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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第1章 異世界生活1日目
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 サラさんに街まで連れて行ってもらえることになったので、ようやく、一息つけるかもしれない、そう思いながら、ふと道路の方を向くと、バイクの近くに犬が倒れたままなのに気が付いた。

 サラさんがこの犬を轢きかけたのは俺が砂煙を見た時のはずだから、かれこれ1時間くらいはこの犬は倒れたままのようだ。

 場合によってはもっと長い間こうしていたのかもしれない。


「サラさん、あの犬ですが。」


 とサラさんに犬のことを振ると、


『あ、そう言えばもうずっと動いていませんね。もしかして、もう・・・』


 と暗い顔をするので、俺は犬に近づいてみた。

 今まで犬のことを忘れていたくせにこういうのもおかしいかもしれないが、実は俺は無類の犬好きで、許されることなら仕事をやめてブリーダーになりたいと思っているほどなのだ。


 その犬は真っ黒な大型犬の子犬のようだった。

 子犬なんてみんな小さいが、手の太さなどで小型犬か大型犬かの区別くらいはつくのだ。

 よく見ると呼吸はしているようなので、まだ生きてはいる。

 すぐに抱き上げてみると、弱弱しいながらも反応も返ってきた。


「どうしてこんな所に子犬がいるんでしょう?」


 と俺が呟くと、サラさんも


『おかしいですね。この近くに犬なんか飼っている人はいないと思いますし。』


 と言っている。

 さすがにブリーダーになりたいとは言っても専門家でもなんでもないので、健康なのか、病気なのか、見ただけでは何とも分からない。

 ただ、かなり痩せていてぐったりしているので、状態が芳しくないのは明らかだった。


 そのとき、犬の鼻がぴくっと動き、俺の作業服の胸ポケットのあたりの匂いを嗅ぎだした。

 そこには、俺の非常食のカ○リーメイト的なものを入れておいたのだが、これって、犬に食べさせても大丈夫なのだろうか?

 確かチョコレートなんかは犬には毒だったはずだが。

 でも栄養価が高いのは確かだし、この状態なら放っておいたら先は長くないだろうし、それならばとカ○リーメイト的なものを食べさせることにした。

 すぐに胸ポケットから取り出し、包装紙を取って細かく砕いて犬に食べさせた。


 すると、なんということでしょう。

 あんなに痩せて弱っていた犬がみるみるうちに元気に。


 って、なんでやねん。


 と、取り乱す程に犬は急回復した。

 さすがに痩せたままではあるが、しっかりと自分の足で立ってこっちを見て、しっぽを振っている。


「サラさん、これって?」


 と、訳も分からず、サラさんに聞くと、


『え?なにこれ?ありえない。何あの秘薬?まさか伝承にあるあの・・・』


 とか、一人でぶつぶつ言っている。

 俺はその様子を見て、この状態が異世界でも尋常ではないことを理解した。

 そして今のサラさんに話しかけてはいけない、そんな気がした。

 そしてカ○リーメイトは秘薬ではない。

 ただ、もしかすると、この世界では現代社会の食べ物の栄養価はとんでもない、とかそういうことがあるのかもしれない。

 いや、知らんけど。

 とにかく、犬は元気になったようでなによりだった。


 ただ、このままここに放置すればまたすぐに同じ状態になるのは想像に難くない。

 道路を出ればスライムに襲われて食われそうだし。

 こんなに愛らしいわんちゃんがあの醜悪なスライムに取り込まれるのはちょっと耐えられない、犬好きとして。


 どうすればこの子が幸せになれるだろうか、と真剣に考えてうろうろしていると後ろをちょこちょこ着いてくるわんちゃん。

 やだ、何この子かわいい。

 っと、いかんいかん。


 連れて行きたいのはやまやまだが、今の俺は異世界で家もなく、金もない身。

 どうしようかと本気で悩んでいると、独り言の世界から帰ってきたサラさんが


『よろしければその犬もファスタルまでお送りしましょうか?

 見た所、かなり犬がお好きのようですし、ユウトさんが引き取れないのだったら

 しばらくうちで預かって引き取り手を探しますよ。

 私もそのわんちゃんには怖い思いをさせましたし何かしてあげたいですから。』


 と言ってくれた。

 主はいませり。あなたが神か。


「本当ですか。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。」


 と、土下座する勢いでお礼を言ったのだった。

 その横で犬も上機嫌にしっぽを振っていたのだった。

 いや、犬、本来はお前が感謝する所なのだからな、と思ったが、可愛いから許そう。


『構いませんよ。

 困ったときはお互い様です。』


 と、はにかみながら微笑んでくれたサラさんは本当に綺麗で、心臓がバクバクしながら惚れてまうやろーっと思ったのは墓まで持って行く俺の秘密の一つだ。

 ということで犬も一緒にファスタルまで行くことになったのだった。


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