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チートなし異世界生活記  作者: 半田付け職人
第6章 異世界生活17日目以降 騒乱
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20日目終了 ヒント~帰郷

 喫茶店で待機していたマイさんに事の成り行きを説明した。


『ニグートの代表者がおかしい、という話は聞いていましたが、そこまでとは』


 とマイさんも絶句していた。

 トライファークの代表者も大概だったが、おかしいという意味ではニグートの代表者は比較にならない。


「それで、これからどうしましょう。

 このままだと、ニグートがトライファークに攻め込むことになるでしょう。

 いや、実はさっきのは冗談で攻め込まない、なんてことがあればいいんですけど」


 ふざけているわけじゃない。

 さすがにそんなに簡単に国同士が争うことはないだろう、という気持ちから出た発言だ。


『いえ、それはないでしょう。

 お父様はあんな風におかしな人ですが、言ったことはやります。

 下手をすれば、今日のうちにもトライファークに向かうと思います』


 サラにあっさりと否定された。


「だとしたら、俺たちにできることは何があるでしょうか。

 もう一度トライファークに行って、それを伝えた方がいいでしょうか?」


『そうですね。

 せめて戦争が大きくならないように、トライファークに警戒してもらう方がいいかもしれません』


 話しながら、俺たちはどこか呆然自失気味だった。

 こんな結果になるとは思っていなかったし、ニグートの代表者の思考がおかしいんだと思っている。

 だが、どう言い訳をしたところで、結局俺たちの行動が戦争の引き金を引いてしまったことは事実だ。

 そんなことのために決死の覚悟でトライファークに行って行動したんじゃないが、結果は結果だ。

 ニグートの代表者の狂気を甘く見ていた、というのもある。

 色んな人からニグートの上層部はおかしいと言われていたし、サラもおっさんもそれは分かっていたみたいだ。

 だから、トライファークの状況を報告したって、碌な結果にならないことは予測できたことかもしれない。

 いや、実際に碌な結果にならないだろうと思ってはいたし、だからこそ、俺もおっさんも警戒はしていた。

 でも、こんなことになるとは思わなかった。

 もっと、色んな可能性を考慮した上で行動すべきだったんだろうか。

 いや、それは今だから言えることだろうな。

 とにかく、今できることを考えないといけない。


「ユラさんに相談して、ニグートを止めてもらうことはできませんか?」


『それは、難しいです。

 お姉ちゃんはファスタルに行ってからニグートにほとんど帰ってきてませんし、お父様が聞く耳を持つとも思えません。

 それに、ファスタルに知らせに行っている間にニグートは戦争を始めてしまいそうな気がします。』


「ニグートで他に力になってくれそうな人はいませんか?」


『それも、残念ながら。

 話を聞いてくれる人ならいると思いますけど。

 その、お父様に話ができるような立場の人は、どちらかと言うと、みんなお父様のような感じだと思います。

 ですから、ニグートの国内から止める方法を見つけるのは難しいです』


 サラは本当に残念そうに、悔しそうにそう話す。


「だとすると、やっぱりトライファーク側に注意を呼びかけるしかないかもしれませんね」


 不本意だが、トライファークの俺に言って、何らかの手を打ってもらうくらいしか、今は思いつけない。


「時間的な余裕はないんですよね」


『そうですね。

 さっきの様子だとすぐにでも行動を起こしそうです』


「じゃあ、すぐにトライファークに向かいましょう」


 俺たちは、その後、すぐにトライファークに向かった。

 まさしく、トンボ返りといった感じだ。

 ニグートの関所とトライファークの関所では怪訝な顔をされたものの、特に止められるということはなかった。

 俺たちの行動によって、トライファークにニグートの動向が伝わる可能性が高いわけだから、ニグートの追手が来ることを覚悟していたが、意外なほどあっさりとトライファークに入ることができた。

