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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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異世界生活15日目 報告会

 俺は走って逃げていた。

 追いかけられるようなことをした覚えなんてない。

 俺は自分の正当性を示しただけだ。

 実績だってあるし、そうした方がいいことだって明白なはずだ。

 だが、なぜか俺の主張は通らなかった。

 どう考えても、みんなおかしくなっている。

 アイツのせいだ。

 アイツが何かしたに決まっている。

 全て狂わされてしまった。

 絶対に許さない。

 何があってもアイツだけは許しはしない。

 例え、今逃げきれなかったとしても、いつかアイツを潰してやる。


「絶対に」


 と、自分の口から出た言葉で目が覚めた。


「夢か」


 よく分からない夢だった。

 やたらリアルに感じたが、前後関係も分からないし、自分が何に怒っていたのか、なぜ怒っていたのかも分からない。

 そもそも夢の中の【俺】が俺なのかどうかも分からない。

 なにか違和感もあった気がするし。

 もしかして、昨日、人工知能なんてものに出くわしたから、俺の中二脳が暴走でもしたのかな。

 俺の中の闇が暴走しかけている、みたいな。

 いや、恥ずかしいな。

 忘れよう。

 夢のせいか、変な汗をかいていたのでシャワーを浴びることにする。

 昨日の夜は、帰ってきてそのまま寝てしまったから、気持ち悪い。

 時刻は6時だ。

 習慣とは恐ろしい。

 体が疲れていても、いつもの時間には起きてしまう。

 まあ、早く寝たから、休息は十分だと思うけど。

 

 サラと一緒に食堂に行くつもりだけど、朝練はしないと決めたから、いつもの時間までまだ1時間以上ある。

 ちょっと昨日のことを考えることにしよう。

 ルッツは古代種なのか。

 あの人工知能はなんなのか。

 あれ?確かめることってそんだけだったっけ?

 まだ寝起きで頭がボケているようだ。

 ぼんやりしたまま、シャワールームに着いて、ドアを開けると、


 サラがシャワーを浴びている所だった。

 

 磨りガラス越しにサラのシルエットが見える。

 はっきりとは見えないが、肌色のラインは見える。


 一気に目が覚めた。

 サラはシャワーの音で、ドアが開けられたことに気づいてないみたいだ。

 ゆっくり、気づかれないようにドアを閉めた。

 朝から、なんたるラッキースケベだろう。

 夢のせいで、少し気分が落ち込んでいたが、完全に吹き飛んだ。

 やはりサラは俺の心の癒し。

 高校生の頃の俺なら、さっきの場面に出くわしたら、テンパって大きな声を出してサラにばれる、みたいなことにしてしまっただろうけど、俺はもう27歳だ。

 落ち着いた大人だ。

 そんな物語に出てくるアホみたいなお約束行動はしない。

 さっきの出来事は脳の中の大事なものフォルダにそっと永久保存しておく。

 うーん、いいものが見れたな、あんまり見えなかったけど。


 一度部屋に戻って、サラがシャワーを終えるまで考え事をすることにした。

 さっきと違って、頭ははっきりしている。

 まずは、ルッツのことだ。

 ルッツが古代種かどうかに関しては、俺では判断のしようがない。

 だが、専門家がそうだと言うのだから、その可能性は高いのだろう。

 となると、昨日も考えた通り、カ○リーメイトは古代種には抜群の効果があるんだろうか。

 ユラさんに言って、分析している人に確認してもらおう。

 幸い、這いずりしもの、という古代種のサンプルが地下遺跡にあるから、細胞の反応を見ることはできるんじゃないだろうか。

 まあ、俺は門外漢だから、分析は研究者たちに任せるとして、気になっていることは、他にもある。

 それは、最初に会った時にルッツが異常に疲弊していたことだ。

 あれは、もしかして、キュクロプスと戦っていたからではないだろうか。

 昨日のルッツの攻撃はすさまじいものだった。

 おっさんの攻撃をものともしない這いずりしものを吹っ飛ばしていた。

 俺はキュクロプスを見たことはないが、あの攻撃ならそんな化け物でも倒せるかもしれない。

 ただ、死骸が見つからない、という謎は残るが。

 そうだとして、なぜルッツが辺境でそんな化け物と戦っていたのか、だな。

 たまたま、ルッツの住処があの辺だったんだろうか。

 だとしたら、俺は勝手にルッツを遠くまで連れてきてしまったことになる。

 ルッツ自身に聞いてみればいいか。


「ルッツ、俺と会う前にお前はキュクロプスと戦っていたのか?」


『わん』


 ルッツが頷く。

 やっぱり通じている。


「キュクロプスは倒したのか?」


『わう~』


 今度はあいまいだ。


「倒してないのか?」


『わう~』


 んん?

