8光年/資質
「う~ん……。」
梓は読み終えたH.G.ウェルズの「宇宙戦争」をベット脇の積読状態になった本の山の上に置くとベットの上に寝転んだ。
今日はゼミもアルバイトもない。
大学の研究室に通ったところでどうしようもない。
教授に卒論の進捗状況を聞かれ、その進捗状況を説明する為のパワーポイントや資料作りが卒論を書く際に作業の邪魔になるからだ。
あの教授め、指摘がきつすぎるのよ。
今年の前半期にあった理研の騒ぎのせいで余計に卒論の盗作やコピーペーストがないか厳しくなってしまった。
でも、ゆとりと呼ばれる私の年齢ぐらいの人はついつい手を抜きがちだから、このぐらい厳しい方が良いのかもしれない。
先進国では「フリン効果」が切れて、人類の知能のピークが下がっているとか言われるけれど、あながち間違いじゃないのかもしれないなぁ。
私は大卒になる予定だけど、たいした学歴じゃないし。
私はあまり子どもとか考えないかな。こどもは可愛いし、愛する人との間だったら正直欲しい。でも、それは無理。
だって、給料が低いし。彼だって親世代ほど稼げないのは目に見えているわけで。
最初は給料が低いのは理解できるけど、後で昇進しても上がらないとかだめじゃん。
まるで、夢というか目標をすべて上の世代の方々に根こそぎ潰されているような感覚になる。
確かに戦後、今の豊かな生活の基盤を作ってきてくれたのは本当に感謝するけど、ここに至る為の取捨選択のときに本当に必要なものまで捨ててしまった世代じゃないだろうか。
正直、この国は好きなんだけど、また税率が上がるっていうのは困るなぁ。
10パーセントに上げたら、きっと生活できない人がたくさん出てきて本当に革命が起きるかもしれない。
政治家さんから見たら意外と不満がたまっている若者がいる現状も見て欲しいかも。
日本という看板だけが残っても意味が無いんだよね。
もし、そういう政策ばかりを上げるようなら優秀な人材はみんな海外に行ってしまいますよ?
まぁ、文句を言い続けても、現状なんて変わるわけないから、最悪の場合、私も海外で経済的独立が出来るような気概を持って日々を過ごすしかないけどね。
「あずさー、部屋に掃除機かけなさい!貴女の部屋、ほこりっぽいのよ!」
お母さんが怒るのも無理ないよね。だってぬいぐるみとたくさんの本と裁縫道具が散らかった部屋とか魔境すぎるよね。
「あー、うん。わかったー。」
私はそう返事しながら部屋の片づけを始める。
あれ。これ、なんだろう。あー、『現代語訳版・わかりやすい古事記』かぁ。
もう一度読み直そうかな。ベット脇の小さな台の上に置く。
片付けが終わったらまほちゃんを誘って新作パフェを食べに行こう。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「……んでねー、今度行こうよ。京都に。」
「いいよ、行きましょう。京都に。」
私はまほちゃんと近所のファミレスに来ていた。
そして、私はまほちゃんに旅行のお誘いをしていた。
私達の住む三田市は大阪の千里ニュータウンを基に国と県の肝いりで開発され、大阪・三宮のベッドタウンとして栄えた……らしい。
かつて、人口増加率日本一だったらしいけれど、その椅子を滋賀県のニュータウンに譲り、現在は高齢者が増え始めている地域で将来の日本と言う国を見ているようでちょっと怖い。
内陸なので、物流が途切れると一瞬で孤立する。
そんな地域なのだ。
ただ、住む分にはちょうど良い規模の都市だから私は好きだけど。
私たちはどうでもいいことを話しながら、最近の流行りの話題、空母の出現とその映像について話すことになった。
「そうそう、まほちゃん、あの空母?なんなんだろーね。」
「んー、あれじゃない、宇宙人じゃない?宇宙はあずさの得意分野でしょ。」
「でもおかしいよ、それじゃあなんでシルクだっけ、空母の形してるの?」
「あずさ、空母の名前はシルクじゃなくて、信濃。きっと地球人に驚かれないように偽装しているんだって。」
「不思議やねー。あ、そういえばあの宇宙人さん、髪がキラキラしていてきれいだったねー。十二単も来てて綺麗だったし。あれだけ御託を並べながら理由が『地球文明の崩壊を防ぎにきた』とか笑っちゃうよー。」
「えっ、あずさ、あんた何言ってるの?最後に何て言ったの?」
「えっ……。だから、『地球文明の崩壊を防ぐ為?』だよ。」
さっきまで私とへらへら笑っていた茉穂ちゃんが真剣な顔で聞いてくる。
「嘘は言って無いよね?」
「う、うん……。」
私、何かおかしいこと言ったかなぁ?
「うん、そのボケた表情だと、恐らく『何か変なことしゃべった?』って感じだね。
大丈夫、あずさが天然で電波受信してるのはわかったから」
まほちゃんが肩をすくめて飽きれた表情で私の肩にポンと手を置いた。
「いやいや、ちょっと待ってよ!いくらまほちゃんがドSでもそれはひどくない?」
「いいや、あずさ、貴女がおかしいわ。近畿でのみ受信できた映像を貴女以外の人が見ても、最後の理由の部分は入っていなかったわ。途中で途切れる形になっているのは事実だから。」
う~ん……
まほちゃんがふざけてこんなからかうようなことは言わないから、やっぱりそうなのかな。
「ごめん、あずさ。ちょっと電話するから席外すね。また戻ってくるから。」
「え、ちょっと……」
私は、少し茫然とした気持ちでしばらくぼんやりしていた。
※ ※ ※ ※ ※
「……はい、確かに私の友人はそのようなことを言っております。」
『ご協力ありがとうございます。さすがですね、"異世界帰還組"の"恋愛捜査官殿"は。』
「いえ、それは違います。そもそも"平行世界論"など本当に存在しているのが不思議なぐらいです。"多次元宇宙論"が実証されるまでわずかなどと考えたくもないことばかりです。」
『それがあるからこそ、貴女は内閣の"次元捜査機関"に所属することになったんですからしかたありません。』
「本当に他の地球世界に攻め入るようなことを考えているのでしょうか。」
『それは答えられないわ。貴女はもうすでに"機関"の副長官なんだから自分で何とかしなさい。』
「ぐっ……」
『今後も貴女の友人の……浅野さんかしら?彼女をそのうち政府が身柄を確保するまでは護衛をよろしくお願いします。』
「了解しました、長官。」
電話を切った若い女性は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、トイレから出てその友人のもとへ向かった。
いったい何が起きたの?
驚いております。
地の文がめちゃくちゃなこの作品を過大評価して下さるなんて驚きです。
いつもいつも、評価ありがとうございます。