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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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キュクロプス

 俺たちが地上に出ると、レオルオーガとキュクロプスが対峙していた。

 キュクロプスは初めて見るけど、一つ目の巨人らしいから間違いないだろう。

 レオルオーガと比べてもキュクロプスはかなり大きい。

 レオルオーガの倍以上ありそうだ。

 さっき地下にいたときに感じた揺れと音はキュクロプスが要塞に攻撃した衝撃らしい。

 地下まで伝わるとか、どんだけの威力なんだ。


『なんだコイツは?』


 トライファークの代表者はキュクロプスを知らないらしい。

 まあ、古代種ではないからな。


「コイツはキュクロプスです。

 元々ファスタルの辺境にいたらしいんですけど、多分、辺境のAI、アポリトでしたっけ、に操られてここに来たんだと思います」


『なんだと?

 じゃあ、コイツが今のアポリトの手駒か。

 あいつめ、こんなやつを生み出していたのか。

 おい、レオ、油断するなよ』


 レオルオーガはトライファークの代表者に軽く頷く。


「俺たちも加勢します」


『好きにしろ。

 だが、レオの邪魔はするなよ。

 それと、巻き添えを食っても知らんぞ』


 言い方はぞんざいだが、拒否はされなかった。

 それだけ、キュクロプスがやばい相手と判断したということだろう。


「統括、ルッツ」


『ああ、俺たちは援護メインで考えた方がいい。

 流石にあの間に割って入っても、そう役に立てるとは思えん』


『わん』


 俺たちの方針も決まった。

 俺は、要塞に入るときにポケットに入れたプロッタもどきを取り出した。

 横に浮かせる。


『お前、なぜそれを持っている?』


「辺境の遺跡で見つけました。

 なんか問題ありますか?」


『それは元々俺のもんだ。

 大事に使え。

 ちゃんと制御しろ。

 できないなら寄越せ』


「嫌です。

 もう俺の物です」


 偶然見つけたものだが、元々俺、というかコイツのものだったらしい。

 そういえば、あの遺跡はコイツのラボだったと言ってたから、当然かもしれない。

 ああ、あのノートもコイツのか。

 そりゃ、他の人に読めなくて、俺が読めるのも納得だな。

 自分の字なんだから当たり前かもしれない。

 ああ、いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。

 目の前に集中しないと。


 それまでキュクロプスもレオルオーガも相手を睨むだけで硬直していたが、近くで起きた爆発の音をきっかけに動き出した。

 最初にレオルオーガが棍棒でキュクロプスに殴り掛かった。

 めちゃくちゃ速い。

 俺たちを襲った時は手加減していたんじゃないかと思うくらい速かった。

 それがキュクロプスの太ももに当たる。

 キュクロプスはよろめいた。

 その顔面に俺のヨーヨーの光弾が着弾する。

 ちょっと顔をしかめられたくらいだった。

 痛いと言うより、単に鬱陶しいという感じだ。

 強い相手にはヨーヨーはほとんど効かないな。

 仕方ない。

 けん制に使うくらいにしよう。


『なんだそのおもちゃは?』


 そう言ってトライファークの代表者はヨーヨーを馬鹿にしている。

 いや、お前だって俺なんだからヨーヨー好きだろうが、と言いたかったが、役に立たなかったのは事実なので、黙っておく。

 トライファークの代表者はサラのマナウェポンとよく似た武器を取り出した。

 そしてそれで攻撃する。

 マナウェポンとはちょっと違う細いレーザーみたいな攻撃だった。

 それが、キュクロプスの目に当たって、焼いた。


『ぐおおおおおお』


 キュクロプスのうめき声が轟く。

 かなり効いたようだ。

 腹が立つが強さは確からしい。

 その焼いた顔面に向かって、レオルオーガが拳を叩きつける。

 痛そうだ。


 キュクロプスはレオルオーガの追撃を嫌がって持っていたデカい棍棒を横薙ぎに振るってきた。

 俺たちは少し距離を取っているので、ここまでは届かない。

 レオルオーガはそれを飛んで躱した。

 そして、そのまま空中で蹴りを放って、顔面に追撃を加える。

 

 そこからは、レオルオーガがキュクロプスを圧倒した。

 キュクロプスもパワーはめちゃくちゃだが、レオルオーガには当たらない。

 どんなパワーも当たらなければ意味はない、というやつだな。

 レオルオーガは細かくダメージを与えていく。

 そこに隙は感じられない。

 横から援護しようかと思っていたが、その必要もなさそうだ。


 やっぱりレオルオーガは強い。

 マニアに人気の古代種なだけはある。

 もしかして、このままレオルオーガとトライファークの代表者に任せておけば倒せるんじゃないか。

 そんなことを思い始めた時、キュクロプスに変化が見られ始めた。

 キュクロプスは元々薄い緑色の肌をしていたが、どんどん赤っぽく変色し始めたのだ。

 なにやら震えながら顔が赤くなり始めたので、最初は怒っているのかと思った。

 でも、その変色は体中に広がり、気づけば全身真っ赤に変わっていた。

 少し体が小さくなっているようにも感じる。

 今はレオルオーガの2倍もないだろう。

 なんだあれは?

