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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
104/119

辺境の怪物

 俺たちは研究所で話し合いをした後、すぐに出発することにした。

 そこで、問題が一つ発生した。

 ルッツのことだ。

 今日の朝、ルッツは劇的にでかくなっていた。

 今までルッツは、運転者と同乗者の間にこぢんまりと納まっていたのだが、今のサイズでは無理だ。


『わん』


 悩んでいる俺にルッツが呼びかけてくる。

 ルッツを見ると大丈夫だ、という顔をしている。

 自分で走ると言っている気がする。

 なんとなく、ルッツの言いたいことが分かる。

 これはマナのつながりの影響だろうか。

 それにしても、自分で走ると言っても、俺たちはバイクだ。

 それと一緒に走ることなんてできるんだろうか。


「大丈夫なのか?」


『わん』

 

 とりあえず、様子を見ることにした。


 ゆっくり走って、ルッツを確認する。

 ルッツは平気な顔でバイクと並走している。

 スピードを上げる。

 まだまだルッツは余裕そうだ。

 いつも移動しているスピードで走る。

 それでもルッツは問題なさそうだった。

 古代種はとんでもないと思った。

 まだ、成長しきってはいないけど、レオルオーガと戦える強さってのは伊達じゃないらしい。

 でも、流石にずっとそのスピードで走ってはいられないと思う。


「ルッツ、スタミナは大丈夫なのか?」


 ルッツは平気そうな顔をしているが、ちょっと俺の顔を見た後、軽く飛んで、おっさんのバイクの後ろに乗った。


『おわっ』


 おっさんはいきなりルッツに乗られて少しぐらついたが、すぐに体勢を立て直す。


『お前、いきなり乗ってくるな。

 乗るなら、合図してからにしろ』


『わふ』


 疲れたら、おっさんの後ろに乗るってことらしい。

 どこかにつかまっているわけではないが、器用にバイクの後ろに乗っている。

 まあ、これなら問題ないか。

 それにしても、今まで気にしていなかったが、ルッツは俺と同じで一緒にバイクに乗ってもマナの干渉はないらしい。

 色々高スペックなんだよな、ルッツは。

 さすが俺のパートナーだ。


 何はともあれ、無事にファスタルを出発することができた。

 もう何度も通っている道でニグートを目指す。

 最近、移動ばかりしているせいか俺もおっさんもバイクの運転にはかなり慣れた。

 慣れた頃が一番危ないと言うけど、決して気を抜いていられる状況でもないから、事故ったりはしない。

 おっさんは急に後ろにルッツが飛び乗っても大丈夫なくらいだから、よっぽどじゃなければ問題なんて起きないだろう。

 まあ、基本的には真っ直ぐの道を走るだけで、他の人とすれ違うことさえ稀だから、事故りようもないんだけど。


 と、思っていたら、前方に数台の馬車が見える。

 珍しい。

 何やら立ち往生しているようだ。


「サラ、あれは何でしょう?」


 俺は、後ろにいるサラに声をかける。

 今はサラと二人乗りして、俺が運転している。

 俺の声に、サラは前方を確認した。


『あれ?

 あ、あれは辺境に行っていたファスタルの守備隊の馬車ですよ』


「何か様子がおかしいですね」


『何かに襲われているみたいですよ!

 急ぎましょう』


 遠目には分からなかったが、何かが馬車の周りを飛び回っているのが見える。


 近づいてみると、飛び回っているのは羽のついたトカゲであることが分かった。

 かなりの数がいる。

 10匹や20匹じゃない。

 守備隊の人たちは剣や槍で応戦しているが、トカゲはヒットアンドアウェイの要領で、攻撃しては上空に逃げる、を繰り返している。

 彼らの中には銃を持っている人もいるみたいだけど、弾を撃ち尽くしたようで、攻撃できていない。

 守備隊は優秀だと聞いていたけど、相手が悪そうだ。

 ああやって、すぐに上空に逃げられたら攻撃する手段がないのだろう。

 俺たちはすぐに助けるために近づいた。


「大丈夫ですか?

