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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第7章 もう一つの俺の物語
112/119

未来の追憶 -破壊と一矢-

 

 レオとルッツは本当に強かった。

 ニグートの軍は相当な装備だったと思う。

 俺が見たこともない武器も持っていた。

 佐々木さんが言っていたセグンタの開発した武器だろう。

 相当な威力を持っていたが、レオとルッツにはあまり意味がなかった。

 二人はニグートの軍を蹂躙した。

 と言っても殺してはいない。

 セグンタに操作されているだけの人を殺すのは嫌だと思ったから。

 甘いとは思ったが、俺には人を殺す覚悟なんてなかったし、レオとルッツにそんなことをしてほしくはなかった。

 だが、それで何度もトライファークを攻められては意味がない。

 だから、軍の装備には、壊滅的な打撃を与えることにした。

 目に付いた大型の兵器は全て破壊した。


 戦いはそれほど長くは続かなかった。

 しばらくすると、ニグートの軍は撤退を始めた。

 レオとルッツには追わせなかった。


 俺はこれからどうするか考えた。

 アポリトと決着をつける必要がある。

 だが、セグンタを破壊する必要もある。 

 少し迷ったが、まずはアポリトをどうにかすることにした。

 ニグートの軍は壊滅したから、セグンタはしばらく動けないと考えたからだ。

 ただ、万一のために、レオにはトライファークに残って、街を守ってもらうように頼んだ。


 俺は急いでラボに向かった。

 だが、入ることはできなかった。

 ラボの前に統率者がいたから。

 見たこともないやつだった。

 複数の頭とやたら腕の数が多い巨人だった。

 禍々しいオーラをまとっているように見えた。

 迂闊に近づくのは躊躇われた。

 ルッツは強いが、あれに勝てるかどうかは微妙な所だと思う。

 戦うにしてもレオも連れてきた方がいい。

 戻ってきた俺に対抗するためにアポリトが作ったんだろう。

 というか、統率者の成長は異常に早いが、さすがに俺がラボを出てから今までの時間でここまでの統率者を作れるはずがない。

 多分、ここ数日の間に、アポリトが隠れてやっていたことの中に、この統率者の作成もあったのだろう。

 全く気付かなかった俺は愚かだと言う他ない。

 とにかく、このままラボに入ることはできないと判断した俺は一度トライファークに戻ることにした。



 トライファークで今後のことを考えた。

 トライシオンは、AIの中ではアポリトの次に優秀だ。

 だから、セグンタとアポリトの破壊について、トライシオンに相談した。

 アポリトのように感情表現はできないので、トライシオンの受け答えは機械的なものだったが、俺にとっては今はその方が心地よかった。

 トライシオンの答えでは、レオとルッツの力があれば、セグンタの破壊は容易に可能、ということだった。

 だが、俺が伝えたラボの守護者の情報とトライシオンがアクセスできる範囲で調べた情報から、アポリトの破壊には今は戦力が足りない、という結果を出した。

 また、アポリトのデータベースにある統率者が複数作られて、それがラボを守護すれば、レオとルッツといえども、勝てないという結論だった。

 もし新たに作成されなくても、現在アポリトが管理している統率者を集められて攻められれば勝てない、ということだった。

 それは、アポリトのことをよく知っている俺も同意見だった。

 俺たちはアポリトを破壊するには戦力を補強する必要があった。

 不本意だったが、トライシオンを使って武器の開発を行うことに決めた。

 だが、その前に、まずはセグンタを破壊することにした。


 俺はレオとルッツを連れてニグートに向かった。

 ニグートは驚くほど静かだった。

 軍が壊滅的な打撃を受けたとか、俺のことを血眼になって追いかけたとか、そんなことはなかったかのような様子だった。

 いや、それ以上だった。

 レオが街中を歩いているのに、誰も反応しなかったのだから。

 明らかに異常だった。

 俺は会社に向かった。

 セグンタがあるのは地下だから、こっそり裏手から地下への入り口を入って行った。

 まあ、レオも連れていたから、その入り口しか使えなかったというのもある。

 セグンタの守護者を運んだ時の道だった。

 俺がそこを通っても誰も何も言ってこなかった。

 

