11日目終了 違和感~ファスタルの地図
土竜を倒して、探索を続けている。
「そういえば、今日モンスターとほとんど遭遇しなかったのって、さっきの土竜がうろついてたからですかね」
『可能性はあるな。
サラマンダーにそんな危機回避能力があるとは思えんが、ここに出現するやつはどうも他の場所に現れるやつより頭がいいようだからな』
なんせ群れで襲ってくるからな。
一匹を囮にする頭脳プレーもしてくるし。
「地下で生活していると頭が良くなる、ってことがあるんですかね」
『はっきりとは分からんが、過酷な環境で生活した方が知恵がつくってのはあるかもしれんな』
「そうですねえ。
ここはいい環境とは思えませんもんね」
『モンスターの生態については、分かっていないことも多いから、なんとも言えんがな』
そういえば、以前図書館にモンスターに関する本が置いてあるのを見かけたな。
今度、時間があったら読んでみよう。
おっさんが知っている以上の情報があるとは思えないけど、俺自身の勉強のために見といた方がいいだろう。
2人で話しながらマッピングを続けた。
昨日と今日でエリアマップ2つ分が作れるかどうかってところだ。
やっぱり普通に裏通りのマッピングをするよりはペースが遅い。
仕方ないか、ドラゴンとかいるんだし。
モグラだけど。
しばらく探索を続けていたところ、またドアを見つけた。
昨日見つけた開かないドアとよく似ている。
「統括、これ」
『ああ、開けるぞ』
おっさんが開けようとする。
だが、やっぱり開かない。
「なんなんですかね。
定期的に設置されている何かがあるんですかね」
『どうだろうな。
もしかしたらただの休憩用の部屋かもしれんしな。
街道なんかでも数kmおきに休憩所は設置されているからな』
ありえるなあ。
開かないからなんとも言えないけど、いっそ無理に開けてみようか?
「ヨーヨーでドアごと吹っ飛ばしてみます?」
『それは最終手段だ。
ある程度探索が進んだら考える』
おっさんって見た目的にはすぐ吹っ飛ばせって言いそうなんだけど、ちゃんとしてるんだよな。
俺も見習わないと。
「そうですね。
古代の地図に何か描いてあるといいんですけどね」
『そうだな。
だがまあ、それはあんまり期待せずに待った方がいいだろうな』
確かに、期待していて何もなかったら、余計にがっかりするからな。
期待してなくて、有用な情報が見つかったら最高だ。
うん、焦っても仕方ないよな。
俺もそんなにどんどん進めたい派じゃないしな。
気を取り直してじっくり調査を続けよう。
しばらくマッピングを続けた後、ふと、ここまでの時点で出来上がった地図の全体図を眺める。
「うーん、やっぱり裏通りと同じ感じに見えますね。
なんか普通に悪くない感じの区画を無理やり迷路みたいにした、というか」
『そうなのか。
どの辺がそうなんだ?』
「全体的にそうなんですけど、分かりやすいのは、例えば、この辺ですよ。
ここに変な分岐があって、曲がりくねった道があるから、分かりにくくなってるでしょ?」
真っ直ぐな道がつながっている所に、変な道がくっついているせいで混沌感が漂う感じになっている。
『確かにそうだな。
これは、どういう意図があってこんな道にしたんだろうな』
「どうでしょうねえ。
地図上では邪魔に見える道でも実際は必要になることがあったとか?
それか、外敵が迷いやすくするためにわざと迷路みたいにしたとか?」
自分でそう言ったものの、あんまり説得力のある説ではないよな。
おっさんも首をひねっている。
そんなことを話しながらその後もマッピングを続けた。
土竜を倒した後は、またモンスターとは出くわさなくなった。
調査が捗るのはうれしいが、ちょっと不気味な違和感があって、気分は良くない。
自分はモンスターが出ても戦わないから、こんな風に思えるのかもしれないが。
おっさん、モンスター全部押し付けてすまん。
とにかく、俺の思いとは裏腹にその後もモンスターとは遭遇しないまま、その日の調査を終えた。
『今日は、それなりに進んだな。
モンスターが出ないのは不気味ではあるが、調査が進むのは悪いことじゃない。
気にしても仕方がないから、いい方に考えた方がいいだろう』
おっさんも不気味には感じていたらしい。
いかにも何かがいそうな雰囲気があったからな。
『とにかく帰るか。
帰りも警戒だけは怠るなよ』
「はい、分かってます」
とは言ったものの、どうしても行きよりは帰りの方が気は緩んでしまう。
通ったことがある道を戻ってるわけだからな。
家に帰るまでが遠足とはよく言ったものだよな。
気を抜いた帰り道にこそ事故は起きるんだ。
高名の木登り、だっけな。
昔、学校で習った話だ。
意味は同じだ。
と、いらんことを考えている時点で警戒心が薄れてるってことだよな。
集中集中。
などと、明らかに散漫になっている注意のまま、帰り道を進む。