 加勢します」


 俺の声に守備隊の人もこちらに気づいた。

 俺たちが辺境に行ったときに応対してくれた人だ。


『ああ、あなたはこの間の。

 あ、統括とサラさんも。

 助かります。

 こいつら、攻撃は大したことないんですけど、私たちの攻撃も当たらなくて、このままではジリ貧でした』


 俺はすぐにヨーヨーを取り出して、飛んでいるトカゲに向かって光弾を放つ。

 横ではサラもマナウェポンで攻撃し始める。

 だが、小さくて素早いため、なかなか当てることができない。

 おっさんとルッツは低い位置に降りてきたトカゲに対して攻撃しようとしているが、なかなか難しそうだ。

 これは確かに遠距離攻撃の手段が少ない守備隊の人たちには、余計にきつい相手だろう。


 苦戦しそうな状況が見えてきたその時、すぐ横で、乾いた大きな音が響いた。

 マイさんの銃が放った銃声だった。

 その弾は大量のトカゲのうち、こちらに攻撃を仕掛けてきた一匹を仕留めた。

 かなりの威力だ。

 いや、今重要なのは威力じゃない。

 その攻撃範囲だ。

 それは、ショットガンだった。

 こういう、素早く動く敵には多分非常に相性がいいと思われる。

 でも、その銃はかなり大きめで、女性が護身用に持つ銃ではないと思う。

 そりゃ普段は持ち歩かないよな、と納得してしまった。

 いや、今はとにかく助かった。


『こちらに攻撃を仕掛けてくるものは私が撃ち落とします。

 でも、そんなに弾数がありませんから、あれ全部は無理です。

 何か対策を考えてください』


 そう言いながら、マイさんはまた一匹撃ち落とした。

 確かにあれ全部を倒そうと思ったら、何発いるのか分からない。

 どうするか。

 俺のヨーヨーもサラのマナウェポンも一応有効だが、効率が悪い。

 ルッツが這いずりしものにやった攻撃ができたらいいんだけど、様子を見るに、そう簡単にできるものではないようだ。

 もっと直接アイツらに攻撃できたらいいんだけど、上空にいるし。

 というところで思いついた。

 俺の横にはプロッタもどきが飛んでいる。

 今日の朝からずっと俺の近くに滞空させていた。

 そんなに時間は経っていないが、だいぶ操作に慣れた気はする。

 まだ攻撃は成功したことがないけど、これが使えたらアイツらにはとても有効じゃないだろうか。


「サラ、プロッタもどきで攻撃して下さい。

 俺も使えるか分かりませんけど、試してみます」


 俺はサラに呼びかける。


『分かりました。

 いきます』


 サラはちゃんとプロッタもどきを持ってきてくれていたようだ。

 俺が渡した4個すべてを取り出して、すぐに空中に飛ばした。

 そして、間をおかずにブレードを出す。

 すごい。

 練習なんてしていないはずなのに、もう使いこなしている。

 サラはブレード付きのプロッタもどきを上空にいるトカゲ達に向けて飛ばす。

 そして、そのままどんどん倒し始めた。

 トカゲたちはまさか上空で攻撃を受けると思っていなかったせいか、混乱しているようだ。

 回避が鈍くなっている。

 俺もその攻撃に加わることにする。

 まず、サラに教えてもらった通りに武器をイメージする。

 プロッタもどきから少し飛び出る刃だ。

 目の前に本物があるから、イメージは作りやすかった。

 集中してイメージを構築し、プロッタもどきに伝える。

 数瞬の後、俺のプロッタもどきからもブレードが出た。

 初めての成功だ。

 だが、喜んでいる暇はない。

 俺はそのままブレードを維持しながらプロッタもどきを上空に飛ばす。

 一応、2個同時に制御できているが、全く余裕がない。

 サラは化け物だと思う。

 同じようにはできないけど、俺も少しは役に立たないと。

 上空のトカゲたちはサラの攻撃によって、恐慌状態に陥っているように見えた。

 プロッタもどきに攻撃を加えようにも、自分たちよりも小さく素早く動く対象にどう攻撃していいのか分からないようだ。

 俺はサラほど速くは動かせないから、サラの攻撃から逃れて少し離れた位置にいるやつなんかを中心に攻撃していく。

 そう簡単には仕留められないが、2個のプロッタで挟み撃ちのようにして、1匹ずつ確実に倒していった。

 

 数分程経っただろうか、俺には数時間にも感じられたが、なんとかすべてのトカゲを倒すことができた。

 ほとんどサラのおかげだ。

 地上に飛んできたやつを撃ち落としていたマイさんもすごいけど。

 おっさんとルッツは早々に自分で倒すことを諦めて、守備隊の人たちに攻撃しようとするトカゲを追い返すことに集中していた。

 さすがに状況判断が適切だ。

 自分にできることをやっていた。

 残念ながら、俺はほとんど役に立たなかった。

 まあ、サラのおまけという感じ。


「サラ、お疲れ様です。

 すごいですね」


『いえ、ユウトが手伝ってくれたからです。

 私が逃がしたのをユウトが倒してくれたので、私は群れに集中できました』


「まあ、そう言ってくれるとありがたいです。

 俺もサラみたいに自在に操れるようにもっと練習します」


 そうだ。

 ルッツを元に戻すためにも、もっとがんばらないと。

 俺とサラがそう話していると、おっさんが守備隊に事情を聞き始めた。


『お前ら、辺境の遺跡探索をしていたんじゃなかったのか?

