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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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地下探索~帰宅~飲みの誘い

 昼食後、さらにマッピングを続けた。

 

 時々サラマンダーに襲われることはあったが、全部おっさんが撃退した。

 最初の数回は俺もいちいち緊張していたが、おっさんがあまりにもあっさり片付けていくから、少しずつ緊張感は薄れていった。

 ただ、罠がないかどうかについては、ずっと警戒していた。

 おっさん曰く、そんなに頻繁に罠に出くわすことはない、とのことだったが、用心するに越したことはない。

 

 しばらくそのままマッピングを行っていたが、階段を降りた地点から、1km程奥に進んだとき、壁にドアがついているのを見つけた。

 この地下はずっとトンネルのような構造で、分岐はいっぱいあったものの、ドアを見つけたのは初めてだった。

 

「入ります、よね?」


『ああ、調査に来ているわけだからな。

 俺から入るぞ』


 そう言って、おっさんはドアを開けようとした。

 

 開かなかった。


 微妙な空気が流れた。


「鍵かかってますか?」


『ああ、そうらしいな。

 ドアを破壊して開けてもいいが、さっきの罠のこともあるし、あまり迂闊なことはできんだろう』


「どうしましょう?」


『最終的には中を調査する必要があるだろうが、もう少し先でもいいだろう。

 現状、この地下がなんのために作られたのか、見当もつかんからな。

 このまま調査を進めれば、この空間の利用目的が分かるかもしれん。

 そうすれば、この部屋が危険かどうかの予想ができる可能性がある』


 なるほど。

 そういえば、俺はモンスターにばかり気をとられてこの地下の空間のことをあんまり考えていなかったな。

 普通、地下に空間がある目的と言えば、地下鉄、地下道、ショッピングモール、駐車場、倉庫とかじゃないだろうか。

 電車なんてないし、店も今のところはなさそうな感じだし、そうなると、地下道とか倉庫ってことになるのかな。

 地下道ってのはありそうな気がするな。

 古代文明にはバイクなんかがあったみたいだから、地上とは別に地下にも道路を作ったってのはおかしくないと思う。

 そうなると、地上と地下を行き来できるのが、最初に見つけた階段しかないのが疑問だけど。

 このドアの先も全然検討もつかないけど、おっさんの言うようにこの空間自体の利用目的が判明すれば、予想できるかもしれない。

 それにしても、おっさんは冷静だな。

 俺も冷静なつもりだったが、ただモンスターを警戒しながらマッピングをしていただけになっていたらしい。

 調査に来ているんだから、もっとちゃんと考えないとな。

 

「じゃあ、今はマッピングを続けるってことでいいですね」


『ああ。

 それにもし、地理省の人間が持っているファスタルの地図が本物で、この地下のことが書いてあるなら、このドアの先のことも書いてあるかもしれない』


 それはありそうな話だ。


「そうですね。

 とりあえず、俺の地図にもこのドアのことは書いておきます」



 それから、再び調査を続けたが、他には何も見つからなかった。


『そろそろ今日は終わりにするか』


 おっさんが腕時計を見ながら話しかけてきた。

 ちなみに、俺はおっさんに見せるつもりがないのと、戦闘もあると思っていたから、スマホは持ってきていない。

 そういえば、電源も切ったままだけど、充電できるようになったんだから電源は入れておこうかな。

 使う予定はあんまりないけど。


「そうですね。

 今から帰ったら、地上に戻るころには日が落ち始めるでしょうし」


 それから、俺たちは階段へと戻り始めた。

 ここまでの行程は簡易的ではあるが、既に地図にできているから迷うことはなかった。

 帰り道で今まで倒したモンスターを焼きながら戻っている。

 しばらく歩いていると、おっさんがぴたっと立ち止まった。


『ここは、最初にサラマンダーと戦った場所だな』


「そうですね。

 この辺りだと思います」


『死体がない』


「あれ?

