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変わる季節を、君と  作者: 喜多彌耶子
移る季節を、君と
9/12

成人式と着物の話。

 連休の最終日。

 問答無用で金曜日から連れてこられて、土曜日曜月曜日と三連休。最終日の朝、まだ寝ぼけてぼーっとしている私は、先輩の促すままにソファに座って、与えられたマグカップいっぱいのカフェオレを、両手で抱え込んですすっていた。


 眠いのです。超眠いのです。――なんでとかきかないで。きかないで。


 もともと私の寝起きは、あまりよろしくないのです。ぼーっとしている私を、先輩は異常に甲斐甲斐しく世話してくれます。起こして寒くないようにもふもふのハーフケットでくるんで、甘いカフェオレを与えて。ずずー、と、お行儀悪くすすってるうちにじわじわと目が覚めて来るんですけれども。


 隣に並んで座ってる先輩の手が、時々くすぐるみたいに撫でてきて、少しうっとおしくてぺし、と叩けば、なんだかごきげんにくすくす笑ってる声が聞こえたりして。


 流れてくるテレビの音をBGMにぼーっとしてたら、画面にはキラキラしい着物姿の女の子たち。眺めるとも眺めながら、あ、あの着物すきかもー、と、見ていると、人の髪の毛をもしょもしょいじってた先輩が、ふと呟く声が聞こえて。


「着物、見たいな」


 えーと、聞こえないふりして、いいですか?





 とりあえず聞こえなかった振りをして、ぼーっとしてると、つんつん、と毛先を引っ張られて。

 うにゃぁ、と、振り返れば、じーっとこちらを見る先輩。


「成人式、着物着た?」


 首をかしげて聞くその仕草。それが私のツボって、実はわかっててやってませんか、先輩。

 くぅ、と、内心唸りつつ、こくり、と、頷く。うん、もうちょいまってね。まだ口ひらくの億劫なのです。


 ずず、と、甘いカフェオレを含めば、じわりと熱が体にしみる。ガンバレ糖分。気合だ糖分。


 しばし無言で、カフェオレをすすってると、じーっとこちらを見つめる先輩の姿。

 なんですか、なんなんですか、と、じーっと見つめ返せば、ふわりと嬉しそうに笑った。はう、卑怯者。その笑顔は卑怯です。と、赤くなりかけた顔を誤魔化すように、視線をマグに落として、再びカフェオレすすって。


「写真、こんどみせて」


 お断りしたいところです。結構こうね、あの時なんともいえないはっちゃけ具合だったっていうかね! お気に入りの着物だけど、こうね。恥ずかしいと言うか。もじょもじょと誤魔化すように口の中でつぶやいてたら。


「……ダメ?」


 ああもう、可愛いなこの人! 首をかしげないでくださいよ、いい年して!


 ふう、と、ため息を漏らして。


「いいですけど、笑わないでくださいよー。別人みたくメイクばっりばりで、すんごいですから」


 そう、頼んだ着付けとヘアメイクの所が超気合入れてくれたせいで、かなり別人なのです。美人にはなってる感じだけど、あれです、自分とのギャップに色々こそばがゆいというか恥ずかしすぎるのですよ。


 ちらり、と、上目で見つめれば、嬉しそうな笑顔。うんうん、と、頷く彼に、しかたないなぁ、なんて。

 あの時写真館で取った写真もあるし、今度もってくるかぁ、と、軽く諦める。ふ、と、息をついて、笑えば。


「結婚式のお色直し、着物もね」


「っ、は、ああ?!」


 びっくりして見返せば、にっこりな先輩。


「楽しみだね」


 口がぱくぱくしてしまう。顔が熱い。うん、結婚とか挨拶とか話してたけど、まだそこまで具体的じゃなかったはずで、それがいきなりお色直しの話?!


 挙動不審な私に構うことなく、先輩は続ける。


「ご挨拶、いくから。よろしくね」


 ……その時に写真見せてね、と、続けられて。なんとなーくこの、二人で過ごすゆるい時間がいい感じで、このままでもいっかー、なんて思ってのんびりしてた私を、きっちりせきたててくれて。


 焦る私に、先輩はゆるく笑って。


 逃がしてあげないよ、って。



 ……勝とうとか、思ってるわけじゃないけど。


 なんとも、こう、負けっぱなしは悔しい気がするのは、私だけなのでしょうか。


 よしよしと、ご機嫌で人の頭を子どものように撫でる先輩を上目で睨みつけながら、ため息を付くのでした。



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