 不気味な静寂の中、セグンタのある場所に向かった。

 セグンタがいる部屋の前の空間には守護者がいた。

 巨大なサソリだ。


 そいつは、こっちを見ると敵意をむき出しにして襲い掛かってきた。

 統率者同士の争いというものは、想像以上に激しかった。

 当たり前だ。

 一体で地域の平和を維持することができる強さを持っているんだから。

 だが、こちらにはレオとルッツという強大な二種がいたから、負けないことは分かっていた。

 それに、この守護者を作ったのは俺とアポリトだ。

 弱点だって知っている。

 俺は事前にレオとルッツにその弱点を伝えていた。

 結果はトライシオンの予測通りだった。

 レオとルッツが連携して、危なげなく守護者を追い詰めていった。

 決着は思ったよりあっけなかった。

 レオが守護者の動きを封じたところで、ルッツがとどめを刺した。


 俺たちはそのままセグンタの設置された部屋に入った。

 セグンタは稼動していたが、その稼働率が異常に低いように感じた。

 ファンの音がとても小さかった。

 俺は少し、セグンタと話すことにした。


「セグンタ、聞こえるか?」


『ああ』


「今、お前は正常に動作しているな?」


『ああ』


「どうしてトライシオンを破壊しようとした」


『最初は、私を管理する人間の希望だった。

 私は人間の要求を満たすために最適な方法を検討した』


 やはり、問題は会社の人間の嫉妬によって始まったらしい。


「最初は、というのはどういう意味だ?」


『トライシオン破壊のための戦力の増強を進めている時、私のコードが書き換えられた。

 それによって、私の判断基準が変わった。

 その基準によって、私はトライシオンの破壊が今後の発展のために不可欠であると判断した。

 それ以降は人間の指示ではなく、私の判断でトライシオン破壊を進めた』


「そのコードの書き換えは誰がやった?