大抵、こういう時に事故に遭ったりするものだと思いながら帰っていたのだが、この日は本当に何も起きずに研究所に帰ることができた。
もしかして、地下のモンスターはおっさんがほとんど倒してしまったんじゃないだろうな。
そのまま、研究所の食堂に向かう廊下をおっさんと歩いているときに、前を歩くサラを見つけた。
「サラー、ただいま」
俺は少し大きな声でサラに話しかける。
『ユウト、おかえりなさい。
今戻ってきたんですか?』
「ええ、サラも今から夕食ですか?」
『はい、ご一緒します』
今日も3人と1匹で夕食を食べることにした。
昨日ほどサラが心配していなさそうだったので、統括と今日の探索について話す。
「それにしても、今日は土竜以外はホントに全然モンスターを見ませんでしたね。
朝に一体サラマンダーを見たくらいですよね」
『そうだな。
何かがいそうな気配はあったんだが、はっきりとは分からん』
『わふ』
おっさんの言葉にルッツも声をかぶせる。
いや、分かってるんかいな。
「統括が地下のモンスターをあらかた倒しつくしちゃったとか?」
『それなら今後が楽でいいが、可能性は低いと思うぞ』
「どうしてですか?」
『勘だ。
だがな、今までの俺の遺跡探索の経験から言っても、未探索の遺跡にはもう少しモンスターが住み着いていることが多い。
出ないに越したことはないが、油断せずに行くべきだろう』
「それはそうですね」
と、話しているところに
『失礼します』
総務課の職員らしき人が話しかけてきた。
いつもの俺の担当者ではない。
おっさんに用があるらしい。
『統括、昨日頼まれた件なんですが』
『おう、どうだった?』
『それが、統括とユウトさんの名前で連絡したら、すぐに返事とともにこれが送られてきました』
そう言って、おっさんに書類の束とメモらしきものを手渡す。
『ご苦労。
礼とともに確かに受け取ったと返しておいてくれ』
『分かりました。
それでは、失礼します』
そう言って、職員は去って行った。
「統括、それは?」
俺の名前も出ていたから、気になって聞いた。
『おう、お前が話していたファスタルの地図らしい。
昨日、貸してくれるように総務課から連絡したんだが、もう届けてくれたようだな』
「すごいですね、さすが統括」
『いや、これはお前の名前を出したからだろう。
お前によろしく、とメモが挟んである。
メモの差出人は、レオンハルト、だな』
ああ、レオンハルトさんか。
俺のマッピングの依頼者だ。
仕事が早いな。
『お前は依頼者から気に入られているようだな。
そのおかげでこれだけ早く対応してくれたんだろう。
よかったな』
そういえば、総務課の担当者もそんなことを言っていたな。
信頼されたから、これから便宜を図ってもらえそうだと。
「なぜ気に入られたかは分かりませんけどね。
とにかく、それを見てみましょう」
そう言って、食堂のテーブルに地図を広げる。
機密情報というわけじゃないらしいから、ここで広げても問題ないだろう。
何枚かに分かれているようだから、1枚ずつ広げて内容を確認することにした。
「ああ、こっちが地下のようですね」
『そのようだな。
どうする?
地下から先に見るか?』
「いえ、地上の方から先に見ます。
地下は後でじっくり見ます」
そう言って、地上の地図を見始める。
ファスタルは広いだけあって地図もそれなりの量があった。
古い地図の割には傷んでいない。
もしかしたら、これは写しかもしれないな。
原本を貸し出すわけにはいかないだろうから当たり前か。
全体的な広さで言えば、今のファスタルよりは狭そうだった。
今のファスタルの広さがはっきりとは分からないけど、今ほど裏通りが広がっている感じがしない。
『どうだ?』
「やっぱり、この地図は間違ってないんじゃないかと思います。
全体は分からないけど、多分、ここが俺がマッピングを終えているエリアです」
裏通りの一部を指で示す。
「ここは、俺の持ってる地図のこの辺りだと思うんですけど、こことここが一致すると思います」
そう言って、古代の地図と俺の地図の両方を示した。
『確かに。
今の地図の方がめちゃくちゃな分岐があるが、言われてみると、古代の地図にある道は今もあるようだな』
『ほんとですね。
これくらいの道だったら私も迷わないのに』
とは、古代の地図を見たサラの言葉だ。
サラは裏通りにトラウマがあるからな。
「となると、ファスタルは古代文明当時には存在していたんでしょうね。
その上に現在のファスタルを作ったと。
まあ、それ自体は意外でもないですけどね」
『そうだな。
古代に街があったのは、ここが街を作るのに適していたからだろう。
現在の文明ができ始めた時に同じ場所が街を作るのに適しているのはおかしなことじゃない』
「そうですね。
問題はなぜこんなに今がごちゃごちゃしているか、ですが。
