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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第5章 異世界生活5日目以降 ファスタル裏通りのマッピング~地下遺跡
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異世界生活5日目朝

5章開始です。

「ううん。

 あと5分。」


 と言いながら目覚めた。

 今日はこっちの世界に来てから初めて寝覚めが悪い。

 いや、それも仕方ないことだろう。

 なぜなら、今日のマッピングが楽しみすぎて、昨日の夜はすぐに寝付けなかった。

 ベッドに入ったときは眠かったのに、目を閉じると今日のことを想像して眠れなくなってしまった。

 俺、遠足の前の日はなかなか眠れないタイプなんだよな。

 まあ今日は楽しみ半分、怖さ半分、ではあるが、色々な意味で。

 ソワソワしているうちに時間が過ぎてしまって、寝られたのは朝方になってからだった。

 現在時刻は6時だから、多分睡眠時間2時間くらいかな。

 あー、つれーわー、寝てねーから、つれーわー。

 とか考えられる辺り、まだまだ余裕かな。

 仕事の繁忙期なんか毎日こんな感じだったし。


 ルッツとの朝の運動をやめてもいいんだけど、中庭の壁がちゃんと直ってるかどうかも気になっているし、眠い日に朝練を辞めたら、二度と行かなくなる気もしたので、今日も行くことにした。

 ルッツのためでもあるしな。


「よし、ルッツ、今日も行くか。」


『わん!』


 ルッツは今日も元気だ。



 中庭に着くと、おっさんを見かけた。

 が、いつもの絶叫がない。

 暴れ回ってもいない。

 あれ?どうしたんだ?

 と思って、遠巻きに見てみると(決して近づかない)、おっさんはいつも暴れている場所の壁の方をしげしげと見つめているようだ。

 ここから見ている分には壁は完全に修復しているように見える。

 一安心だが、近くで見るとまだ痕跡が残っているのだろうか。

 おっさんはそれに気づいて、不審がっているとか。

 まあ、ありえるよな。

 だって、おっさんがあんだけ暴れ回っても壊れない壁なのに、修復した痕があったら、誰かが何かをやらかしたと考えるのが自然だ。

 この中庭では色んな実験もされているみたいだから、誰かが何かを爆発させて壁を壊す、なんてことは日常茶飯事なんじゃないだろうか。

 じゃないと、壁に自己修復機能なんて持たせる必要がない。

 ということは、中庭がどんな使われ方を前提に作られているかはお察しだ。


 おっさんは壁の様子がかなり気になるのか、まわりのものが目に入っていないようで、俺が中庭に来たことにはまだ気づいていない。

 俺は何も知らない、何もしていない、何も見ていない、ということにして、いつもルッツと運動している場所に移動した。


「よし、ルッツ、今日も行くぞ。」


 ということでいつも通り棒を全力で投げ始めた。


 そろそろ違う遊びも考えたいな。

 こうやって、走り回ってるだけというのも運動にはなるんだけど、毎朝、毎夕やっていると飽きてくる。

 馬鹿みたいに走り回ってるとか、失礼なことを言われることもあるし。

 まあ、これから調査員として働いていたら、夕方の運動はしなくなるだろうから、様子を見て考えるか。



 いつも通り、一時間ほど走り回った後、一度帰ることにした。


「ルッツ、帰ろう。」


『わん。』


 帰るときには、おっさんの


『どおぅらああああああああ』


 みたいな声と地響きが聞こえていたので、おっさんも壁を気にするのをやめて朝練を始めたみたいだ。

 よかったよかった。



 家に帰ると、いつぞやのようにサラさんがリビングから顔を出して、


『あ、おかえりなさい。

 今から朝ごはんを食べますけど、今日も一緒にどうですか?』


 と、朝食に誘ってくれた。

 食堂に行ってもいいけど、ちょっと面倒なので、サラさんのお言葉に甘えることにした。


「ありがとうございます、頂きます。

 いつもすみません。」


『いいんですよ、これくらい。

 昨日は色々教えて頂きましたし、そのお礼の気持ちも込めてです。』


 うん、いい子だ。

 毎日思っている気がする。

 それくらい色々してもらってるって事なんだろうな。

 よし、これからもマナの使い方でいい方法を見つけたら、サラさんに教えるようにしよう。


「じゃあ、今日も俺が食器を洗っておきますよ。

 いってらっしゃい。」


『いってきまーす。』


 朝食後、サラさんはすぐに出勤して行った。

 どうやら、昨日俺が教えたマナの使い方で色々考えたことがあるらしく、早速今日から試してみるらしい。

 そのことを話していたときに、


『昨日の話はお姉ちゃんにも教えてあげていいですか?』


 と聞かれた。

 正直、あんまり良くはない。

 いや、知識を秘匿したいとかじゃなく、色々問い詰められそうでめんどくさい。

なので、


「教えるのはいいんですけど、その、できればまだ俺もあんまりよく分かってないから、もう少し、ちゃんとしたら、改めて説明するので、問い詰めたりはしないでほしい、というような感じで説明してもらえませんか?」


