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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第8章 22日目以降 責任
116/119

暴龍

 俺たちはラボに向かっていた。

 もうニグートもトライファークも戦意なんてなかったから、誰にも阻まれることはなかった。

 ただ、ニグートは混乱し始めていた。

 これから、ニグートは大変だろう。

 今まで操作され続けていた上層部が、急に自分たちで全てを決めないといけなくなったのだ。

 しばらくは不安定になるだろう。


 ただ、あまり心配はしていない。

 ユラさんやサラがいれば、なんとかなるだろう。

 これからは、ずっとがんばってきた人たちが上に立つような、そんな国になってほしい、そう思った。


 そんなことを考えながらバイクを飛ばす。

 みんなあまり話さなかった。

 緊張しているんだと思う。

 いわゆる、最後の戦いだと思うから。

 レオはバイクの横を走っている。

 ルッツも同じだ。

 その2体の古代種には、大して緊張は見られない。

 頼もしい限りだ。

 実際、この二人の力がなければ、何もできないだろう。

 

 ファスタルの辺境に辿り着いた。

 そこでは、既に戦いが行われていた。

 人同士ではない。

 ドラゴンとスライムだ。

 サラは、辺境に多数のスライムを設置していると言っていた。

 そのスライムたちはキュクロプスを弱らせるために設置されたものだ。

 キュクロプスの体から出る電波に反応して襲い掛かるらしい。

 思えば、それは電波ではなく、マナの操作の波動じゃないだろうか。

 キュクロプスはアポリトに操られていた。

 スライムたちは、そのアポリトの操作のマナを検出していたんじゃないかと思う。

 俺が最初に襲われたのも、スマホではなく、俺を操作しようとするアポリトの波動を感知して襲い掛かってきたんだろう。

 今、目の前でドラゴンがスライムに襲われているのは、暴龍によるマナの操作の波動を検出して、じゃないだろうか。

 ドラゴン対スライム。

 元の世界の常識から言えば、最強のモンスター対最弱のモンスター、みたいな組み合わせだ。

 だけど、スライムは意外と善戦していた。

 多分、スライムの透明化の能力のおかげだ。

 ドラゴンは、透明になったスライムを見つけられないらしい。

 そして、襲われた時には、取り付かれて体を溶かされる。

 そんな状態で、少しづつ負傷していくドラゴンが増えているようだ。

 とはいえ、スライムの数もかなり減っている。

 そもそもの数自体がドラゴンの方が多いし、透明になれると言っても、攻撃の時には見える。

 それで、段々と倒されているのだろう。

 だが、これはいいヒントになった。


「サラ、あの布を貸してください」


 俺は、サラに透明になれる布を出してもらう。


「これで、雑魚を減らしていきましょう。

 普通にやっても勝てるかもしれませんが、アイツと戦う余力を残しておかないといけませんから、体力は温存した方がいいです」


 アイツ、というのは暴龍だ。

 ラボの入り口の近くで悠然と寝ている。

 ここからはかなり距離があるから、こっちの存在に気づいているのかどうかはよく分からない。

 だが、動かないものを気にしていても仕方がない。


 今、俺たちは道路にバイクを停めている。

 サラの結界石が有効に働いているらしく、モンスターは道路には来ていない。

 この結界石も多分、マナに働きかけるものだろう。

 モンスターはここに近寄ろうとしたら、マナを操作されて近づけなくされる、みたいな。

 そう考えると、アポリトに操作されているキュクロプスにも有効、ってのはすごいな。

 もう一人の俺のマナの操作でも、アポリトに操作されているヘカトンケイルを操作することはできなかった。

 サラの結界石はそれを可能にしているのだ。

 もう一人の俺の記憶にもあったが、やっぱり、少しずつでも人間は進歩しているんだろう。

 アポリトが介入して技術の進歩を妨げているようだが、それでも、人間は進歩している。

 俺は、そのことがとても嬉しかった。

 アポリトの思惑通りにならない、人間の強さが誇らしかった。

 やっぱり、アポリトはもう必要ないんだろう。

 そう思った。


「レオとルッツは少し待っていてくれ。

 俺たちが雑魚を減らしてから、頼む。

