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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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ニグート騒乱~地下の装置

 

 辺境を出て真っ直ぐニグートに向かった。

 スピードから考えて、キュクロプスに追いつくかと思ったが、出くわすことはなかった。

 真っ直ぐと言っても、俺たちは道路を進んでいる。

 キュクロプスは道路に関係なく、本当に真っ直ぐニグートに向かったんだとしたら、出くわさないのは当然かもしれない。

 途中の森も、そのまま突っ切っているかもしれないからな。

 流石にバイクで移動している俺たちよりも早くニグートに着いていることはないと思う。


 しばらく進んで、ニグートの国境に近づいた。

 一応、マイさんには隠れてもらっている。

 関所に着いたとき、警備兵が近づいてきた。

 前と同じ状況だが、前とは違って何か慌ただしい空気を感じる。

 関所にいる人間がみんなバタバタと動いていた。

 何かあったんだろうか。

 いや、トライファークに攻めているんだから、戦時中と言えば戦時中か。

 ここはあまりそんな雰囲気ではないけど。

 キュクロプスが来たんではないと思う。

 それだったら、この程度で済むはずがない。

 警備兵はサラを見て、特に何も確認せずにすんなり通した。

 かなりチェックがいい加減になっている気がするが、サラだからだろうか。

 簡単に通れる方がいいのは間違いないので、気にせずそのまま進んだ。



 日が落ち始めた頃、目的地であるニグートの首都の近くまで来ていた。


 ある程度街が見え始めた時から、何か普通じゃないことには気づいていた。

 遠目に見た時は夕日なのかと思った。

 時間的にそれくらいだったから。

 だが、どう見ても空全体ではなく、目的地の方だけが赤く染まっていたのだ。

 そして、それが意味することに気づいたとき、俺たちは誰ともなくバイクの速度を上げていた。


 街全体がはっきり見え始めた頃、街が燃えていることを確認した。

 俺は戦地なんて実際に見たことはない。

 当たり前だ。

 平和な時代に生まれたんだから。

 でも、テレビでは見たことがある。

 まさにそんな、テレビで見たような光景が目の前に広がっていた。

 もちろん、全ての建物が燃えているわけじゃないし、無傷な方が多い。

 崩落しているようなものもほとんどない。

 だが、いくつかの大きな建物が燃えている様子とそこから立ち上る煙が、街全体が燃えているかのような錯覚を起こさせた。

 

 サラはその光景を目の当たりにして、呆然としていた。

 何が起こったのか分からない、という顔だ。

 いや、どちらかといえば分かりたくない、という気持ちになっているのかもしれない。

 前に来た時には、この街に興味がなさそうな風だったけど、自分の故郷なんだから本当に全く関心がないはずはない。


『とにかく、誰かに事情を聞くぞ。

 教えてもらえるかどうかは分からんが、軍人なら何かしら知っているだろう』


 おっさんは冷静だった。


「そうですね。

 まずは何があったのか確かめましょう」


 トライファークの代表者はニグートに攻める気はないと言っていたはずだ。

 でも、これはどう考えても侵攻だ。

 何を考えているんだ。

 

 俺たちは街の中を走った。

 燃えている場所を避けながらなので、速度は落としているが、進めないほど道が崩れたりはしていなかった。

 人を探して進んでいると、急に暗くなった。

 うん?と思った時に、


『がう』


 というルッツの吠える声が真上から聞こえた。

 そして、俺の目の前を、何かに噛みついた状態で落ちていく。

 慌ててバイクを停める。


 すぐに前方を確認すると、ルッツがモンスターを攻撃しているところだった。


『おい、大丈夫か?』


 おっさんが俺の横にバイクを停めて、聞いてきた。


「ええ、あれは何ですか?」


『ワイバーンだ。

 小さいから、子供かもしれないが。

 いきなり飛んできて、お前を上から攻撃しようとしていた』


 暗くなったのはワイバーンが上を飛んだからか。

 全然気づかなかった。

 ルッツが助けてくれたんだな。


「ルッツ、助かった。

 大丈夫か?」


『わん』


 ルッツは気にするなと言ってくれている。

 もうワイバーンは仕留めたようだ。

 人くらいのサイズだから、ドラゴンの中では強くないんだろうけど、それほど弱そうでもないんだけどな。

 今のルッツにとっては余裕の相手らしい。


「なんでこんな所にモンスターが?」


『分からん。

 分からんから、やっぱり誰かに事情を聞いた方がいい』


「そうですね。

 でも、あんまり人を見かけませんね」


『そりゃそうだろう。

 こんな状況で外に出るやつなんて、そうはいない』


 おっさんと話していると、大きな爆発音が聞こえた。

 どうやら、建物を挟んだ隣の通りから聞こえたらしい。

 また聞こえた。

 今度は人の叫び声らしきものも聞こえた。


「人が戦っている?