今日探索している時に話していた通り、それは地下にも言えることですけど。
やっぱり、まだなんとも言えないですね。
たまたまそうなった、という可能性もありますし」
『そうだな。
人がどんどん集まってきて、自分の都合で家や道を改築したり増設したらめちゃくちゃになる可能性はありそうだ』
「まあ、今の話はレオンハルトさんにも報告しておきます。
歴史学者は騒ぐかもしれませんね。
俺は興味ありませんけど。
じゃあ、地下の地図を見ましょう」
もしかしたら、これは世紀の大発見かもしれないけど、俺は興味がない。
というか、この世界の歴史なんてそんなに知らないし、興味を持ちようがない。
サラもおっさんもそれほど興味はないようだった。
地上の地図を一旦片付けて、地下の地図を広げる。
「地下の方は全然マッピングも進んでませんし、地上と違って、大通りみたいな分かりやすい基準がないから、あの階段の場所がどこか分かりにくいですね」
『仕方ないだろうな。
端から見ていくぞ』
そう言って、3人で地図を見る。
『この所々にある印はなんでしょうね』
そう、サラの言う通り、地図には通路に印がしてあった。
それは全体に散らばって存在していた。
「統括、これがあの開かない扉かもしれないですね」
『ああ、俺たちが見つけたのはまだ2つだが、こんなにあったのか』
全体では、多分30個以上あるだろう。
「これは何でしょうね?」
その印の中でも一際大きく描かれているものが地図の端の方にある。
『この地図にある印の中では明らかに一番大きいが、なんだろうな』
「なんかいかにもお宝がありそうな感じしません?」
『お宝?
まあ、否定はできんな。
古代遺跡からすごいものが見つかることはままある。
これもそういうものを示していても不思議ではない』
そういうのって、ロマンがあるよな。
やっぱり探索なんてするんだったら、ご褒美があった方がいい。
「ただ、この印の前に大き目の空間が描かれてますね。
いかにも強力なモンスターとかいそうですよね」
『それはどうだろうな。
これまで探索された遺跡でも遺物のある場所の手前に強力なモンスターがいたという話は確かにある。
だが、どこもそうというわけじゃない』
「そうなんですか?
どちらにしても、気になりますね。
明日、ここを目的地にして進んでみません?」
『それは構わんが、ここがどこか分からんだろう』
そうなんだよなあ。
でも、こんなん描かれてたら気になるよな。
攻略サイトを見ている気分になって、自分で全部探索したい派の俺としてはちょっとズルをしているような気がしているが、見つけてしまった以上、非常に気になる。
『この印はなんでしょう?』
サラがたくさんある印とは違う、あまり目立たない印を示しながら言う。
「ん?
これは、なんだろう?」
階段、ぽいよな。
「統括、これはあの階段じゃないですか?」
『俺に聞くな。
俺には分からん』
俺は、この二日間で作った自分の地図とサラが見つけた印の周辺の地図を見比べる。
「やっぱり、そうですよ。
これがあの階段ですよ。
これで、この地図がどこがどこなのかある程度分かりますよ。
サラ、ありがとうございます。
これで、探索がやりやすくなりますよ」
『やった。
私、ユウトの役に立ちました?』
「ええ、とっても。
統括、これで位置が分かりますから、明日はこの印を目指してみましょう」
『それは構わんが、お前の言うとおり、この手前の空間に強力なモンスターがいたらどうする?
土竜くらいのやつなら、どうとでもなるだろうが』
「それなんですけどね、この地図を見るとこの印の所に行くには手前の空間は避けられないんですけど、今はたくさん横道とか増えてるじゃないですか。
もしかしたら、この空間を避けて印にも辿り着けるかもしれないと思って」
『なるほどな。
この地図は参考にはなるが、完全に鵜呑みにはしない、ということか。
いいだろう、お前に任せよう』
よし、いい目標ができたぞ。
探索は嫌いじゃないけど、ただ続けていると緊張感が薄れていくからな。
裏通りのマッピングは別にそれでもいいんだけど、地下はモンスターもいるし、罠もあるからな。
目標を持って、集中して探索した方がいい。
『じゃあ、明日はそれで進めるぞ』
そう言って、統括は食堂を出て行った。
俺とサラも食事を終えていたので、帰宅した。
いつも通り、データを整理した後、サラと一緒にマナを使う練習をした。
昨日、ユラさんから押し倒せだの何だのと言われたせいで少し意識してしまったが、集中しないとマナの扱いが雑になるので、できるだけ考えないことにした。
ある程度練習した後、寝ることにした。
明日は地下のことが色々分かるかもしれない。
楽しみだけど、安全に進めるようにしないとな。
高ぶりそうになる気持ちを抑えてルッツを撫でながら眠りについた。