 第二形態とかあるのか?

 体つきもさっきより締まっている。

 さっきまでは、少しぽちゃっとしたような体形だったのが、今は筋肉質な感じに変わった。

 レオルオーガやおっさんほど筋肉質ではないが、細マッチョな感じだ。

 どう見ても、さっきより強そうに見える。

 驚くべきことに、さっき焼かれたはずの目の傷も治っているようだ。

 代表者も雰囲気を感じ取ったのだろう。


『レオ、警戒しろ。

 おそらく、さっきまでと違う』


 レオルオーガは重々承知、という感じだ。

 流石に油断なんてしていないな。


 レオルオーガがまた棍棒で殴り掛かった。

 一撃目と同じくらい速い。

 だが、キュクロプスはそれを無造作に手で掴んで止めた。

 そして、別の方の手で自分が持っている棍棒をレオルオーガに向けて振り下ろす。

 レオルオーガは掴まれた棍棒を放して、後ろに飛んで距離を取った。

 キュクロプスは手に持ったレオルオーガの棍棒を遠くに投げ捨てる。

 今の一連の動きだけで、キュクロプスがさっきまでとは違うことが分かる。


「あれ、明らかにさっきより強くなってますよね」


『ああ、レオルオーガだけに任せとくわけにはいかないようだ』


 おっさんもさっきまではレオルオーガだけで倒せると思っていたようだ。

 それで、手出ししなかったらしい。


「でも、あの中に入るのって難しいですよね」


 怪獣大決戦、みたいな戦いになっている。

 生身の人間が介入するような争いじゃない。


『ああ、お前はあくまで遠距離からの援護に徹しろ。

 直接的な攻撃は俺が行く』


 おっさんはあの中に入る気らしい。


「大丈夫ですか?」


『俺は統括だぞ。

 俺に大丈夫じゃない状況などない』


 さすがに強がりじゃないかと思ったが、その言葉は心強い。


「分かりました。

 くれぐれも無理はしないでください」


『ああ、分かってる』


『わん』


 ルッツも行く気らしい。


「ルッツも気をつけてな。

 危なそうだったら、すぐに戻ってこいよ」


『わん』


 大丈夫、と言っている。


『行くぞ』


 おっさんの声に合わせて、二人はキュクロプスへと突っ込んで行った。


 おっさんとルッツが向かう前、レオルオーガとキュクロプスの戦いは膠着状態の様相を呈し始めていた。

 お互いに軽い攻撃は当たるものの、ダメージはあまりない。

 大きな攻撃は避けられる。

 レオルオーガの体制が崩れた時にトライファークの代表者が援護をするが、それも当たらない。

 レオルオーガが立て直す時間を稼ぐために攻撃しているだけだ。

 逆に、キュクロプスの体制が崩れるようなことはなかった。

 このまま続けたら、体力のない方が負けるか、武器のないレオルオーガの方が不利、そんな感じだ。

 ただ、キュクロプスの攻撃力を考えると、まぐれでも一撃食らってしまえば、一気にレオルオーガがやられかねない。

 それも考えると、こちらの方が圧倒的に不利な状況だった。

 