 行きましょう」


 俺は音の聞こえた方へ急いだ。


 そこに着いたとき、置かれている状況も忘れて、思わず感動してしまった。

 なぜなら、今度こそドラゴンがいたからだ。

 いや、感動なんてしている場合じゃないのは分かっている。

 だが、俺の目の前にはどう見てもドラゴンという感じのドラゴンがいた。

 大きな翼、鋭い爪、太い手足と首、長い胴体とそこから伸びる尾、硬い鱗のような皮膚。

 それは、巨大な体を揺らしながら、数人の人と戦っているところのようだった。


『あれは、リンドブルムか』


 おっさんが言う。

 リンドブルム?

 やっぱりドラゴンだよな。

 というか、今日はドラゴンばかり会うな。


「強いんですか?」


『ああ、土竜よりは強い。

 古代種ほどじゃないが。

 とりあえず、助けるぞ』


 戦っている人たちは、今にもやられそうだった。

 数はいるが、大して戦えていない。

 手に銃を持っているから、軍人だろう。

 その銃で攻撃しているが、リンドブルムは意に介していない。


 俺はヨーヨーの光弾を放つ。

 それはリンドブルムの足に当たって体勢を崩した。

 下がってきた頭をおっさんが殴りつける。

 かなり綺麗に入った。

 首がちぎれるんじゃないかというほどの勢いでリンドブルムの頭が吹っ飛ぶ。

 そして、そのまま崩れ落ちたかと思うと、そのまま動かなくなった。

 おっさんは土竜より強いドラゴンを一撃で倒してしまった。

 どんだけ強くなってんだ。


 軍人らしき人たちはいきなりのおっさんの登場にビビっている。

 助けられたことは分かっているだろうが、目の前でドラゴンを一撃で沈めたのだ。

 それも素手で。

 ビビるのも当然だ。

 軍人の癖に情けない、と思わなくもないが仕方ないだろう。

 その人たちにおっさんが話しかける。


『おい、何があった?

 なぜニグートが燃えている?

 お前ら、トライファークに攻めたんじゃなかったのか?』


『は、はい』


 話しかけられた人はなぜか敬礼しながら話し出した。


『私たちは昨日の夜、トライファークに向けて進軍を開始しました。 

 そして、いよいよ国境で戦闘が始まる、という所で、突然大量のドラゴンが現れたんです。

 こちらもそれなりの装備だったので、迎撃しようとしましたが、数が多くてどうにもならず、一度ニグートに戻って体制を立て直す、ということになりました。

 そのまま戻ってきたのはいいのですが、ドラゴンたちもついてきてしまって、市街戦が始まりました。

 市民は外出禁止になっていたので、被害はほとんど出ていないはずですが、火を吐くドラゴンがいて、この状態です』


 なんか、さっきの守備隊の人の話と少し似ている。


『トライファークの軍じゃなくて、ドラゴンが出てきたのか?』


『はい。

 あ、いえ、正確にはトライファークの軍と一緒にドラゴンが現れました』


 どういうことだ?

 ドラゴンてのは友好的なのか?


「統括、ドラゴンてモンスターですよね?」


『ああ』


「人と共闘したりするんですか?」


『いや、そんな話は聞いたことがない』


「じゃあ、トライファークの軍とドラゴンが一緒にいるというのは?」


『分からんが、明らかに異常な状態だ』


 俺とおっさんが話している間に軍人は逃げて行った。

 助けてやったのに、なんて無礼な奴だ。

 まあ、別にいいけど。


「どうします?