 何かあったのか?』


 おっさんの言葉に守備隊の人たちは暗い顔になった。

 何か悪いことが起きたらしい。

 代表して、一人が話し出した。


『サラさんが正面の扉を開けてくれたあと、私たちは奥にある扉を開けようと色々試しました。

 それは、最初はうんともすんとも言わず、途方に暮れていたんですが、粘り強くマナを使ったり、攻撃を加えたりしていたところ、中で何かが動いた気配がしたんです。

 それで、諦めかけていた私たちも、もしかしたらもうすぐ開くんじゃないかと思って、がんばったんです。

 そして、今から三日前になりますが、私たちが色々試していると、中から大きな音が聞こえました。

 私たちは特別何かをしたわけじゃありませんでしたから不思議には思いましたが、それまでにない、はっきりした反応でしたから、盛り上がりました。

 これは開く前兆に違いないと。

 今考えると、迂闊というか、短絡的だったんですけど、扉を開けようとする作業に飽き飽きしていたので、何か刺激がほしかったのかもしれません。

 折角だからと、全員で扉を開けようということになり、みんなで扉に集まって色々試しました。

 そうしていたら、いきなり奥の扉が開いたんです。

 私たちが開けたんじゃありません。

 中から勝手に開きました。

 そして、扉の先には一つ目の巨人、キュクロプスが立っていました』


 なんだと?

 キュクロプスは生きていたのか?

 いや、そういえばルッツはキュクロプスは逃げたと言っていたな。

 ということは生きていたのは驚くことじゃない。

 問題は遺跡の中にいたことだな。


「なんでキュクロプスが遺跡の中から出てくるんですか?」


『私たちにも分かりません。

 ですが、ここの所ずっと、遺跡の奥に潜んでいたんじゃないかと思います。

 私たちはしばらく遺跡の周辺にいたわけですが、その間、遺跡の扉が開いたことはなかったですから』


 そうだよな。

 そういえば、前にサラと一緒に辺境に行ったとき、ルッツはずっと扉の奥を見ていた。

 あれは、キュクロプスの気配を感じ取っていたのかもしれないな。

 それにしても、キュクロプスはどうやって遺跡の中に入ったんだ?

 自分で開いて中に入ったってことはないだろう。

 俺はキュクロプスを見たことはないが、扉を開くためにサラがしたような繊細な制御ができるような奴だとは思えない。

 だとしたら、何者かが中から開いたのか?

 

『それで、私たちはいきなりのことに驚いたんですが、正面から戦って勝てる相手ではありませんから、退却することにしました。

 幸い、と言うべきかは分かりませんが、そこには私たち全員揃っていましたから、すぐに連携して退却し始めたんです。

 キュクロプスは私たちに気づいて襲ってくるかと思ったんですが、なぜかそんなことはありませんでした』


「キュクロプスは大人しいんですか?」


『いえ、そんなことはありません。

 目の前に人間がいて放っておくようなモンスターではないと思います。

 結界石の設置もかなり慎重に時間をかけてやりましたし』


 というのはサラの言葉だ。

 守備隊の人も続ける。


『そうです。

 私たちもそう思ったので、なんとか犠牲者を出さないようにと考え、守備的な陣形で退却を始めました。

 ですが、予想に反して、キュクロプスは私たちに関心を示しませんでした。

 私たちには目もくれず、すぐにどこかに歩き始めたんです。

 私たちは戦うつもりはありませんでしたが、キュクロプスがどこに向かっているのか、確認しようとしました。

 それで、キュクロプスを追いかけたんです。

 すると、それまで全くこちらに関心を示さなかったのに、いきなり攻撃をしかけてきました。

 その攻撃をなんとか避けた後、私たちは追うのを諦めて退却することにしました。

 追いかけないなければ攻撃されませんでした』


「キュクロプスはどちらの方向に向かったんですか?

 まさか、ファスタルですか?」


『いえ、ニグートです』


「ニグート?」


『ええ。

 はっきりとどこに向かったのかは知る由もありませんが、あのまま真っ直ぐ進むとニグートに入ると思います』


 キュクロプスは戦争を起こそうとしているニグートに向かった?

