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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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14日目終了 ルッツ~管理者?

 カトーさんがルッツは古代種かその子孫ではないか、そんなことを言い出した。


「それは、何か理由があるんでしょうか?」


 確かに、ルッツを名づけたとき、強烈な光とともに何らかの契約をしたような手ごたえがあった。

 サラも高位の獣じゃないかとか言っていた。

 だが、古代種だとは思っていなかった。

 もしかして、高位の獣ってのは古代種のことを指していたのか?


『はい。

 確かではありません。

 ですが、古代の文献に空気を操る黒い犬型の古代種の記述があります』


「それはどういう記述なんですか?」


『記述自体はあまりはっきりとしたものは見つかっていません。

 ですが、見つかっているものでは、外見は黒い長毛に覆われた優雅な大型の犬とされています。

 そして、高い身体能力と人の言葉を理解する知能を持っています。

 特殊な遠吠えによって空気を振動させることで、衝撃波を起こすとされていますが、そのあたりの記述は曖昧でよく分かっていません。

 【あの国】の英雄とされた人物のパートナーとして色々な活躍をしたとされています。

 この古代種はちょっと他と違っていまして、他の古代種は人間にとって厄介なモンスターを統率する、という役目で作られたものがほとんどなのですが、この犬型の古代種は【あの国】の英雄のパートナーであることが役目、とされています。

 その英雄のパートナーとして様々な古代の文献に存在は出てきます。

 ですから、今説明した内容も色々な文献の話をまとめた情報になります。

 どの文献にもこの古代種のことは好意的に記載されているのですが、他の古代種と違って生態などをまとめた文献は見つかっていません。

 そのため、存在は確実視されていましたが、探しようはありませんでした』


「確かに、ルッツは俺たちが言っていることを理解しているように見えることはよくありますし、さっきの風のこともありますから、普通じゃないですけど。

 まだ子犬ですよ」


『そうです。

 ですから、古代種の子孫かと思ったんです。

 古代種が子孫を残すなんて聞いたことはありませんが、古代種も生物である以上、可能性はあるのかもしれません』


 そうなのか。

 というか、言葉を理解しているなら、ルッツに聞けばいいのか?

 

「ルッツ、お前は古代種なのか?」


『わふ』


 ルッツはそうだ、と言いたげだ。

 でも、かなり辛そうだ。

 さっきの戦いの疲労がひどいみたいだ。

 色々気にはなるけど、早く帰ってゆっくりさせた方がいいな。


「ルッツ自身もそうだ、と言いたそうですね。

 でも、今はかなり辛そうですから、この話は帰ってからにしましょう」


 カ○リーメイトを持ってきておけばよかった。

 辺境でルッツにあげたときにルッツは急激に回復していた。

 もしかしたら、古代種には特効薬みたいな働きをするのかもしれない。


『ああ、そいつが古代種だとしても、今までと何か変わるわけじゃない。

 今は、このあとどうするかを決めよう』


 おっさんが言う。

 そうだな。

 ルッツが古代種だろうがなんだろうが俺の大事な愛犬だからな。

 何も変わらない。


「そうですね。

 それで、当初の目的はこの奥の地点なんですが、日を改めますか?

 みんな疲れていますし。

 もし、奥にも這いずりしものみたいなのがいたらやばいですし」


『いや、確認しておこう。

 もし、敵がいるなら撤退するかもしれんが、対策を立てるためにも何がいるのか確認しておいた方がいい。

 まあ、古代種の後にさらに強力な敵が用意されている、なんてことはないと思うがな』


 俺もそう願う。


「そうですね。

 罠はあるかもしれませんから、十分に注意していきましょう」


『ああ、俺が先頭で扉を開くから、後ろをついて来い』


 そう言って、全員でその空間の奥にある扉に近づいた。

 扉はフォーサルの遺跡ほどではなかったが、そこそこ大きかった。

 もしかして、鍵がかかってたりするんだろうか。

 この地下で見つけた扉は開いたことがないからな。


『じゃあ、開けるぞ』


 おっさんもあんまり期待していないのか、さほど警戒する素振りも見せずに、開けようとした。


 すると、ギーっという軋むような音とともに扉が開いた。

 まさかこんなにあっさり開くとは思っていなかった。

 おっさんもちょっと驚いている。

 開くとは思ってなかったみたいだ。

 

