【BL】呼ばせてください
「ああ、鈴木先輩がいらっしゃった」
そう嬉しそうに呟きながら窓の外を眺めているのは山岸兎希。
大好きな先輩、鈴木陽壱を毎朝早く学校に行って陽壱の登校を校舎二階から眺めるのが兎希の日課だ。
しかし新学期に入ってから不釣り合いな輩が陽壱の側にやたらくっついている。
「また、あいつ…」
その光景を見ると奥歯をギリリと無意識に強く噛んでしまう。
しかも少年は陽壱のお気に入りらしく、兎希は何度も少年の頭を撫でているところを目撃している。
「見合ってもないくせに、身の程知らずが。許さない、もう許さないからな…誰もやらないなら制裁は俺がしてやる」
我慢の限界に達したらしくそう決めると兎希は靴箱に向かった。
少年が陽壱とそこで別れて一人になってから話し掛けるつもりなのだ。
実は兎希は今までに何回も陽壱に近付く者に制裁を加えている。
制裁、それは即ち強姦だった。
しかし兎希は厳つい男達に命令して、といったことはせずに全て自分でしている。
それは兎希が見た目ほど弱くないからできることであるかもしれないが、兎希自身は人を使うなど卑怯だと思っているからそういう行動に出ている。
力ずくで強姦するのも卑怯、いや卑劣であるがこの学校の常識が兎希のそちらの感覚は麻痺させてしまっていた。
ちなみに見た目ネコな兎希は初めては陽壱に取っておきたいということで容姿に似合わずタチで襲っている。
大抵ヤった相手は兎希に満足し、兎希に纏わりつくようになるのだから何とも薄っぺらい好意だと軽蔑ばかりになるのでいつも気は進まないのだが。
「ねぇ、キミ」
真っ正面から兎希が話しかけると少年は立ち止まりキョトンとした後、見回して後ろに人がいることを確認すると安心したように再び歩き出した。
どうやら自分が話し掛けられていると気付かなかったらしい。
「キミだよ、そこでキョロキョロして自分じゃないって安心してたキミ」
「はっはははい、僕ですか!?」
流石にピンポイントで指すとわかったらしく今度こそ兎希に返答する。
「ちょっとついて来て」
有無を言わせぬ雰囲気を押し出し、返答もしないうちに未だ混乱する少年を引きずるようにして連れて行く。
今までとどこか違うタイプだなと思いながらも目的地に着くと兎希はずい、と少年に詰め寄った。
「名前は?」
「あっ、はい、鈴木陽蒔です…?」
何故名前を聞かれているのかわからないのだろう、戸惑いで語尾が上がってしまっている。
しかし兎希はそれを気にもせず、苛立ちを増幅させる。
「名前まで鈴木先輩にそっくりだと!?」
「あの、えと、その、鈴木先輩って…」
「ふん、あんたが鈴木先輩に近付くのが悪いんだからな!」
「え、あの、わわっ」
陽蒔が言い終わる前に兎希は言葉を遮って飛びかかった。
陽蒔は情けない叫びを上げながらも当然暴れた。
だが兎希は容姿とは裏腹に力が強く、陽蒔の抵抗ではビクともしない。
「無駄な抵抗は止めるんだな」
そう兎希はニヤつくと乱暴に陽蒔の服のボタンを弾かせ、侵入を開始した。
その後の行為のせいで意識を失ってぐったりとした陽蒔に兎希はそっと自分の上着を乗せた。
そうやってから普段なら絶対こんなことはしないのに、といつもの調子が狂っていることに首を傾げた。
行為の最中もそうだった。陽蒔の上気する頬、我慢しても流れる生理的な涙、甘い声。
どうしてだろうか、全てが兎希を魅了したのだ。
だから今まで気持ち悪いと思いながらも仕方ないとやってきた制裁であるはずなのに、つい二回もヤってしまった。
三回目以降に踏み込まなかったのは、陽蒔が見るからに初めてだったということで理性がストップをかけたのだ。
ちなみに制裁相手を気遣ったのも初めてのことである。
「…うっ、よ…う……」
兎希が悩んでいると意識はまだ戻っていないのに苦しそうに絞り出したような陽蒔の掠れた声が耳に入った。
陽壱を呼んでいるのだろうか。
そう思うと兎希の心はざわついた。
「俺に染まったんだ、いくら先輩に気に入られていようが…」
それと同時に低く口走りかけた言葉に兎希は戸惑った。
今の言いようはまるで兎希が好きな相手は…。