 ほんとだ」


 サラマンダーの死体が消えていた。

 10体くらいいたはずだ。


「どういうことだと思います?」


『おそらく、サラマンダーを捕食するやつがいるんだろう。

 餌を探していて、たまたま死体の山を見つけたんだろうな』


「でも、10体くらいいましたよね」


『それだけでかいやつがいるってことじゃないか』


「例えば、どんなやつが考えられそうですか?」


『そうだな。

 肉食でサラマンダー10体を食って、穴倉に住むことがあるやつといえば、

 ドラゴン、だろうな』


 き、きました。

 ドラゴンです。

 ファンタジーです。

 異世界に来て10日、ここまでで一番ファンタジーな展開が来たんじゃないでしょうか。

 いや、存在は聞いていたけど、ついに遭遇する可能性が出てきたのか。

 でも、遭遇するのは怖そうだな。


「ドラゴンていうのは地下にもいるんですか?」


『ああ、飛龍なんかとは違う種類だ。

 他の遺跡の地下で発見されたやつがいる。

 土竜という種類だ』


 ドリュウって土竜だよな。

 モグラじゃないよな。

 でかいモグラなのか?

 それはちょっと期待してるのとは違うな。


「それは、やっぱりドラゴンて言うくらいだから強いんですよね?」


『そうだな。

 なぜお前がドラゴンを強いと思っているのかは知らんが、今日会ったような雑魚とは比較にならんだろうな。

 だが、土竜ならば、よっぽどのことがない限り負けることはないと思うぞ』


「え?

 そうなんですか?」


 安心とともにちょっとがっかり。

 弱いドラゴンなんて。


『ああ、土竜ってのはな。

 弱点がはっきりしてる。

 光に異常に弱いんだ。

 だから、光を当てて動きが鈍った所を仕留める。

 まあ、それなりの防御力はあるから、それを突破する攻撃力がないと倒すのは難しいが』


 ああ、おっさんがいるなら攻撃力は問題ないってことだろうな。

 ヨーヨーもあるし。


「なるほど。

 じゃあ、今のところはまだ、他の人に協力を頼むことは」


『ないな。

 今日一日調査して分かったがな。

 俺とお前の二人で調査を進めるのはかなり効率がいい。

 マッピングしながらでこのペースなら驚異的といってもいいだろう』


「それは統括が驚異的なペースでモンスターを倒しまくってるからでしょう」


『いや、俺のペースはどこに行っても変わらんが、他のやつと調査に行くとな、もっと休息が必要なんだ。

 それは体力的な問題でもあるし、精神的な問題でもある。

 例えばな、今日の状況だったら、おそらくあと3、4回調査を中断して休息をとる必要があっただろう。

 それは確かに必要なことなんだ。

 人の体力や集中力ってのはそう続くもんじゃない。

 だがな、お前は昼飯の時以外、特に休息なしでも集中が途切れることはなかっただろう。

 その上、今も疲労困憊しているわけじゃない』


「まあ、それはそうですね。

 体力には自信ありますし」


『体力だけの問題ではないがな。

 それでだ、この依頼はな、確かに期限が切られているわけではないが、早く進めるに越したことはないんだ。

 だから、問題が起きるまでは俺とお前の二人で進めるのが最善だ』


 これは、褒められてるんだよな。

 良かった。

 少なくとも、どんくさい奴だとは思われてなさそうだ。

 俺自身はそんなに調査が進んだとは思っていない。

 普段の裏通りのマッピングよりは進んでないし。

 まあ、モンスターとかいたからしょうがないんだけど。

 今日進んだのは、おっさんがサクサクモンスターを倒してくれたおかげだから、褒められてもあんまり実感ないんだよな。

 確かにおっさんのペースについて行ける人ってのはなかなかいないんだろうけど。


「分かりました。

 統括がそう言うんでしたら、それが最善なんでしょう」


『あと、お前の犬も結構使える。

 モンスターの気配を察知するのにお前の犬の反応は役に立つ』


『わふ』


「そうでしょうそうでしょう。

 ルッツはいい子ですからね。

 とても有能なんですよ」


 俺のことはどうか知らんが、ルッツを褒められるのは非常に気分がいいな。

 はっはっは、おっさん、やっぱりあんたは分かってるな。


『お前のその反応の意味は分からんが、とりあえずそういうことだ。

 お、階段が見えてきたな』


 それから、程なくして地上に戻ることができた。

 時刻はいつもマッピングを切り上げるのと同じくらいだろう、日の傾き的に。


「じゃあ、研究所に戻りますか」


 おっさんとルッツと研究所に戻った。


『俺は食堂で飯食ってくが、お前はどうするんだ?』


「俺も行きます」


 おっさんと俺は生活のリズムが似ている。

 一緒に行動していて苦にならない。

 いや、最初あんだけ近づきたくないとか言ってて調子がいいとは思うが。

 俺って人を見る目がないんだよな。

 見た目で判断するのはやめないと、とは思ってるんだけどな。


 食堂に着くと、サラが入り口の所に立っていた。

 俺の姿に気が付くと、駆け寄ってきた。

 わざわざ待っていてくれたらしい。


『ユウト、ご無事でしたか?

