ルッツ
サラさんの厚意に甘えて、俺はしばらくサラさんの家でお世話になることにした。
「じゃあ、先ほど報告に行かれてたのは、」
『ええ、今回の調査について、私の上司に報告をしてきました。
実はすでにこの部屋にユウトさんを泊めることも許可を取ってあります。』
と言ったサラさんのてへっ、と言わんばかりの表情は本当に可愛かったのだが、いくつか気になることが残っている。
「キュクロプスのことに関しては、どうするんですか?」
『それは継続して調査する予定です。
状況が状況だけに一度ファスタルの守備部隊で詳細な辺境の調査を行うようです。
犠牲が出なければいいんですが。』
とサラさんは心配そうな表情でうつむいた。
別にサラさんの責任ではないと思うが、思うところがあるのだろう。
「あと、犬のことなんですが、なぜあんなところにいたんでしょう?」
『それは本当に不思議です。
あんなところで犬を見たことはなかったんですが。
とりあえず、しばらくはうちで様子を見たいと思っているのですが、構いませんか?』
「ええ、ありがとうございます。
俺の家の目途が立ったら、一緒に出ていきますので。」
と言うと、あからさまにがっかりした顔で、
『ずっといてもいいのに。』
と言われた。そんなこと言われるとお兄さん勘違いしそうですよ。
『ああ、さっき報告した時にファスタルの外出禁止令を解いてもらうように言っておきましたから、もう街の方は賑やかになっていると思いますよ。
今日はお疲れでしょうから、明日にでも行ってみますか?』
「ええ、ぜひ。
ああ、でも俺全然お金がないんですけどね。」
と苦笑しながら言うと、サラさんはちょっと言いにくそうに
『あの、そのことなんですが、実はわんちゃんにあげた薬が余っていたら少し分けて頂けませんか?
さっき報告に行ったときに上司がとても興味を持ってしまって、少しでも分けてもらえるなら、それなりの額を用意すると言っているのです。』
「構いませんけど、ただの軽食ですよ。何かに使うんですか?」
『ええ、私は目の前で効果を見ましたから信じるしかないんですけど、上司はそんなものは信じられないと。
もしあるならうちの研究所で分析したいと。』
「そうですか。特に何か見つかるとは思えませんけどね。」
と言いながら胸ポケットに残っていたカ○リーメイトをサラさんに手渡した。
『じゃあすみません、私これを上司に渡してきて、ついでにスライムの調査の件も担当部署に伝えてきます。
すぐに戻りますので、少しお待ちください。』
と言って出て行ってしまった。
担当部署とか、本当に会社っぽくて、異世界ファンタジーらしくないな、と思ってしまった。
それにしても、めっちゃカ○リーメイト役に立ってます。
こんなことならもっと持ってくればよかったかな。
実はあと二つ持ってるんだけどな。
「おまえも、カ○リーメイトのおかげで助かったんだよなぁ。
なんだったんだろうなぁ。」
と、犬を撫でながら考えた。
が、どう考えてもカ○リーメイトはカ○リーメイトである。
「そう言えば、おまえの名前をつけないとな。
犬種はよく分からないけどグローネンダールとかっぽいんだよな。」
グローネンダールと言うのは、俺が大好きな大型の黒犬だ。
いつか飼ってみたいとずっと思っていた。
まさか、異世界で叶うとは思ってもみなかった。
いや、グローネンダールかどうかは分からないんだけれど。
「よし、じゃあいつかグローネンダールを飼ったらつけようと思っていた
【ルッツ】にしよう。
今日からお前の名前はルッツだ。
よろしくな、ルッツ。」
と言うと、ルッツはこっちをじっと見ながら
『わん』
と返事をした、その瞬間、ルッツの体が光り出し、見る見る間に光があふれて視界が完全に白く染まった。
「痛っ。」
その光の中で俺は何か手に痛みを感じた。
なんだ?と思う間もなく光は収まり、手の痛みも何事もなかったかのように消え去っていた。
痛かった部分を見ても特に傷などはない。
そして、光が収まった後のルッツはとても立派で巨大な犬に、
・・・はなっていなかった。
いや、異世界ファンタジーだったらこの瞬間使い魔との契約が成立して、真の姿に戻るとかあるでしょ、と思ったのだが、ないようだ。
ただ、今の現象は俺とルッツの間で何らかの契約が取り交わされたと思った方がいいだろうな。
全然何のことか分からないが。
ルッツは心なしか毛並みがよくなったような気がする。
相変わらず痩せているので早く何か食べさせてやらないといけないな。
と、思っているところに
『今の光はなんですか??』
と、息を切らせたサラさんが戻ってきたのだった。