マナ練習装置
お前が話せたらなあ、とルッツを撫でながらつぶやいた。
ルッツは不思議そうな顔で俺を見た後、
『わふ。』
と返事をしてくれた。
うん、俺にはもったいないくらい賢い子だ。
これ以上は望むまい。
「よし、じゃあマナを使う練習だ。」
と誰に言うでもなく、気合を入れなおして、練習装置を握った。
まずは昨日の復習だ。
マナを使う、使わないを反復する。
昨日より断然調子がいい。
やっぱり、昨日の夜は疲れてたみたいで、今の方が集中しているのが自分でも分かる。
反復する速度を早める。
どんどん、どんどん、どんどん早くする。
ある程度早くしたところで、ずっとガラス玉が発光しているように見えるようになった。
これって、蛍光灯と同じような状態だよな。
周期的に明滅を繰り返しているが、人間の目には光り続けているように見える。
うん、最初みたいに使う、使わない、と意識しないで、オンとオフを繰り返しできるようになった。
実は昨日の途中から、ちょっとやり方を変えてみた。
ある程度、使う、使わないというのを意識しないでできるようになった時点で、次は、使う、使わない、というイメージと俺の中でのスイッチのオン、オフをいうイメージを関連付けた。
そうすることで、いちいち俺自身のイメージだとか○Tフィールドだとか考えなくても自動的に自分の中で必要な情報を構築できるようにした。
つまり、今俺はマナのスイッチをオンするとか、オフすると考えれば、マナを使う、使わないというのを切り替えられる。
そもそも、俺はマナの具体的な使い方、というものをほとんど勉強していない。
だが、勉強していないからこそ自分独自の方法が作れるんじゃないかと思った。
マナは魔力ではなく思考による産物だから、論理的な思考をすることで、論理的な働きを作ることができると考えたのだ。
あと、俺は機械いじりもプログラミングも好きだが、本職は電気系技術者だ。
だから、電気回路とか、論理回路のアルゴリズムに近づけた考えでマナを使えるようにすれば、かなり自由に制御できると思う。
昨日の夜まではただの仮定でしかなかったが、この蛍光灯式の使用法で俺の考えが正しいと証明されたような気がした。
いや、偉そうに言ってるけど、まだ、現状では高速でスイッチをオン、オフするしかできないんだけども。
けど、これは応用がきくと思う。
頭の中で描いた回路図通りに通電することで、思ったとおりの結果が得られる、というのを目指す。
うん、だいぶ科学的になってきたと思う。
俺はこれでも技術者の端くれだから、強引でもなんでも根拠がないと、納得して打ち込めないんだよ。
少々突っ込み所がある理屈でも、自分で納得していれば、あとは成功するまでトライアルアンドエラー。
まあ、やってみればトライアルアンドエラーアンドエラーアンドエラーみたいな、ドツボにはまってしばらく凹む、なんてこともしばしばだが。
それでも、いつも通りだ。
異世界に来ても、俺がやること、俺にできることは変わらない。
と、ある程度成果が期待できることが分かったから、まずはどうしようか。
差し当たっては複数のマナを制御する、というのを自在にできるようになりたい。
この練習装置を電気回路に置き換えてみよう。
つまり、俺にとって考えやすいように、この練習装置を電気で動かすと考えよう。
最終的な出力は光源になっているLEDとする。
それを個別に制御する。
まだ、難しい制御はできないから、単純にいくつかのLEDが点灯するパターンを設計する。
まずは、このガラス玉全体のLEDをA、B、Cの三つのグループに分ける。
そして、Aが点灯中はB、Cは消灯、Bが点灯中はA、Cが消灯するみたいな回路を組む。
うん、そんなに難しくない。
電気用語で言うとインターロックをとるだけでいける。
通電開始後、最初に選択したLEDだけが点灯して、それ以外が消灯する。
それを繰り返し行う。
よし、色々突っ込み所はあるが、まあ、許容範囲だ。
試してみよう。
◇
しばらく、没頭して練習した。
思ったより単純じゃなかった。
めちゃくちゃ疲れた、頭が。
ああ、知恵熱でてんじゃねえのこれ。
すごい頭が熱い。
結果から言えば、成功した。
回路に置き換えるの自体は多分可能だし、もっと複雑なことにも応用できると思う。
でも単純に光を点けたり消したりするパターンを制御するくらいだったら、回路とかいらない。
慣れたら、普通にできる。
つまり、簡単なことをするには、燃費が悪いのだ。
コストパフォーマンスが悪いと言うか。
とにかく、今は無駄に疲れた気がしている。
まあ、最初はこんなもんだろうし、成功はしたんだから気落ちはしていない。
あとは、俺の脳の処理がついていけるかだと思う。
ある程度自動化して思考を制御する、みたいなかっこいいことを考えていたんだけど、言葉でいうほど簡単じゃなかった。
ちょっとした制御を行うのにも、思考の中で矛盾しない経路を選択しないといけない。
うーん、これは慣れが必要だな。
そう、何事も慣れれば何とかなる。
サラさんは大して集中せずに普通に一つずつの光源を制御していた。
やっぱり、すごいんだな。
俺もがんばろう。
と、気づけば昼前だった。
混む前に食堂に行くか。
ちょっと疲れたから、食堂からそのまま中庭に行って、気分転換も兼ねてヨーヨーを試してみるか。
「ルッツ、俺は昼飯食って、その後、中庭に行くけど、おまえも付いてくるか?」
『わん』
行く、と言っている気がする。
起き上がって寄ってきたし。
というわけでルッツと二人で食堂に向かった。