『入るぞ』

 

 気を取り直して部屋に入る。

 その部屋は、這いずりしものがいた、手前の空間に比べると、かなり小さかった。

 それでも、学校の教室2つ分くらいはありそうだ。

 その部屋の中にスーパーコンピュータみたいなものがある。

 いや、スーパーコンピュータなんて見たことないけど、かなりでかいタワー型のパソコンの筐体って感じのやつだ。

 しかも、一台ではない。

 無数にある。

 部屋の半分以上を占めている。

 それらが全てケーブルで繋がっているようだ。

 それらの筐体からは稼動音がしているから、電源も入っているようだ。


『これは、何だ?』


 おっさんの口からそんな言葉がこぼれる。

 確かに、異様な光景と言えるだろう。

 ここまで、科学的な気配なんてなく、ただただトンネルが続いていた。

 開かないドアはあったが、ただのドアだ。

 地下全体を通して電灯一つなかった。

 いや、余裕がなくてあまり気にしていなかったが、這いずりしものがいた空間は、そこに至るまでのトンネルよりも少し明るかった。

 照明で照らさなくても、這いずりしものの姿は見えていたし。

 そう考えると、この部屋と這いずりしものがいた空間には、エレクターが通っているんだろうな。

 まあ、地下に電線が通っているのは別に驚くことじゃないし、エレクターが通っていても不思議はない。

 それよりも、


「統括、サラ、この装置は今も稼動しているみたいですけど、古代遺跡で見つかるエレクター装置ってのは稼動していることが多いんですか?」

 

『いや、稼働しているものなんて、ほとんどないんじゃないか。

 今までは、そんなものは見つかっていないはずだ。

 お前らが辺境の遺跡で開けた扉のように、マナに反応して稼動するようなものはよくあるが。

 何もしなくても最初から稼動している装置ってのは聞いたことがないな』


『そうですね。

 私も聞いたことないです。

 今研究所で使われている高度な分析装置なんかは遺跡で発掘されたものがほとんどなんですが、発掘当時はエレクターが切れているか、破損しているものが多くて、修理してから使っています。

 こんな風にほぼ無傷で動いている装置があるなんて』


 二人ともかなり驚いている。

 ということは、これはかなり珍しい装置なんだろう。

 何に使うものなんだ?

 これだけの大きさだと演算能力もかなり高いんだろうけど。

 その時、その装置から音が聞こえてきた。


『発音装置起動、完了。

 音声処理開始。

 解析、完了』


 それは機械音声なんだろうけど、かなり自然な日本語を話している。


「なんか言ってますよ」


『ああ、これは話すことができる機械なのか?』


『そんなの聞いたことないですけど、古代の装置だったら、そんな機能があってもおかしくないですよね』

 

 しゃべる機械はないのか?

 まあ、テレビとかなさそうだもんな。


『ようこそ』


 その装置は俺たちに向かってそう言ってきた。


『私はこの第一最適化実験都市の管理者。

 あなた方は私を破壊しに来たのですね?』


 続けてそう言ってきた。

 なんだこれは?

 もしかして人工知能か?

 第一最適化実験都市ってなんだ、ファスタルのことなのか?

 いや、それより、破壊ってなんのことだ?


「言葉が通じる、んですよね?」


 俺の言葉に統括もサラも首を捻っている。


『言葉は通じています。

 言語処理装置は正常に動作しています』


 そう答えられた。

 通じるなら、本人?って言うんだろうか?