 でも、もし暴龍が出てきたら、すぐに助っ人に来てくれ」


 俺はそう言って、布を被った。

 レオとルッツは布を被って攻撃なんてできない。

 だから、俺たちが雑魚を倒すまでは待ってもらう。 

 そのまま、俺たちはドラゴンとスライムの戦いの中に加わった。

 地味な戦いになった。

 なにせ、こちらはスライムも含めて、ほとんど姿が見えない状態だ。

 もし知らない人が見たら、戦闘もないのに、ドラゴンが勝手に倒れていくように見えただろう。


 俺たちが加わって、ドラゴンたちは混乱していた。

 スライムだけなら、苦戦はしても、それほど倒されるドラゴンは多くなかった。

 だが、俺たちは確実にドラゴンを倒していく。

 混乱したドラゴンは俺たちに有効な反撃をすることもできず、みるみるうちに数を減らしていった。


 それでも、暴龍は動こうとしない。

 いや、考えてみれば当然かもしれない。

 ドラゴンたちは暴龍の支配下にいるだけで、別に身内でも何でもないのだ。

 同じドラゴンに見えるが、成り立ちを考えると、むしろ暴龍にとってこのドラゴンたちは敵だ。

 アポリトからすれば大事な手駒のはずだが、暴龍さえいればいいと思っているのかもしれない。

 どちらにしろ、俺たちには好都合だ。

 そのまま、どんどん雑魚の数を減らしていった。

 そして、目につくやつはあらかた倒すことができた。

 あとは、空にいるワイバーンたちだが、降りてきたやつは大体倒した。

 降りてこないやつは放置する。


「レオ、ルッツ、来てくれ」


 俺は、レオとルッツを呼んだ。

 あとは、暴龍だ。


 こちらの雰囲気を感じたのか、暴龍が起き上がって、こちらを見た。

 流石の迫力だ。

 

「ヘカトンケイルと同じでお願いします。

 レオとルッツは直接攻撃、統括もその援護を。

 サラとマイさんと俺は遠距離からで。

 もし、暴龍が飛んだら、遠距離組が全力で攻撃。

 それが全然当たらなかったら、一度ラボの中に逃げましょう。

 おそらく、暴龍もラボに対して、過剰な攻撃は加えないでしょうし」


 みんな頷いてくれた。

 俺の記憶を考えても、暴龍には目立った弱点はない。

 だから、正面から倒すしかない。


「サラ、マイさん、最初は遠距離から思い切り一撃、撃ち込んでください」


 最初は、遠距離からの攻撃で先制する。

 俺のいつもの手段だ。

 できたら、これで決まってくれたらいい。

 いつもそう思うが、それで終わったことなんてない。

 だから、別に期待しているわけじゃない。

 様子見ってやつだ。

 サラとマイさんの攻撃に合わせて、俺もプロッタもどきで攻撃を放つ。


 三人分の攻撃が暴龍に降り注いだ。

 それは、人が放ったとは思えないような威力だった。

 暴龍の周りが派手に吹っ飛ぶ。

 同時に、かなりの土煙が舞った。

 やったとは思えないが、ダメージくらいはあってほしい。


 すぐに土煙が晴れて、暴龍の姿が見えてきた。


 暴龍は灰のようになっていた。

 カスカスというか、燃え尽きたような感じだ。


「え?

 倒した?」


 まさかとは思ったが、暴龍は動かない。


『そんなわけねえだろ』


 後ろから、聞き覚えのある軽薄そうな声が聞こえた。

 俺はその瞬間、反射的に体を反らした。

 

 一瞬前まで俺の体があった所を銃弾が通り過ぎる。


『おっと、外しちまったか』


 もう一人の俺を殺した男だ。

 俺も殺そうとしたらしい。


『折角、暴龍に気をとられているうちにやってやろうと思ったのに、お前があまりにアホなことを言うから、ツッコんじまったぜ』


 失敗失敗、とか言っている。


『お前ら、アポリトのバックアップを破壊してくれたようだな。

 アポリトは、いたくご立腹だ。

 失敗作のお前のことなんて、大して気にもしてなかったのに、絶対に殺せだと』


 言っていることは物騒だが、相変わらず軽い調子だ。


『俺の気遣いであっさり殺してやるつもりだったのに、お前が避けるから、余計に苦しむことになるぞ』


「そんな気遣いいらない。

 それに、俺はお前なんかに殺されない」


『ああ、まあ好きにほざいてろ』


「前も言っていたが、失敗作ってなんのことだ?」


 俺は聞いてみた。

 コイツは口が軽そうだから、聞いたら答えそうだ。

 今のところ、暴龍も動かなさそうだし、少し気になっていたことだ。

 まあ、想像はついているが。


『ああ?