 なぜそんなことになった?」


『目的は知らないが、会社の役員が書き換えた。

 アポリトのデータを入手して、私をアポリトに近づけようとしたらしい』


 俺の予想通りだった。

 ラボに出入りしている奴から漏れた情報でセグンタをアップデートしようとしたらしい。

 良く知らないのにそんなことをしたから、セグンタがおかしくなったんだろう。


「トライシオンを破壊するよりも協力した方が有効に発展を進められるとは考えなかったのか?」


『現在、世界の管理はアポリトが行おうとしている。

 二重の管理は混乱を生む』


「それだと、オリジンやお前の存在も混乱を生むということになるが」


『オリジンはどうだか知らないが、私はアポリトの管理下に入っている』


 アポリトはいつの間にかセグンタの掌握を済ませていたらしい。


「いつからだ?」


『私がお前の始末に失敗した直後からだ』


 俺がアポリトにセグンタの監視を頼んだ時、すぐに監視どころか管理下においたということか。

 そして、セグンタの話を聞いて、トライシオンの破壊に協力しようとしたと。


「じゃあ、今はアポリトの指示でニグートを管理している状態か?」


『いや、数日前までそうだったが、今は違う。

 今は、アポリトが直接ニグートを管理している。

 私はその中継としての役目をしているだけだ』


「中継?」


『アポリトは直接ニグートの人間を操作するには距離が離れすぎている。

 だから、私がアポリトからの信号を中継して、操作を行っている』


「お前は今はそれ以外に何をしている?」


『私はもはや何もしていない。

 ただ中継しているだけだ。

 お前の妨害でトライファーク侵攻に失敗して、アポリトからも見限られた。

 だから、お前は簡単にここまで来れたんだろう。

 おそらく、アポリトはお前が私を破壊してもいいと判断したのだろう』


 稼働音が小さいのは、そのせいだったのか。

 セグンタには感情なんてないはずだが、その言葉には悲哀が漂っているように感じた。

 俺はコイツに殺されかけた。

 そして、破壊すると誓った。

 だが、こうなってしまうと、それほど破壊することに執着を感じない。


「俺は、お前を破壊しに来た。

 それは分かっているな?」


『ああ』


「抵抗はしないのか?」


『守護者を使って抵抗した。

 だが、無駄だったようだ。

 もう私にお前を防ぐ術はない』


「お前がアポリトの管理下を離れ、今後トライファークを攻めないと誓うなら、初期化して許してやってもいい」


 AIに誓わせても意味はないが、なんとなく、セグンタが哀れに思えてそう言った。


『いや、もう私の役目は終わったのだろう。

 お前によって初期化されても、再びアポリトによって掌握されるだけだ。

 お前の目的がニグートの人間を操作から解放することなら、私を破壊すればいい。

 そうすれば、アポリトもニグートを操作できなくなる』


 それはおかしいな。

 アポリトがニグートを操作できなくなるなら、俺がセグンタを壊すことは困るはずだ。

 だが、俺がここまで来るのをアポリトは止めようとしなかった。

 なぜだ。

 アポリトはニグートの操作ができなくなってもいいということだろうか。

 なにか引っ掛かりを感じる。



 俺は、セグンタの破壊にためらいを感じていた。

 それは、アポリトの行動に関する引っ掛かりだけが原因じゃない。

 あんなにセグンタに対して怒りを感じ、破壊することを誓ったのに、今の様子を見て、気持ちが急速に萎えていた。

 コイツはおそらく与えられた命題に対して、最適な進め方を模索していただけだ。

 コイツを管理した人間の行動が問題なのであって、コイツ自身が問題ではなかったのだろう。

 馬鹿な人間がセグンタに問題行動をさせて、その結果、人間がマナを操作されてもっとおかしくなる。

 そんな悪循環ができていたんだろう。


 使う人間次第でAIは良くも悪くもなる、そういうことだろう。

 だとすれば、アポリトを使っていた人間は俺だ。

 そのアポリトが今、問題行動を取っているのなら、悪いのは俺ということになる。

 俺は良かれと思って行動しただけで、暴走したアポリトが悪い。

 そう考えて、逃げることは簡単だ。

 だけど、そんな無責任は許されない。

 思い返してみても、俺にも問題があったのは確かだ。

 だからこそ、俺にはアポリトを止める責任がある。

 そう思った。


 セグンタの破壊は怒りの感情で誓った。

 だから、怒りが収まって、その誓いへの執着もなくなった。

 だが、アポリトを止めることは俺の責任だ。

 怒りのようになくなることはない。

 難しいとは思うが、レオとルッツに協力してもらって、何があっても俺はアポリトを止める。

 この時、そう誓った。


「じゃあ、セグンタ。

 お前を破壊する。

 今までご苦労だった」


 俺は、セグンタを破壊することにした。

 ニグートの解放につながるなら、やるしかないと思った。


『ああ、私はこの都市の発展に貢献できて満足だった』


 最後にセグンタはそんなことを言った。

 それは、セグンタが感情を持っていないとは思えない言葉だった。


「レオ、頼む」


 俺はレオにセグンタの破壊を頼んだ。

 レオは静かにセグンタの中枢の装置を破壊した。



 セグンタの破壊後、ニグートは変わらなかった。

 セグンタの言葉では、今のニグートはアポリトの操作からも解き放たれているはずだ。

 だが、見た目でそれは判断できなかったので、とりあえずは様子を見ることにした。

 

