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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第4章 異世界生活4日目
52/119

冒険譚

 俺の手元にある一冊の本。


【古代種との遭遇】


 そう、古代種、だ。

 依頼の掲示板で存在することを知ってから、気になって気になって仕方がなかった。

 あの依頼は依頼名からして、【古代種に関する調査】としか書いていなかったし、内容もあまり具体的なことは書いていなかったから、本当にそんな素敵、いや恐ろしげな生物が存在しているのかどうか、それから、俺が望んでいる、いや恐れているような生物なのか、全然分からなかった。


 すぐにでもサラさんに聞こうかと思ったが、サラさんはあくまで女子。

 こういうロマンは分かってもらえない可能性があった。

 経験がある人もいるんじゃないだろうか。

 熱く熱く自分の好きなものを語ったのに、女性に冷たくあしらわれる屈辱を。

 あるいは、スポーツに関する話題であったり、

 あるいは、車に関する話題であったり、

 あるいは、仕事の話題であったり、

 あるいは、アニメやフィギュアの話題であったりするかもしれない。

 別に一緒に語りたいわけでも、押し付けたいわけでもない。

 自分の好きなものについての話をして、ちょっと呆れられながらも笑顔で聞いてもらって、一言


『すごいね。』


 そう、その一言を言ってくれたら俺は満足なのに。

 女子というやつは、


『で?』


 とか


『ふーん。』


 とか


『どこがおもしろいの?』


 とか。挙句の果てには、全然聞いてくれない人もいた。

 いや、そんな女性ばかりでないことは分かっている。

 男の馬鹿な趣味を笑って許して、一緒に楽しんでくれるような人がいることも知っている。

 サラさんもとても優しい人だし、呆れたとしても馬鹿にはしないと思う。

 でも、この世界における古代種がどんな存在か分からないから、迂闊に聞くわけにはいかなかった。

 途中で絶対に興奮しだしてしまうのは分かりきっている。

 もしかしたら古代種は物語だけの伝説みたいな存在で、あの依頼を出していたのが、俺と同じような病を持っている人の趣味のようなものである可能性がある。

 今、サラさんにさっき言ったような冷たい態度を取られたら、きっと俺のショックは計り知れないだろう。

 しばらく立ち直れないかもしれない。

 調査員として働く気をなくしてしまうかもしれない。

 そうなったら、名実ともにひきこもりニートのヒモになってしまう。

 それは絶対に避けなければならない。


 だから、待っていたのだ。

 自分で調べる機会が訪れることを。

 そして、ようやく巡ってきたのだ、このチャンスが。


 ふふふ、では待たせたな。

 存分に読ませて頂くとしよう。







 読んだ。

 うん。

 そうだね。

 正直、期待しすぎてたのは自分でも分かってたよ。

 なんだか、あまりにも期待しすぎて、なんというか、めっちゃ落ち着いてしまったよ。

 読む前ほど、この本に情熱を感じない。

 いや、別にこの本が悪かったわけじゃないよ。

 内容はまあ、こんなもんなんでしょう、て感じ。

 ええ、ちょっと期待してたのとは違ったと言うか。

 決してパッケージ詐欺というほどではなかったですよ。

 それなのにテンションが上がり過ぎてたせいで読みきると、賢者モードになったというか。

 ああ、分かるだろうか。

 終わってしまったら冷静になるこの感じ。

 人間、何事もやる前の楽しみにして期待を膨らませている時間が一番幸せだと思う。


 って、鬱陶しいわ。

 自分の情緒不安定が鬱陶しいわ。

 だめだ、最近どうも体の調子はいいけど、精神の方がおかしい気がする。

 ちょっと、落ち着こう。


 まあ、実際の所、それほど収穫はなかった。

 古代種との遭遇は古代種の生態に関する専門書などではなく、古代種を見つけようと奮闘する人たちの冒険譚、といった趣だった。

 俺はそういう冒険物語の類は元々嫌いじゃない。

 だから、ある意味、読み物として楽しく読むことができた。

 どこぞの洞窟を探検して伝説の竜王に会いに行くとか、砂漠でキャンプを張って、サソリの王を捕獲するとか、そんな感じの話が多かった。

 結局、どの話も最後は失敗していた。

 いや、古代種と遭遇してないやん、とツッコミを入れたくなりそうになった。

 この本はもしかすると、子供向けなのかもしれないな。

 ただ、最後の著者インタビューみたいな所に、私たちは決して遊びで挑戦しているわけじゃない。

 絶対に古代種と接触してみせる。

 という、熱いメッセージが書いてあった。

 そして、この著者の肩書きが古代種研究会、探査部部長となっていた。

 これは、真面目な研究会なのか?

 それともオカルティックなトンデモな集まりなのか?

 うーん、名前だけでは俺には判断がつかない。

 ただ、この本は結構古そうな感じだから、その後、古代種との接触に成功した可能性はないわけじゃないよな。

 古代種、実に夢があると思う。

 全然、欲しい情報は得られなかったけど、一応、この世界における古代種というものが、竜王とかサソリの王?とかを指している、ということは分かった。

 でも竜王て何?

 ドラゴンの王だよな?

 あと、サソリの王ってのもでかいサソリか何かか?

 よく分からん。

 本に出てくるのは他もそんな感じのばっかりだった。

 猫の王とか。

 いや、それライオンでしょ?

 サラさんの話でドラゴンがいることは分かっているが、竜王とは違うのだろうか?

 やっぱり分からないな。


 まあ、古代種との遭遇は図書館に入ってすぐに見つけた本だから一番最初に読んだが、これだけ本がいっぱいあるんだから、もっと専門的な書籍もあるはずだ。

 よし、気を取り直して別の古代種関連の本を探そう。




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