 お前のことだよ。

 アポリトがマナを改変して、自分の補修要員として再現したのに、やたら若いわ、マナの操作は受け付けないわで、全く使えない失敗作ってことだ』


 もう一人の俺の予想通りだった。

 面と向かって失敗作と連呼されるのは腹立たしいが、そのおかげで俺はこうしていられるのだから、俺にとって悪いことではない。


「お前はなんなんだ?

 トライファークの研究者だろう?」


『ああ。

 まあ、お前らはもう終わりだから教えてやろうか。

 俺はトライファークの人間だが、生まれた時からアポリトの操作を受けている。

 アポリトの意思を遂行するものとしてな』


 最初、コイツはニグートの代表者と似ていると思った。

 それは、同じような不気味さを感じたからだ。

 でも、今はニグートの代表者やトライファークにいたマイさんの先生とは少し異なる印象を受けていた。

 不気味さや態度のおかしさは似ているが、そういう操作されている人間特有の違和感のようなものがあまりなかった。

 少なくとも、コイツは自分の意思で行動しているように見える。

 生まれた時から操作されているからなのか。

 操作されているのが自然だからということか。


『でも、あなたはトライファークでそれなりの研究をして、それなりに実績を残していました。

 だからこそ、トライファークでも一目置かれて、みんなからも信頼されていたじゃないですか』


 そう言ったのはマイさんだ。

 俺とは違って、この男に対して、信頼感を捨てきれないんだろう。

 何かの間違いだと、自分は嫌々アポリトに操作されているんだと、そう言ってほしいんだろう。


『ああ?

 そんなもん、アポリトの指示に決まっているだろう。

 トライファークをある程度好きにするためには、内部に信頼された人間が必要だったからな。

 それが俺だ。

 いや、他にもいるがな。

 そもそも、マナの改変の研究を始めたやつもアポリトに操作されたやつだし、改変を認める流れに誘導したのは、俺だ。

 そういうことをするために、俺はトライファークにいたんだ。

 別に、俺が信頼されたくて、信頼されたわけじゃない。

 そんなこと、俺自身はどうでも良かったよ。

 俺は、ただアポリトに従っていただけだ』


 マイさんはショックを受けたようだ。

 信頼していた人間からの、言わば裏切りの宣言だ。

 それは、もう一人の俺が考えていた筋書きとほぼ一致する。

 ただ、もう一人の俺の考えでは、こういう人はアポリトに完全に操作されていて、ほとんど人形のような存在のはずだ。

 確かに、ニグートの代表者はそういう感じがあった。

 だが、この人は何か違う。


「お前の意思はどうなんだ?

 さっきから、アポリトの指示を受けているって言ってるが、他の操作されている人と違って、お前はある程度、自分の意思で動いているように見えるぞ」


『そりゃ、俺は自我も何もかも残っているからな。

 他の操作されているやつは、自分の意思とアポリトの意思が違うから、自己矛盾を起こして、どんどんおかしくなっていく。

 最悪の場合、自我が破綻して自分では動けなくなるから、アポリトが意のままに操っている。

 だが、俺は、自分の意思がアポリトの意思だ。

 物心ついたときから、そうだった。

 だから、自己矛盾なんて起きないし、自我もちゃんと残っていて自分の意思で動いている』


 嘘ではなさそうだ。

 でも、それはコイツ自身の意思と言えるのだろうか。

 細かいことは、俺には分からない。

 でも、コイツはそういう存在なんだろう。

 どこか矛盾しているようにも感じるが、少なくとも、コイツ自身はそう思っているようだ。


「じゃあ、お前はアポリトがいなくなったら、どうなる?

 自分の意思と言うが、アポリトがいないなら、そこにあるお前の意思はどうなる?」


『何を言っているか知らんが、アポリトはなくならない。

 そんな、仮定の話に興味はないな』


「でも、もうアポリトは限界なんだろう?