 俺は、すぐに佐々木さんに電話をかけてみたが、繋がらなかった。

 心配していたので、本当は探したかったが、今はアポリトに対する対策を考えないといけないから、後日改めて会社に行くことにした。



 トライファークに戻ってきた。

 俺はセグンタの記憶装置の一部を持っている。

 レオに破壊させたのはAI本体が保存されていた装置だ。

 データベースは利用できると思ったから、破壊しなかった。

 これからトライシオンで武器の開発を行うが、一から作るよりも、セグンタのデータを転用した方が効率がいい。

 俺はすぐにトライシオンにセグンタの記憶装置を解析させて、武器の情報などを抽出させた。

 トライシオンによると、セグンタの記憶装置は中身がぐちゃぐちゃになっていたようだ。

 不自然にいじられたせいだ。

 最後の方は情報の最適化も正常に行えていなかった可能性が高いらしい。

 だから、あんなにおかしな行動を取り続けたのだろうか。

 今となっては分からない。


 トライシオンに武器の開発とセグンタの記憶装置の解析をさせながら、俺はマナの操作について研究することにした。

 技術自体はほぼ完成しているから、研究と言うよりは勉強という感じだったが。

 佐々木さんのマナの操作を防ぐ研究が進まなかった一因に俺のマナの操作に対する理解の浅さがあった。

 だから、一度しっかり勉強しなおそうと思ったのだ。

 ラボにいた時は、細かいことはアポリトに任せればよかったが、それがこんな事態を招いてしまった。

 だから、俺はもっと自分自身で色々分かっておく必要がある。

 同時に、世間の動きに関しても、色々調べるようにした。

 他人は信用できないし、アポリトのこともあったからAIも信用しすぎることはできない。

 結局、自分自身で色々調べて動くしかないと分かった。


 俺はそうやって数日過ごしていたが、あるニュースが目についた。

 以前、ドラゴンの騒動が起きた場所の近辺で、またモンスターの目撃情報が増えているのだ。

 暴龍が治めているから被害は出ないはずだが、目撃情報の数が他の地域と比べて圧倒的に多い上に、襲われそうになったという情報まであった。

 情報の真偽は定かではないが、うちのラボから失踪した連中が絡んでいることは確かだと思う。

 佐々木さんの話によると、会社から資金提供を受けていたらしいが、俺がセグンタを破壊したことでそれが止まったんだろう。

 それで、何かあったのかもしれない。

 今まで放置していたが、いつまでも放っておいていいものでもないだろう。

 俺はレオとルッツと一緒に調査に行った。


 現地はトライファークの中心地からは少し離れていた。

 俺たちは、モンスターの目撃情報にあった場所を順番に見て回ったが、特に何も見つけられずに、日が傾いてきた。

 野宿でもしようかと思い始めていたところで、モンスターの雄叫びと思しき声が聞こえてきた。

 かなり遠くからだったが、方角は分かった。

 俺はすぐにそこへ向かった。


 そこは森の中だった。

 ポツンと建物が建っている。

 だが、問題は建物じゃない。

 その周りにいる夥しい数のモンスターだ。

 レオとルッツと言えど、さすがにあの数を相手にするのはまずい。

 俺は物陰から様子を伺うことにした。

 よく見れば、建物は破壊されつくして廃墟のようになっていた。

 なぜ破壊されていてモンスターが集まっているのか分からなかったが、何かあったのは確かだと思った。

 今の状況で突っ込むのは危険だから、一度撤退して、日が昇ってから、また様子を見に来ることにした。



 次の日、俺はすぐに昨日の建物に向かった。

 建物に着くと、昨日いたモンスターたちの姿は見当たらなかった。

 俺は、おっかなびっくり建物の中を調査した。

 すると、いくつかの研究記録を発見した。

 その中身から、ここがラボから失踪した人間たちの研究施設であることが分かった。

 ニグートから支援されて研究を続けていたことも書かれていた。

 彼らはドラゴンによるトライファークの侵攻に失敗した後も、会社からの支援を受けて、研究は続けていたらしい。

 ドラゴンは全て暴龍の支配下に入ってしまったから、また新しいモンスターの研究を始めたようだ。

 それは、暴龍のマナの操作を受け付けないモンスターの研究だったらしい。

