ファスタル観光
サラさんに案内してもらって、ファスタル観光をすることにした。
ちなみにルッツは留守番だ。
店に入れるか分からないし。
ちゃんと朝御飯はあげたが賢く待っていられるか、ちょっと心配ではある。
まぁ大丈夫だろう。
◇
要塞、もといサラさんの家は一応大通りの終点辺りにあるみたいだけど、ファスタルの街の中でも外れの方に位置しているようだ。
こんなでかい建物、街中には建てられないだろうから当然か。
それでも、サラさんの家を出てすぐから街の様子が昨日とは全然違うことがすぐに分かった。
目に入る範囲だけでもたくさんの人がいることが分かる。
昨日のゴーストタウンのような様子とは本当に大違いだ。
『昨日も少し話しましたが、ファスタルは古い街で、元々はそれほど大きくなかったそうです。
そこにたくさん人が増えて、ものも入ってくるようになって建物もどんどん建っていったそうです。
今でも大きくなっているそうですが、そんな成り立ちですから、大通りは比較的すっきりしているのですが、裏通りに入ると本当にどこがどこに繋がっているのか分かりにくいんです。
ある人が病気になって家で1週間ほど寝込んでいたそうです。
そして、元気になってからいつも通っていた道で仕事に行こうとしたら、全く知らない場所に出て、行方不明になってしまった、という都市伝説があるくらいです。』
「それ、ただの都市伝説ですよね?
自分の日頃通っている道で行方不明になるなんてありえないですよ。
子供に聞かせる怖い話の一種ですよね。
早く帰ってこないとお化けに連れて行かれるぞ、的な。」
と笑ったら、サラさんは笑っていなかった。
『まぁ今日一日ファスタルを見て回ってから同じことが言えるといいですね。』
◇
『それで、どこか行きたいお店とかあるんですか?』
「そうですね。いくつかあるんですが、まずは服屋ですね。
ちなみにサラさんは俺のこの服装を見てどう思いますか?」
『服装ですか?
ちょっと変わってますけど、動きやすそうですし、いいんじゃないですか?』
どうやら、サラさんはファッションには疎いタイプっぽい。
今の女子大生風の服装はめちゃくちゃ似合ってるけど。
まぁ、職業が研究者みたいなこと言ってたから典型的な理系女子って感じなんだろうか。
なんて言ったら理系女子に失礼ですね。すみません。セクハラではありません。
最近、会社でもなにかとすぐにセクハラと言われるから気をつけるように、みたいなお達しが出ていたなぁ、気を付けないと。
って、どうでもいいか。
この世界にもセクハラとかあるんだろうか?
とにかく、サラさんは作業服はそんなに気にならないらしい。
作業服はこの世界でも通用する、と思っていいのかもな。
ただ、昨日折角シャワーを浴びた後も作業服、というのは落ち着かないなと思ったし、せめて部屋着とちょっと買い物するとき用の普段着くらいほしい。
あと、もしモンスターとかと戦闘になる可能性があるなら、鎧っぽいものとかも要るのかな。
そう思って、街行く人たちのファッションチェックをすることにした。
(あの人はこれからデートにでも行くのかな。
おしゃれ目のチェックのシャツにベスト+カジュアルなデニムパンツですね。)
(こっちの人はこれからお仕事でしょうか。
スーツっぽい服にコートを着ていますね。)
(そっちの人はタンクトップに短パンというシンプルないでたちですね。
自分の肉体を自慢したいのでしょう。確かにすごい筋肉ですね。)
(あっちの人はこれから遺跡探索にでも行くんでしょう。
動きやすそうな服装に大きなリュックですね。)
・・・・
・・・
・・
・
って、統一感ねえ。
季節感もねえ。
ただ、分かったのは、現代人的な感覚で問題なさそうなことと、街で鎧を着ているような人はいないということだ。
俺の感覚で言っても、思っていた以上に人の服装に違和感がない。
たまに、貴族っぽい服の人がいたり、どこぞのアジアンテイストな服装をしている人がいたりするが、交易都市というからには色んな文化圏の人が訪れているのだろう。
これくらいだったら、秋葉原の多様性には負ける、という程度だ。
幾分ほっとした俺は、
「この服は動きやすくはあるんですけど、部屋でくつろぐのには向いていないので、そういう服もほしいんですよ。
あと、食べ物が売っているようなお店にも行きたいですね。
それと、武器屋ってありますか?」
『服屋さんと食べ物屋さんは分かりましたけど、武器屋、ですか?』
と聞かれた。
「ええ、昨日色々ありましたから、護身用に何かあればと思ったんですが。
ちなみにサラさんは昨日は武器は何も持っていなかったんですか?」
『持ってましたよ。
今も持ってますよ。
使うのはそれほど得意ではありませんけれど、一応辺境の調査には多少の危険もありますし。』
「そうなんですか?
ちなみにどんなものなんですか?
今も何か持っているようには見えませんけど。」
『えーと、あまり大通りで出すようなものではないんですが。
これです。
マナウェポンといいます。
私のマナに反応して剣になったり、弾を飛ばしたりできます。』
と言って見せてくれたのは、剣の持ち手だけのようなものだった。
マナで剣を作れるとか、銃みたいになるとか、めっちゃかっこいいんすけど。
この世界にいるとあんまり異世界感を感じにくかったりするんだけど、たまにこういうファンタジー要素をぶっこんでくるんだもんなぁ。
油断も隙も無い。
しかもコンパクトだからポケットに入れとける、とか万能だよな。
「めちゃくちゃかっこいいですね。
俺もそういうのほしいなぁ。
でもマナが使えないからまだ無理か。」
『そうですね。
あまりその辺に売ってるものでもありませんし。
売ってるのは普通のナイフとか銃とかだと思いますよ。
まぁ私はユウトさんには武器なんて必要ない生活をしてほしいんですけどね。』
「善処しますけど、備えあれば憂いなしと言いますし。
一応見に行きたいです。」
『分かりました。仕方ありませんね。
ではまず、服屋さんから行きますね。』
と言って、服屋であろう店に向かった。
あと、完全にスルーしていたが、こうして話している間にもサラさんは街行く人々からすごい挨拶とかされてた。
そういえば、どっかの王女さまなんだもんな。
そして、俺は女の人からはすごい怪訝な表情で見られ、男連中からは大体殺気立った視線で睨まれた。
いや、気持ちは分かるよ。
みんな、リア充爆発しろ、とか思ってんだろ。
残念だったな、俺は爆発しねえ。
そして、リア充でもねえ。
リア充は説明もなしにいきなり異世界に飛ばされたりしないし、異世界で怪物に間違われてスライムに襲われたりしない、と考えて悲しくなってきた。
今更だけど、俺の境遇って悲惨じゃないだろうか。
そんな悲惨な境遇の俺のそばに咲く一輪の花サラさん、会えてよかった、とかあほなことを考えながら歩いている俺は、その時、街の人に応えるサラさんの笑顔が作り物っぽいことに気付けなかった。