困ったときはお互い様
『分かりました。それでは、申し訳ありませんが、お願いします。』
そう言われた後、すぐにバイクを動かすことにした。
近づいて見れば見るほど、バイクはバイクだった。
形で言えばビッグスクーターに近いと思う。
メーター類もデジタルっぽいものがついているようだし、シート下には収納スペースもあるようだ。
俺はあまりバイクに詳しくないので、詳しい人に言わせれば全然違う乗り物なのかもしれないが、少なくとも素人目にはバイクにしか見えなかった。
ただし、マフラーはついていない。
マフラーがなければエンジンの排気ができない?気がするがあやふやな知識ではなんとも言えず、藪蛇になりそうだったので、バイクの構造について質問するのはやめておいた。
「とりあえず、俺が起こして道路まで戻しますので、こけないように補助だけお願いします。」
と言うと、彼女は驚いた顔をしながら、
『かなり重いですから一人では無理ですよ。
私も手伝いますので、2人で動かしましょう。』
「多分大丈夫ですよ。こう見えても鍛えてますので。」
と答えておいた。
筋力には自信があるし、別に持ち上げるわけでもないので大丈夫だと考えたのだ。
「よいしょっ、と。ほら、大丈夫ですよ。
ハンドルお願いします。」
と言いながら、バイクを起こした。
やはり大して重くはなかったが、ロックがかかっているのか、ハンドルが固定されていた。
『あ、すみません。ハンドルはロックされているので、私のマナを使わないと動かないんです。』
マナ?何その中二感溢れるカッケーフレーズ?
と思ったのは言うまでもない。
そして、彼女がバイクに触れた瞬間、バイクのメーター類が輝き、ハンドルのロックが外れた。
(え?今、何をした?今のがマナ?)
俺の中の中二がざわつき、そして同時に異世界の異世界たる所にめちゃくちゃ驚いたが、あまり驚いた所を彼女に見せると、不信感が強まると思ったので、できるだけ表面上は平静を取り繕っていた。
それから、道路に戻してバイクはサイドスタンドを出して固定しておいた。
『本当にありがとうございました。あなたは命の恩人です。
あ、まだ名乗っていませんでしたね。
私はサラといいます。
失礼でなければあなたのお名前を伺いたいのですが。』
と、彼女は礼を言ってきた。
命の恩人とは大げさな人だなぁと思いながら、
「俺は佑翔といいます。
大したことはしてませんよ。
困ったときはお互い様です。」
と言うと、
『ユウトさんですね。
いい名前ですね。
そう言って頂けるとありがたいのですが、
何かお礼をさせて頂きたいです。
と言っても今は何も持っていません。
何かできるといいのですが。』
とサラさんが困っているので、渡りに船、とばかりに
「では、図々しいかもしれませんが、一つお願いがあります。」
『何でしょう。私にできることならなんなりと。』
お、そのフレーズはエロイな(特に美人がいうと破壊力がすごい)、などと不謹慎なことを考えたが、顔には出さずに
「見ての通り、今俺は一人です。足もありません。
迷惑でなければサラさんがこれから向かう街に乗せていってほしいのですが。」
そう、まさに渡りに船。
このバイクなら二人乗りは可能だろう。
街にさえ連れて行ってくれれば、あとは何とかなる。
『そうですか。そんなことならお安いご用です。
私はこれから交易都市ファスタルに帰りますが、そこでよろしいですか?』
ファスタルがどこかは知らないが、交易都市というくらいだから、それなりに大きいのだろう。
文明も進んでいるようだから、もしかしたら元の世界に戻る手掛かりだってあるかもしれない。
「構いません。ぜひご同行させてください。」
と、即答したのだった。