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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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情報整理とマッピング作業

 雑貨屋のある裏通りから大通りに戻ってきた。

 雑貨屋で話し込んでいたせいで全然気づいていなかったが、昼をだいぶ過ぎていたので、昼食を摂ることにした。

 だが、雑貨屋で色々真剣な話をしていたせいか、あんまりガッツリ食べたい気分でもなかったから、露店で軽食を買って適当に済ませることにした。

 ファスタルの大通りには結構な数の露店があり、こういう軽く食事を済ませたりする時には不便せずに済む。

 適当に目についたサンドイッチのようなものを買って、道路脇にあったベンチに座って、ササッと食事を済ませた。


 食事を終えて、一息ついたところで、雑貨屋の店主に聞いた話について考えることにした。

 家に帰ってから、ちゃんと考えるつもりでいたが、やっぱりちょっと整理しておかないと落ち着かない。

 雑貨屋で色々な話を聞いて、店主自身は自分が行ってきたことに対して成果は出なかったと言っていたが、彼は彼なりに色々動いていた。

 だから、俺が今落ち着けないのは、何もしていない自分に対して、漠然と焦りのようなものを感じているせいかもしれない。

 だけど、今の俺にできることって何があるだろうか。

 実際、全く思いつかない。

 いや、そもそも現状では何が問題なのだろうか。

 根本的に問題自体が分からないのに、解決のために動くことなんてできるはずもない。


 例えば、俺が日本に帰ることに固執していれば、その方法を探すためにトライファークに行く、という選択肢が出てくるかもしれない。

 あるいはサラさんかユラさんに全てを話して、ファスタルの研究所で日本に帰る方法を調べてもらうことをお願いする、という考えが出てくるかもしれない。

 だが、今の俺は基本的に日本に帰ることをそれほど望んでいない。

 今日の朝まで考えていた心残りに関しても、まだ引っかかりがないわけではないが、一応のところは解消したと思っている。


 じゃあ、トライファークがニグートに攻め込むことが問題だろうか。

 それは、確かに大きな問題だ。

 だが、それこそ問題が大きすぎて俺にどうこうできることじゃない。

 国家間の問題だしな。

 まあ、国家と言っても現代社会における国、というよりは戦国時代とかの国に近い規模みたいだけど。

 そのことに関しては、申し訳ないがユラさんに情報を話して俺の役目は終わりだと思う。

 もっと役に立つことができればいいとは思うが。

 この世界の事情に詳しくない俺にはどうすることもできないと思う。

 協力を求められれば、できる限りのことをするのはやぶさかではないが。

 自分のやりたいことしかやらないタイプの俺がこんな風に考えるのは珍しい。

 それだけお世話になっているってことかな、ユラさんというよりサラさんに、ではあるが。

 ただ、現状でやるべきなのはユラさんに報告することだけだと思う。

 それ以降の判断はユラさんに任せるしかない。

 報連相は社会人の基本だし、それくらいはきちんとしないとな。

 ただ、はっきりした情報でもないので、今ユラさんが持っている情報以上ではないかもしれないが。


 他に残った問題、というか分からないことは俺に関することくらいな気がするんだよな。

 俺がなぜ辺境にいたのか、とか。

 店主の話から考えて、トリップを行っているのはトライファークで間違いないんだろう。

 それは疑っていない。

 だから、俺がこの世界に来たのもトライファークにトリップさせられたから、だと思う。

 でも、店主の話から考えても、トライファークからファスタルまでの距離は相当なものだ。

 俺にはそんな長い距離を移動した記憶はない。

 何か事情があって、その間の記憶がなくなったんだとしたら、確かに一応の筋は通る。

 でも、そうだとしても、そんな距離をどうやって移動したのか、全然見当もつかない。


 ただそのこととも関係しているのだが、俺の中で一番気になっているのは、俺はトリップした後、割とすぐにスマホで時間を確認しているのだ。

 まあ、きっちり何日の何時何分何秒とか覚えているわけではないが、あの時、会社で会議していた時間からそれほど時間は経っていなかった。

 それは間違いない。

 だから、トリップした後、そんなに長距離を移動したというのは疑わしい。

 この世界にそんなに高速で移動できる手段があるとは、今のところは考えられない。

 それに、会議の時間からそれほど遠くない時間に俺はこっちの世界にいたのに、ほぼ一年後の俺とメールをしていたという店主の言葉もどういうことなのかよく分からない。

 さっきも考えていたが、俺は心残り、つまり俺の開発した新機能、の件は解消したと考えている。

 それは、店主が俺と【生産管理最適化システム】の件でメールをしたと、言ったからだ。

 その名前は間違いなく俺が開発した機能の名前だ。

 まだ世に出ていない機能だったから、おそらく俺とメールしたというのは嘘ではないのだろう。

 まあ、偶然の一致というのもあるかもしれないが、会社名も合っていたしな。

 パラレルワールド、とかなのかな。

 そんな馬鹿な話が、と思わなくもないが。

 異世界トリップのあとだからなあ。

 ないとは言い切れないのかな。

 もしかしたら単にスマホの表示がおかしくなっていたって可能性だって、ないとは言い切れない。

 他にも、例えば、俺がこっちの世界で元の世界に帰る方法を見つけて、トリップした直後に戻ったから、という可能性だってある。

 でも、それだと、俺はこっちの世界で店主を知った後、元の世界に戻って、店主と初めてメールをすることになる。

 つまり、俺が元の世界に帰ったと考えると、初めて店主とメールをするときには、店主がトライファークによってトリップさせられる可能性が高いことを知っている、ということになる。

