裏通り
『掃除めんどくせえな。もうこのままにしとくかな。』
とか言う店主の声を背に雑貨屋を出た。
すると、サラさんが話しかけてきた。
『なんだったんでしょう?
掃除もしなくてよかったんでしょうか?』
「いや、よくわかりませんけど、いいって言うからいいんじゃないですか。」
『そのおもちゃももうユウトさんにしか使えないって言ってましたけど』
「そうですね。それもよくわかりません。
ちょっとサラさんこれ試してください。
糸を伸ばすだけでいいので。」
といって、ヨーヨーをサラさんに手渡した。
『はい。
あれ?
これどうやって糸出すんですか?』
「え?どうって。引っ張ったら伸びませんか?」
『伸びないです。私の使い方が悪いんですか。』
「使い方も何もないと思いますよ。
う~ん。ちょっと貸してください。」
と言って、またヨーヨーを返してもらった。
「ほら、普通にこうやって糸を引っ張れば伸びますよ。」
と糸を伸ばそうとすると、ヨーヨーが軽く光った後、普通に糸が伸びた。
『あれ、それユウトさんのマナに反応してませんか?
それで私じゃ使えないんじゃないですか?』
と言われた。
え?
確かにサラさんがバイクのハンドルロックを外していた時と同じような反応をしている気がする。
「でも、俺マナをどうこうしようとしてないですよ。
マナって、なんか動力的なエネルギーなんでしょ?
俺、そんなの操ってないですよ。」
『え?
マナはエネルギーじゃないですよ。
エネルギーを使う機械を起動するための因子っていうか、
だから別名、起動因子って言われてます。』
あれ?
起動因子?
エネルギーじゃないの?
なんかイメージしてたのと違うな。
「じゃあ俺にもその起動因子があるってことですか?」
『はい、ユウトさんにもあるというか、誰にでもあるというか、その人独自の因子がその人のマナという感じです。
ちょっと、ややこしいので、帰ってからご説明します。』
「分かりました。
ちょっと俺勘違いしてたみたいなんで、後で詳しく教えてください。」
う~ん。
てっきりマナは魔法のエネルギーだと思ってたんだが、ちょっと違うようだ。
ということはエネルギーは別にあるのか?
帰ったら色々聞いてみないとな。
でも、こんなにすぐに俺にもマナが使えるというのは嬉しい誤算だ。
帰ったらヨーヨーについても色々試さないとな。
あ、でもなんか出たら困るから中庭を借りるか。
『じゃあ、帰りましょうか?
ルッツ君も待ってるでしょうし。』
「はい。行きましょう。
あれ?
大通りは?」
店から出て、そのまま大通りに戻ろうと真っ直ぐ歩いていたつもりだったが、気づいたら、目の前の道が大通りに向かっていないことに気づいた。
後ろを見るとなぜか雑貨屋も見えない。
雑貨屋を出てからまだそんなに歩いてないのに。
『え?
しまった。
道を間違えました?』
「いや、間違えるも何もまだ雑貨屋を出て5分くらいしか歩いてませんよ。
雑貨屋から大通りまでは一本道だったと思いますけど。」
『だめなんです。
裏通りは元々あんまり大きい道がない上にすごく細い道が絡み合っているので、
気づいたら道を逸れていることがよくあるらしいんです。
迂闊でした。
早く、あのお店から離れようとしてちゃんと道を確認していませんでした。』
「いや、そんなに大変なことでもないでしょう?
一度さっきの店の前までに戻ればいいんじゃないですか?」
『そうなんですけど。
ユウトさんどっちがさっきのお店か分かりますか?』
と、言われて後ろを振り返ると、一本道だと思っていた道がなぜか無数の分岐がある道になっていた。
「あれ?こんなに複雑な道でしたっけ?」
『私も気づいてなかったんですけど、いつの間にかこんなところに入り込んじゃったみたいです。
どうしよう。』
と、サラさんが頭を抱えて座り込んでしまった。
う~ん、そんなに大変な状況なんだろうか。
俺はイマイチそんな大変な事態という感じがしない。
まぁ、俺はもし道が分からなくなってもすぐにスマホとかで調べられるから、そもそも道に迷ったことがない。
そのせいか、道に迷っても危機感が薄い。
確かにここではスマホは使えないけど。
誰かに聞くとかすればいいんじゃないだろうか?と思って周囲を見たが、それほど人影はない。
何人か道端に寝ている人がいるが、あれは話しかけてはいけない人たちだ。
ここをかっこよく切れ抜けられれば俺の評価も上がると思うんだよな。
よし、がんばってみよう。
ピンチはチャンス。
とは言ったものの、どうしたものか。
確か迷路なんかでは片方の壁に手を付けて進み続ければ、いつか絶対ゴールにたどり着けるんだったな。
右手の法則だっけ。
今それをしたら確かにいつかは大通りに出られるだろうけど、ものすごい距離を歩かなけらばならない可能性もある。
ちょっと落ち着いて考えてみよう。
まず、大通りからあの雑貨屋は見えていた。
そして、今は見えていない。
でも一応は雑貨屋から大通りに向かう向きに歩き出した。
ということは、道がどんどん曲がっていない限り、一応今も大通りの方向に向かっているはず。
確か人は利き足の方が力が強くなるから、俺の場合、右足の方が強い。
多分サラさんも右利きだから同じだろう。
となると、雑貨屋を出たあと、無意識に歩いていたなら、多分本来の道よりも左方向に進んでいる可能性がある。
今、進む方向には三本分岐が見えてて、
それぞれ右前方向、まっすぐ、左前方向に続いているから、方向を考えるなら多分右前方向に進めば、今歩いてきた時間から考えても、五分くらい進んだところで元の道に合流できる可能性がある、と思う。
そのときに左手に大通りが見えるはずだけど、大通りから雑貨屋まではけっこう距離があったから、元の道に戻ったときには注意していないと大通りを見落とす可能性がある。
よし、とりあえず右前方向に進んで、左手側に注意を払っていれば戻れるはずだ、多分。
ダメだったら人に聞くか、最悪右手の法則だな。
我ながら適当な方針だなと思ったが、なんとかなるだろう。
「サラさん、大丈夫ですから。
さ、帰りましょう。」
と、できるだけ優しく声をかけた。
すると、サラさんは少し涙目になっていた。
『ほんとですか?
無事に帰れますか?』
「多分大丈夫です。
俺についてきてください。」
と声をかけて、二人で歩き出した。
サラさんを安心させるために大丈夫とは言ったが、実際には大丈夫かどうかなんて全然自信ないんだけどな。