スライム
「これって、・・・スライム?」
それは直径2m程度の球状のゼリーを地面に叩き付けたような物体だった。
それがスライム、というか生物だと思ったのは、某ゲームに出てくるスライムと色がよく似ていたことと、どう見ても地面に叩き付けられて形が崩れているのに元気そうに蠢いていることがあったからだった。
そして、なぜそんな物体に今まで気づかなかったのかは分からないが、状況から言って自分を襲っているのは間違いなさそうだった。
と、そこで固まっている場合ではないと思い直し、次にとるべき行動を考えた。
1.様子を見る
2.戦う
3.逃げる
・・・考えるまでもない。
「うわぁぁぁぁぁ」
すぐに逃げた。
隙だらけだったし戦うという選択肢もあったのかもしれないが、武器らしい武器もないし、触っていいものかどうかもよく分からなかったし、
正直、怖かった。
学生時代からスポーツをしている関係でずっと鍛えているし、体力にも自信はあったが、自分を襲ってくる物体に対する心構えなど持っていない。
必死に逃げながら、まずここが異世界だということは納得した。
納得せざるを得なかった。
そして、自分の好きな剣と魔法のファンタジー世界、かどうかはわからなかったが、少なくとも人を襲うモンスターがいる世界であることも確認できた。
だから、元の世界に帰る方法を探すにしろ、この世界で生きるにしろ、まず、武力を持つ必要があることは認識できた。
ある程度走って距離をとった後、一度止まってスライムに襲われた場所を見直した。
スライムらしき生物はまだその場所で蠢いているままだった。
「あまり移動するのが速くはないのか」
その割には接近には全く気付かなかったが、そういえばあの時はかなり混乱していたから周囲の気配なんか気にしてなかったなと考え、偶然襲われる直前に歩き出していた幸運に感謝した。
その時、しばらく蠢いたスライムが動きを止めたかと思うと、体色が変わりだし、スッという擬音語が聞こえそうなほどスムーズに周りの景色と同化した。
「擬態するのか!」
体がでかいとはいえ、見た目がスライムだから体当たりしかしてこない初心者御用達のモンスターと勝手に思い込んだが、
どうにも自分の思っているスライムとは違うらしい。
「だから接近にも気づかなかったのか」
想像以上に自分が現状を甘く見ていたことを痛感させられるとともに、急に周りの草原が化け物がひしめくダンジョンのように感じられるようになった。
「これは一刻も早く街を探す必要があるな。」
落ち着いて色々なことを整理して考えたかったが、このままではちょっと考え事をしている間に怪物の胃袋に収まっていたなんてことになりかねないので、まずは安全を確保できる街を探すことにした。