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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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トリップ同士2

 店主が退室したので、少し考えてみた。

まあ、色々考えることが多いので、細かい整理は帰ってからにするが、店主が言っていた殺された人ってのは、ユラさんが言っていたあの国から引き抜いた研究者だろう。

4年前の話だったんだな。

まだ、分からないことだらけだが少しずつ話がつながってきた気がする。


『待たせたな。』


 手にコーヒーカップを2つ持って、店主が帰ってきた。


「あ、すいません。」


『おう。

 そういえば、おまえこの世界における小国、例えばこの国、ファスタルとかニグートなんかがどの程度の広さか知っているか?』


「いえ、全然。

 ファスタルってのはこの街の名前じゃないんですか?」


『ああ、小国ファスタルは交易都市ファスタルを始まりの街とする国なんだと。

 だから、この街の名前と国の名前が同じらしい。

 で、小国の広さだがな。

 まあ、国によってまちまちなのは確かだが、大体、日本でいう関東とか近畿とかのイメージの広さだ。

 関東と近畿の正確な広さなんか知らんからな。

 あくまでイメージの話だ。

 いくつかの県を合わせたようなサイズ、って感じだな。

 俺は馬で移動したから、距離は結構いい加減だが。

 ただ、トライファークはかなり狭い。

 一つの県ほどのサイズもないかもしれない。

 いや、トライファークの全土を回ったわけじゃないが、実験室から逃げ出した後の4年間、色々な国を見て回ってたんだ。

 トライファークの周りの国も回っている。

 だから、トライファークの広さも大体分かるし、他の小国もある程度の広さは分かる。

 そして、ニグートはかなりでかい。

 関東と東北を合わせたくらいだと思う。

 この二つ以外の小国はどこも同じくらいの広さだ。

 まあ、あくまで俺が見た国は、だが。

 ファスタルとトライファークは間にニグートを挟んでいるから、かなり距離的には遠い。

 だから、おまえがこの世界に来た次の日にファスタルにいたというのは意外、というか、ありえないと思ったんだ。』


「なるほど。

 まあ、俺が気がついたときには、辺境、多分ファスタルの端になるのかな、にいたから、そこからバイクに乗って来たので、すぐにこの街には来れましたけど。」


『そのようだな。

 まあ、なぜ辺境にいたのかは分からんが、バイクでファスタルに来れたのは運がよかったんだろうな。』


 本当にそう思う。

 店主も言っているように俺があの辺境にいた理由は全く分からないが。


『それで、さっきは俺がトライファークから出たところまで話したな。

 その後は、さっき言ったとおり、俺は色々な国を見て回ったんだ。

 理由はいくつかある。

 俺が飛ばされた世界がどんなところか確認すること。

 他のトリップ者を探すこと。

 元の世界に帰る方法を探すこと。

 まあ、その他もろもろだな。』


「ということは、帰る方法は、」


『ああ、今のところ、俺は見つけていない。

 トライファークで研究者に聞いたことはある。

 その時は、なんとも言えない顔で謝られた。

 多分呼べるが、帰せないんだろう。

 帰る方法に限らず、トリップに関しては、ほとんど何も教えてもらえなかったがな。

 俺の見たところでは、少なくとも4年前までのトライファークには帰す技術はなさそうだった。

 そして、それ以外の国ではもっと可能性はなさそうだった。

 技術レベルとして、まだマシなのはニグートとここファスタルだ。

 ニグートは、まあ、技術レベルは低くないが、国が気に食わない。

 自分が大国だからと、トライファークを取り込もうとしている。

 おまえが言っていた小競り合いのことだな。

 俺はトライファークのことは恨んでいるが、敵の敵が味方ということにはならない。

 トライファーク以上にニグートのことは気に食わない。

 だから、俺はファスタルに来ることにした。

 この国は研究所がそれなりの成果を出している、と聞いたからだ。

 来てみて俺なりに少し調べてみたんだが、現状トライファーク以外にトリップのことを知っている国はなさそうだ。

 だからまあ、この国の研究所は悪くないみたいだが、知らないことを研究はしていないだろうから、帰るのは望み薄だな。

