新しい年も、君と。
「……っ、せんぱいっ、卑怯です……っ」
涙目で彼女がいうから。少しだけ困って、首を傾げた。
「そう?」
「そう、そうですとも! なんで、なんで、なんでぇぇぇぇ!」
きぃぃ、と、悔しげな彼女に、そっとお椀をすすめる。
「うう、いい香り……おいしそうなお雑煮ですね。九州風ですかそうですか」
しくしく、と、文字が見えそうな彼女の様子に、ダメ? と問いかければ。
「だめじゃないですとも! 私がだめなだけですぅぅぅぅ」
うわぁぁん、と、机に突っ伏した。
テーブルの上には、重箱に収められたおせち料理。今年は年末休みががっつりとれて、妙に暇だったので、作ってみたのだが。
「おいしくない?」
「うう、おいしいです……今度作り方おしえてくださいぃぃぃ」
どうやら、味は彼女のお気に召したようだけれど、彼女にショックを与えたらしい。
きにすることじゃないのになぁ、と、思いつつ、これ幸いと、よしよしと頭を撫でておいた。らっきーである。
除夜の鐘のあと、彼女を連れてそのまま近くの神社で初もうでして。2年参りにはならなかったけれどまあ、それは来年も再来年もあるし、と、思いつつ、一緒に初日の出をみにいくのもわるくないなぁ、などと思いながら、今日のところは、と、彼女を自宅へお持ち帰りして。一緒に眠って目覚めた朝、まだうとうとしてる彼女をそのままに、雑煮を仕込んでいるところに、においにつられた彼女がやってきて、そして、セッティングされたテーブルをみて、そして冒頭に戻る。
まあまあと宥めて、新年のあいさつをして、お屠蘇をいただいて。吸い物仕立てのお雑煮を渡せば、ほっこり幸せそうな顔で、食べ始めてくれた。うむ、このご飯を食べるときの顔があるから、余計に幸せなのかもしれない。などと、崩れまくっているだろうでれでれ顔で眺めていれば、顔をあげた彼女が、ものすっごい真剣な顔でこちらをみていて。
「せんぱい……」
「ん? どした」
「むしろせんぱいが、お嫁にきてください。私養いますから!」
握りこぶしでそんなことをいう彼女に、思わらず声を上げて笑ってしまう。
「もうもうもう、じょうだんじゃないのにーっ」
「うんうん、悪かった。悪かった。嫁にもらってくれるんならよろこんで?」
よしよし、と、頭を撫でて、椅子から立ち上がってちょっとお行儀悪いな、って思いながらも、テーブル越しにおでこにキス。真っ赤になった彼女になんとなく満足して、自分の作った料理をいただく。うむ、悪くない。
「……ほんっと、せんぱい、ずるいんだからもぉぉぉ」
拗ねたような口調だけれど、そう呟いた彼女の顔が、ゆるりと幸せそうだったから。
いつか、そう、これから先。毎年こうして共に過ごすのだと。いつかは、二人が三人になるのだと。ああ、子供もつれて鐘をつきにいこう。初日の出も見に行こう。それに、そうだ、初もうでにもいって、初売りにもいこう。あれもこれも、と、考えると、楽しくて、きっとそれを叶えるんだと思うと、嬉しくて幸せで。ゆるりと緩んだ表情で、彼女に告げた。
「大好きだから。早く結婚しようね」
赤い顔のままの彼女は、ちらり、と、食べていたお椀から視線を上げて、仕方がないなぁ、という風に、ほほ笑んで、頷いてくれた。
幸せな、新年の始まりの日の、お話。