 とにかく、このコンピュータ自身に聞いてみればいい。


「あの、俺たちはここに何があるか調べに来ただけで、破壊しに来たわけではありません。

 どうして、俺たちが破壊しに来たと判断したんですか?」


『守護獣である這いずりしものを破壊したでしょう。

 敵意のないものがそこまでして、ここに来るとは考えにくいからです』


 這いずりしものはやっぱりこれを守っていたらしい。

 どう考えても人工知能だよな。


「這いずりしものに命令を与えていたのはあなたですか?」


『はい』


「他のモンスターは這いずりしものが統率していたんですか?」


『いえ、この辺りの生物は私が管理しています』


 気になっていたのは、これからの地下のモンスターのことだ。

 這いずりしものが統率していたんだったら、統率者がいなくなった今、地上に出てこないのかが気になっている。


「では、這いずりしものは倒しましたけど、これから地上にモンスターが出てくるってことはないんですね?」


『モンスターは地下を守護する役割があります。

 地上に出ることはありません』


 良かった。

 これでとりあえずの懸念はなくなったな。


「あなたはなんなんですか?」


『私は第一最適化実験都市の管理者です。

 私を作ったのはあなた方でしょう?』


 何を言っているんですか?と言わんばかりの雰囲気で言われた。

 コンピュータってのはもっと淡々としているイメージがあったが、随分人間ぽいな。


「あなたが作られてから現在まで何百年も経っています。

 ですから、あなたの存在は知られていませんよ」


『それは認識しています。

 ですが、あなた方は――』


 そこで、少し沈黙があった。

 装置の稼働音だけが響く。

 数秒後、


『現状の把握を完了しました。

 理解しました。

 では、私のことをご説明しましょう』


 どういうことだ?

 今のやり取りで何を理解したんだ?

 正直、いきなり人工知能なんてものが出てきて、全く俺の理解は追いついていない。

 統括とサラも同様だろう。

 カトーさんはただただ驚いているみたいだけど、なんだか辛そうだ。

 緊張しているんだろうか。


『私はこの第一最適化実験都市の管理AIです。

 都市開発に関する判断は私が行っていました。

 開発開始後、順調にこの都市は発展を遂げました。

 ですが、ある時、紛争が起こり、都市は壊滅しました。

 現在は復興しつつあり、再開発を行っていますが、過去と同じ轍を踏まないように様々な防御策とともに開発しています』


「え、そうなんですか?」


 俺はサラに問いかける。


『さあ、聞いたことはありません。

 統括はご存知でしたか?』


『いや、そんな話は聞いたことがない』


 だよな。


「どうやって、存在を知られていないあなたが開発を指揮するんですか?

 実際に最適化都市とか言ってる割に今のファスタルはめちゃくちゃな状態ですよ。

 都市計画も何もあるとは思えません」


『私の管理方法の開示は機密事項に当たります。

 開示には管理者コードが必要となります。

 現在の都市の状況についても機密事項に当たります。

 開示には管理者コードが必要となります』


 つ、使えねえ。

 コイツ、ボケてんじゃないのか?

 何百年も稼働しているのはすごいけど、今も正常に動作しているかどうかは分からないからな。


「あなたは何百年も稼働し続けているんですよね?」


『はい。

 現在稼働時間は2550000時間を超えています』


 いや、そんな時間単位で言われてもな。

 年単位で言ってほしい。


「あなたは現在でも正常に稼働しているんですか?」


 コイツ自身が正常と認識しているのかどうかだけでも聞いておく。


『稼働領域をチェックします』


 またしばらく沈黙した。


『現在の稼働状況は正常領域75%、エラー領域15%、未使用領域10%です』


 やっぱり壊れてる部分があるのか。

 いや、自己診断結果だから完全に正確かどうかは分からないか。


「エラー領域はどの辺りなんですか?」


 答えられても詳細は分からないだろうけど、聞いてみた。


『管理者コードが必要になります』


 うざい。

 というか、這いずりしものとの戦闘で疲れているから、頭がうまく働いていない。


「これ、どうしましょう?」


『どう、と言われてもな』


『そうですね、お姉ちゃんに判断してもらった方がいいかもしれないです』


 できたら、色々情報を引き出した方がいいとは思う。

 だが、今はそんなに落ち着いて考えられない。

 疲れてるし。

 どうせ大切なことは管理者コードが、とか言われそうだし。

 一度、引き返した方がいいだろうな。


「今日は帰りましょうか?