 俺が名乗り出て、その研究を頼むこともできるかもしれないが、国の研究所でそういうことを大っぴらにすれば、おそらくトライファークに気づかれるだろう。

 そのリスクと俺の元の世界に帰りたい気持ちとを天秤にかけて考えたが、俺はもう帰ることは諦めた。』


「そうですか。

 じゃあ、まだこの国にいるのは?」


『まあ、帰るのを諦めた時点でいたのがここ、ってのが大きいが、ファスタルはけっこう居心地もいいからな。』


「他国を回って、他のトリップ者を見つけることはできたんですか?」


『残念ながら、それも見つからなかった。

 見た目では分からんから、探しようがなかったのもあるがな。

 世界中に何人かいたとしても、それを馬で回って見つけるってのは無謀だろう。

 まあ、おそらくいたとしてもほとんどがトライファークにいるんだろうしな。

 それで、ファスタルに来てから、ここで運よくトリップ者がこの店に入るのを待つことにした。

 と言ってもこれもほとんどもう諦めていたから、半分投げやりだったな。

 ちょっと目立つ外見の店にして、日本にあったのと似ているおもちゃを店頭に並べて、それに反応するやつを確認することにしたんだ。

 何人か反応するやつはいたよ。

 だが、それは珍しいおもちゃだから見ていただけで、使い方を知っているやつはいなかった。

 そんな風に色々諦めて毎日だらだらしていた所に、おまえが現われた、というわけだ。』


「なるほど。

 そういうことだったんですか。」


『ああ、まあ、俺がしてきたことってのはこんなもんだな。

 まとめて話すとなんも成果が出てないのが情けないがな。

 まあ、一気に話したから色々抜けてるかもしれんが、俺もこう見えて、久々に同郷のやつと話せて喜んでるんだぜ。』


 ふむ、店主の言っていることは信用できるだろう。

 帰る方法は、多分今はないんだろうな。

 意外とショックは少なかった。

 そんな方法がすぐに見つかるとは思っていなかったこともあるが、店主の言ったことを信じるならば、俺の心残りだった製品はちゃんと完成していたらしい。

 となると、日本に対する心残りはほとんどない。

 いや、家族とかのことはあるけど。

 ただ、親には悪いけど、今更親に会えなくて寂しい、ってことはあんまりないな。

 なんて親不孝だろう。

 まあ、こっちの世界に来て痛感してるけど、俺ってけっこうクズだよな。

 あ、だからあんまり友達いなかったのか。

 泣けてきた。

 いやいや、また思考が変な方に逸れてしまった。


「そうですか。

 俺がこっちに来てからしたことってのはほとんどないので、正直話すことってあんまりないですね。」


『そうだろうな。

 5日でどうするもこうするもないだろう。

 おまえから聞きたいことはないのか?』


「いくつかあります。

 まず、研究所の所長が心配しているのは、このヨーヨーの技術です。

 これはこんな小ささなのにかなりの破壊力を出すことができます。

 というか、これは武器なんですか?」


『まあ、一応武器として作られたみたいだな。

 銃よりも作りやすく、軽量で、大きさも小さいからな。

 元々はただのヨーヨーとして作ったみたいだが。

 さっきも言ったが、設計したのはトリップして来たやつみたいだからな。

 日本人がヨーヨーを武器として設計したとは考えにくいだろう。

 ヨーヨーに武器としての機能を付けたのはトライファークの研究者だ。

 武器としての機能ってのは、あのヨーヨーから出る光のことだが。

 原理は知らんが、ヨーヨー自体の回転力と糸を通しての回転力の両方を利用して玉を飛ばしているみたいだぞ。

 分解したら中に金属製っぽい玉が入っている。

 その玉にエレクターをまとわせて飛ばせるようになっているらしい。

 自分からマナを使ったら、エレクターのまとわせ方を制御して飛ばすことができるんだと。

 ああ、その玉だがな、トライファークを出るときに結構な数をくすねてきたからお前にやる。

 俺には使えんし。

 ただな、あれは普通はそんなに威力は出ないぞ。

 多分、銃よりは弱いはずだ。

 そのせいだと思うが、あんまり数は作っていなかったと思う。

 俺が目にしたのは数個だ。

 まあ、作られなかったのは俺がうまく使えなかったのも原因の一つかもしれんが。

 俺は、ヨーヨーとしてはおまえほどじゃないにしろ、多少は使えたが、マナをうまく使えなかったから、単におまえよりも勢いのない玉が出るだけだった。

