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変わる季節を、君と  作者: 喜多彌耶子
年越しのお話
7/12

新しい年も、君と。

「……っ、せんぱいっ、卑怯です……っ」


 涙目で彼女がいうから。少しだけ困って、首を傾げた。


「そう?」


「そう、そうですとも! なんで、なんで、なんでぇぇぇぇ!」


 きぃぃ、と、悔しげな彼女に、そっとお椀をすすめる。


「うう、いい香り……おいしそうなお雑煮ですね。九州風ですかそうですか」


 しくしく、と、文字が見えそうな彼女の様子に、ダメ? と問いかければ。


「だめじゃないですとも! 私がだめなだけですぅぅぅぅ」


 うわぁぁん、と、机に突っ伏した。




 テーブルの上には、重箱に収められたおせち料理。今年は年末休みががっつりとれて、妙に暇だったので、作ってみたのだが。


「おいしくない?」


「うう、おいしいです……今度作り方おしえてくださいぃぃぃ」


 どうやら、味は彼女のお気に召したようだけれど、彼女にショックを与えたらしい。


 きにすることじゃないのになぁ、と、思いつつ、これ幸いと、よしよしと頭を撫でておいた。らっきーである。


 除夜の鐘のあと、彼女を連れてそのまま近くの神社で初もうでして。2年参りにはならなかったけれどまあ、それは来年も再来年もあるし、と、思いつつ、一緒に初日の出をみにいくのもわるくないなぁ、などと思いながら、今日のところは、と、彼女を自宅へお持ち帰りして。一緒に眠って目覚めた朝、まだうとうとしてる彼女をそのままに、雑煮を仕込んでいるところに、においにつられた彼女がやってきて、そして、セッティングされたテーブルをみて、そして冒頭に戻る。


 まあまあと宥めて、新年のあいさつをして、お屠蘇をいただいて。吸い物仕立てのお雑煮を渡せば、ほっこり幸せそうな顔で、食べ始めてくれた。うむ、このご飯を食べるときの顔があるから、余計に幸せなのかもしれない。などと、崩れまくっているだろうでれでれ顔で眺めていれば、顔をあげた彼女が、ものすっごい真剣な顔でこちらをみていて。


「せんぱい……」


「ん? どした」


「むしろせんぱいが、お嫁にきてください。私養いますから!」


 握りこぶしでそんなことをいう彼女に、思わらず声を上げて笑ってしまう。


「もうもうもう、じょうだんじゃないのにーっ」


「うんうん、悪かった。悪かった。嫁にもらってくれるんならよろこんで?」


 よしよし、と、頭を撫でて、椅子から立ち上がってちょっとお行儀悪いな、って思いながらも、テーブル越しにおでこにキス。真っ赤になった彼女になんとなく満足して、自分の作った料理をいただく。うむ、悪くない。


「……ほんっと、せんぱい、ずるいんだからもぉぉぉ」


 拗ねたような口調だけれど、そう呟いた彼女の顔が、ゆるりと幸せそうだったから。


 いつか、そう、これから先。毎年こうして共に過ごすのだと。いつかは、二人が三人になるのだと。ああ、子供もつれて鐘をつきにいこう。初日の出も見に行こう。それに、そうだ、初もうでにもいって、初売りにもいこう。あれもこれも、と、考えると、楽しくて、きっとそれを叶えるんだと思うと、嬉しくて幸せで。ゆるりと緩んだ表情で、彼女に告げた。


「大好きだから。早く結婚しようね」


 赤い顔のままの彼女は、ちらり、と、食べていたお椀から視線を上げて、仕方がないなぁ、という風に、ほほ笑んで、頷いてくれた。



 幸せな、新年の始まりの日の、お話。





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