 ユラさんと地理省に連絡を入れた方がいいでしょうから」


『そうだな。

 古代種討伐の報告もしといた方がいいだろう。

 古代種研究会にも連絡したら、よろこんで調査しに来るだろうな』


『ええ、私も今日はいくつかの細胞サンプルだけ持って帰って、後日また来ます』


 カトーさんも帰りたそうだ。

 確かにこの部屋はどこか異様でいづらい雰囲気がある。

 俺は平気だし、統括とサラも気にしてなさそうだけど、カトーさんは非常に辛そうだ。

 この部屋に入ってから、やたら無口なのも辛いせいかもしれない。

 一番戦っていないけど、体力も一番なさそうだもんな。


「じゃあ、一度帰りましょう。

 帰り際にモンスターが出るかもしれませんから、警戒だけはしておきましょう」


『ああ、帰りも俺が先頭を行く』


 それから、自称管理者の部屋を出た。

 道中でモンスターには出くわさなかった。

 階段を上って地上に出た所で、俺はちょっと気になったことを話す。


「さっき、あの自称管理者はモンスターは地下を守護させてるって言ってましたよね?」


『言ってたな』


「じゃあ、次にあそこに行くときには、またモンスターを倒さないといけないんですよね?」


『ああ、その可能性はあるな。

 だが、まあ古代種はもういないだろうから、あとは雑魚だろう。

 俺が行けばなんとでもなる』


 ですよね。

 また、モンスターを倒す必要があるのは面倒なんだけどな。

 今日もっと情報を取っておくべきだったかな。

 でも、ルッツはかなり疲れ切ってるし、おっさんもなんだかんだでボロボロだし、なぜか奥の部屋に入ってからカトーさんが辛そうだし、帰ってきてよかったか。

 まあ、もう後悔しても遅いから考えてもしょうがないな。

 ちなみにルッツは俺が抱いて運んでいる。

 歩くのも億劫そうだったからだ。

 やっぱり、早く帰ってゆっくりさせてやろう。


 それから、真っ直ぐ研究所に帰った。


『ごくろうさん。

 今日は疲れてるだろうから、話し合いは明日だ。

 簡単な報告は俺が済ませておいてやるから、今日はもう帰ってゆっくりしてろ。

 明日、いつもの時間に朝飯を食ったら、昨日打ち合わせをした会議室に来い。

 そこで、話し合いができるように段取りしといてやる』


 おっさんは本当に仕事ができるな。

 自分もかなり疲れてるだろうに。


「すみません、統括も疲れてるのに」


『ああ、まあ気にするな。

 俺も報告が終わったら、帰って寝る。

 さすがに今日は、これ以上何もする気になれんからな』


「じゃあ、また明日。

 お疲れ様でした」


 そう言って解散して、サラと家に帰ってきた。


『夕食はどうします?

 食堂に行くのも面倒ですけど』


「そうですね。

 俺は今日はもう寝ようかと思ってますけど」


『よかったら、簡単なものを作りますよ?

 それだけ食べて寝ましょう』


「いや、サラも疲れてるでしょう?

 ありがたいですけど、大丈夫ですよ」


『私はそんなに疲れていませんから、大丈夫です。

 すぐに作りますから、待っててくださいね』


 そう言って、サラはキッチンの方に行った。

 俺はその間に、ルッツにカ○リーメイト的な軽食を食べさせる。

 すると、やはりルッツはかなり回復したようだ。

 さっきまで辛そうだったのが、今は普通に元気そうだ。

 やっぱり、前のは偶然じゃなかったんだな。

 カトーさんに聞いてみたら何か分かるだろうか。

 確定ではないが、ルッツは古代種の可能性があるから、古代種研究会の人に聞くのがいいだろう。

 元気になったルッツを撫でていると、

 

『お待たせしました。

 本当に簡単なものですけど』

 

 と言って、サラが夕食を作ってきてくれた。

 パンとスープだったが、食べ始めると、思ったより腹が減っていたらしい。

 すぐに完食してしまった。


「ごちそうさまでした。

 すごくおいしかったです」


『お粗末さまでした。

 ユウトもルッツ君もおなか減ってたんですね』


「そうみたいです。

 自分でも気づいてなかったですけど」


 まだ、緊張が解けきってなかったんだろうな。


『ところで、ルッツ君が元気になってるのは』


「ええ、この間ユラさんにあげた軽食の残りを食べさせました。

 やっぱりあれを食べると回復するみたいです。

 古代種だからですかね?」


『どうなんでしょう。

 一応、お姉ちゃんには話しておきますね。

 色々調べているみたいですから』


「お願いします。

 いつもなら、これからマナを使う練習をするんですけど、今日はもう寝ましょう。

 ルッツも休ませたいので、明日は朝練も休みます。

 ゆっくり起きてから、一緒に食堂に行きましょう」


『分かりました。

 じゃあ、おやすみなさい』


 俺はその後、すぐに眠りについた。

 あー、シャワー浴びないと気持ち悪いな、と思ったが、限界だった。




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