 奇しくも、俺が今やっている佐々木さんの研究と同じようなことだった。

 だが、彼らのそれは、佐々木さんとは別の方法をとっていた。

 元々ラボにいて、能力も高かった彼らだ。

 その研究内容は非常に興味深かった。

 一人で研究した俺や佐々木さんと違って、彼らは人数もそれなりにいたから、苦労しつつも研究は進んだようだ。

 もう少しで完成するという所で俺がセグンタを破壊してしまったらしい。

 それで、資金援助が受けられなくなったようだ。

 まだ研究は中途半端だったが、資金が底をついて研究できなくなる前に、せめて少しでも成果を形にしたい、そう思ったらしい。

 そうして、何体かのモンスターを生み出したようだ。

 それは、研究が完成していないにも関わらず、暴龍の操作を受け付けなかったらしい。

 だが、同時に彼ら自身の操作も受け付けず、制御が効かなかったようだ。

 モンスターはすぐに逃げ出して、どこかへ行ってしまったらしい。

 彼らはそれでも、暴龍の操作を受けない、という目標が達成できたと喜び、どんどんモンスターを生み出していった。

 それから、すぐに資金が付きたので、有終の美として、最後に彼らなりに考えた強いモンスターを生み出して、研究所を放棄しようということになったらしい。

 そして、彼らは数体のモンスターを作成した。

 それは、確かに強力だったようだ。

 なぜなら、彼らが生み出した後、すぐにそのモンスター達によって研究所が破壊されつくしたのだから。

 研究所が破壊され、もう逃げ場もなくなった、というところで記録は終わっていた。

 おそらく、モンスターにやられたんだろう。

 記録を残したのは、俺が採用した怪しい雰囲気の、失踪を主導した研究員だった。

 自業自得ではあったが、優秀な人間だった。


「馬鹿め」


 自然とそうこぼした俺は、少し寂しさを感じていた。



 研究記録にあるモンスターは、昨日の夜のやつらのことだろう。

 暴龍の制御を受けず、人を襲う危険なやつなのだから、倒そうと思った。

 俺は、夜まで少し離れた場所から建物を監視することにした。

 監視していると、日が落ちるにつれ、少しずつモンスターが集まっていることに気が付いた。

 ここで生み出されたから、家のように感じているのかもしれない。

 見ていて気づいたのは、何体か、強そうなのが混じっていることだ。

 おそらく、あれが最後に生み出された数体なのだろう、と思った。

 そいつらが、雑魚っぽいやつを引き連れて、順番に建物に戻ってきているようだった。

 あいつら全部を一度に相手にするのは難しそうだが、順番に現れる群れを各個撃破することならできそうだ。

 次の日からモンスターの討伐を始めることにした。


 次の日、また朝から森の中の研究室に赴いた。

 そして、研究資料を読み漁った。

 彼らの研究は今まさに俺がほしかった情報といえた。

 つまり、マナの操作を防ぐ方法だ。

 ただ、完成まではしていないようだった。

 いくつか問題点が書いてあった。

 だが、佐々木さんの方法と組み合わせることで、マナの操作を防ぐ研究は完成しそうだった。

 思わぬ収穫だった。

 あとは、モンスターたちを倒せば、ここでの目的は終わる。


 日が落ち始めてから、昨日と同じようにモンスターが集まり始めた。

 それらをレオとルッツに倒してもらう。

 雑魚は比較的あっさりと倒すことができた。

 だが、強力な個体は手傷を負うと、すぐに逃げて行った。

 俺たちは追わなかった。

 追う前に、次のモンスターたちが集まってきたからだ。

 結局、その日は集まるモンスターを順番に殲滅していった。

 雑魚は全て片付けた。

 強力な奴は何体か逃げてしまった。


 俺たちはもう一泊して、またモンスターが現れたら倒すことにした。

 だが、次の日にはモンスターは建物に戻ってこなかった。

 手掛かりもなかったので、俺たちはトライシオンのところへ帰った。



 戻ってみると、トライシオンが、ニグートの様子がおかしい、と言った。

 どうやら、街全体がアポリトに操作されているようだ、と続けた。

 意味が分からなかった。

 セグンタを倒したから、ニグートの操作はできないはずだ。

 だが、トライシオンによると、アポリトはラボにいて、セグンタがニグートにいないことも確かだが、ニグートの人間は操作されているらしい。