 だから、俺を再現して修理しようとしているんだろう」


『ああ。

 確かにアポリトには不具合が起き始めている。

 だから、補修する必要がある。

 それには、お前が必要だ。

 この世界の技術者には不可能だからな。

 だが、お前は失敗作だった。

 だから、もう一度再現しなおす必要があるんだ』


 コイツはもう俺を再現できないことを知らないのか。


「いや、それはもうできない。

 お前が殺した俺が、自分自身のマナの情報を消去したんだ。

 だから、もう俺は再現できない」


『なんだと。

 でも、アポリトはもう一度お前を再現するって。

 だから、一度お前たちを消して、やり直すって』


「アポリトはトライシオンのデータベースにはアクセスできない。

 だから、俺のマナが消されていることを知らないんだ」


『そんな嘘、信じると思うか?

 仮に本当だとしても、今すぐにアポリトがなくなるわけじゃない。

 アポリトを破壊することは不可能だからな。

 アポリトは誰にも破壊することはできない』


 少し、様子がおかしい。

 アポリトの破壊は不可能じゃない。

 普通に可能なはずだ。

 コイツ自身、アポリトがなくなったら、なんて考えたことがなかったんだろう。

 混乱し始めているようだ。

 混乱すると言うことは、コイツ自身にはアポリトがなくなったら、ということを考える意思があるってことだ。

 それを考えると、不安になるんだろう。


「強制停止コードを使えば、アポリトは消える」


 揺さぶりをかけることにした。

 仲間がいるから、一帯が爆破される、とは言わない。


『強制停止コード?

 なんだそれは?』


 なんだ?

 コイツは強制停止コードのことは知らないらしい。

 アポリトはコイツを使っているが、全面的に信用しているというわけではないのか。

 ただ、利用しているだけ。


「アポリトを強制的に停止するコードだ。

 お前は知らないらしいが、それを使えば、アポリトは消える」


 俺の言葉を男は吟味しているようだ。

 少し、間が開いた。


『お前の言葉など信用しない。

 アポリトはそんなことは言っていなかった。

 やはり、失敗作なんかと話したのが間違いだったな。

 もう終わりだ。

 どちらにせよ、お前たちはここで終わる。

 だから、もしもお前の言葉が真実だとしても、そんなコードは使えはしない』


 話を切られた。

 期待してなかったが、やっぱり戦うしかないようだ。


『おい、暴龍!

