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雅がいなくなって半年、雅は母親には定期的に連絡を入れているようだった。夏らしくなった学校内は白い制服を着た男女でにぎわっている。雅は即日退学処分となった。当たり前だ。厚生労働大臣暗殺をやってのけたのだから。父の竜也、阿佐桐誠たちから聞いた話により雅が犯罪組織、翼賛会に連れて行かれたと言うことが分かった。翼賛会は別に誰が主催していると言うわけではないが、国内の重大犯罪者の集まりだと言う。その出自は一切不明で、目的も定かではない。個々で行動する犯罪者達にこんな組織は必要ないはずなのに奴らは集まり、仲間を増やしているらしい。全てが謎に包まれている。だが、竜樹はそれを聞いて全てを忘れます、なんて器用なことはできなかった。阿佐桐誠たちがそうしているように、竜樹たちも三人でできる限り雅を取り戻そうと奴らについて調べまわるようになった。父は嫌な顔をするが、竜樹は嫌なのだ。仲間を捨てたようで。
「わからないな。こいつらの意図が。」
誰もいない夜の公園でぼやいたのは光だった。
「明日、姉貴の大学行くからまた情報聞きだそうよ。」
集めた資料を書き込んだノートを閉じながら
宅耶が笑顔を作った。
「そうだな。阿佐桐さんたちは俺達のこと分かってくれてるからな。」
竜樹も座っていたベンチから立ち上がった。
それに続くように宅耶も光も苦笑しながら立ち上がる。
「今どこで何してるんだろうね。雅。」
「さあ。」
宅耶の疑問に光が首を振って答える。竜樹はそのやり取りを見た後に踵を返した。住宅街の中にあるこの公園の外は街灯によって明るい。そちらの方に足を踏み出すと、その明る通りの中にうごめく人影が竜樹の目に映った。その人影はどんどんこちらに近づき、公園の中心にある電灯にやっとその正体を現した。
「やあ。」
少し雰囲気が変わっているが明らかに雅の優しい笑顔だった。
「雅。お前。」
「元気にしてた?母さんから聞いてたけど、やっぱり実際に見てみないとどうしても納得できなくて。」
全身を黒っぽい服で固めた雅は少しやつれたようだった。だが、その体つきはたくましくなっている。
「やっと訓練が終わってね。ちょっとたくましくなっただろ?」
「なあ、もう戻ってこないのか?」
「戻る?俺はどこにも行って無いよ。」
光の言葉に雅の返答は以外だった。雅は明らかに竜樹たちから離れていたはずなのに。
「俺が何であの人たちの仲間になったか。」
雅は空を仰いだ。
「また、竜樹たちと遊びたかったらかさ。」
寂しそうに笑った雅は苦笑を竜樹たちに向けて次に背中を向けた。
「そうそう、竜樹。」
背中から聞こえる声に竜樹は向き直った。肩越しにこちらに投げてくる視線はやはり以前
の雅とは違い、鋭くぎらついていた。
「御堂綺沙羅。俺達を追っていればすぐに会えるよ。綺羅。そう阿佐桐達に確認してみな?知っているはずだから。それじゃ。」
手を上げて別れを表した雅は以前と変わらない。竜樹はその背中を見つめ続けた。何故姉の事を言い出したのか分からないが、雅がとりあえず無事だったことがまずうれしかった。
「まあ、焦らずに行こうよ。俺達が焦っちゃうと雅みたいになっちゃうかもしれないだろ?」
「ああ。」
宅耶の指摘に光が頷き、竜樹も深く頷いた。全て始まったばかりだ。そう、全て。