いつかの桜SS・3
この角を曲がればーーー
やはり、いた。
桜を見上げる、どこか儚げで、消えてしまいそうな少女。何度見ても、どうしてもどこか不安になる。
「よう、さくら」
だからと言うわけではないが、多少距離があるうちに声をかけてしまっていた。
「あ、おはようございます浩一さん」
ぱあっと、どこか見ていて不安になるような表情から一気に花が咲くような笑顔に変わる。
そのままてってって、とこっちに来て距離を埋めた。
「いや俺が行く先にいるのにわざわざ来なくても」
「あ、そうですね・・なんだか嬉しくなってしまって」
えへへ、と俺を見上げて言うさくら。
「何か犬っぽいな」
「・・・わん?」
んー、と頬に指を当てて考える仕草をした後出てきたのは、疑問形の鳴き声。
「・・・っ」
「あ、あれ?どうしたんですか?大丈夫ですか浩一さん?」
思わず口を抑えて壁に手をついてしまった俺を、わたわたと心配するさくら。
「あー、大丈夫大丈夫。」
まさか照れ隠しに言った言葉にさらに可愛い反応が帰って来るとは思わなかっただけだ。
「わざとじゃないだろうな・・・」
「はい?」
あざといとか言われても仕方ないぐらいな気がするが、まぁ本気でわからない顔をしている辺り異常に素直なだけなのだろう。
「いや、なんでもない。
さくらは可愛いなぁ」
言いながら頭を撫でる。
「あ、なんですかそれー。すごく子供扱いしてません?」
むー、と不満気な顔をしながら抗議の声を上げるさくら。
しかし撫でる手を外そうとはしない。
「・・・えへへ」
少し撫でていると、嬉しそうな笑顔になった。
「・・・可愛いな」
「・・へ!?あ、え!?わわわ私ですか!?」
一瞬自分の事だと認識出来なかったらしく、遅れて焦りだすさくら。
・・・いや、俺も口に出すつもりは全くなかったんだが出てしまっていたらしい。
しかも反応を見る限りかなり本気っぽい言い方だったらしい。
「あー、いや、そう。女の子としてより子供・・・というかペット的な可愛さだが。」
事実そうなんだが言うつもりはなかった事なのでなんとなく焦った言い方になってしまった。
「・・・なんだか喜んでいいのか悲しんでいいのか微妙です・・・」
その辺の俺の焦りは全く気にせず、さくらはちょっとしゅーんとなる。
「あ、いや、大丈夫ださくらは女の子としても魅力的だぞ、うん」
「すごくフォローっぽいです。
いいんです私は女の子じゃなくて犬さん扱いの方があってるんです。ご主人様に尻尾振ってる姿が似合うんです。しくしく」
よよよ、と目じりをハンカチで抑えてわざとらしく泣くさくら。
「いや、そんな事はないぞー。嫁さんにしたい可愛さだ」
「嘘っぽさここに極まれりです。傷ついた乙女心はそんな言葉じゃいやされませんよー」
「学食の今日のデザートおごってやるから」
「許します♪」
非常にいい笑顔です。
いや、100円(税込)でそこまでいい笑顔を向けてくれるなら喜んでおごるが。
「〜♪」
すっかりご機嫌になったさくらと一緒に、学校に向かう。
ーーー桜の花が舞う、暖かいある春の日。