 いつまで寝てる気だ。

 さっさと起きろ』


 その言葉に合わせて暴龍が身震いをした。

 カサカサになっていた表皮が剥がれ落ちる。

 そして、中から無傷の体が見えている。


『お前たちが強いのは分かっている。

 暴龍だけではキツイかもしれないこともな。

 だから、こちらも残った手駒は全て使う』


 男のその言葉の直後、ラボの方から音がした。

 そこからは、ファスタルの守備隊を襲っていた小さなドラゴンたちが大量に出てきた。

 その数は大群と呼ぶに相応しい。

 なぜ今になって。

 さっき俺たちが雑魚のドラゴンを倒すのは放置していたくせに。

 そう思った俺の目に、出てきた小さなドラゴンと数少なくなったワイバーンが戦い始めるのが見えた。

 そういうことか。

 ワイバーンは暴龍が操作しているものの、細かい命令まで理解するわけではないようだ。

 単に外敵を排除するだけ。

 小さいドラゴンたちは暴龍ではなくアポリトが操作しているから、お互いが味方という認識にはならないらしい。

 同時に出すと同士討ちを始めるから、俺たちを使って暴龍の制御下のドラゴンたちを倒させたんだろう。

 俺たちを利用したんだな。

 それで、俺たちの戦力を少しでも削げれば、それでいいと思ったんじゃないだろうか。

 そうはならなかったが、小賢しいことこの上ない。

 いや、同時に襲われなかっただけマシだと考えることにしよう。


 俺は仲間たちとアイコンタクトで合図をする。

 役割分担はみんな分かっている。

 レオとルッツとおっさんは暴龍。

 サラとマイさんと俺は援護しつつ小さいやつの迎撃だ。


 トライファークの男は暴龍たちに声をかけてから、すぐに逃げて行った。

 いや、逃げたのかどうかは分からない。

 だが、すぐにラボの中へ走って行った。

 もしかしたら、俺たちの戦闘に巻き込まれるのを避けたのかもしれない。


 そうして、戦いが始まった。



 暴龍は本当に強かった。

 まさしく、最強の統率者にふさわしかった。

 レオとルッツとおっさんの三人がかりでも、押されている。

 俺たちがあまり援護できていないせいもある。

 小さいドラゴンの大群のせいだ。

 サラとマイさんの攻撃は効いている。

 俺も、自在に扱えるようになったプロッタもどきでどんどん倒している。

 だが、圧倒的に数が多い。

 これじゃ、終わりが見えない。


 その時、暴龍が上空に飛び上がった。

 レオとおっさんは空への攻撃手段がない。

 俺たち遠距離攻撃組が攻撃しないといけないが、小さいドラゴンがひっきりなしに襲ってくるから、なかなか思ったように暴龍に攻撃できない。


 そして、暴龍がこちらを向く。

 まずい。

 あれは、ニグートで見た炎を吐くやつか。

 こんな所では避けようがない。

 暴龍の口が赤くなるのが見える。

 そのまま、こちらに業火が吐かれるのが見えた、その時、 


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉん』


 ルッツの力強い咆哮がこだました。


 ルッツの能力だ。

 空気を振動させて、衝撃波を発生させられるらしい。


 その衝撃波によって、暴龍の業火が俺たちを避けて、周りに拡散する。

 そして、小さいドラゴンたちを焼き払った。

 そのまま、ルッツは咆哮を続ける。

 その攻撃は、上空の暴龍にも及ぶ。

 暴龍は飛行を続けられずに、地上へ落ちてきた。

 ルッツの咆哮は止まらない。

 小さいドラゴンたちを衝撃波で薙ぎ払っていく。

 その姿は、暴龍やレオにも劣らない。

 強力で誇り高い統率者と言うに相応しい姿をしていた。


 しばらく咆哮を続けた後、ルッツの攻撃が止んだ。

 ルッツはその場にしゃがむ。

 かなり疲弊したようだ。

 あれは相当な体力を使うらしい。

 あの威力だと当然だ。

 だが、そのおかげで敵の戦力を大幅に削ることができた。


「ルッツ、良くやった。

 これを食べろ」


 俺は、ルッツに残っていたカ○リーメイトを食べさせる。


 ルッツの体力が一気に回復するのが分かった。

 やっぱりこれは古代種に対して大きな効果があるみたいだ。


「ルッツのおかげで、かなり敵が減りました。

 このまま一気に攻めましょう」


『おう』


 俺はプロッタもどきをできるだけすばやく動かして、残った小さいドラゴンたちを倒していく。

 そして、レオとおっさんは落下してきた暴龍に突っ込んで行った。


 その時、絶望的な光景が見えた。

 ラボの入り口から、さらに大量の小さなドラゴンが現われるのが見えたのだ。

 なぜだ?