 反応の意味が分からない。

 通じてないのか?

 あ、もしかして、


「戦ったけど、倒したかどうかは分からないのか?」


『わん』


「キュクロプスが逃げたとか?」


『わん』


「誰かと一緒に戦ったのか?」


『わう~』


 ふむ、ルッツの反応からして、一人でキュクロプスと戦ったけど、途中でキュクロプスが逃げた、と。

 

「ルッツは辺境の近くに住んでたのか?」


『わう~』

 

 それから、しばらくルッツに質問をしていたが、分かったのは、ルッツは古代種で間違いなさそうなこと、古代種の子孫とかではなさそうなこと、住んでたのは辺境じゃないこと、くらいだった。

 なぜ辺境にいたのかとか、子犬なのはなぜかなど分からないことも多かった。

 俺の聞き方も悪いのかもしれないが、ルッツは言葉を理解できるみたいだけど話すことはできないから、反応を見て判断するしかない。

 俺の質問に一生懸命応えようとわんわん言ってるルッツはとても可愛かったので、俺はそれだけで和んでしまって、分からないものは分からないでいいか、という気分になっていた。

 まあ、追々、色々聞いてみることにしよう。

 そうしているうちにサラがシャワーから出ていたようなので、俺もシャワーを浴びた。



 シャワーの後、部屋でまた考えをまとめようかと思っていると、


『ユウト、入ってもいいですか?』


 と、サラがやってきた。


「どうぞ」


『おはようございます。

 ちょっと早いですけど、食堂に行きませんか?』


「そうですね。

 ゆっくり朝食をとってから、会議室に行きましょうか」


 サラとルッツと食堂に来た。

 食堂には既におっさんもいた。

 おっさんはいつも5人前の定食を食べているが、今日は7人前食べている。

 俺とサラはおっさんに近づいて、挨拶することにした。


『統括、おはようございます』

「おはようございます」


『おう、おはよう。

 早いな。

 まあ、今日は中庭にいなかったから、いつもよりは遅いか』


 口ぶりからして、おっさんは朝練に行っていたようだ。


「そうですね。

 それにしても、どんだけ食うんですか?

 いつもより多いじゃないですか」


『ああ?

 そりゃあ、昨日は結構動いたからな。

 多少ダメージもあったから、体が栄養を求めている』


 めちゃくちゃな人だな。

 ぶっ飛んだバトル漫画の登場人物みたいな人だ。


「そうですか。

 まあ、統括ならそんなもんなのかもしれませんね」


『おい、バカにするな。

 これでも栄養バランスは考えてるんだぞ』


 そりゃ定食自体のバランスは悪くないだろうさ。

 コックさんが考えて作ってくれてるだろうし。

 問題は量ですよ、と思ったけど、どうでもいいから、話を変える。


「バカにしてませんよ。

 ところで、昨日言っていたこの後の話し合いの段取りはできてるんですか?」


『ああ、それは大丈夫だ。

 色々な人間が来ることになっている。

 研究所の人間としては、ユラ、サラ、カトー、総務課の責任者とお前の担当者、お前、俺だ。

 後は、俺が聞いているのは、古代種研究会の代表、地理省のレオンハルト、エレクター技師のアルクだ。

 それ以外にも、レオンハルトがファスタルの役人を何人か連れてくるらしい』


 え?そんなに集まるのか?

 こっちの世界で俺が知り合いになった人はほとんど参加だな。

 知ってる人が多いのはいいんだけど、俺、人が多い会議って苦手なんだよ。

 特に偉い人が多い会議ってのは、発言しづらいし。


「アルクさんも来るんですか?」


『ああ、謎のエレクター装置があったと報告したら、レオンハルトが連れてくることにしたらしい』


「それにしても、参加者が多いですね。

 俺、欠席して構いませんか?」


『あほか。

 お前が中心になって説明するんだぞ』


「なんでですか?