 人に殴られるくらいの衝撃はあったがな。

 逆にトライファークの研究者はマナは使えたが、ヨーヨーの使い方が下手糞だった。

 俺に使い方を見せたやつは本当に下手糞だった。

 センスがなかった。

 普通ちょっと練習したらもう少し使えるだろ、ってくらいに。

 そのおかげで、という言い方はおかしいが、とにかくそいつが使っても大した威力は出なかった。

 だから、多分トライファークではこのヨーヨーを武器として使う使い方は見切りをつけられてる。

 うちの店がめちゃくちゃになったあれは、おまえがめちゃくちゃな速さで動かすからで、あのヨーヨー自体が凶悪な破壊力があるってわけじゃないぞ。』


「そう言われてみれば、確かにそうかもしれませんね。

 でも、あのヨーヨーは使えなかったとしても、トライファークは武器の開発も積極的に進めてるんですか?」


『いや、そうでもないみたいだぞ、俺の知る範囲ではだが。

 さっきも言っていた研究の方向性についての揉め事ってのはどうもそのことらしい。

 あくまで、技術の進歩を追及したがっている派閥とニグートの干渉が腹に据えかねて武力増強を主張している派閥、その二つの派閥が争ったみたいだ。

 ヨーヨーを武器にしようとして改造したのは、その武力増強を主張している派閥側の研究者だな。

 その揉め事があったのが俺がトライファークを出た4年前になるから、それから4年が経ったことになるわけだが、その間でトライファークがニグートに攻撃をしかけた、ということもないようだから、まだ技術の進歩を追及する派閥が優勢だと俺は考えている。

 まあ、あの国の人間は元々好戦的な感じではなかったからな。

 日本人のイメージに近かったぞ、内向的だし、周辺からちょっかい出されても基本的には何もしないし。

 それだけにキレたら何をするのか分からんのかもしれんが。』


「じゃあ、とりあえず今すぐトライファークが攻めてくる、ってことは。」


『可能性は低いだろうな。

 まあ、トライファークの内情なんて分からないから、確かなことは言えんが。』


「そうですよね。

 その辺のことは研究所の所長にも話します。

 一応今のところは攻め込まれる可能性は低そうだと。

 ただ、トライファークに4年前までいた人が言っていたことだから、今の状況ははっきりとは分からないと。

 トライファークにいたことは話しても構いませんか?」


『まあ、仕方ないだろうな。

 だが、あんまり干渉してくるなら、俺はファスタルを出るからな。』


「分かりました。

 そう言っときます

 トライファークにはいたけど、研究者ではなく、詳細は知らないってことにしときます。」


『ああ、そうしてくれ。

 実際、俺は一応技術者だが理屈に強いタイプではないからな。

 それで、お前はこれからどうするつもりだ?

 数少ないトリップしたもの同士だからな。

 手伝って欲しいことなんかがあるなら、面倒なことでないなら、協力してやっても構わない。』


「ありがとうございます。

 俺は当分は調査員として働きつつ、もう少しこの世界について、調べてみます。

 まあ、あまり持ち合わせがないので、当面の生活費を稼ぐ必要もありますし。

 今はまだ、情報が整理できていないので、後日また聞きたいことがあったら来てもいいですか?

 当面はファスタルの裏通りのマッピングをするつもりなので、この辺をうろつくつもりですから。」


『おう。

 それは構わん。

 この店は大体毎日開けてる。

 いつでも来い。

 俺も他に話すことを思い出すかもしれん。』


「じゃあ、今日のところは帰ります。

 色々参考になりました。

 これからもよろしくお願いします。」


『ああ、こっちこそよろしく頼む。』


 雑貨屋を出た。

 色々情報が手に入ったな。

 これからどうしようか。

 ちょっと整理しないとなんとも言えないけど今すぐに俺にできることはないような気がするな。

 一応、ユラさんに報告はしといた方がいいだろう。

 それ以外は、今はちょっと思いつかない。

 やっぱり当面はマッピングを進めればいいか。


 気づけば、昼を過ぎていたようだ。


「とりあえず、適当に飯食いに行くか。」


 研究所に戻るのは面倒だったので、ファスタルの表通りで適当に済ませることにした。

 裏通りを出るときに迷わないように細心の注意を払ったのは言うまでもない。




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