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変わる季節を、君と  作者: 喜多彌耶子
移る季節を、君と
10/12

幸せな、バレンタイン

 バレンタインです。

 ハッピーバレンタイン、なのです。


 同窓会で再開して、クリスマスに告白されてプロポーズまでされちゃって、どうしましょう、といううちに、家族にご挨拶やら何やら済ませて、ぼちぼちと結婚準備なんかを始めちゃってる今日このごろ。


 さて、お付き合い初めてから、今回が初めての、バレンタイン、なのですが。


 さて、何を送ったら先輩は喜んでくれるかしら、と、真剣に悩んでしまう、今日このごろです。




 バレンタインといえばチョコですね。

 最初は、お店で買おうかな、って思ったんです。

 たとえば、ちょっとお高いチョコとか。もしくは、おしゃれなチョコとか。

 そのつもりでデパートに出かけたのですが、なぜか、手元にあるのはその時特設売り場で見かけた、お薬の瓶みたいな形のに入ったチョコと、日本酒の瓶のような形のものに入ったチョコ。

 いわゆるネタチョコです。あれ、おかしいな、わたし、ゴディバとかそういうのを買おうと思ってきたはずなのに、と、我ながらがっくりしてしまいました。


 うん、おそらく、このチョコを見たときに、先輩だったらきっと喜んでくれるな、って思っちゃったのが敗因です。

 もちろん、お高くて美味しいチョコでも、喜んでくれるでしょうが、あの先輩のことです。こういうちょっと変わったおもしろチョコだと、一緒になって面白がってくれるんじゃないかなー、なんて、思ってしまったのがよくないのです。

 オトナの、真剣なお付き合いの相手に送るチョコが、ネタチョコ、って、我ながらちょっとどうなのかしら、と、落ち込んでしまいましたですよ。うう。


 これじゃよろしくない! と、こんどは手芸店へ。お高い毛糸をじっくりと眺め、その中でも肌触りのイイ変わり毛糸(ちょっと凸凹してたりする感じの毛糸です!)を3玉ほど購入。編み物は得意じゃないけど、さすがにメリヤス編みやガーター編みならば私でも出来ます! まっすぐじゃないの、なんて言わないで。とにかくこれなら出来るはず、と、気合を入れて、ひたすらに編み続けることまっすぐまっすぐ。変わり毛糸っていいですよね、まっすぐでもいい感じの形になるんですもん、と、誰にいうでもなく、ついでに先輩からのデートの誘いもお断りして、ひたすら編み続けること一週間。うう、まっすぐあみのくせに時間かかったなぁとおもいつつ、なんとかラッピングして、完成しました。


 ほっとひとあんしん、したのですが。


 もしかして、手作りって重くないか?! と、先輩との待ち合わせ場所に向かう途中で、我に返る私。


 遅い、もっと早く気づきなさいよ私! と思っても、待ち合わせ時間まであと少し、場所までもあと少し、思わず足を止めておろおろしていたならば、ちょっと距離があったにも関わらず、私に気づいた先輩が、こちらにやってくるではありませんか!


 うわぁ、どうしよう、どうしようっ、と、思わず回れ右して逃げ出しそうになったところを、ガッツリ先輩にホールドされました。


 ちょ、せんぱい、せんぱい、ここ、超繁華街です。超まちなかです!


 おろおろ、わたわたと暴れる私を、どうどうとなだめる先輩。段々私の扱いに慣れてきたように思います……っ!


 じっと私の顔を覗きこんで、チョコ頂戴、なんて言わないでください。顔が赤くなります。心臓がやばくなります。時々こういういたずらするのは、なんでなのでしょう。


 けれど、ギリギリで手作り重いんじゃ、と思った不安は掻き消えず、目を彷徨わせてたら、先輩、荷物の中に目的物を見つけたのか、一気にそれを手に取るではないですかっ。


 あるじゃん、って、そんなに嬉しそうに笑わないでくださいっ。先輩用のじゃなかったらどうするつもりなんですかっ、って、それは間違い無く先輩用のですけれどっ、と、わたわたしてる私をよそに、開けてイイ? なんて小首をかしげる先輩。


 男の人が小首をかしげても、かわいくなんかないんだから! といいたいけれど、それなりに様になるから困ります。


 頷くことしか出来ず、俯いていると、かさかさと袋を開ける音。最初に気づいたのはチョコだったのか、ぷはっと吹き出す声がして、これサイコー、と喜ばれている様子で、ほっとする私。ああ、よかった、笑ってくれて、と、思う間もなく、さらに袋をガサガサとする音のあと、おおおお、と、声がして、びくびくしながら顔を上げれば。


 嬉しそうに目をキラキラさせて、ふわふわもふもふのマフラーをにぎにぎしてる先輩の姿があって。


 え、なに、これ手作り? ありがと。なんて、彼が言うから。


 嬉しくなって、はい、って、笑顔で頷いた。


 ちょっぴり不恰好かもしれない、ところどころ網目も揃ってないマフラーをそんなに喜んでくれる彼が、すごく嬉しかった。



 じゃ、デートに行こう。と、スーツ姿にちょっと合わないマフラーを巻いてご機嫌で歩き出す先輩が、すごくうれしくて愛しくて、あまりしないうちに、彼とずっと一緒に過ごせるようになるのだと思うと、この上なく幸せだ、と、思ったクリスマスの出来事。


 また、編んでね、という先輩に。


 いつの日か、先輩と、私と、子どもと、みんなでお揃いのマフラーをして歩けたらいいな、と、思ったのでした。




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