 統括が説明すればいいじゃないですか」


『俺はまとめて話すのは苦手だ。

 それに、これはお前が受けた依頼の会議だぞ。

 お前が話さんでどうする?』


 くっ、正論だ。

 仕方ないか。


「分かりました。

 でも、俺は偉い人に話すの苦手ですから、フォローして下さいよ」


『よく言う。

 俺のことをたまにおっさんと言ってくるだろうが。

 別に偉いと言っても、態度まで偉そうな人間は呼んでないから、お前は普通にしてればいい』


 あ、やっぱりおっさんて言ってるのばれてた。

 当たり前か。

 咄嗟に呼ぶときに出てしまうんだよな。

 まあ、本人はそれほど気にしてないっぽいからいいか。


「資料も何も用意してないんで、口頭で説明するだけですけど、いいですか?」


『昨日の今日だから仕方ないだろう。

 あとで報告書は書いてもらうぞ』


 ああ、そういう所が会社組織っぽいんだよな。

 別にいいけど。


 その後、一応会議の段取りを簡単に打ち合わせながら朝食を済ませた。



 朝食後、会議室に向かった。

 おっさんが伝えた時間よりも少し早かったせいか、まだ誰も来ていなかった。

 良かった。

 既に全員揃っていて俺が一番遅い、とかだったら気まずすぎる。

 落ち着かない気分のまま、端の椅子に座って待っていた。

 待っている間、おっさんとサラは普通にしていた。

 落ち着いていないのは俺だけだ。

 2人とも流石だな。

 この世界における大国の姫と国立研究所の調査員統括だもんな。

 俺のような一般人とは違う。

 俺も異世界人だから、一般人ではないか。

 いや、これはそういう境遇の特異さじゃなくて、心構えがどうか、という話だから、やっぱり俺は一般人だろう。

 そうこうしているうちに人が集まり始めた。

 最初に来たのはレオンハルトさんを連れた総務課の担当者だった。

 俺に会いに来た時もそうだったけど、レオンハルトさんは集合時間前にくるタイプなんだろうな。

 挨拶されたから、返しておいた。

 レオンハルトさんはアルクさんと他にも何人かと一緒に入ってきた。

 あの知らない人がファスタルの役人なんだろう。

 アルクさんは相変わらず挙動不審だった。

 挙動不審な上に大きなカバンを持っていたから、やたら目立っていた。

 ついでに何か実験でもしていくつもりだろうか。

 会釈しておいた。

 フォーサルで見つけたケースの件もあるから、後で少し話したい。

 それから、カトーさんが初老の紳士風の人を連れて入ってきた。

 あれが古代種研究会の代表か。

 威厳がある。

 最後にユラさんと総務課の責任者がやってきた。

 入ってくるなり、ユラさんが話し始める。


『わざわざお集まり頂きすみません。

 連絡は行ってると思うんですけど、ファスタルの地下に遺跡が見つかりまして、うちの調査員が色々調べてきたんで、報告させて頂きます。

 じゃあ、どうぞ、ユウト君』


 と、いきなり振られた。

 めちゃくちゃ雑な振り方だ。

 名刺交換的な自己紹介なんかはないんだな。

 まあ、今後関わるであろう人とは既に知り合いだから、構わないか。

 俺は説明し始めることにする。


「今、所長から紹介されました、調査員のユウトです。

 そこにおられる地理省のレオンハルトさんから依頼されたファスタルの裏通りのマッピング作業を進めているうちに件の遺跡を発見しました。

 そこを調査して色々見つけたのですが、経緯から説明させて頂きます」


 それから、俺は裏通りのマッピング中に地下への階段を見つけた所から、なるべく詳しく漏れのない様に、要らない部分は省略しながら説明した。

 俺もおっさんと同じでまとめて話すのは得意ではないが、要点が伝わればいいだろうと割り切って説明した。



 昨日の自称ファスタルの管理者との会話内容までを話し終えた。


「以上です。

 今後は、もう一度あの装置から情報を聞き出しに行きたいと考えていますが、構わないでしょうか?」


『それは構いませんが、その装置は何なのでしょうか?』


 レオンハルトさんに聞かれる。


「はっきりしたことは分かりませんが、古代の人工知能じゃないですか?」


『人工知能とはなんでしょうか?』


 そうか。

 この世界には人工知能という言葉、というか概念はないのか。