 すぐに行動したのが良かったのだと思う。

 俺たちはそのままトライファークの中心に向かった。

 今日は朝から、ほぼずっとバイクの運転をしっぱなしだけど、疲れたなんて言ってられる状況じゃない。


 そのまま休憩をすることもなく進み続けた。

 トライファークの街は昨日とは打って変わって、たくさんの人であふれていた。

 みんな何かしら働いているようだ。

 その様子は戦力の増強を行っている、と言うにふさわしい光景だった。

 その人たちと兵器がニグートとの戦いに使われるかもしれないと考えると、複雑な気持ちになったが、俺にはどうしようもない。


 そんなトライファークの街を横目に進み、ほどなくして中心の建物に着いた。

 すぐに中に入る。

 マイさんの先導があるので、誰かに見咎められることもなかった。

 トライファークの代表者がいるかどうかは分からなかったが、昨日と同じ部屋に向かう。

 扉を開けて中に入ると、昨日と全く変わらない位置にレオルオーガがいた。

 そして、部屋の中には数人の人と、代表者がいた。

 相変わらず、代表者を見ると不快感を感じる。

 でも、今はそんなことを気にしていられない。

 代表者は、慌ただしく部屋に入ってきた俺たちにすぐに気づいた。


『なんだ、お前ら。

 またトライファークに来たのか?

 何の用だ?』


 最初は俺を見て不愉快そうにしたが、すぐにこちらのただならぬ様子に気づいて、一応話を聞くことにしたらしい。

 俺が代表して、ニグートが攻めてきそうなことを話した。

 そして、しっかり警戒してほしいと訴えた。


『ああ、本当に度し難いほど、バカな国だな。

 もはや、滑稽ですらある。

 そんなことでこっちが警戒を緩めているわけがないのにな。

 やつらの状況を考えると、仕方がないとも言えるわけだが。

 まあいい。

 ちょうどいい機会だ。

 叩き潰してやろう』


「待ってください。

 なんとか止めることはできないですか?」


 俺は、難しいとは思いながらも、止める方法がないのか聞いてみた。

 コイツに聞いてもいい答えは返ってこないんだろうけど、他にどうこうできそうな人間も知らない。


『そうは言ってもな、向こうがやる気満々なんだろう。

 俺はどっちでもいいが、あっちから来るなら、叩き潰すまでだ。

 向こうから来たら逃げるつもりはないと昨日も言っただろう。

 それに、トライファークにはニグートに恨みを持つ人間は多い。

 今は戦力も整いつつある。

 もはや、これまでの小競り合いではすまんだろう。

 止める止めないという段階じゃないと思うがな』


『そんな……』


 サラは言葉を失ったようだ。

 半ば覚悟をしていたとはいえ、やはり確信めいた答えを聞くとショックが隠しきれないんだろう。

 まあ、ニグートの予想に反して、トライファークはニグートに対する警戒を緩めてはいないようだから、一方的に蹂躙されるということはないようだが、多くの犠牲者が出るであろうことは想像に難くない。


『一応言っておくが、お前らは自分たちが戦争を引き起こしたと考えているかもしれんが、勘違いだ。

 俺は確かに自分から戦争を始める気はなかったが、遅かれ早かれこうなっていたのは間違いない。

 別にお前らが選択を誤ったからこうなったんじゃない。

 もっと言えば、お前らに選択の余地などなく、いずれはこうなるようになっていたんだ。

 お前らは、元から起きる予定だった出来事の最後の部分にちょっと関わっただけだ』


 だから、気にするな、と続きそうな言い方だった。

 俺たちを励ましてくれているんだろうか。

 コイツは嫌な奴だが、意外と優しいところもあるのかもしれない。

 ただ、何か確信めいた物言いをしているのが気になったが。

 

『言いにきたのはそれだけか?

 ならば、事態は把握したし、これ以上お前らにできることもない。

 さっさと消えろ。

 警戒はしていたが、実際に攻めてくるとなると、こっちもそれなりの準備をする必要がある。

 お前らがいると邪魔だ』


 そう言って、追い払われた。

 俺はもっと何かできることがあるんじゃないかと必死に考えたが、結局何も言うことはできなかった。

 そして、やりきれない感覚と無力感を強く感じたまま部屋を出ようとした。

 そんな俺の様子があまりにも憐れに見えたのか、


『おい』


 退室しようとした俺に代表者が話しかけてきた。


『お前が何かしたいと思っているなら、ファスタルの管理AIに相談しろ』


「え?でも、管理者コードがあるから、相談したって意味はないと思いますよ」


『管理者コードは"オリジン"だ。

 お前がマナを使ってAIに働きかけながらコードを言えば、管理者モードに切り替わる。

 そこからどうするのかは自分で考えろ。

 それと、お前はもっとマナを自在に扱えるように練習しろ。

 マナを使って、ルッツとのつながりを確かめることができたら、ルッツはすぐに元の姿に戻れるはずだ』


 今、助言をくれたんだよな?