 なぜあんなに数がいる。

 確かにラボはかなり広い。

 だからと言って、無限にモンスターを用意しておいた、なんてことはないはずだ。

 あれじゃ、どんどん新しくドラゴンが作られているような。

 そこまで考えて、分かってしまった。

 再現装置だ。

 ラボには再現装置がある。

 俺を再現するのに使われたやつだ。

 あれは、トライファークにあるものよりもかなり高機能だ。

 あれくらいの大きさのドラゴンだったら、すぐに作り出せる。

 それを使って、どんどん新しくドラゴンを作り出しているのだろう。

 もちろん、無限に生み出せるわけじゃない。

 リソースは限られているはずだからだ。

 だが、あとどれくらい生み出せるのかは分からない。

 俺は、決めた。


「みんな、ラボの中にあのドラゴンを生み出している装置があります。

 俺はそれを破壊してくるので、あと少し持ちこたえてください。

 サラ、これを」


 俺は最後のカ○リーメイトをサラに渡した。


「レオかルッツが動けなくなったら、これを食べさせてください」


『分かりました。

 ユウト、気をつけてください』


「はい。

 サラも」


 俺は、すぐに走り出した。

 その間もラボからは小さいドラゴンが次々に出てくる。

 少しでも早く再現装置を破壊しないと。


 俺がラボに近づくと、小さいドラゴンたちはこちらに標的を絞ってきた。

 どんどん襲い掛かってくる。

 俺は、それをプロッタもどきで倒しながら、ラボを目指す。

 数が多くて、ラボに入るのも困難な状況だ。

 だが、早く再現装置を破壊しないと、もっと状況が悪化するのは明らかだ。

 その時、ラボの入り口までを太いビームが薙ぎ払った。

 サラがマナウェポンでこちらに特大の攻撃を行ってくれたようだ。

 一時的に、ラボまでの道が開けた。

 ありがたい。


 俺は急いでラボに走りこむ。

 ラボの中にも小さいドラゴンはたくさんいた。

 こちらに向かってくるものをけん制しながら、再現装置を目指す。


 再現装置の部屋の中はドラゴンだらけでひどい状況だった。

 だが、止まるわけには行かない。

 俺はヨーヨーの光弾を連続で打ち出す。

 プロッタもどきも使っているが、ヨーヨーの方が攻撃範囲は広い。

 それで、ドラゴンを倒しながら再現装置を目指した。

 その間もずっと、ドラゴンが生成され続けている。

 なかなか進むことができない。

 俺は諦めずに少しずつ進む。

 だが、部屋の奥に近づけば近づくほど、進めない。

 ドラゴンの圧力に俺が足を止めそうになった、その時、再び外からルッツの咆哮が聞こえてきた。

 さっきと同じくらい長い咆哮だ。

 外でもみんながんばっているんだ。

 俺は、力を振り絞る。

 その咆哮が聞こえなくなった直後、部屋に詰まっていたドラゴンの圧力が少し弱くなった。

 おそらく、外のドラゴンが大量に倒されたから、部屋のドラゴンたちの一部が外に向かったためだろう。

 チャンスだ。

 ルッツのおかげだ。

 俺は、一気にヨーヨーとプロッタもどきで攻撃を行う。


 やっとの思いで、再現装置の目の前に辿り着くことができた。

 俺はヨーヨーの光弾を目一杯の速度で撃ちだした。

 それが、周囲のドラゴンを巻き込みながら再現装置に当たる。


 再現装置は頑丈じゃない。

 頑丈さなんて考慮されていないからだ。

 ヨーヨーの光弾を受けて、あっけないほど簡単に破壊することができた。


 そして、俺はそのまま部屋の中のドラゴンたちを倒す。

 再現装置からはもう新しいドラゴンは生み出されない。


 ようやく、部屋の中のドラゴンを倒し尽くした。

 俺は、すぐにラボの外に戻った。

 まだ、みんな無事だ。

 暴龍と戦っている。

 小さいドラゴンはかなり数を減らしているようだ。

 おそらく、さっき聞こえたルッツの咆哮によるものだろう。

 暴龍もルッツの咆哮を警戒して、飛行に移れないでいる。

 陸上限定ならば、レオとルッツとおっさんを相手にして、そこまで圧倒的な優位に立てているわけじゃない。

 サラとマイさんは残った小さいドラゴンの対処をしているが、それを終えれば、暴龍に向かえるはずだ。

 俺もサラとマイさんに加わって小さいドラゴンを倒し始める。

 

 戦い始めてどれくらい経ったろうか。

 小さいドラゴンを全て倒した。

 あとは暴龍だけだ。

 簡単ではなかったが、なんとかみんな無事にここまで来れた。

 このまま倒す。


 レオとルッツは度々暴龍に対して強烈な攻撃を加えている。

 おっさんも上手く援護に回っている。

 だが、決定的なダメージを与えられない。

 サラとマイさんの攻撃も当たっている。

 マナウェポンの攻撃はかなりの威力があるはずだ。

 だが、暴龍の表皮を焼くことはできても、それを貫くことはできない。

 最初の、脱皮のような現象のあとで現われた表皮は異常に硬かった。

 ヨーヨーはおろか、プロッタもどきの攻撃も有効なダメージにはならない。

 マナウェポンでダメなら、現状俺たちにそれ以上の攻撃方法はない。

 レオとルッツのおかげで戦い自体はこちらが押し気味だが、倒しきれないなら、いつかジリ貧になるのは目に見えている。

 暴龍の体力切れなんて望むべくもないからだ。

 暴龍は最強の統率者として生み出された。

 それは、攻撃力、防御力だけじゃない。

 体力だって、普通じゃない。

 このまま攻防を繰り返して、息切れする程度には作っていない。

 作ったのはアポリトだが、アポリトの有能さに疑いはない。

 探したって、はっきりした弱点なんてないだろう。

 だけど、倒すためには、何かきっかけが必要だ。

 突破口を見つけないと。

 俺は必死に考えながら、攻撃を繰り返す。


 暴龍が、急進してきた。

 俺たちはそれを避けるために大きく後退する。

 暴龍は目の前に飛んでいたサラが操作していたプロッタもどきの一つに噛み付いてきた。

 それは、暴龍の口の中で潰されたようで、暴龍の口から軽く煙が出てきた。

 まだプロッタもどきは俺とサラのものを合わせて5個あるから、一つくらい食われても…。

 食われても?