 怪我はありませんか?』


 ホントに心配しすぎだな。


「大丈夫ですよ。

 見ての通り、何ともないです。

 モンスターは全部統括に任せましたから」


『おう、そんなに心配しなくても問題ない。

 モンスターがいるって言っても、俺からしたら小物ばっかりだ。

 安心しろ、怪我なんてさせねえよ』


 おっさんもフォローしてくれた。

 それで、サラもちょっとは安心してくれたのか、表情が緩んだ。


『ありがとうございます。

 お願いします』


 まあ、今日は俺の初モンスター出現場所探索だからな。

 いや、語呂悪いな。

 とにかく、それでサラも心配してくれたんだろうな。

 明日からは大丈夫だろう。


「サラもこれから夕食ですか?」


『はい。

 ユウトと一緒に食べようと思って』


 かわいいなあ。

 健気というか何というか。

 俺も心配かけないようにがんばんないといけないな。

 

 それから、3人と1匹で夕食を食べた。

 夕食中はサラを心配させたくなかったので、地下の話はしなかった。

 どうしても、モンスターの話題を出してしまうだろうからな。


『あ、お姉ちゃんが今日の調査結果を簡単でいいから報告してほしいって言ってました』


「分かりました。

 じゃあ、この後、ユラさんの部屋に寄って行きます」


『ええ、そうしてください』


『じゃあ、俺からユラには報告せんから、しっかり話しておいてくれ。

 地理省の方には俺から報告がいくように手配しておく。

 ついでにファスタルの地図も借りられるようにしておこう』


「お願いします」


『明日の朝練の時に、明日の探索の打ち合わせだ。

 あと、これからしばらくはお前のナイフの練習をしよう。

 明日もナイフを持ってこい』


「分かりました」


 あ、ルッツどうしよう。

 ずっと一人で遊ばせるのはかわいそうだ。

 いや、楽しそうに走り回ってるけども。

 ルッツも一緒に戦う練習してみようかな。

 今日一日ルッツもモンスターの方に行こうとして、ずっと俺が引き止めていた。

 戦うことができるなら、ルッツも戦ってもいいかもしれない。

 俺としては危ないことはしてほしくないんだけど。

 あ、サラが俺を心配するのってこんな感じなのか。

 うーん、だったらサラの心配も分からなくはないな。

 安心させるなら、俺自身が強くなるしかないな。


「統括、朝の訓練にルッツも参加させていいですか?」


『ああ?