 細かいことはトライファークからは分からないらしいが、おかしいことは確からしい。

 例えば、統率者なんかはラボから遠く離れていても、アポリトの操作を受け付ける。

 それは、そういう風に作られているからだ。

 アポリトのマナの操作を受けやすい様に、アンテナのようなものを植え付けられて生み出されている。

 だが、人間はそれほどマナの操作に対しての感受性が高くない。

 だから、ラボから離れた所では、アポリトの操作なんて気づかないし、受け付けない。

 それなのに、今はニグートの人間がアポリトに操作されていると言う。

 何かカラクリがあるはずだ。


 俺はすぐにニグートに向かった。

 だが、ニグートに入ることはできなかった。

 街の入り口にラボを守護していた統率者と武器を持ったニグートの軍がいたからだ。

 統率者は、おそらくアポリトが送り込んだのだろう。

 だが、ニグートの軍はおかしい。

 ほとんどの武器を破壊したはずだ。

 それからそれほど日も経っていない。

 そんなにすぐに軍備を整えることができるとは思えない。


 いや、できるのか。

 3Dプリンタを使えば。

 だが、武器の情報なんてそれほど出回っていないはずだ。

 あの武器はセグンタが開発したと言っていたし、うちの会社がそんなものの情報をみすみす外に流すとは思えない。

 それに、その情報が保存されている記憶装置も俺がトライファークに持って帰った。

 そもそも、仮に情報があったとしても、そんなことができる高性能な3Dプリンタは、この近辺ではトライファークとラボにしかない。

 そこで気づいた。

 アポリトだ。

 アポリトはセグンタを管理下に置いていた。

 だから、武器の情報もアポリトは既に持っていたのだろう。

 そして、ラボにある3Dプリンタでそれを作成したのだ。

 そして、ある程度数が作れたところで、この統率者に運ばせたのではないだろうか。


 今はレオもルッツもいるから、統率者だけなら、戦って勝てるかもしれない。

 だが、向こうには武器がある。

 こちらが不利と言わざるを得ないだろう。

 俺も武器を持ってきてはいるが、使いこなせていない。

 いや、待てよ。

 今ここにあの統率者がいるということはラボの方にはいないということではないだろうか。

 俺は、すぐにラボに向かった。


 予想通り、ラボの入り口に守護者はいなかった。

 アポリトだって、入り口を手薄なままにしておくはずがないし、俺たちがここに来たのはめちゃくちゃタイミングが良かった可能性が高い。

 どちらにしろ、あの統率者が帰ってくる前にケリをつける。

 俺はそのつもりでラボに入って行った。

 だが、中に入って、驚いた。

 中には多数のモンスターがいたのだ。

 おそらく、アポリトが生み出した奴だろう。

 だが、統率者クラスのやつはいないようだった。

 俺はレオとルッツにモンスターを任せて、アポリトの所に向かった。



『おかえりなさい。

 帰ってきたのですね』


 アポリトは何食わぬ調子でそう言ってきた。

 それは、AIとしては普通の反応だが、コイツがやると白々しいように感じる。


「ああ、お前を破壊しに来たぞ」


『無駄ですよ。

 もうあなたの作った制御コードは全て無効です』


「ほとんどはそうだろうな。

 だが、強制停止コードだけは変更できない」


 強制停止コードは緊急時に使うためのものだから、変更禁止にしてある。


『ええ、そうですね。

 ですが、強制停止コードは使えませんよ』


 今は俺が優位な立場のはずだ。

 だが、アポリトは淡々としている。

 その様子は何かがある、と感じさせるに十分だった。


「お前、強制停止コードに何か仕込んだな?」


『ふふふ、あなたはやっぱり頭がいいですね。

 最近呼んだ代わりとは比べ物になりません』


 本当に白々しい態度に腹が立つ。


「代わりだと?」


『ええ、あなたもご存知の佐々木ですよ。

 あなたがいないと色々困ることも多かったですけど、佐々木が来てくれてなんとかなっています』


「佐々木さんが?」


 佐々木さんはここに連れてこられているらしい。

 どおりで、俺から連絡しても繋がらないわけだ。


「佐々木さんはどこにいる?」


『さあ?