 どうも街にドラゴンがいっぱいいるみたいですけど」


『悪いが、目的の方を優先しよう。

 幸い、市民にはそれほど被害はないらしいからな』


「サラ、それでいいですか?」


 サラは一番被害を気にしている。

 当たり前だ。

 一応、この国の権力者なわけだから。


『はい。

 仕方ありません。

 原因が分からないことよりも、今は優先すべきことからやりましょう』


 はっきりと答えた。

 最初に街を見た時のショックからは立ち直っているようだ。


「じゃあ、とにかく、代表者がいた建物に向かいましょう」


 俺たちは急いで、目的の建物に向かった。


 その建物付近はニグートの中心にあたるが、そこも攻撃を受けているらしい。

 多分、空から攻められたんだろう。

 今も所々でドラゴンと人が戦っているのが見える。

 俺たちは建物の近くにバイクを停めた。

 そこからは布を被って、隠れながら進む。

 透明になるといっても、音や気配まで消えるわけじゃないので、普通の状況なら気づく人もいたかもしれない。

 でも、今はニグート全体が混乱状態だ。

 俺たちはそれに乗じて、進むことにした。


 ニグートの要塞も無傷ではなかった。

 だが、流石にと言うべきか、まったく陥落しそうな気配などはない。

 ただ、慌ただしさは他と変わらず、兵士が出たり入ったりしていた。

 幸い、入り口は大きく開かれたままになっていたので、そのまま内部へ侵入した。

 まあ、これだけ人の出入りがある状況ならば普通に入れたかもしれないけど、中に入ってから途中で布を被って透明になるってのも怪しいからな。


「サラ、ユラさんが言っていた区画は分かりますか?」


 俺はサラに小声で話しかける。

 俺たちは全員透明になっているので、お互いも見えづらいが、そこにいると分かっていればなんとなく見える。

 俺は元々見える方だったが、みんなもなんとかお互いの位置は把握できているらしい。


『はい。

 その区画のどこに目的のものがあるのかは分かりませんが、立ち入り禁止区画の場所は分かります。

 ついてきてください』


 サラが先導してくれる。

 お互いが見えづらいのと、迂闊に行動してニグートの人間に気づかれてもまずいので、ゆっくり進んだ。


 そこは要塞の地下をかなり進んだ場所にあった。

 ここに来るまでにもいくつかの監視がいる場所を通ったが、どこもバタバタしていて、こちらに気づくものはいなかった。

 サラが言うには、この先の監視を抜けると立ち入り禁止区域になるらしい。

 さすがに、かなり奥なだけあって、外の喧騒などなかったかのように静かだった。

 ただ、そこにいる兵士はソワソワとしていた。

 多分、地上で戦闘が行われていることを知っているんだろう。

 兵士は二人だ。

 本来なら、通路の両側に立って、侵入者を見張ったりしているんだろう。

 ここに来るまでの道もそうだったけど、この建物の中の通路はどこも広い。

 天井も高い。

 無駄に大きい建物なだけに通路も広いんだろうか。

 それだけに見張りも二人必要なのかもしれない。

 いや、関係ないか。

 とにかく、その二人の見張りが今は片側に寄って壁の方を向いてひそひそ声で話している。

 都合がいい。

 俺たちは気づかれないように静かに横を通り抜けた。

 通り抜ける時に、何を話しているのか聞こえた。


『おい、地上の戦闘はけっこう分が悪いらしいぞ』


『いや、さすがにここが落とされるなんてことはないだろう』


『それはそうだが、俺たちのことなんてお偉方は気にしないだろうから、危なくなっても放っておかれるんじゃないか』


『ああ。

 逃げたいが、逃げられないよな』


『ここを放棄したら死刑、なんて言われてるからな』


『高い報酬に騙されたぜ。

 こんなとこ、誰も入ってきやしないのに』


 こいつらは下っ端らしい。

 だから、この先に何があるのかも知らなさそうだ。

 こんな奴らに監視を任せて大丈夫なんだろうか。

 いや、放棄したら死刑とか言っているんだから、普段はしっかり見張っているんだろう。

 今は特殊な状況と言えるからな。

 それに、普通はこんなところまで来る人間はいないんだろう。

 もしかしたら、こいつらはここで侵入者なんて見たことがないのかもしれない。


 とにかく、俺たちは先に進むことに成功した。

 監視の先は一本道だった。

 もっと苦労するかと思ったが、これなら探しているものもすぐに見つかるかもしれない。

 まあ、何が出てくるのかは分からないけど。


『うっ』


 マイさんが突然呻いた。