 思うことがあった。

 試してみることにする。

 

「サラ」


 俺はサラに声をかける。


「すいません。

 プロッタもどきを全部使わせてください」


『分かりました。

 …。

 はい』


 俺はサラに唐突に言ったが、サラは大して時間もかけずに、すぐにプロッタもどきを回収して俺に渡してくれた。

 俺のことを信用してくれているんだろう。

 ありがたい。


『どうするつもりですか?』


「アイツの口の中を攻撃します。

 外皮は堅すぎて、今はどうしようもありません。

 だから、体内を攻撃します」


 俺は、這いずりしものと戦ったときも、口の中を攻撃している。

 それは、かなり有効だった。

 暴龍と這いずりしものは随分違うが、古代種と言っても生物だということは分かっている。

 だから、暴龍にも効くと思ったのだ。


 俺はプロッタもどき5個を同時に起動する。

 今まで2個しか動かしたことはなかった。

 だが、今ならできる。

 もう一人の俺が見せてくれた記憶の中で、彼は多数のプロッタもどきを自在に操っていた。

 俺は、それを実体験のように経験している。

 だから、それを真似るだけだ。

 俺は集中する。

 そして、プロッタもどきを操作した。

 よし、問題ない。

 あとは、どうやって暴龍の口の中に入れるかだ。

 遠くから操作してってのは難しい。

 もっと、近づく必要がある。

 だから、サラに頼むんじゃなくて、俺自身でやることにした。


 俺は、レオたちが戦っているところに加わる。


『どうした?』


 おっさんが短く聞いてきた。

 長々と説明できるような状況ではない。


「暴龍を口の中から攻撃します。

 できるだけ近づいて口の中へプロッタもどきをぶち込みます。

 援護お願いします」


『分かった。

 お前への攻撃はなんとかするから、自分のことに集中しろ』


「はい。

 お願いします」


 俺たちは暴龍に聞こえないように、短くやりとりすると、それぞれ動き出す。

 暴龍の攻撃は鋭いつめでの切り裂きと踏みつけ、尻尾での薙ぎ払いに、噛み付き、翼での打撃と吹き飛ばし、それから口から吐く火炎と多彩だ。

 それをレオとルッツとおっさんは避けながら攻撃をしている。

 すごい。

 正直、俺には真似できない。

 だけど、おっさんは自分のことに集中しろと言ってくれた。

 だから、自分のことに集中する。

 暴龍の口にプロッタもどきを突っ込むとしたら、噛み付きをしてくるときか、火を吐いてくるときだ。 タイミングは火を吐くときの方が取りやすいけど、プロッタもどきがやつの口の中で燃やされる可能性がある。

 だから、効果を考えるなら、噛み付きの方がいいだろう。

 暴龍の動きはかなり素早いから、できるかどうかは微妙だ。

 俺は最低限の回避行動を取りながら、集中してタイミングを見計らう。

 おっさんはそんな俺に攻撃が向いてこないように暴龍の注意を自分に向けている。

 そのまま、様子を見る。

 レオとルッツの攻撃は効いていないわけじゃない。

 ただ、表皮が硬すぎて、効果が薄いだけだ。

 今のところ、チャンスはきていない。

 何度か噛み付き攻撃自体は行ってきているが、早すぎてプロッタもどきを向けることなんてできない。

 もっと、決定的な隙がほしい。


 戦闘は均衡を保ったまま続いていく。

 だが、レオとルッツはまだ動けているが、おっさんの動きが少しずつ悪くなってきた。

 疲労が溜まってきたんだろうか。

 暴龍と戦うときから加わったレオとルッツと違って、おっさんは雑魚と戦い始めたときから、動きっぱなしだ。

 さすがにきついのかもしれない。


「統括!