兎希は呆然と陽蒔を見つめた。
「陽蒔ぃー!」
それは何分後、いや何秒後だったのかわからない。
しかし耳をつんざくような声が聞こえ、兎希は我に返った。
声は陽壱その人のものだった。
姿が見えなくともいつも全神経を集中させて聞いていたのだから間違いないだろう。
「どこだ、どこにいる!?」
兎希は声がする方を相手に気付かれないよう注意しながら見た。
慌てすぎなのか阿呆なのか、何故かドラム缶の中まで捜している陽壱がいた。
どうやら陽蒔が教室にいないことを知ったらしい。
朝のSHRが始まる前に陽蒔を連れ出したのだ、誰かが連絡していてもおかしくはない。
普通ならこんなところを見つかったら嫌われる、と怖れるだろう。
しかし兎希は面倒なことになったと舌打ちをした。
「そこのチッ、とか言った奴かぁ!」
すると陽壱は兎希の方に振り返った。
何という地獄耳だろうか。
舌打ちは舌打ちであって断じて口で言ったわけではないのだが。
気付かれては仕方ないと観念し、素直に兎希は陽壱の前へ出た。
「てめぇ、陽蒔を知ってるな?」
「ああ」
こんな形で陽壱と向き合うなど想像だにしなかった。
正直胸が高鳴るどころか反対にむかつく。
好意は悪意に変わりやすいという。
しかし何のきっかけなしにそんなことにはならないはずだ。
こんな訳の分からない感情に動揺してしまっても仕方ないだろう。
陽壱の口調がいつもと変わっていることすらどうでもよかった。
だがそんなことはお構いなしにさらに兎希を驚かせる事実が明らかになる。
「おら、俺の可愛い弟に何をした、どこにやった!?」
「き、兄弟…?」
似ていない、似なさすぎる。
兎希の心の叫びは尤もだった。
だが二人はそれでも同じ両親から産まれた実の兄弟である。
陽蒔が今まで制裁の被害に合わなかったのもそのお陰だ。
兎希は陽壱に憧れていながらも親衛隊に入らず単独で行動していたのでその情報が伝わってこなかったのだ。
兎希がさらなる動揺でたじろいだことで背後に隠していた陽蒔が陽壱からも見えてしまった。
「陽蒔!」
陽蒔の有様に血相を変え、すぐさま駆け寄る。
「おい、陽蒔。しっかりしろ!」
しかし未だに意識が戻らないらしく、うめき声以外の反応がない。
陽壱は陽蒔のことに必死であんなに射殺すように睨んでいた兎希のことなど眼中にない。
それを兎希は無言で見ていた。
先程のことから意識的に口走らないようにしているが、言いたいことが沢山浮かんでくる。
ここまでくれば流石に兎希も大事なことに気付いた。
陽壱への想いはただの憧れだったのである。
よくよく思い返してみれば初めては陽壱に取っておきたい、とは思ったものの行為そのものをしているところの想像はしたことがなかった。
取っておきたいと思ったのは単にこういうのは初めての方が相手は喜ぶものだろうと思ったからだ。
自分がネコ、というのも陽壱と兎希の体格差から考えたもので決して突っ込んでほしいと思ったからではない。
恋と言うには穴だらけな想いで、兎希はそれに気付かずに今まで恋だと思い込んでいたのだ。
現に陽蒔に対してはもっと鳴かせたいと思うし、陽壱に対しては今は何も感じない。
どうやら取り乱した陽壱の様子は憧れすら取り払ってしまったようだ。
だからこうして怒り狂った陽壱を無視して考えに没頭できているのであろう。
陽壱は陽蒔の兄なのだからこれからのこの恋心を想うなら怒らせることは得策ではないのだが。
「てめぇ、何か言うことはないのか!?」
やっと思考から現実世界に意識を戻すと、陽壱の閻魔顔がそこにあった。
全く話を聞いていなかったのだから何のことかわからない。
即座に自分の都合の良い方向へ解釈した兎希はさらっと陽壱に爆弾を落とす。
「責任は取ります。だからお義兄様と呼ばせてください、鈴木先輩」
「誰が呼ばせるかー!!」
兎希は陽蒔を自分のモノにする方向に話を持っていこうとするし陽壱は陽壱でそれを懸命に拒否する。
ただ確実に言えるのは一番可哀想なのは放置されている陽蒔だということだろうか。
一時間目の終了を告げるチャイムが兎希と陽壱の闘いのゴングのように響き渡った。