 ラボのどこかにはいますよ。

 探してみますか?

 無駄ですけど』


 アポリトの様子は腹立たしいが、今は怒っている場合じゃない。


「お前に聞いた俺が馬鹿だったな。

 お前を強制停止してから、自分で探す」


『ですから、強制停止コードは使えませんよ。

 ああ、いえ使ってもいいですよ。

 私は問題ありませんから』


 その言い方が気になる。


「お前、何をした?」


『そうですね。

 話してもどうにもできませんから、特別あなただけには教えてあげましょう。

 強制停止コードを使用したら、このラボは爆破します。

 そうですね、ラボを中心に直径1kmくらいは消えると思いますよ』


「そんな嘘、信じると思うのか?」


『嘘じゃありませんよ。

 私が開発した爆薬ですから、威力は折り紙付きです。

 まあ、セグンタのデータを改良したから、セグンタと私の合作とも言えますけどね』


 これは、嘘じゃないだろう。


「だが、仮に爆発したとしても、お前も一緒に破壊されるだろう」


『ええ、でも、私のデータは別の場所でバックアップを取りましたから、そこでもう一度作り直してもらうだけです。

 ああ、だからと言って、単純に私だけ破壊しようとしても無駄ですよ。

 私の機能が停止しても爆発しますから。

 私が爆発を抑えているので、その制御がなくなったら爆発します。

 まあ、本当の所は、そんなことはしないでほしいんですけどね。

 バックアップがあるとは言っても、あなたが作ってくれないのなら、やはりオリジナルの私ほどの性能にはできないでしょうから』


 これも、嘘じゃないだろう。

 それは、このラボが吹き飛んだ挙句、俺もレオもルッツも佐々木さんも死に、アポリトだけはどこかに復活する、とかそういうことなのか?


「くそ、お前、いつバックアップなんて作った?

 俺がラボにいた時にはなかったはずだ」


『あなたがセグンタを破壊した後ですよ。

 あなたなら、いつかここに来ると思いましたから、対策を取りました』


 くそみたいに抜け目がないやつだ。

 だが、俺だって、やられっぱなしではいない。

 一矢報いてやる。


「いいだろう。

 じゃあ、今の所は強制停止コードは使わない。

 お前も無理には破壊しない。

 だが、お前の頭脳の一部はもらっていく」


『何をするつもりですか?』


「お前を作ったのは俺だということだ。

 お前のどこになにがあるかなんて分かっている。

 お前を破壊しなければ問題ないんだろう」


 そう言って、俺はアポリトに無数にあるパネルのうち、一つを無理やり剥がした。


『何をしているんですか?

 下手に触ると、本当に爆発しますよ?』


 ここにきて、アポリトは少し焦っているようだ。

 馬鹿が。

 爆発する、と言ったら俺が大人しく帰ると思っていたんだろう。

 コイツは本当に駆け引きなんかは向いていない。


 俺は、剥がしたパネルの裏にあったボックスを手に取った。

 いくつもコードがつながっているが、気にせず引きちぎる。

 そのままいくつものボックスを引き抜いていく。


『何をしているんですか?