 そんな状況の中に、おっさんは躊躇なく飛び込んだ。

 俺には自殺行為にしか見えなかったが、おっさんにとってはそうでもなかったらしい。

 一度レオルオーガと戦ったことがあるのが役に立っているのかもしれない。

 ある程度、レオルオーガの動きに合わせて援護できるようだ。

 多分、それはレオルオーガにも言えることで、おっさんの動きはそれなりに把握しているっぽい。

 急造の連携にしては、上手く機能しているみたいだ。

 レオルオーガが中心に攻めて、おっさんは隙を埋める。

 そして、ルッツも引っ掻いたり、噛みついたりして、キュクロプスの注意を逸らすのに役立っている。

 たまにトライファークの代表者がレーザーを放って、けん制もしている。


 俺もぼさっとしているわけにはいかない。

 プロッタもどきを飛ばして、キュクロプスの顔面を切りつける。

 メインの攻撃はレオルオーガに任せるとして、俺はそっちへの注意を逸らせばいい。

 やっていることはルッツと同じだ。

 集中して、素早くプロッタもどきを制御する。

 戦いながら工夫を重ねて、少しづつ制御の精度を上げていく。


 そんな状態でこっちが有利に攻め続けた。

 安定している。

 かなりの戦力だと思う。

 強力な古代種2体と、おそらく人間最強のおっさん、トライファークの代表者もかなりの実力者っぽい。

 俺はおまけかもしれないが、この面子で負けることなんてそうそうないだろう。

 キュクロプスの攻撃は一撃で状況をひっくり返す威力を持っているが、そうだと分かっている攻撃を食らうほど間抜けじゃない。


 キュクロプスもなんとかしようと、もがきはしていたが、こっちに穴はない。

 戦闘が進むにつれて、目に見えてキュクロプスは疲弊していった。

 そして、とうとう持っていた棍棒を地に落とす。

 限界がきたようだ。

 レオルオーガがフラフラになっているキュクロプスの頭を思い切り殴りつけた。 

 地響きとともにキュクロプスは倒れこむ。

 レオルオーガはキュクロプスが落とした棍棒を拾った。

 そして、とどめとばかりに、倒れているキュクロプスの頭にそれを振り下ろす。

 頭が潰れる嫌な音とともにキュクロプスは絶命した。


 勝った。

 意外と危なげなく勝つことができた。

 5対1だったわけだから卑怯なのかもしれないが、命がかかっているんだから、そんなこと言ってられない。

 とりあえず、一安心だ。


「勝てましたね。

 お疲れ様でした」


 俺はこっちに歩いてきたおっさんとルッツに声をかける。


『ああ、まあほとんどレオルオーガがやったんだがな』


 それは確かにその通りだ。

 おそろしい強さだった。


 トライファークの代表者もレオルオーガをねぎらっているようだ。

 表情はよく分からないけど、レオルオーガも満足そうだ。


 でも、レオルオーガだけでは負けていたかもしれないから、やっぱりおっさんとルッツの存在は大きかったと思う。


 そこにサラとマイさんがやってきた。


『大丈夫でしたか?

 あ、あれはキュクロプス?』


 キュクロプスの屍骸を見て気づいたらしい。

 けっこうグロいから、あんまり見ない方がいいと思うけど。


「ええ。

 辺境からここまで来たみたいです。

 レオルオーガとおっさんとルッツが倒してくれました」


『お前も戦っただろうが。

 まあ、中心はレオルオーガだが』


 そんな風にみんなで話していた。

 まだ辺境のAIが残っているが、差し迫った危機は脱したと思うので、少し気は抜けていた。



 そこに、いきなり耳を塞ぎたくなるような大きな爆発音が轟いた。

 俺は突然のことにかなり驚いたが、咄嗟にその音がした方向を確かめた。

 それは、俺たちがいる要塞の出口付近から、少し離れた区画でのことだったようだ。

 間に建物があるので、直接は見えない。


「な、なんなんだ?」


 俺は要塞から出てすぐにキュクロプスと戦いだしたので気づいていなかったが、まだ街の方からは爆発音が聞こえている。

 そういえば、レオルオーガとキュクロプスが戦いだしたのも、街の爆発音がきっかけだった。


「あれ?

 戦争は終わったんじゃないんですか?

 どういうことですか?」


 トライファークの代表者に聞く。


『分からん。

 俺はトライファークの人間には、もう戦闘をやめるように言った。

 そもそもトライファークの軍は、ほとんどこの街には入っていない』


「ドラゴンは?」


『それも、やめさせたはずだ』


「でも、まだ戦闘は続いていますよ」


『ああ。

 だから分からんと言っている』


 その時、要塞からは離れた位置の上空に一際大きなドラゴンの姿が見えた。

 ワイバーンではない。

 もっと巨大なやつだ。

 色は真っ黒い。

 圧倒的な存在に見えた。


 それが、下を向いたかと思うと、激しく火を吐いた。

 映画のワンシーンかと思った。

 それくらい、現実離れした光景だった。

 可燃性の油か何かを口から吐き出して、牙を火打石のようにして、火を吐く、だったっけな。

 ネットで火を吐く生物の可能性を論じている記事を見た時に書いていた。

 おそらく、それと同じ仕組みだろう。

 でも、実際に空を飛ぶ巨大なドラゴンが業火を吐く光景というのは、俺の頭にはなかなか事実として入ってこなかった。

 それでも、その火を浴びた建物が勢いよく燃える様を目にして、信じられないとか言ってられない。


「ドラゴンは全然止まってませんよ。

 どういうことですか?」


『分からん。

 俺が操作しているのは、あのドラゴンのはずだが、言うことを聞かない。

 なぜだ?』


 トライファークの代表者にも分からないようだ。

 珍しくうろたえている。


『俺はあんな命令を出してはいない。

 確かにアイツは普段から言うことを聞きにくいやつだったが』


 何か考え込みだした。


『まさか。

 最初からだったのか。

 最初から操作されているフリをしていただけなのか』


 そんなことをブツブツと言っている。


「とにかく何とかしましょう。

 このままじゃ、ニグートがやばいですよ」


 俺は代表者にそう言ったが、聞こえていない。

 深く考え込んでいるようで、全く、周りが見えていない。


 くそっ。

 俺たちだけでどうにかするしかないか。

 そう思って、おっさんたちと相談しようとした時、大きな乾いた音が耳に響いた。

 擬音語で表すなら、パァ―ンみたいな。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 銃声だ。

 撃たれた?

 仲間たちを確認したが、みんな無事そうだ。


 どさっ。

 後ろで人が倒れる音がした。

 振り返ると、トライファークの代表者が地面に倒れ込んでいた。





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