雑貨屋店主
さっきまで、すごい無気力な感じでこっちに全く興味を示さなかった店主がものすごい顔をして近づいてきた。
だが、それは店をめちゃくちゃにされて怒っているというよりも、何かものすごく珍しいものを見て驚いている、という感じだった。
「すみません。
ぐちゃぐちゃにしてしまった所は片付けます。
あと、壊したものもちゃんと弁償します。」
と、頭を下げて平謝りしたのだが、
『いや、それは別にどうでもいい。
壊れたものも気にしなくていい。
どうせ大したものなんぞありゃしねえ。
それより、いくつか俺の質問に答えろ。』
と、真剣な表情で言われた。
こちらとしては、質問に答えれば許してもらえるなら、喜んで何でも答えよう。
そこで、店主はちらっとサラさんを見た後、
『まず、そこの女の子は街外れの研究所にいる王女様だな?』
と言われて、サラさんが
『はい。
サラといいます。』
と答えました。すると、店主は
『ふむ。
なら、今は下手なことは聞けねえな。』
とぼそっとつぶやいた後、今度は俺に向かって
『おい、おまえはあのおもちゃで遊んだことあるって言ってたな?』
「ええ。子供のころに流行ってましたから。」
『どこで買った?』
「いくつか持ってましたからあんまり覚えてませんけど、
全部、うちの近所のおもちゃ屋で買いましたよ。
でも、あんなのどこでも売ってましたよ。
光が飛び出すやつなんて見たことないけど。」
『あれの名前も知ってるな?』
「はい。あれは俺が持ってたやつとはちょっと違うみたいだから、
あれの名前は知りませんけど、ハイパーヨーヨーでしょ?
なんでそんなこと聞くんです?」
と答えると、店主はまたサラさんに
『ハイパーヨーヨーってこの国に売ってるか?
いや、名前を聞いたことがあるか?』
と聞いた。サラさんは
『いえ、聞いたことありません。
この国と私の国にはないと思います。
どこか別の国から持ってきたものではないんですか?』
『ああ、それはそうだ。
俺はいろんな国を回って珍しいものを仕入れてる。
ハイパーヨーヨーなんかもその一つだ。
この店に置いてあるものはそういう他国から持ち込んだものばかりだ。』
「そうなんですか。
他国にはああいうのも結構あるんですね。」
ちょっと意外だった。
バイクなんかもあるから、おもちゃも同じようなものがあることは予想できたが、大通りを歩いていてそういうものは見なかった。
もしかして、どこか他の国に行ったら、もっと日本に近い文化の所があるのかもしれない。
「それで他には何を聞きたいんですか?」
と、俺が聞くと、なぜか店主は
『いやもう十分だ。』
と言って、またやる気なさそうな顔に戻っていった。
『おまえが壊した店を片付けるから、もうおまえら帰れ。
ああ、あのヨーヨーな、おまえにくれてやる。
金もいらねえ。
どうせもうおまえにしか使えねえし。』
とよく分からないことを言われた。
俺はサラさんと顔を見合わせて、どちらも全然状況が掴めていないことが分かったが、店主はもう店の片づけを始めてしまったので言われた通り、帰ることにした。
折角くれるというので、ヨーヨーももらっておくことにしたが、ヨーヨーの置いてある棚に近寄った時に、店主が俺にだけ聞こえる声で
『今度はおまえ一人で来い。
できたら、そう遠くないうちに。』
と、また真剣な表情に戻って言ってきた。
それだけ言うと、また元のやる気なさそうな顔に戻って
『掃除めんどくせえな。もうこのままにしとくかな。』
とか言っていた。
もう本当に俺たちの相手をする気がなくなったっぽいので、サラさんと店を出た。