 んん、そうだな。

 まあ、明日試してみてやれそうならやればいい』


「ありがとうございます。

 やったなルッツ」


『わふ』


 俺は戦える、と言いだしそうな表情だ。

 子犬がそんな顔をしてるとかわいい。

 最近子犬感がなくなってきた気はするが。


『じゃあ、また明日な』


 おっさんはそう言って去って行った。

 5人前も注文したくせに食べ終わるのは一番早かった。


 それからすぐに俺もサラも食べ終わったので、帰ることにした。


「あ、サラ、俺帰りにユラさんの部屋に寄って行きますから、ルッツと先に帰っててもらっていいですか?」


『分かりました。

 じゃあ、先に帰ってますね』


 ユラさんへの報告はどうしてもモンスターのこととか話さないといけないからサラには同席してほしくなかった。

 そのままユラさんの部屋を訪ねる。

 ノックをすると、すぐに返事が返ってきた。


『はーい、どちらさま。

 ああ、ユウト君、お疲れ様。

 報告に来てくれたの?』


「ええ。

 サラから聞いてきました。」


『じゃあ、話を聞くわ。

 上がって』


 ユラさんの部屋に入った。

 それから、今日1日の探索結果を報告した。

 簡単でいいとは言われたが、ある程度詳細も報告した。


『なるほど。

 モンスターはそれなりにいるけど、今の所は強いのとは遭遇していない。

 土竜がいる可能性がある。

 罠もある。

 開かないドアがある。

 そんなところかしら?』


「そうですね。

 まあ、モンスターに関しては、どっちかと言うと統括が強いだけで、あんまり弱くないのかもしれませんけど」


『まあ、そうね。

 あとは、街中にそんな所が見つかった以上、どうにかしないとね。

 今は人が近づかないだろうということで放置しているけど、いつまでも放っておいたら犠牲者が出るかもしれないわね』


「ええ。

 その辺りは地理省の方に言った方がいいかもしれない、という話は統括としました。

 一応、統括からその辺は地理省に連絡がいくことになってます」


『そうね。

 うちは研究機関だから、本来街の安全は管轄じゃないんだけど。

 どうしても、調査員がうちの所属だから、そういう仕事も回ってくるのよね』


「そうでしょうね。

 何でも屋って感じがしますしね」


『ほんと、なんでもかんでもうちに押し付けてくるのよ。

 ちょっとは自分たちでやれってのよね』


 それは、誰に対する愚痴なんだろうか。

 多分、国の役人とかだろうな。


『全く。

 あ、ユウト君、この後暇?』


「はい?

 特に予定はないですから、今日のデータを整理して、サラとマナの練習をしてから寝るつもりでしたけど」


『真面目ねえ。

 たまには息抜きしないと。

 飲みに行くわよ』


「ええ?

 今からですか。

 別にいいですけど、ちゃんとサラに言わないと」


『大丈夫よ。

 サラには私から言ってあげるわ』


 ユラさんはそう言うと、すぐに部屋を出て行った。

 俺も一人でユラさんの部屋にいても仕方ないので、ついていく。

 鍵は開けっ放しだけどいいんだろうか。

 いや、この研究所ではユラさんの部屋に無断で入るような人はいないんだろうな。

 ユラさんはそのまますぐにサラの部屋に入って行った。

 ノックもしていない。


『サラ~、ちょっとこれからユウト君借りるわよ~』


 とか言ってるのが廊下まで聞こえてくる。

 俺もサラの家に入った。


『嫌よ。これから一緒にマナの練習をするんだから』


 とサラが抗議しているのが聞こえる。

 リビングで話しているようだ。

 あんまり近づきたくないなあ。

 でも行かないといけないよな。


『もう、真面目なんだから~。

 たまにはユウト君も息抜きさせてあげないと、倒れちゃうわよ。

 サラといると息苦しい~とか言われるわよ~』


 ユラさんが調子に乗り出している。

 止めないと。


「言いませんよ。

 全く何を言ってるんですか」


『あ、ユウト。

 私のそばは息苦しいですか?』


 サラが半泣きで聞いてくる。


「サラ、大丈夫ですよ。

 息苦しくないです。

 ユラさんが調子に乗ってからかってるだけですから」


 違う意味で胸が苦しくなることはあるけどな。

 そんなことは言えないが。


「ユラさんも、サラがかわいいのは分かりますけど、あんまりからかい過ぎると怒りますよ」


『ごめんごめん。

 我が妹ながら、純粋でかわいくって。

 こんなに素直に反応してくれる人はあんまりいないのよ』


 いや、それあんたがいっつも周りにふざけてるから誰も相手してくれなくなってるんでしょ、とは流石に言わない。


『サラ、冗談はさておき、私もユウト君とゆっくり話してみたいのよ。

 いいでしょ?』


『それはいいけど、私も行っていい?』


『それはダメ』


『なんでよ?』


『大人の話をするからに決まってるじゃない。

 あんたがいると話が進まないのよ』


『何よそれ。

 変なこと話すんじゃないでしょうね?』


『変なことって何よ?

 ちゃんと仕事の話が中心よ。

 そりゃまあ他にも話すことはあるけど。

 とにかく、あんたは今日はダメ。

 今度連れてってあげるわ』


 ああ、なんか嫌な感じの話をしてるな。

 俺、ユラさんに色々突っ込まれんじゃないかな。

 勘弁してほしいな。


『じゃあ、そういうことだから、ユウト君行くわよ』


 そう言うユラさんに腕をつかまれてそのまま連れ出された。

 一応、マッピング道具とかナイフとかは部屋に置いておいたから、飲みに行くのは問題ない。


『ユウト、変なこと言い出したら、お姉ちゃんなんか放っておいて帰ってきていいですからね』


 サラが地下探索に行くときと変わらないくらい心配している気がする。

 サラは心配性だなあ。


「はい。

 すぐ帰ってきますよ」


 という会話を最後にユラさんに連れ出された。



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