 だったら、多少不審がられたとしても、店主にこの世界から元の世界に帰る方法を伝えておくんじゃないだろうか。

 それをしない理由なんて分からない。

 だったら、やっぱり俺が元の世界に帰ったと考えるよりはパラレルワールドの方が納得はできるかもしれない。

 うーん。

 なんとも、もやもやした気分になってきたが、一人で考えても答えは出そうになかった。


 残った問題が俺自身に関することである限りは、そう焦って答えを出す必要もないだろう。

 そう考え直し、


「とりあえず、マッピングしようかな。」


 と、言葉に出して、気分を切り替えたのだった。



 気分を切り替えてから、改めてマッピングについて考えた。

 俺は、こういう知らない場所を歩くときは基本的に端からしらみつぶしにしていくタイプだ。

 一分の隙も残さないように。

 いや、実際の街の歩き方じゃなくて、ゲームのダンジョン攻略の話だけど。

 ゲームとかだと、右上にミニマップが出たりするのがよくあったが、あのマップで探索済みの部分だけ表示されて、探索していない部分は影になっている、というシステムの時は、影がなくなるまで完全に探索することにしていた。

 別にこだわりがあったわけではないが、探索していない所に伝説の武器が入った宝箱があるんじゃないか、とか考えていた。

 それで、報われたことはないわけだけど、満足感はあったから後悔はしたことがない。

 だから、これから行うマッピングについても、それに従うなら、研究所のある端の方から、少しずつ隙間なく調べていくことにするだろう。

 でも、現状で一番必要なのは雑貨屋付近のマップだから、


「やっぱり、この辺りから始めることにするか。」


 そう決めて、器具を取り出した。

 まずは、一番使うことになるであろう、大通りから雑貨屋までの道を地図にして、そこを起点に周りを調べてみることにする。

 しらみつぶしにするのはここから始めてもできるしな、と考えた。

 ちなみに、マッピングの進め方なんかは依頼書などで指定されていなかった。

 調査員の好きに進めていい、というスタンスらしい。

 まあ、勝手にするのが好きな俺にはありがたいんだけど、いっそ指定されている方法で淡々と進められたら、その方が楽かもしれないな、とも思った。

 一応、自分なりにどうやって地図を作るかは考えてきた。

 ファスタルは大通りが南北に伸びているらしいので、まずは、それをノートに書く。

 あとは、大通りに原点用プロッタを設置して、そこから、裏通りに入っていき、おおよそ10mずつくらいで計測用プロッタを設置して、座標を読み取り、ノートに道を書いていく。

 その際に、プロッタの座標値の履歴もノートにメモしておく、履歴は後でも確認できるが、念のためだ。

 ただ、原点用プロッタの位置は常に(0,0)になるので、原点用プロッタを設置した位置も後でちゃんと計測用プロッタで計測する。

 全ての原点をどこに置くかを決めていなかったが、今日マッピングを始めるので、この雑貨屋の裏通りに続く道の真ん中をこれからの全ての調査の原点とすることにした。

 と、計画を立てたので、後はそのまま計測して地図を描く、という作業を繰り返した。



 気づけば、日が傾き始めていた。

 マッピング作業が楽しかったので、時間を忘れて没頭していたのだ。

 もちろん、途中で休憩はしたし、ルッツに水をあげたりもしていたが。

 元々こういう作業自体嫌いというわけではないし、ノートに地図が出来上がっていくのはとても気分がよかった。

 でも、今日ここまで楽しめたのは、このマッピング装置のおかげだと思う。

 俺はかなり電子機器が好きな方だから、昨日の夜にこの装置の動作を確認してみた時点で、既にかなりときめいてはいた。

 だからこそ、夜にあまり眠れなくなってしまったのだが。

 実際に使ってみたら、想像以上に楽しかった。

 自分が決めた点でピタッと止まって、浮かんでいる装置。

 そして、その装置の場所を見ることができる制御端末。

 測定後、自動で手元に戻ってくるプロッタたち。

 いや、分かってもらえなくてもいいが、こういうことにもロマンを感じる人種がいるんですよ。

 なんていうか、自分の思った通りに動いてくれる機械は心地いいんですよ、非常に。

 近未来的だし。

 そんなことを考えながら夢中で作業をしていたので、時を忘れたわけだが、マッピング自体も思ったより進めることができた。

 今日だけで1km四方のマップは作成できたと思う。

 まあ、これが早いか遅いかなんて全然分からない。

 ただ、使っている装置が優秀なので、普通の測量で地図を作るよりは断然早いと思う。

 マッピングをしていて、改めて感じたが、ファスタルの裏通りは本当に道が入り組んでいる。

 普通に測量なんてしていたら、どれだけかかるか分からない。

 それに、俺は今日、というかこれからもだが、ファスタルは土地が平面上にあると仮定して地図を作成することにした。

 実際は高低差のデータも取らないと正確な地図にはならないだろう。

 だが、依頼で渡された装置は平面での距離測定しか想定していないようだし、街中だからほぼフラットだろうと仮定して、作業を進めた。

 まあ、問題ないだろうと思っている。

 進捗を報告して高低差も考えてやり直せ、と言われたら気が遠くなる気もするが、まあ大丈夫だろう。

 これで10万もらえるとか、おいしすぎる。

 なんて考えていたが、そこはサラさんも言っていた、誰もやりたがらない仕事だからなのだろう。

 俺自身は今日は何も感じなかったが、身の危険があることもあるらしいし。

 確かに夜真っ暗な状態だと危険かもしれないな。

 裏通りには電灯なんて見当たらなかったし。

 暴漢に襲われたらひとたまりもないだろう。

 大人の男を襲う暴漢はあんまりいないとは思うけど。

 まあ、キリもいいし、今日の所はこれくらいにしとくか。


「ルッツ、帰ろう。

 今からなら食堂が混む前には帰れそうだ。」


『わん。』


 ルッツと2人で研究所への帰路についたのだった。




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