出ていたらしいし。

 それはカトーさんには言えないが。


『そんな種類ですから、研究会でも人気は高く、いつも、いつか会いたい古代種の上位に入ります』


 抱かれたい男No.1みたいに言ってる。

 古代種オタクって感じだな。ああ、それが愛好家か。


「強いっていうのは、這いずりしものよりもですか?」


『古代種同士の強さの比較というのは、私たちもよく議論しますが、這いずりしものは体液がやっかいなだけで、それ以外はそれほど強くありません。

 体が大きく、耐久性は高い、というくらいですね。

 あ、もちろん、古代種の中では、ですよ。

 複数の伝承が残っているくらいですから、強力なのは言うまでもありません』


 あれで強くないのか。とんでもないな古代種。


『レオルオーガはどちらかと言えば近接戦闘を行う種類ですから、這いずりしものとは相性が悪いのですが、正面から戦っても負けることはないでしょうね。

 這いずりしものの体液でやられるよりも、レオルオーガが這いずりしものを仕留める方が早いでしょう。

 というか、レオルオーガと戦って勝てる種類なんてそんなに多くはありませんよ』


「へえ、例えば、どんなのだったら勝てるんですか?」


『実物を見ると、そうは思えないんですが、あなたの愛犬である黒犬とか、百の手を持つ巨人のヘカトンケイルとか、その辺りならばレオルオーガより強いと思います。

 あとは、古代文明の最後期に作られた種族ならば勝てるかもしれません』


 這いずりしものにしても、レオルオーガにしてもそうなんだけど、古代種の名前はやたらとかっこいいと思っていた。

 ヘカトンケイルってなんかの神話に出てきた巨人だと思うけど、それもかっこいい名前だ、俺的に。

 古代種は古代人が作ったわけだから、俺からしたら、未来の日本人が作ったことになるんだろうけど、やたらと俺の好みに合っている。

 多分、古代種を作るような人は、大体みんなそういう感性だったんだろうな。

 みんな俺と同じ病を患っていたんだと思う、中二と言う名の大病を。

 確かに、ここが未来の世界だと考えると、元の時代で聞いた神話の巨人の名前が古代種についていることも納得できる。

 そういう意味では、キュクロプスって名前も神話の巨人だったと思うし、その名前を聞いた時点で、ここが元の世界と関わりがあることくらい、気づけそうなもんだ。

 まあ、分かっていれば何とでも言える、ってやつかもしれないが。

 それにしても、ルッツは相当強いとみなされているんだな。

 確かに、這いずりしものを吹っ飛ばした攻撃はすごかったけど、そこまで強そうには見えない。

 大きさも文献よりだいぶ小さいみたいだし。

 俺の想像ではキュクロプスと戦って力を使い果たした、とかだと思うんだけど、どうやったら元に戻るんだろう。

 子犬も可愛くて好きなんだけど、今が本来の姿じゃないんだったら、戻してあげたいと思う。


「じゃあ、人間がレオルオーガと戦ったとして、どうやったら勝てると思いますか?」


『逃げることですね』


「え?」


『逃げるが勝ちです。

 まともに戦えば、勝つとか負けるとか、そういう相手ではないと思いますよ』


 そうなんだろうとは思っていたけど、やっぱりそうか。

 トライファークのドラゴンを倒せる兵器でも、足止めがやっとって言ってたもんな。

 ニグートを攻める可能性が高そうだから、それを止めたいんならレオルオーガと戦う可能性があるかと思ったけど、やめたほうがよさそうか。

 戦わないといけない状況になる前になんとかしないといけないんだろうな。


『あ、でも運が良ければどうにかなる可能性もあるかもしれませんね。

 さっきも言いましたけど、レオルオーガは自分より弱いものに攻撃をしたりしません。

 ですから、攻撃されない間に制御してしまえば倒せないまでも、味方にすることはできるかもしれません』


「でも、古代種の制御方法は分からないんでしょ?」


 トライファークでも分からないって言ってたしな。


『ええ、そうですね。

 ですが、レオルオーガに関しては、純粋に頼めば自ら制御下に入ってくれることがあるらしいですよ』


「なんですかそれ?

 制御ってもっと複雑なものじゃないんですか?」


 純粋に頼めば、の意味が分からない。


『基本的にはもっと過酷な条件や難しい制御が必要なものが多いとされていますが、レオルオーガは特殊みたいですよ。

 まあ、試したことはありませんから、本当かどうかは分かりませんけど』


 うーん、めちゃくちゃ眉唾っぽい。

 でも、そういうのが意外と正解ってことはよくある、創作的にはだが。

 一応、覚えておこう。


「ありがとうございました。

 参考になりました」


『いえ、ユウトさんが古代種に興味を持ってくれて何よりです。

 また、古代種のことが聞きたければ、いつでもどうぞ』


 まあ、俺は最初から古代種には興味がありまくりだったけどな。

 技術レベルはファスタルよりトライファークの方が上みたいだけど、古代種に関してはトライファークより古代種研究会の方が詳しそうだな。

 聞いてよかった。

 そんな強い古代種だったら予習は必須だろう。


 話の後、カトーさん含む古代種研究会の人たちは固まってどこかへ行った。

 多分、今後の打合せとかするんだろうな。

 一人になった俺は、食事を済ませることにした。




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