 まあ、科学技術自体は古代の遺物を除けばそれほど進んでいないもんな。


「人工知能というのは、人のように考えることのできる機械ですね。

 私も見るのは初めてですが、古代には存在していたんでしょう」


 SFの世界では定番の存在だと思うが、そんなもの見たことあるはずがない。

 現代の日本でも研究はされているみたいだから、そう遠くない未来にできるんだろうな。

 技術的なブレイクスルーでもない限り、簡単にはできないと思うけど技術の進歩というのは恐ろしいスピードで進んでいるからな。


「その人工知能はファスタルのことを第一最適化実験都市と言っていましたが、なんのことか分かりますか?」


『いえ、古代にそういった呼び名で呼ばれていたのかもしれませんが、私は聞いたことがありません。

 みなさんもないと思います。

 どうですか?』


 代表してレオンハルトさんが答えてくれた。

 そして、確かに全員そんな呼び名は知らないようだ。


 その後も、何人かの人にいくつか質問されたが、特に新しい情報が見つかるということはなく、現状の確認をしただけだった。

  

『ふむ、私はこの件はユウトさんにお任せしていいと思っていますが、他の方はどうでしょう?』


 レオンハルトさんは俺のことを本当に期待してくれているようだ。

 みんな頷いてくれている。

 これは、俺じゃなくて、レオンハルトさんがみんなから信頼されているからだろう。

 いかにも仕事できそうだもんな。

 すると、アルクさんが手を上げて発言した。


『はい、私も任せていいとは思います。

 ええ、ですが、一つ頼みがあるのですが。

 はい、私も次の探索に同行させてください。

 未知のエレクター装置、非常に興味があります、ええ』


「俺は同行頂けるなら、願ってもないことですが。

 一部壊れているみたいですから、直せるなら直したいですし。

 まずいですか?」


 俺はおっさんに尋ねた。

 本人が来たいなら、あとは護衛的な役割をこなしてくれるおっさんの判断に任せたらいいと思う。


『ああ、構わんと思うぞ。

 あれは、一度専門家に見せた方がいいだろう』


 こうして、アルクさんの同行が決まった。

 次に、隣に座っている古代種研究会の代表らしき人と何事か相談していたカトーさんが発言した。


『すみません、私たちも古代種の調査をしたいので、地下への立ち入り許可を頂けませんか?

 護衛は研究会のメンバーでなんとかしますから、ユウトさんが作成した裏通りの地図と地下の地図の写しも頂きたいのですが』


「どうなんでしょう?」


 俺はレオンハルトさんに尋ねる。

 レオンハルトさんは隣にいたファスタルの役人と二言三言話すと、


『私たちも情報収集をしたいので、調べた結果を開示して頂けるなら構いません』


『分かりました。

 研究会での調査結果も報告書にして、提出することにします』


『じゃあ、こうしましょう。

 うちの総務課を拠点として、それぞれが情報収集に当たる。

 収集した結果はみんなが共有できるようにして、何かあったら関係者で集まって協議する。

 情報の管理とみんなへの連絡はお願いね』


 そう言って、ユラさんがまとめて総務課の俺の担当者に丸投げする。

 うわ、めんどくさいこと全部押し付けた。

 いきなり押し付けられた担当者はしばらく天を仰いでいたが、諦めたようだ。


『分かりました。

 そのようにします。

 みなさん、それでよろしいですか?』


 そう言って、全員の様子を確認する。

 特に異論はないようだ。 

 

『じゃあ、今日はここまでにしましょう。

 ちょっとよく分からない状況で現場も混乱していますが、みなさんご協力お願いします』


 ユラさんはそう言って、参加者の方々に協力を促してくれた。

 基本的に、ちゃんとフォローもできる人なんだよな。

 いつもめちゃくちゃだから忘れがちだけど。


 それから、解散する空気になったので、アルクさんに話しかけることにした。

 次の探索の打合せもしないといけないが、先にフォーサルで見つけたケースのことを聞くことにしよう。

 



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