 それも、すごく役に立ちそうな。


「あの、ありがとうございます」


『勘違いするな。

 目の前であまりにも情けない顔をされて見かねただけだ。

 自分の情けない顔なんて見ていられるか。

 仮にも、過去の俺なんだったら、もっとしっかりするんだな。

 不愉快だ』


 言葉は辛辣だが、そこに悪意は感じなかった。


『以上だ。

 もう話すことはない。

 今度こそ消えろ。

 また情けない顔をさらしに来たら、次はレオルオーガに喰わせるからな』


 そんな、冗談とも本気ともつかないことを言われたが、悪い気はしなかった。

 俺は、頭を下げてから退室した。


 退室後、俺たちはトライファークの代表者の助言どおり、ファスタルに向かうことにした。

 朝から移動続きだし、精神的にもつらい状態だったが、何かしていないと落ち着かなかった。

 他にできることが思いつかなかったってのもある。

 俺が一旦ファスタルに戻りたいと言ったとき、誰も反対しなかった。

 みんな同じような気持ちだったんだと思う。

 おっさんでさえ、かなり無口になっていた。

 おっさんは護衛として、というよりも、ほとんど保護者としてついてきてくれたのに、こんなことになって、責任とか感じていそうだ。

 全くおっさんの責任じゃない、というか、そもそもおっさんはニグートともトライファークとも関係ないんだから、責任なんてあるはずがない。

 俺はおっさんにとても感謝しているし、サラもそうだと思う。

 おっさんがいなかったら最初にレオルオーガに襲われたときにやられていただろう。

 他にも何回も危ないところを助けてもらっている。

 いっそのこと、おっさんがニグートの代表者になってくれたらいいのに。

 それなら、こんなにおかしな事態にはならなかっただろう。


 気づいたらおかしな方向に思考が飛んでいた。

 現実逃避みたいなものかもしれない。

 もっとしっかりしないと。

 ぼけている場合じゃない。

 頭を振って、切り替える。


「それにしても、このままニグートを通り抜けて大丈夫ですかね?

 俺たちの行動って、トライファークに攻めることを聞いてすぐにトライファークに行って、またすぐにニグートに戻ってきたわけじゃないですか。

 それって、ニグートから見たら怪しい行動ですよね?」


 実際、ニグートにとって都合の悪い行動をしているわけだしな。


『そうですね。

 関所を通って移動していますから、私たちの行動はニグートにも筒抜けでしょうしね。

 でも、ニグートを迂回したらかなり時間がかかりますし、多分大丈夫ですよ。

 お恥ずかしい話ですが、ニグートの上層部は今はトライファークを攻めることで頭がいっぱいになっていると思います。

 ええとですね、いかにトライファークが強力といっても、普通にニグートが攻めたら、本当は簡単に追い払うことなんてできないはずなんです。

 でも、今までトライファークがニグートを簡単にあしらうことができたのは、トライファークの武力の高さだけじゃなく、ニグートの戦略のまずさも大きかったらしいです。

 大して考えずに思いついたように攻めて、あしらわれて退却して。

 そして、しばらくしたら、また攻めて。

 そんなことを繰り返しています。

 ですから、ニグートの上層部はトライファークを攻めることに関して、あまり細かいことは考えませんし、今回は今まで以上に攻め気が強いはずなので、私たちのことなんて些事だとしか思っていないと思います』


 今サラは言いにくそうにはしていたが、遠回しに、ニグートの上層部は馬鹿だから大丈夫、と言ったんだと思う。

 話を聞けば確かに大丈夫そうだと思う。

 でも、なんでそんな馬鹿な人間が治める国が大国として成立しているんだろう。

 昨日、今日と会って話を聞いても、確かに短絡的で利己的で、まともに国を治められるようには思えない。

 ニグートという国の奇妙さを感じる。

 全体的におかしい。

 代表者以外に国を成立させている要因があるのかもしれないな。

 それが何かは分からないけど、あの代表者でも大国を成立させられるような力がある要因があるんだったら、もっと今の状況をなんとかしてくれよ、と思った。


「じゃあ、このままファスタルまで帰っても大丈夫そうですね」


『ええ、私たちに何ができるか分かりませんし、ファスタルのAIが何を助言してくれるかも分かりませんけど、急いだほうがいいです』


「俺がサラとマイさんと交互に二人乗りをしますから、二人は休みながら運転してください。

 統括は一人で運転してもらってもいいですか?