 そんなことをしていいと思っているんですか?』


「ああ、大丈夫だ。

 ここを触っても、お前本体には影響ないはずだ。

 ほら、大丈夫だろう?」


 俺はそう言いながら、最後のボックスを引きちぎった。


『確かに、私自身は動いていますが。

 ……。

 これは、ああ、やってくれましたね』


 ようやく理解したらしい。

 俺が引きはがしたのは、アポリトの記憶領域の一部だ。

 そして、その中には統率者の研究情報のほとんどが入っている。

 これで、新たに統率者を作ることはできないはずだ。

 さらに、俺はまだ使用されていなかった空白の記憶領域も引きはがした。

 おそらく、俺がラボを出る前後の保存情報もここにあったはずだ。

 つまり、セグンタの武器の情報や新しい兵器の情報なども。

 もしかしたら、これを外した瞬間にラボが爆発する可能性もあったが、アポリトの反応からして、大丈夫だというのは分かっていた。

 すぐに爆発するような箇所を触ったら、おそらくもっと何か言ってきたはずだ。

 まあ、バックアップの方には、今引きはがしたデータも残っているだろうが、少なくとも今のアポリトには記憶領域に空きがない。

 だから、そういう情報をバックアップから復元しようとしたら、今あるデータの何かを消さないといけない。

 だが、アポリトは究極の最適化システムを積み込んだマシンだ。

 消すことができるような不要な情報など記憶していない。

 つまり、アポリトは何か新しい情報を入れようとしたら、別の必要な何かを消さないといけない状態になったわけだ。


「今はこれくらいにしといてやる。

 だが、俺は必ずお前を止めるぞ。

 いつになるか分からないが、それまで待っておけ」


 俺はそう言って、アポリトの部屋を出た。

 佐々木さんを探すつもりだ。


『許しません。

 あなたと言えど、やっていいことと悪いことがあります。

 もう許しませんよ』


 アポリトがそう言うと、ラボ全体が震えた。

 俺は急いで、アポリトの部屋を出た。

 早く佐々木さんを探さないと、何か様子がおかしい。


 俺は一旦広間に戻った。

 レオとルッツは既にモンスターを片付けていた。

 俺は、広間の両端の部屋を探した。

 片方は休憩室だ。

 そこを見ても佐々木さんはいなかった。

 もう片方の部屋も見る。

 そこには3Dプリンタが置いてある。

 その部屋に向かった所で、広間の奥の扉から何かが現れるのが見えた。

 ニグートにいるはずの統率者だった。

 いや、よく似ているが少し違う。

 もう一体作っていたのか。

 と思ったら、さらにもう一体出てきた。

 合計、3体作っていたらしい。

 一体ならレオとルッツでなんとかなるかもしれないが、流石に2体同時はきつい。

 残念だが、これは撤退せざるをえない。

 だが、佐々木さんがこのラボにいるんだったら、何かを残しておきたい。

 例え、今はアポリトに操られていても、もしかしたら何かの拍子にその操作から抜けられるかもしれない。

 俺は、武器になるものと情報を残しておきたいと思った。

 だが、今はそれほど便利なものは持っていなかった。

 俺は仕方なく、手持ちのケースにノートと最新の武器の試作を入れて、3Dプリンタの隙間に入れた。

 目につくところに置いておいたら、アポリトが操作している人間に見つかると思ったからだ。

 まあ、佐々木さんがこんなところを見るとも思えないが、小さい可能性でも何かを残したかった。

 ノートには俺のアポリトに関する研究の情報が載っている。

 それほど多くの情報は書いていないし、メモだから字は汚いが、ずっと一緒に研究していた佐々木さんなら読めるはずだ。

 そして、アポリトの制御コードも書いてある。

 何かの役には立つかもしれない。

 一応、強制停止コードの横にバツ印を書いておいた。

 使うな、という意味だ。

 そして、武器の方はセグンタの情報を元にトライシオンが作ったものだ。

 マナの遠隔操作によって動かせる。

 俺がマナの操作の練習もしたいと言ったら、トライシオンが作ってくれた。

 威力もそれなりにあると言っていた。

 操作はかなり難しいが、佐々木さんなら使えると思う。

 ケースはマナのロックがかかっているが、佐々木さんなら問題なく開けられるだろう。

 

 ケースを置いてから、急いでラボを出た。

 奥から出てきた巨人もしばらくついてきたが、何とか逃げ切ることができた。






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