 何か意味があるのか?


『それで、私たちはキュクロプスを追うことは諦めて、一度報告をしにファスタルに帰ろうという話になりました。

 私たちの調査の目的は元々キュクロプスの動向を調べることでしたから、帰って報告する必要ができたと思ったんです。

 ただ、帰ろうとした時に遺跡の奥の扉が開いたままになっていることに気づきました。

 だから、帰る前に遺跡の中を少し探索しようとしたんです。

 キュクロプスがいた理由も分かるかもしれませんから。

 それで、奥の扉に近づきました。

 すると、奥からさっきのトカゲが大量に出てきました。

 そして、トカゲたちはキュクロプスと違って、すぐに私たちを襲ってきました。

 私たちは最初は遺跡の所で撃退しようと思ったんですが、なにぶん数が多くて、どうしようもありませんでした。

 仕方なく遺跡の探索はあきらめて、トカゲのことも含めて報告するために一度ファスタルに帰ることにしたんです。

 私たちは遺跡から離れれば、さっきのトカゲも追ってはこないと思っていたんですが、どこまで行ってもついてきました。

 そして、ずっと継続して攻撃を仕掛けてきたんです。

 私たちもなんとか倒そうと思ったのですが、さっきのような有様で。

 それでも、今日の朝までは銃を使ってうまくけん制できていたんです。

 今朝、銃の弾が尽きて、それに気づいたのか、一斉に攻撃を仕掛けられました。

 私たちはこの3日間ずっとトカゲの攻撃にさらされながらファスタルに向かっていました。

 それで、精も根も尽き果ててしまって、動くこともままならずにここで立ち往生してしまって、もうダメかと思っていました。

 本当にありがとうございました』


 そう言って、頭を下げられた。

 大変な目にあったようだな。


「さっきのトカゲは遺跡にいたやつが全部ついてきてたんですか?」


『いえ、ごく一部です。

 私たちが遺跡で見たのはもっと大群でした』


 あれで一部か。

 どんだけいるんだ。


「統括、あのトカゲは何なのかご存知ですか?」


『あれは、小型の飛龍の一種だろうな。

 直接見たのは初めてだが、群れを作るドラゴンとして本に載っているのを見たことがある。

 生息地は山と書いてあったが、大きさと特徴から見て間違いない』


「なぜ遺跡にいたんでしょう?」


『分からん。

 だが、今から通る道沿いだから、一応寄るだけ寄って状況を確認しよう。

 今は時間的余裕はないが、何か気になる』


「そうですね。

 そうしましょう」


『お前たちはこのままファスタルに帰って今のことを研究所で報告しろ。

 あと、俺たちが辺境の遺跡も見に行くと伝えておいてくれ』


『分かりました。

 くれぐれもお気をつけて』


 そう言って、守備隊の人たちとは別れて、俺たちはそのまま辺境に向かった。

 ニグートに向かう道と同じだから、当初の予定と進路は変わっていない。



 守備隊の人たちと会ってから、しばらく進み続けて辺境に到着した。

 予定通り、遺跡に立ち寄る。


「あれ?