 休憩なしで帰ることになるかもしれませんけど」


 愚問だと分かっていたけど、一応確認した。


『ああ、問題ない。

 サラが言うとおり、急いだほうがいいだろうから俺のことは気にするな』


 それから、本当に休憩なしでファスタルまで帰った。

 ファスタルの街に着いたときには深夜になっていた。

 街に入ったときには、ものすごい懐かしさを感じた。

 ファスタルを出てから二日しか経っていないけど、この二日間は悪い意味で濃すぎたからな。

 そのせいもあってか、ファスタルに入るとどっと疲れを感じた。

 少し、気が抜けてしまったのかもしれない。

 そんな状態で地下へ行くことはやめておいた方がいいと思う。

 俺はそのまま研究所まで進み、その前でバイクを停めた。


「今日はもうかなり遅いですし、疲れもありますから地下へは明日行きましょう」


 俺がそう言うと、みんな頷いていた。

 さすがに疲れているんだろう。

 おっさんはそうでもなさそうだったが。

 

 俺たちが明日の予定について話していると、研究所の中からユラさんが出てきた。

 バイクの音に気づいたのかもしれない。


『みんなお帰り。

 無事で本当に良かったわ。

 疲れた顔をしてるけど、どうしたの?

 大丈夫だった?』


 ユラさんは俺たちの顔を見て、心配してくれた。

 ただ、それ以上に無事に戻ってきたサラを見て、ほっとしたようだ。

 これが正しい反応だと思う。

 ニグートの代表者とは大違いだ。

 ただ、まだユラさんはニグートの決定を知らないだろう。

 説明しないといけないな。


「実は、想像以上に悪い事態になっています。

 ニグートが」


 と俺が説明しようとしたところで、おっさんに止められた。


『状況の説明は俺がしておこう。

 お前らは疲れているだろうから、もう休んでいいぞ。

 明日はいつもの時間に食堂に集合だ。

 朝飯を食ってから地下へ出発する。

 それでいいか?』


 誰も異論はなかったので、そこで解散した。

 おっさんはユラさんと研究所に入っていった。

 疲れている俺たちに気を使って、説明役を買って出てくれたのだろう。

 雑用を押し付けたみたいで申し訳ないが、早く休みたかったから正直助かった。

 サラとマイさんと家に帰った。


「じゃあ、今日はもう休んで明日に備えましょう」


『そうですね。

 じゃあ、おやすみなさい』


 サラとマイさんと分かれて部屋に入る。

 俺は、帰ってきてすぐソファの定位置で丸まったルッツを見ながら、トライファークの代表者が言っていたことを思い出していた。

 俺がマナを使ってルッツとのつながりを確認できたら元の姿に戻る、そう言っていた。

 そういえば、ルッツに対してマナを使うってやったことないな。

 いや、人、というか動物に向けてマナを使うという発想がなかった。

 確かにマイさんも俺とルッツの間にマナの流れがある、みたいなことを言っていた。

 マナは思考情報みたいなものだから、つながりがあるってのはどういうことだろう。

 思考が同調しているとか、そういうことだろうか。

 俺は試しにルッツに向かってマナを使ってみることにした。

 プロッタもどきを使った練習で遠隔でのマナの操作方法は分かっている。

 寝ているルッツにマナを使った。

 すると、ルッツはピクっと耳を動かして目を覚ました。

 そして、こちらを見た。

 目をそらすことなく、俺と目を合わせている。

 犬はよく人と目を合わせるけど、今のルッツはそれとは違う。

 ルッツから何かを感じる。

 これがルッツとのつながりなんだろうか。

 反応が弱すぎて、はっきりとは分からない。

 いや、俺のマナに対する認識が弱いから、感知できないということか。

 トライファークの代表者が言っていたみたいに俺がもっとマナを使いこなせたら、はっきりとつながりを感じることができるようになるのかもしれない。

 それができたら、ルッツは元の姿に戻るということだろう。

 ルッツを戦わせたいわけじゃないけど、元の姿に戻ったらレオルオーガに勝てるかもしれない強さらしいから、心強い戦力になると思う。

 その方がルッツ自身も安全だろう。

 早くマナを使いこなせるようにならないといけない。

 ただ、今日はもう無理だ。

 頭も疲れていて、集中できない。

 こんな状況ではマナの制御なんて上手くできるわけがない。

 俺は、まだこっちを見ているルッツを抱いて寝ることにした。

 疲れていたせいか、横になったらすぐに眠りにつくことができた。





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