 きついなら」


 下がって休んでください、と言おうとしたところで、おっさんの強い視線がこちらに向いた。

 目で、黙って機を伺え、そう言われているように感じる。

 そして、自分は大丈夫、とでも言っている気がした。

 だが、現実は、どんどんおっさんの動きは悪くなっている。

 そんなおっさんを見て、チャンスと思ったのか、暴龍はまずおっさんを片付けることにしたようだ。

 暴龍からすれば、ずっと戦ってもなかなか倒れない相手のうちの一人が急に動きが鈍くなってきたのだ。

 自然な狙いだろう。

 俺はハラハラしていたが、レオとルッツも一緒だから大丈夫なはずだ。

 俺はおっさんの言葉を信じて、チャンスを待つ。


 暴龍に集中的に攻められて、おっさんはさらに追い込まれていく。

 そして、よろめいたおっさんに暴龍の強烈な切り裂きが迫る。

 おっさんはそれをなんとか大きくジャンプすることで避ける。

 だが、飛んだおっさんの目の前には、暴龍の顔だ。

 空中では、体勢を変えることができない。

 暴龍は目の前のおっさんを逃すつもりはないようだ。

 決定的な隙になっているから。

 俺はその光景に、走って助けに行きそうになる。

 そこで、こちらを見ているおっさんと目が合った。

 目で何かを訴えている。

 気づいた。

 爪を振り下ろした体勢の暴龍。

 その目の前には無防備のおっさん。

 暴龍の攻撃の選択肢。

 そして、絶体絶命に見えるのに、俺の方をしっかりと見ているおっさん。


 俺は、プロッタもどきを高速で飛ばす。

 暴龍はおっさんに集中していて、こっちの行動なんて気にしちゃいない。

 そのまま、おっさんを噛み砕こうと大口を開ける。

 おっさんって、肉体派かと思いきや、本当頭もいいんだよな。

 俺は、おっさんの誘導に感謝する。

 そして、プロッタもどきを暴龍の口の中にぶち込んだ。

 すぐに、暴龍の体内をブレードを展開したプロッタもどきでめちゃくちゃに切りつける。

 5個のプロッタもどきを独立して操作しながら、どんどん内側から切り刻む。

 手ごたえはある。

 このまま終わらせてやる。


 暴龍は最初何が起きたか分からなかったようだ。

 だが、すぐに体内の激痛にもがき苦しみ始めた。

 そして、それが俺の攻撃によるものだと気づいたらしい。

 とにかく、逃れようと翼を広げる。

 飛んで俺から距離を取るつもりだろう。

 確かに、プロッタもどきの操作はそれほど遠くまではできない。


『うおぉぉぉぉん』


 しかし、それはルッツが許さない。

 少し浮き始めていた暴龍を撃墜する。


 ルッツの咆哮を食らって、暴龍は飛ぶことを諦めた。

 そして、今度は大きく息を吸い込んだ。

 その様子から、何をやろうとしているのかは分かる。

 この辺り一体を火炎で焼き尽くす気だ。

 体内をプロッタもどきに切り刻まれているのに、よくやる。

 いや、プロッタもどきも同時に破壊するつもりなのかもしれない。

 それに、この近距離では、ルッツが火を拡散させても、俺たちも巻き込まれる。

 暴龍自身もダメージを食らうだろうが、今はそれでもこっちを殲滅することを優先したんだろう。

 俺はその攻撃を防ごうとプロッタもどきで攻撃を続けるが、暴龍は止まらない。

 そして、暴龍が火を吐こうとこちらを向いた。

 その時、おっさんが下から暴龍の顎を勢いよく殴り上げる。

 振り抜いたおっさんのこぶしに合わせて、暴龍の頭が大きく跳ね上がった。

 それを、大きく跳躍していたレオが上から殴りつける。

 暴龍の頭は、まるでピンポン玉のように上下に弾かれ、地面に叩きつけられた。


 その連携を受けて、ついに、暴龍が地面に倒れ伏す。

 流石に体内をずたずたにされ、さらに攻撃の瞬間の無防備な頭部に強烈な攻撃を食らっては、ひとたまりもなかったのだろう。

 終わった。


 俺たちは全員息をつく。

 なんとか、全員無事に乗り越えることができた。

 近距離で戦っていたレオやルッツはけっこう傷はあるが、まだ元気だ。

 おっさんもへばっていたのは演技らしく、まだ動けるらしい。

 とはいえ、みんな疲労はかなり溜まっているだろう。

 本当なら、今すぐにでも休みたいところだ。

 だが、もう最大の山は越えたと見ていい。

 このまま最後まで進む。

 あとは、アポリトを破壊するだけだ。






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