上機嫌
中庭でルッツと運動した後、サラさんの家に戻った。
玄関のドアを開けて中に入ったら、その音を聞いて、サラさんがリビングの方から、顔を出した。
『あ、おかえりなさい。
ルッツ君と外出してたんですね。
今、朝ごはんを食べようかと思っていたんですけど、ユウトさんも一緒にどうですか?
パンと目玉焼きくらいしかないですけど。
ルッツ君のご飯もありますよ。』
「ほんとですか。
ありがとうございます。
いただきます。」
と言って、リビングに入った。
実はいつもいる部屋以外の部屋に入るのは初めてだった。
リビングはカウンターキッチンとダイニングテーブルのある、よくある普通のマンションの部屋って感じだった。
すっきり片付いていて居心地がいい。
『すぐに作りますので、座って待っててください。』
なんだか、サラさんの機嫌がいい。
鼻歌を歌ったりしている。
あれ?
ちょうどいいから、昨日の夜のことを謝ろうと思っていたんだけどあまり気にしてない?
ていうか機嫌がいいのに蒸し返さない方がいいか?
いや、先送りにしても仕方ない。
しっかり謝っておこう。
「サラさん、昨日の夜のことですけど、俺、軽率なこと言ってすみませんでした。
まだまだ未熟なのに分かったようなこと言って。」
と言うと、
『え、昨日の夜?
謝られるようなこと言われました?
ユウトさんは何も悪いことは言ってませんよ。
これから私もっとがんばります。』
と相変わらず上機嫌だ。
めっちゃプラス思考だ。
すばらしいな。
俺も見習おう。
「そうですね。
俺もこれからもっとがんばります。」
なんだか朝から二人で決意表明みたいなことをしてしまった。
サラさんが気にしていないなら、もういいか。
話題を変えよう。
「サラさんは、朝食を食べたらすぐに仕事に行くんですか?」
『ええ。
ユウトさんはこれからお勉強ですか?』
「はい。
そのまえにシャワーを使わせてもらおうと思ってます。
ルッツと走り回ってちょっと汗をかいたので。」
『そうですか。
私もついて行ったらよかったです。
迷惑じゃなければ今度ご一緒させてくださいね。』
「全然迷惑じゃないですよ。
ただ、ほんとにルッツと走り回ってただけだから、あんまりおもしろくないかもしれませんけどね。
いい運動にはなります。
これから日課にしようと思ってますので、気が向いたときに一緒に行きましょう。」
『はい。
ぜひお願いします。
ルッツ君これからどんどん大きくなって、運動能力もすごく上がるでしょうから、私も置いて行かれないようにがんばらないとですね。』
「そうですよね。
そういえば、ルッツはまだまだ子犬だもんな。
それであの身体能力か。
俺もうかうかしてらんないな。」
と言って、ルッツを撫でてやると気持ちよさそうにしていた。
『はい。
朝ご飯ができましたよ。
食べましょう。』
「ありがとうございます。
いただきます。」
それから3人(2人+1匹)で朝ご飯を食べた。
サラさんは終始ご機嫌な様子だった。
目の前でにこにこしてくれる人がいるとこっちも気分がよくなるな。
料理もおいしいし。
普通の目玉焼きだけど。
『あ、もう仕事に行かなきゃ。
すみません、食べ終わったお皿はそのままにしておいて頂ければいいですから。』
「よかったら食器くらい洗っときますよ。
洗って棚に戻しておいたらいいですか?」
『ホントですか?
すみません、助かります。
じゃあいってきます。』
「いってらっしゃーい。」
と言うやりとりを最後にサラさんは出勤していった。
何気なく食器洗いするとか言ったが、よくよく考えれば他人にキッチンに入られるのが嫌な人っているよな。
サラさんはそうでもなかったみたいでよかった。
なんとなくさっきのやり取りは俺が専業主夫になったみたいで、ちょっと微妙な気分だったな。
食事を作らせて洗い物もしない、というのもどうかと思ったからいいんだけど、早く仕事に就きたいな。
サラさんいい人すぎて、頼ってばかりだと逆に罪悪感が出てくるんだよな。
ま、今はできることからやっていくか。