 と、ちょっと詰まりながら話すと、サラさんもすぐに察してくれたようで、


『ああ、そうですね。

 教えたら喜喜としてユウトさんを拉致しに来そうですもんね。

 分かりました、うまく伝えるようにします。

 ですが、マナに関する新しい知識はできるだけお姉ちゃんには伝えた方がいいと思うんです。

 その方が今後のためになると思うんです。』


「それはもちろん構いませんよ。

 まあ、サラさんには間に入ってもらって煩わしいかもしれませんが、なんとかうまくお願いします。」


『はい、お任せください』


 と、答えてくれた。

 サラさんに任せておけば、なんとかなりそうだ。

 でも、本当に一度ユラさんとはどこかでゆっくり話をすべきだろう。

 ヨーヨーのことも今日ちょっとは分かるだろうし。

 サラさんの辺境の調査について、言いたいこともあるし。



 朝食後、食器を洗ってからシャワーを浴びた。

 シャワーを浴びてすっきりした頭で今日の予定を考える。

 いや、考えるまでもなく、決まっている。


 ファスタル裏通りのマッピング、というか今日に関しては、雑貨屋の店主と話に行くのだ。

 まあ、前に行ったときの様子からして、店主が何者なのかはある程度予想はついている。

 というか、トリップ者だろう。

 それはもう前提の話としていいと思う。

 俺の異世界小説知識から言ってもそうだし、それがなくてもこれだけ条件が揃っていれば疑いようがないだろう。

 店には日本のおもちゃによく似たものがたくさん置いてあったし。

 ハイパーヨーヨーという単語を知っていたみたいだし。

 なにより、トリップ者じゃなかったとしたら、サラさんに事情を話さずに俺一人を呼ぶ意味がない。

 そうだとして、俺が聞きたいことはいくつかある。

 いつこっちに来たのか。

 どうやってこっちに来たのか。

 来た後に何か事情の説明があったか、例えば神様に会ったとかがないのか。

 こっちに来てから何をしていたのか。

 こっちに来た時に手に入れたチートはないのか、いや、これはいいか。

 あったら俺嫉妬で狂いそう。

 ただ、これらは店主自身と俺のための聞きたいことで、それ以外にもヨーヨーを手に入れた経緯や【あの国】に行ったことがないかなども聞かなければならないだろう。

 まあ、万が一トリップ者でなくてもヨーヨーに関することなどは聞けるだろうから、行くことの意味は十分ある。

 本当はもっと早く行くべきだったんだろうが、正直、色々分かるのが面倒な気持ちもあった。

 こっちにトリップしてから、最初こそ辛かったが、割とイージーモードで生活していたし、そのままでも楽でいいんじゃないかと思ったし。

 ただ、昨日のユラさんの様子からして、【あの国】は放っておけない案件だろう。

 いや、昨日は思いっきり考えるのを放棄していたが。

 というか、俺の予想ではユラさんの国がちょっかい出さなければ別に大きな問題にはならないだろうと思う。

 ま、そう簡単な問題でもないからユラさんがあんなに深刻そうだったんだろうな。


 もし雑貨屋の店主が本当にトリップ者で、俺よりも色々な事情が分かっているのであれば、もしかしたら元の世界に帰る方法の手がかりを持っているかもしれない。

 多分、帰る方法自体は知らないだろう。

 知っていれば帰っているだろうし。

 あ、でもそうとも言えないか?

 例えば、今俺が帰る方法を知ったとして、帰るか?

 サラさんとのいちゃいちゃ生活、俺は勝手にそう思っている、からあの地獄の仕事漬けの生活に帰りたいか?