 奥の扉、開いてませんね」


『そうだな。

 それにさっきのトカゲもいないな』


 俺とおっさんの言葉通り、遺跡は入り口の扉だけが開いた状態だった。

 俺とサラが前に来た時から変わりなく見える。


「どういうことでしょう?」


『分からん。

 分からんが、中にこの扉を操作している奴がいることは確かだろう。

 そして、そいつがキュクロプスを外に出したんだろう』


 おっさんのその言葉と目の前の閉まった扉、そして、その上の【Fourth AI】という看板、それらを見て、気づいた。

 ファスタルではFirst AIで始まりの人工知能、そして、ここはFourth AI。

 ファスタルのAIに聞いたときに、古代文明ではAIが全部で4つ作られたと言っていた。

 つまり、この遺跡には最後に作られた、もっとも新しいAIがあるんじゃないだろうか。

 というか、あるのは間違いないだろう。

 なかったら、こんな看板があるはずがない。

 むしろ、なぜ今まで気づかなかったのだろうか。

 ニグートとトライファークのことばかり考えていて、この遺跡のことなんてほとんど考えていなかった。

 まあ、AIじゃなくてALだと思っていたのもあるが。

 トライファークの代表者は俺がここに再現されたことが問題だと言っていた。

 それを言われた時に気づいても良かったのに。

 とにかく、俺がここに再現されたことと、ここのAIは無関係ではないだろう。

 関係ないと考える方がおかしい。

 そして、それをあれだけ問題視するということはトライファークの代表者とここのAIは良好な関係にあるとは言えないんだろうな。

 トライファークの代表者はここを奪われたと言っていた。

 あれは、誰か人間に奪われたと言ったのかと思っていたが、もしかしたらAIに支配権を持っていかれたとか、そういう意味だったのかもしれない。

 まあ、その辺りはまだ断定はできないし、奪われたとしても何が問題なのかも分からない。

 個人的な恨みはあるだろうが、それは俺たちには関係がない。

 今重要なのは、これまでに手に入れた情報から考えて、キュクロプスは恐らくここのAIに操作されているであろうということだ。

 這いずりしものがファスタルのAIに操作されていたように。

 操作されていたからこそ、守備隊の人たちを無視して、立ち去ったんだろう。

 そして、ニグートに向かった。

 ニグートでは今戦争が起きようとしている。

 どう考えても、ここのAIはキュクロプスを使って、その戦争に介入する気だろう。

 介入して何をしたいのかは分からない。

 だが、人への被害が大きくなるのは確実だと思う。

 必要以上に戦火が大きくなることになるだろうから。

 それはできたら避けたい。

 なんとか止められないだろうか。


 俺はみんなに今の考えを説明した。


「だから、できることなら俺はここのAIを止めたいです。

 俺はキュクロプスを見たことはありませんけど、かなり強いんでしょう?

 そんなのが介入したら無駄な被害が増えるだけだと思うんです」


 古代種研究会のカトーさんに聞いたとき、レオルオーガに勝てる種類としてヘカトンケイルという巨人がいると言っていた。

 古代種と比べるのが妥当かは分からないが、キュクロプスも巨人らしいし、もしかしたらレオルオーガと同じかそれ以上の強さを持っている可能性もある。


『そうですね。

 今、ニグートはトライファークに向かっているでしょうから、ファスタル側から攻められるとは思っていないでしょうし、そんな所からキュクロプスが現れたら、対処なんてできないでしょう。

 そうなったら、情勢が混乱してどうなるか分かりません』


「どうにかして、この扉を開けられないでしょうか?」


 俺は奥の扉を調べる。

 マナも使ってみる。

 だが、開く気配はない。

 サラも一緒に調べてくれた。


『開きませんね。

 さっきの守備隊の人の話から考えて、内側からロックされている可能性が高いと思います』


「そうですね。

 どうにかして破壊できたらいいんでしょうけど。

 統括どうですか?」


『そうだな。

 試してみよう』


 今や、俺のヨーヨーよりおっさんの拳の方が攻撃力は高い。


 おっさんは扉を思いっきり殴った。

 だが、開く気配はない。


『これは、少々のことでは開きそうにないな。

 おそらく、サラのマナウェポンでも無理だろう』


 まあ、古代文明の英知が結集しているみたいなことを言っていたからな。

 セキュリティ万全ということか。


「となると、ここのAIに言って、キュクロプスを止めさせることはできないですね。

 だったら、俺たちが一刻も早くニグートに行って、このことを知らせるしかないんですかね。

 もし俺たちが、キュクロプスがニグートに向かっているから備えろ、と言ったら、ニグートの偉い人は聞いてくれると思いますか?」


『残念ながら、聞かないでしょうね。

 前も言いましたけど、ニグートの上層部は今、トライファークを攻めることで頭がいっぱいでしょうし。

 私たちの動向から、私たちがトライファークとの争いをやめさせたいと思っているのも分かっているでしょうから、キュクロプスのことを説明しても、嘘だと思われそうです』


 サラは悔しそうに言う。

 そのニグートのおかしさが黒幕に操られてのものだと分かったから、余計に悔しいんだと思う。


「じゃあ、俺たちがニグートを操っている黒幕をなんとかして、戦争を止めてから、キュクロプスに備えるように言ったらどうでしょう?」


『それなら、なんとかなるんでしょうか。

 分かりませんが、可能性はあるかもしれませんよね』


 サラは、希望はあるんじゃないかと期待している感じで言った。

 自分でも、何とかなると信じたいんだろう。

 正直、黒幕をなんとかしても、その後、どうなるかなんて分からない。

 長年操作され続けていたわけだからな。

 でも、何かは変わると思う。

 少なくともファスタルのAIも戦争を止めたいなら、黒幕を何とかしろと言っていたわけだし。


「じゃあ、結局今できることは変わらないですね。

 急いでニグートに向かいましょう」


 俺たちは再びニグートに向かって急ぐことにした。

 

 

 

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