「どうしました?」


『ここは、マナがすごく乱されます。

 ひどいです。

 ファスタルの裏通りの比じゃありません』


「大丈夫ですか?」


『ええ、私はなんとか。

 みなさんは大丈夫なんですか?』


「俺は何ともないです」


『私も少し気分が悪いですけど、大丈夫です』


『俺は、この程度問題ない』


『わん』


 マイさんは敏感らしいから、余計に辛いのかもしれない。

 サラも辛そうだけど、それほどでもなさそうだ。

 おっさんとルッツは元気だ。

 とにかく、この先に何かがあるのは確かなようだな。


 そのまま数分程、道なりに進んだ。

 最後の監視からも、かなり離れたと思う。

 この要塞はここまで広かっただろうか。

 もしかしたら、地下は要塞よりも外に広がっているのかもしれない。

 そんなことを考えて歩いていたが、先の方に扉が見えたので、そちらに集中することにした。


 かなり大きい扉だった。

 辺境の遺跡の入り口に似ている。


「開けてみますね」


『ああ、警戒は怠るな』


 俺はおっさんの言葉通り、警戒しながら扉を開ける。

 扉は鍵などはかかっていなかったようで、すんなりと開いた。


 その先は広い空間になっていた。

 都市の地下の奥の方に広い空間があって、その奥に何かがある。

 シチュエーション的には、ファスタルのAIと同じだ。

 だが、その空間には這いずりしもののような存在はいなかった。

 よかった。

 古代種とかいたらどうしようかと思っていた。


 ただ、何もいなかったが、部屋の所々が崩れたり、焦げたりしていたから、昔は何かいたのかもしれない。

 それが倒されて、今は何もいない、とか。

 まあ、いないものを気にしても仕方がない。


 俺はその部屋を通り過ぎて、さらに奥へと続く扉の前に立った。

 この辺の作りもファスタルとよく似ている。


「開けます」


 俺はみんなに言ってから、扉を開いた。


 その部屋も、やはりファスタルのAIがある部屋と似たような大きさだった。

 だけど、そこにあったのはAIではない、と思う。

 稼働音がしているから、電源は入っているようだが。

 ただ、ファスタルのAIのように、でかい筐体が複数あるのではなく、一つの大きな箱とそこから延びるケーブルの先に球状の物体が付いている。

 その球状の物体は部屋中に無数にあった。

 似たようなものを日本でも見たことがある。

 なんて名前だっけ。

 中にアンテナが入ってるやつ。

 えーと、あれだ、ドームっぽい名前の。

 あ、レドームだ。

 同じかどうかは分からないが、形状はかなり似ている。

 もし同じだとすると、これは何か電波を出しているか、受けているか、そんな装置だと思うんだけど。

 やっぱりAIではないと思う。

 一応、試してみるか。


「あの、聞こえますか?」


 稼働音だけが響く。


「やっぱりAIとは違うようですね。

 動いているから、今も何か動作はしているようですが」


 と言いながら、後ろを振り向く。

 そこで、マイさんが青い顔をしていることに気づいた。


「大丈夫ですか?」


『いや、これは、ちょっとキツイです』


 マイさんはかなり辛そうだ。


「あの、手前の空間で待っていてください。

 この後は、俺たちで調べますから。

 サラも辛そうだから、マイさんと一緒に外で待っていてください」


『すみません、そうします』


 サラとマイさんが戻って行った。

 手前の空間ではそこまでひどくなさそうだったのに、ここに近づいたら一気に気分が悪くなったようだ。

 ということは、この装置のせいだろう。


「統括は大丈夫ですか?」


『ああ、まあ気分はよくないが、大丈夫だ』


 おっさんですら気分が悪いんだったらよっぽどだろう。

 俺は大丈夫だけど、これも体が強化されている影響だろうか。


「じゃあ、ちょっとこの装置を調べましょうか。

 話しかけても答えないので、AIではないと思いますが、無視しているだけかもしれませんし」


 俺はそう言いながら、装置に近づいた。

 まあ、この装置の正体は薄々分かってはいる。

 何やら電波を出しそうな形状で、マイさんがマナを乱されて気分を悪くしている。

 答えは一つだろう。

 でもまあ、調べるだけは調べよう。


『貴様ら、そこで何をしている?』


 不意に入り口の方からそんな声を掛けられた。

 俺は驚いて振り向くと、そこにはニグートの代表者がいた。





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