 答えは、基本的にはNOだ。

 基本的には、というのは、相変わらず俺は自分の開発した製品、というか機能が心残りになっている。

 まあ、世間的には大したことない機能かもしれない。

 具体的には生産管理システムの最適化アルゴリズムの究極系、みたいなものだ。

 究極というのは、俺の中二が言わせたセリフだ。

 いや、それはどうでもいい。

 とにかく、そのシステムは色々応用も利くし、会社、引いては社会全体に大きな利益をもたらすと確信していた。

 だから、帰りたい、という気持ちはある。

 でも、そのために今の生活を捨てられるか、と聞かれれば、残念ながら今の方が居心地がいいと言わざるを得ない。

 と、帰る方法があるかどうかも分からないのに、こんなこと考えていてもしょうがないか。

 とにかく、帰る方法があるのならば、知っておく意味はある。

 例えば、俺はこの研究所を追い出されたら、元の世界に帰る。

 そんなことは、俺が何か悪さをしない限りなさそうだが。

 どちらにしても、できる限りの情報収集は必要だな。


 よし、出かける準備をしよう。



 まずは、マッピング依頼をこなすための支度をした。

 といっても、付属品にあったベルトにプロッタを付けて制御端末を持っただけだけど。


 服装は作業服にした。

 動きやすいし、ポケットがいっぱいあるから小物とか入れておけるし、製造業系技術職にとっての戦闘服みたいなもんだし。

 そんな風に考えてる人はあんまりいないかもしれないけど、少なくとも俺はそう考えている。

 今は制御端末は手に持っているけど、不便だから、雑貨屋に行く前に大通りにある適当な店でかばんを買って行こう。

 あとは、ヨーヨーは持っていかないとだめだな。

 それくらいか。


 ルッツは留守番してもらってもよかったけど、マッピングの時に役に立ってくれるかもしれないから、一緒に連れて行くことにした。

 グローネンダールって警察犬としても優秀らしいし。

 いや、ルッツがグローネンダールかどうか分からんけど、ってしつこいな。

 それはもうどうでもいい。

 ルッツが優秀なのは間違いないので、一緒に連れて行く。

 俺の教育次第だろうけど、ルッツはいい調査員のパートナーになれると思う。


 ある程度準備が整ったので、研究所を出た。



 そういえば、俺が研究所を出るのって、ファスタルの観光をして以来だから、3日ぶりなんだよな。

 かなり久しぶりに感じる。


 大通りは前に歩いたときと同じように多くの人でごった返していた。

 相変わらず、色んな人がいるな、流石交易都市。

 とりあえず、手近な店でかばんを買った。

 シンプルなバックパックだ。

 俺は動きを制限されないからバックパックが大好きだ。

 物もいっぱい入るし。

 1万円もしたけど。

 正直痛い。

 俺の手持ちの資金はもうそんなに多くない。

 なんせ最初に手に入れた20万だけだからな。

 がんばって働こう。


 しばらく歩いて、雑貨屋が見える裏通りの入り口に辿り着いた。

 この道は忘れもしない。

 サラさんと迷った末になんとか抜け出した道だからな。

 早速マッピングを始めてもいいんだけど、まずは雑貨屋の店主に話を聞くのが先だな。


 そう思った俺は、裏通りへと足を踏み入れた。



 しばらく歩いて、雑貨屋の前に着いた。

 明かりは点いているから、店はちゃんとやっているようだ。

 こんだけ気合入れてきて、休みで店主に会えませんでした、じゃ肩透かしもいい所だしな。

 そう思いながら、雑貨屋のドアを開ける、


 カランカラン


 前に来たときと同じ小気味いい音と


『いらっしゃ~い』


 というやる気のなさそうな店主の声が聞こえてきた。


 俺は店に入ると、まずは前に俺が壊した部分を見た。

 そこは、俺の壊した形跡が全くなくなって、、、

 いなかった。

 そのままぶっ壊れていた。

 そういえば、ここの店主はこないだ俺たちが帰るときに、このままにしとくかな

とか言ってたな。

 ホントに掃除しないでそのままにしてやがった。

 この店主商売する気がないのか。

 あ、微妙に片付いている。

 大方、掃除しだしたけど、あまりにも盛大にぶっ壊れているから、途中で挫折した、とかだろう。

 壊した張本人である俺が言うのもなんだけど、この店主はダメかもしれない。

 色々教えてもらうつもりで来たけど急に不安になってきた。


 そのまま店の中を進み、カウンターの奥で何かごそごそやっている店主に声を掛けた。


「すみません、この間、この店を破壊したものですけど。」


 なんて言っていいか分からずに、よく分からない声の掛け方をしてしまった。

 店主はやる気なさそうに


『ああん?』


 と、こっちを振り返ったが、俺の顔を見るなり、真面目な顔になって、


『おまえか。

 待ちくたびれたぜ。

 とりあえず、店閉めるから待ってろ。』


 と、言って、店のドアの方に歩いていった。


『おまえもある程度察しがついてるんだろうが、人に聞かれていい話じゃない。

 まあ、聞かれてどうこうなるもんでもないが。

 とにかく、長話になるだろうから、店は閉める。』


 店の前の商品を店の中に入れながら、そんなことを言われた。

 いくつかの大きな商品は諦めたのか、外に置いたままで、ドアの鍵を閉めた。


『店の奥に打ち合わせスペースがあるから、そこで話すぞ。

 着いて来い。』


 と言われて、そのまま店主の後ろに着いて行った。

 店の奥のスペースには、それほど広くはないが、テーブルとイスが置かれたスペースがあり、確かに長話にはもってこいの場所だった。


『さて、じゃあ始めるか。

 色々聞きたいこともあるだろうが、それは俺も同じだ。

 まず、確認しておきたいんだが、お前は日本から来たということで間違いないな?』


 いきなり直球で来た。

 まあ、話が早くて、助かるな。


「はい。

 そういう言い方をするってことはあなたも。」


『ああ、俺も日本から来た。』


 店主は確かにそう言った。






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