2光年/日帰り旅行
あれから、卒業論文の資料集めと執筆をしているうちに一週間があっという間に立ち、ついにその日が来た。
まだ太陽が昇り切らない早朝。まだ星が見える。
射干玉色の闇の中、私は神戸電鉄の三田駅の始発電車に乗っていた。
ここから谷上駅を経由して神戸市営地下鉄の三宮駅までいくのだ。
太陽が昇り始めた6時前に駅に着いた私は、待ち合わせ場所の国鉄の中央改札口に行く前に地下鉄のコンビニでチョコチップメロンパンとカフェオレを買い、まだまだ人の少ない三ノ宮駅の柱に傍で食べながら待つことにした。
彼は、西神中央の方に住んでいるらしいので、もう少し待つことになるかな。
9月の朝とはいえ、さすがに肌寒い。キャスケットを被り、五分丈の服とショートパンツを着た私は周囲のスーツを着たお仕事に向かうおじ様方やお姉さま方とは違って少し浮いているような気がした。
私が周囲の観察をしていると、通話アプリのピロリン♪という音がなった。
どうやら彼からのようだ。
『ごめん、10分程度遅れるでござる。』
ござるってなによ、ござるって。女性を待たせるのはいかがなものかしら?
こうやって、たまに彼はふざけるときがあるからたまにイラっとする時があるんだよね。
でも、私は大人。そう、誰も振り向くかっこいい大人の女なのだ。
現実は違うけれど、そんなことは気にせずにクールな女子なら冷静に返信をするのだ。
『わかったー、待ってるねー。』
クールじゃない気がするけれど、まあいっか。
返事を確認したのか、すぐに返信がくる。
『ごめんなー。』
耳にイヤフォンを入れて、お気に入りのJ-POPを聞きながら、ぼけーっと改札を眺めているとしばらくして彼が来た。
それからの旅路は京都までは快速電車に乗り、快適な旅路だった。
そのあと、草津まで乗り、古そうな緑色の車両に乗り換え、ぺちゃくちゃしゃべっているうちに関西線の柘植駅に着いた。
周りには住宅がちらほらと見えるぐらいで何もない。
ここで乗り換えの電車が次に来るのが30分以上時間があるようなので、のんびり過ごす。
プラットフォームで小鳥を追いかけて写真を撮っていたら、電車が来たので乗りかえる。
亀山駅まで行き、国鉄東海の管轄に入る。私にとって初めてのワンマン電車だったのでちょっとびっくりしていたところを幸樹君にくくっと笑われる。
県庁所在地の津市の駅が以外と大きくなくてびっくりしたりしているうちに電車は伊勢市駅に着く。
13時を少し過ぎ、おなかが減ったので伊勢神宮の外宮に参拝をしてから、内宮行のバスでおかげ横丁まで行き、おかげ横丁でお店で「てこね寿司」を食べる。
散らし寿司みたいだだけどさっぱりしていて食べやすい。
幸樹君は「伊勢うどん」と「てこね寿司」のセットを注文している。
あの伸びきったようなおつゆのないうどんはビックリだ。
どうでもいいような世間話をしたあと、伊勢神宮の内宮でお参りをする。
御正殿で参拝した後、神楽殿で神楽を見ると、ニュースで流れた謎の金属が見れるという。
私たちは威厳のある神楽を見たあと、その「金属」を見た。
それは、金属…というより古来より姿を見たり、魔除けが出来るといわれる物。
卑弥呼が神憑りをするために使ったとされ、3種の神器と呼ばれるものの一種。
御神体とも言われる「鏡」だった。
神職らしき人がした説明によると、式年遷宮が昨年行われた際に、土壌整備をしていたら出土したものらしい。
伊勢神宮は「古事記」にも乗るぐらい古い神社で、今回出土した「金属」はオリジナルの「八咫鏡」ということはないらしいが、ひょっとしたら日本の歴史が変わるかもしれないものだそうだ。
しかも、太古の鏡であるにも関わらず、青銅や錫ではない素材であることから、失われたオリジナルの「八咫鏡」の素材を推し量る参考資料になるかもしれないものなんだそうだ。
本来の八咫鏡は『源平合戦の結果、平氏の敗北で終わり、安徳天皇の入水とともに失われた』と言われているし、そう考えると貴重なものなのかもしれないわね。
じっと鏡を見てみるけれど、特に何か気になるようなことは私にはわからなかった。
よくよく見てみると何故か光を吸収しているかのように何も映さないのは不思議だね。
でも、金属製の鏡なんてこんなものかもしれない。
幸樹君がそのガラスケースに入っている鏡の前に立つが、確かに映っていない。
私も、なんとなく鏡の前に立ってみる。
あれ・・・私の姿が映ってる?
でも、着ている服が今着ている服とは違って巫女さんのような服だから、こんなコスプレはしていないのだけれど。
「えっ…。」
思わず声が出てしまう。
今、確かに私の姿が映っていたような・・・
気のせいだろうか。
確認するためにもう一度、その「鏡」の前に立つ。
やっぱり確かに私の姿が映っている。
「う~ん・・・どういうこと?」
私が明らかに鏡に映っているかのような動作をしていることに気がついたらしい解説役の神職の方がこちらにきて問いかけてきた。
「そこのお嬢さん、どうかされましたか?
その鏡は映ることはないはずですが・・・」
「なっ、なんでもありません。」
思いがけず話しかけられた私はあわてて取り繕う。
あれは見間違いだと私自身に言い聞かせ、しばらく伊勢神宮の歴史講座を聞いたあと、神楽殿を後にした。
【豆知識】
伊勢の神社のほとんどはこの伊勢神宮の摂社であるとされています。
地元の人によると、本来は太陽ののぼる二見輿玉神社で体を清めて、夫婦岩で太陽を遥拝して、外宮から内宮に参拝したあと、月詠宮などの摂社すべて回った後に滋賀にある多賀大社で参拝を終えることが
正式な参拝方法なんだそうですが、さすがにそれはできないので今回は手段をとばしています。
また、1月4日はその時の内閣総理大臣と閣僚が参拝するシーンが見れます。近くの府県の警察も総動員で道を作り、NHKをはじめとしたテレビ局がカメラを構えているのが見れます。
私はもうみたくないです。当時のN田総理の覇気の無さと「2位じゃ駄目なんですか」大臣に対するヤジと怒号で参拝してすがすがしい気分だった筈が台無しになりました。
今のA部総理大臣は覇気がすごかったです。なんていうか周りを納得させる雰囲気のようながありました。
あと、お正月に伊勢神宮に行くともれなく変な団体のスピーカーが大音量で音楽を鳴らしていることもあるのでご注意を。
なお、ここに出てくる源平合戦の結果、安徳天皇の入水で失われた「鏡」~云々はあくまでも一説であり、正しいわけではないのであしからず。2014/9/17